西村拓也 著 小学館文庫 本体価格 495円
1917年のロシアでは三月革命により皇帝ニコライ2世が退位し、十一月革命から5年後にはソビエト社会主義共和国連合が成立した。このようなブルジョアジーの打倒によりなしえたプロレタリア革命はある意味では正しかったのかもしれない。そうでもしなければ、ブルジョアジー政権とプロレタリアート政権が入れ替わることはできなかったし、プロレタリアを真に幸せにするための社会システムを試す場がなかったであろう。(しかし、このプロレタリア革命が非暴力的に行うことができたならばもう少し違った展開があったかもしれない。)私は共産主義や社会主義そのものが悪いとは思わない。マルクシズムそのものは善意によるものである。だが、このシステムを実行するためには人間では無理であるように思う。人間には善意、正義などの正の部分が存在するのと共に支配欲や名誉欲などの煩悩的な負の部分もあわせもっている。実際に、社会主義体制の国々は成立当初はより良い社会を目指したはずであるが、みるみるプロレタリア独裁の名の下に、私腹を肥やす恐怖政治体制に様変りしている。
レーニンから始まったソ連はスターリン体制でより恐怖政治色が増し、独裁と個人崇拝の傾向が強くなった。宗教を否定した共産主義が新たな宗教を産み出したといえる。その後のソ連はゴルバチョフの時代になるまで資本主義国家側からは不透明な存在になったが、1991年にソ連は民族問題や経済問題から連邦体制が崩壊してしまった。このように近代のロシアはこの100年の間に、めまぐるしく支配体制の変化があった。
本書で取り扱われているはロシア第二代大統領ウラジミール・プーチンは現在のロシアの(ちょっと言いすぎかもしれないが)支配者である。彼の過去は謎が多い。彼はニコライ二世の統治下にある帝政ロシア時代に、その権力を欲しいままにした怪僧ラスプーチン(グレゴリー・エフィモビッチ・ラスプーチン)の数少ない末裔の一人と噂されている。また、彼はソビエト時代にはレニングラード大学法学部卒業後、KBGに採用され諜報活動に携わった。拉致、監禁、拷問、自白強要、盗聴、テロなどのスパイ活動に熱心に取り組むことにより、彼の上司からも将来を嘱望されるようになった。それから10年後、彼は東ドイツ秘密警察「シュタージ」の指導にあたったとされている。このような、旧ソ連のエリートが何故ソ連崩壊後の社会の舵とり役に選ばれたのかという問題を含め、彼一流の処世術について言及されている興味深い本である。