清和文楽公演

 

平成12年7月5日(水)、本校食堂で熊本県清和村の「清和文楽館」一行による文楽公演が行われた。熊本の第五高等学校で教鞭をとったラフカディオ・ハーンの生誕150周年を記念した海外公演で、ダブリン以外でもぜひという一行の強い希望を叶えるため、急遽本校での公演が決まったものである。会場の食堂は、近隣のアイリッシュや地元の演劇同好会の方たち、それに本校生徒でほぼ満席となった。  

公演は18:00から。まず清和村の兼瀬村長から、日本の古い伝統文化である文楽は、本来豊饒祈願の奉納興行がその起源であり、清和村では約150年前からアマチュアである農家の人たちの手で公演が行われていることなどの説明があった。米、トマト、栗などの農業を生業とする人口3,500人の村にとって、この文楽が大きな目玉で年間250公演をこなしているという。  

ついで早速文楽の公演。演目は小泉八雲原作の「むじな」である。愛蘭祭のミュージカルでも使っている食堂の舞台後方には暗幕がはられ、上手に女性太夫がならぶという設定。これは、この日の午後突貫作業でつくりあげたものだが、どうして結構立派な特設ステージである。忠兵衛は、太夫の語り風にアレンジされたアイルランド民謡「庭の千草」に導かれて登場。忠兵衛もお女中も使い手は清和村の農家の方たちであるが、日ごろの鍛錬のおかげ、人形の動きは実にスムーズにして細やかであった。お女中の面が一瞬にして角と牙のある鬼に変化、驚き慌てた忠兵衛が逃げるように蕎麦屋の屋台までたどり着くと、今度は蕎麦屋の店主の顔が一瞬にして鬼となった。その変化の瞬間、会場からは拍手喝采がおこった。  

この後は、村長さんの解説で「交流の時間」が設けられた。「人形を操りたい人は」と希望者をつのると2〜3人が手をあげて、ステージ前へ。小学生の女の子は、簡単な操作でお女中が鬼になる仕掛けに驚きの表情だった。本校生徒では、高3の井上君が名乗り出て人形を触っていた。  

文楽の後、日本在住のアイリッシュ・アメリカンのシンガーソングラーターであるアーウィン氏が登場し、英訳歌詞による文部省唱歌や童謡が紹介された。  

全体でほぼ50分の公演が終了すると、生憎の小雨のため、食堂の中で簡単なバーベキューが行われた。黒子の衣装をぬぐと、皆さん日ごろの農作業で日焼けした精悍な方たちばかり。人形の精妙な動きと真白な面との対照が、むしろユーモラスでさえあった。予定された二つの公演を終了したためか、皆さんの表情もほっとした様子。少々文楽の公演が短かったのが残念だが、日本の地方のアマチュアの人たちの努力による、まさに意義ある異文化コミュニケーションの場であった。
 
兼瀬村長と記念撮影