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アーティスト特集
 





■ デビッド・トーマス・ロバーツ David Thomas Roberts(b.1955)
解説 / 浜田 隆史さん / 掲載日2001.01.31(更新日2006.09.03)
 ミシシッピ州 Moss Point 出身。
 彼は、モダン・ラグタイムにおける最も傑出した音楽家であると同時に、フォーク・ラグ研究家、シュールレアリズムの現代画家、そして詩人として、多彩な活動をしています。
 現在わかっているだけで100曲近い(以上の?)ラグタイムをベースにしたピアノ曲があります。ラグだけでなく、タンゴやクレオール音楽、ショパンやアルベニスなどかなり広い影響を感じさせる作風で、メロディーセンスはまさに天才的。「この半世紀での、アメリカの最も重要な作曲家」とすら言われています。
 彼が、Frank French、Brian Keenan、Scott Kirby らとともに「Terra Verde」という音楽の呼び方を提唱していることは、注目に値します。ラグをアメリカ音楽の一つととらえ、その他の様々な音楽(特に南米音楽)との融合と深化を図る考え方のようです。

◎ Discography

 ここに、現在私が把握している彼のディスコグラフィーを年代順に記します(ただ、オムニバス盤については後日執筆予定)。コメントはこれから詳しく書き加えていきたいと思います。また、もしこれをご覧の皆さんがお持ちのアルバムでしたら、皆さんからのコメントも書き加えていただければと思います。なお、例の「ラグタイム音楽研究会」会報(1987年3月第4号)も参考資料にしました。

★『Music For A Pretty Baby』(Mardi Gras Records MG1002、1978年)
コメント:
 デビッド・トーマス・ロバーツのデビュー盤。
 その後のアルバムとは少し異なる雰囲気を持つアルバムですが、それもそのはず、普通はオールド・ジャズの範疇で語られることの多いジェリー・ロール・モートンの作品集なのです。
 私は、モートンならこれ以前に、モートン本人やバッチ・トンプソン(Butch Thompson)などのアルバムで親しんでいましたが、もちろんこのアルバムも楽しみました。ただし、他のアルバムが素晴らしすぎて、それから比べると少し目立たない観もあります。

 淡々としたプレイには、最初の録音という緊張からくる堅さもあったのかも知れませんが、自由奔放なモートン作品を、割と堅実なクラシック・ラグ的スタイルで演奏しているのは、まさに彼らしいと思います。彼のルーツの一端が垣間見えて興味深いアルバムです。
 後の『New Orleans Streets』でのニュー・オーリンズ・スタイルに、こうしたモートンの影響を作曲・演奏の両方の面で強く感じることができます。

 なお、このアルバムは『Best Of New Orleans Ragtime Piano』というタイトルでCD化されていて、現在でも入手可能です。

A面
1.Pretty Baby (Kahn, Jackson, Alstyne)
2.Kansas City Stomps (Jelly Roll Morton)
3.Mamanita (Jelly Roll Morton)
4.Fat Frances (Jelly Roll Morton)
5.Honky Ton Music (Jelly Roll Morton)
6.Stratford Hunch (Jelly Roll Morton)
B面
1.The Pearls (Jelly Roll Morton)
2.Tom Cat Blues (Jelly Roll Morton)
3.Mr. Jelly Lord (Jelly Roll Morton)
4.New Orleans Joys (Jelly Roll Morton)
5.The Naked Dance (Jackson, Morton)
6.Sponge (W. C. Simon)



★ 『Best Of New Orleans Ragtime Piano』(Mardi Gras Records MG1002、1978年、再発年不明)
1.Pretty Baby (Kahn, Jackson, Alstyne)
2.Kansas City Stomps (Jelly Roll Morton)
3.Mamanita (Jelly Roll Morton)
4.Fat Frances (Jelly Roll Morton)
5.Honky Ton Music (Jelly Roll Morton)
6.Stratford Hunch (Jelly Roll Morton)
7.The Pearls (Jelly Roll Morton)
8.Tom Cat Blues (Jelly Roll Morton)
9.Mr. Jelly Lord (Jelly Roll Morton)
10.New Orleans Joys (Jelly Roll Morton)
11.The Naked Dance (Jackson, Morton)
12.Sponge (W. C. Simon)


★『An Album Of Early Folk Rags』(Stomp Off Records S.O.S.1021、1982年)
コメント:
 デヴィッド・トーマス・ロバーツの真骨頂の一つと言えるジャンル、「フォーク・ラグ」研究の成果を示す最初のアルバム。秀逸な演奏で、ほとんど無名のラグタイム作曲家たちの曲が楽しめる好盤です。
 よほどラグタイム・マニアでないとわからないような、マイナーな作曲者の曲ばかりですが、スコット・ジョプリンの完成されたラグとは微妙に異なる印象を持った作品集で、私はここでもラグタイムの芸術性について確信を持つようになりました。

