演奏曲目の紹介(演奏順)               日程のページへ  HOME

<曲目解説>

■ラモン・サントス(Ramon Santos):「キロス」“Kilos”
「キロスまたは時空」は2群のオーケストラのための前作「時空」と関連している。そこでは2種類のオーケストラの音色と組織の運動の対立によって、減少していく時間領域が表現された。「キロスまたは時空」の基本概念は、音と時間の明確な方向感覚の停止であるが、これこそ東南アジア的音楽美学の源泉ともいうべきものである。この曲の時間感覚のあいまいさは一連のランダムな数(1+2/1、2、3、4、5、7)がさまざまな順序で色彩と音現象を決定していることからきている。3つの楽器群(管、弦、ピアノ)が音楽的・リズム的に対立する層を同時進行することによって線的でない運動がつくられる。このプロセスは作曲者にほとんど無制限の自由を与え、あらかじめ決められたものと即興の区別が意味をなさないような予測しがたい形態をつくりだす。使われる音素材は上行音列から選ばれたテトラコルドにもとづいている。(高橋悠治)

■高橋悠治:「ことなどあそび」(2000)
「ことなどあそび」は、いわゆる音楽作品ではない。箏のための「こと」というページがあり、「--などあそび」というページは、どのような楽器であっても、ひとつの楽器が、楽器であれ、その他の音であれ、その時きこえてくるものにどのように応えるかをしめす。これらは演奏の素材であり、演奏者たちが、それらをどのように組み合わせてつかうかを決める。「こと」は、絃名と唱歌(シャーン・コーロリンのような)によって音色・リズム・奏法をしめす。単音はまず微音でためし、一息おいて弾く。また弾きながら消災吉祥陀羅尼をとなえる。「--などあそび」は、どこからともなくあらわれ、また消えていくかすれた長い音、あるいは手放したものが落ちるように無心の短い音によって、微かな音にみたされた空間に応える。演奏者が意図的にコントロールできないような音をつくるために、学習した演奏技術は捨てなければならない。調律は合わせず、どのような音階やリズムからもはずれて、おぼつかなく、たよりない、かぼそい音がつづく。(高橋悠治)

■チノ・トレド(Josefino Chino Toledo):「息」“HINGA”
〜Tongali(鼻笛),2Fl.,2Alt-fl.〜
「息」は人間の表現の基本を描写した一連の作品の中の一つである。トンガリ(フィリピンの鼻笛)と4本のフルートのために書かれ、この二つの似ている、といっても異なった文化から生まれ素材も異にしているけれど、楽器の合奏の可能性を追求する。この二つの笛の唯一の共通点はどちらも息を使うこと。

■F.プーランク:音楽物語「象のババール」
フランスの絵本作家ジャン・ド・ブリュノフ(1899-1937)の原作に、彼の友人でもあった作曲家フランシス・プーランク(1899-1963)が曲をつけた作品である。ブリュノフの物語は、妻のセシルが病気で寝込んだわが子にきかせた話を原型として1931年に書かれ、やがてフランスをはじめ各国の子供たちに親しまれるようになった。作曲者のプーランクは生涯独身で子供がなかったが、友人の創り出したパバールの絵本が甥や姪たちの人気になっているのをみて、音楽物語にすることを思い立った。1940年頃のことと伝えられている。その3年ほど前にブリュノフはパバールの新しい物語を構想中に病死していたので、本を使用することについては遺族と話し合われたものであろう。またプーランクが実際に作曲にとりかかったのは、大戦が終息を迎えた1945年のことであった。のちにジャン・フランセが作曲者の許可を得て編曲した管弦楽版も知られているが、もともとは1台または2台のピアノで演奏するように書かれた。今回は1台のピアノと語りでお届けする。フランス語ではジャンヌ・モローやピーター・ユスティノフといった人々が語り手となって上演あるいはCD化されている。

■I.ストラビンスキー:「兵士の物語」
 〜語り,Cl.,Bn.,Tp.,Trb.,Perc.,Vn.,Db.〜
<語られ、演じられ、踊られる物語>という注釈が付されたこの作品は、ロシア生まれの作曲家イゴール・ストラヴィンスキー(1882-1971)が1918年に書き、ローザンヌで初演されている。その前半は彼の母国で10月革命が起こり、世界は最初の大規模な戦争を経験しつつあった時代で、大編成のオーケストラによる演奏会を開くのは容易ではなかった。小回りの利く楽器編成で「旅の一座」のようなことができないかと思案したストラヴィンスキーが友人の作家シャルル・フェルディナン・ラミューズの台本を得て結実させたものである。

■L.v.ベートーベン:チェロソナタ第3番 イ長調 作品69
ベートーヴェンのチェロ・ソナタの中でももっとも有名なもの。「運命」とよばれている第5交響曲などと平行して、1807〜8年に書かれた。曲は3つの楽章からなり、主な旋律はチェロにふさわしく、おおらかで親しみやすい。第1楽章:アレグロ・マ・ノン・タント、ソナタ形式。第2楽章:アレグロ・モルト、スケルツォ。第3楽章:アダージョ・カンタービレ、ソナタ形式。

■C.ドビュッシー:チェロソナタ
 クロード・ドビュッシー(1862-1918)は、晩年になって異なった楽器による6つのソナタを計画していた。しかし、作曲者の死によってソナタのサイクルは未完に終わったが、チエロ・ソナタ(1915)、フルート、ヴィオラとハープのためのソナタ(1916)、ヴァイオリン・ソナタ(1916-17)の3つのソナタが完成した。これら晩年の印象主義(象徴主義)から古典的な形式への転換はラモーやクープランといったフランス・バロックへの回帰を示している。チェロ・ソナタに「ベルガマスク組曲」の音の世界を思い起こすことができるかもしれない。 3つの楽章からなる。第1楽章プロローグは気高く威厳のある声ではじまるが、途中さまざまに気分を変えていく。仮面舞踏会を思わせる第2楽章セレナードは、きまぐれで皮肉っぽいリズムが支配的である。チェロはギターやマンドリン、フルート、タンバリン、トロンボーンなどの楽器を模倣する。第3楽章は舞曲調の運動性ある楽章で、ここでもさまざまな色彩で楽器の声を彩る。

■J.ハイドン:チェロ協奏曲第2番 ニ長調
ハイドンのチェロ協奏曲第2番は、シューマン、ドボルザークの協奏曲と共に「三大協奏曲」と呼ばれる。エステルハージ家の楽団にいたチェロ奏者アントン・クラフトのために1783年に書かれた。簡潔でまとまりのよい古典派の特徴をあらわす優れた作品で、ハイドンならではの旋律美とチェロの華やかな技巧をくりひろげる。
 第1楽章アレグロ・モデラート、第2楽章アダージ、第3楽章アレグロの3つの楽章からなり、なかでもアダージョではチェロ特有の音色をいかした朗々たる旋律に、典雅な音の世界をきく。

■バッハ:無伴奏チェロ組曲第1番ト長調BWV1007より「プレリュード」
 J・S・バッハは全6曲からなる無伴奏チェロ組曲で、通奏低音の楽器であったチェロの可能性を最大限に発揮させることに成功した。ト長調の第1番の組曲は、当時の高名な音楽評論家のマテゾンが「安らかさと秩序を愉しむ平和で満ち足りた心の反映」と述べたように、川のせせらぎのように音が戯れながら運動していく。組曲の冒頭に奏される「プレリュード」は、絶え間ない16分音符の運動に特徴をもつ。

■ホセ・マセダ:「ウドロ・ウドロ」“Udlot Udlot”(1975)
フィリピンに古代より伝わる儀際礼時の習慣を、ホセ・マセダ自身が秩序付けたもの。1975年、マニラにおいて800人の高校生によりマニラ湾近郊の空き地で初演された。同じ音パターンを繰り返すドローン群(Tuloy Tuloy)と混合音群(Haluan)、声を発する群(Tinig)の3グループに分かれ、トガートン/鳴き棒(Tongatong)・カルータン/打ち棒(Kalutang)・バリンビン/唸り竹(Balinbing)・ウンギョン/通気孔付きフルート(Ungiyong)などの楽器を持ち、決められたリズムを各リーダーの指示によりて行く。今回は10分の短縮版で演奏される。

■松下功:和太鼓協奏曲「飛天遊」(1993・94)
和太鼓という日本の伝統楽器は、『祭り』という独自儀式の中で、時として、天と地を結びつける役目として発展してきた。その力強い音は、天にも達し、自由で繊細な音へと変質する。また、ある時は地の底へ達し、唸りとなって帰ってくる。この作品「飛天遊」は「天に飛び、遊ぶ」という3文字に象徴される如く、3つの部分から成り立っており、全体は和太鼓の自由な動きを中心に、静から動へと発展していく。私はこの作品のそれぞれの部分において、和太鼓奏者の自由で鋭い感性と直観力、そしてオーケストラに求めた論理的構築性という二つの世界の融合を目指した。本年6月、ベルリン・フィル・サマーコンサートにおいて指揮:ケント・ナガノ、和太鼓:林英哲によって演奏され、25000人の聴衆から絶賛の拍手を得た。(松下功)

HOME  日程のページへ