 「フォーク・ラグ Folk Rag」という言葉に、彼は独自の定義をしています。それによると、フォーク・ラグは田舎の音楽で、いわゆるクラシック・ラグのヨーロッパ的な作法から逸脱した、型にはまらない性格を持つとのことです。言葉を替えると、クラシック音楽家から見ると理論的に間違った音使いも含むようです。
 しかし、フォーク・ラグの中でも優れた作品は、例えばショパンのマズルカにも引けを取らないような熱情や表現力があると彼は主張しています。
 彼自身の作品も、「Pinelands Memoir」を筆頭に、フォーク・ラグに影響を受けているものが多く、またその後のアルバムでもたびたびフォーク・ラグを取り上げています。

 ラグタイムといえばジョプリン一辺倒だった時代に出されたこのアルバムは、地味ながらラグタイム界にとって非常に重要な作品だったと思います。型にはまってマンネリになりやすかったラグタイムの世界に、異なる視点から光を当て、新たなモチーフを生み出しているのです。

 B面6曲目は、前作『Music For A Pretty Baby』のB面6曲目の再録音。後のアルバム『Folk Ragtime: 1899-1914』(1997)とダブる曲はほとんどなく、A面6曲目だけが再録音されています。

A面
1.Teddy In The Jungle(1910)Edward J. Freeberg
2.Pride Of The Smokey Row(1911)J. M. Wilcockson
3.Missoura Mag's Chromatic Rag( ? )H. H. Farris
4.Mashed Potatoes(1911)Calvin Lee Woolsey
5.Kalamity Kid(1909)Ferdinand Alexander Guttenberger (arr. by J. Russel Robinson)
6.X. L. Rag(1903)L. Edgar Settle
7.Texas Rag(1905)Callis Wellborn Jackson
B面
1.Cole Smoak(1906)Clarence H. St. John
2.Sweet Pickles(1907)Theron C. Bennett [alias George E. Florence]
3.Back To Life(1905)Charles Hunter
4.Queen Of Love(1901)Charles Hunter
5.Holy Moses(1906)Cy Seymour
6.Sponge(1911)W. C. Simon


★『Pinelands Memoir And Other Rags』(Euphonic Sounds Recording ESR-1224、1983年)
コメント:
 デヴィッド・トーマス・ロバーツの初のオリジナル作品集。
 といっても、実は私はこのレコードを持っていません(よってジャケット写真は無し)。彼のことを最初に私に教えてくれたクラシック・ギタリストの新間英雄さんが、カセットにダビングしてくれたのでした。いくら探してもお店に頼んでも、ついに自分では入手できなかったのです。
 デヴィッド・トーマス・ロバーツの大ファンを自認する私ですらこんな状況ですから、おそらく日本全体でも、このアルバムをちゃんとLPで持っている人は数えるほどではないでしょうか。

 Euphonic Sounds は、Paul Affeldt という人のマイナーレーベルだったらしく、装丁がまるで海賊版のような感じのレコードです(私はここから出た別のLPを持っています)。しかし、このアルバムの内容はそんなことをみじんも感じさせず、今までと違う新しいラグタイム時代の幕開けを告げているかのようです。

 不慮の事故で亡くなった大リーガーに捧げられたB面1曲目は、ラグタイム史上の傑作として、現在でも多くの人に取り上げられている名曲です。また、タイトル曲もフォーク・ラグの特色を生かしながら実に独創的な作品で、もちろん彼の代表作の一つです。
 この時点で、すでに彼の音楽性は完璧なレベルに達しています。モートンの影響があるとはいえ、彼が生涯追求しているロマン派音楽的な色彩もすでに強く感じられ、以降のオリジナル作品と比べても全く遜色のない、素晴らしい作品集です。実は最新作『Discovery』(2005)でも、A面5曲目を再録音したりしています。
 ただ強いて言えば、レコード時代のオリジナル曲は、クラシック・ラグの形式を遵守していることが多く、その意味では簡潔な様式美を感じます。

 Euphonic Sounds の権利は現在 Delmark レコードが買い取っていて、少しずつCDでのリイシューが進んでいます(http://delmark.com/delmark.euphonic.htm)。ぜひこのアルバムもそれに加えていただきたいものです。
 なお、後のCDで多くが再録音されていますが、A面2と3、B面4はCD未収録作品です。

A面
1.Madison Heights Girl(1979)
2.Hattisburg Days(1979)
3.Rock Island(1979-1980)
4.The Girl On The Other Side(1979)
5.Frederic And The Coast(1979)
6.Kreole(1978)
B面
1.Roberto Clemente(1979)
2.Muscatine(1979)
3.For Molly Kaufmann(1981)
4.Forrest County(1979)
5.Pinelands Memoir(1978)


★『Through The Bottomlands』(Stomp Off Records S.O.S.1072、1984年)
コメント:
 オリジナル曲集第二弾で、全編に渡って新しい音楽の息吹が感じられる、LP時代の傑作です。前作『Pinelands Memoir』と違って、オールド・ジャズの老舗レーベル、ストンプ・オフから発表されたという事もあり、彼の優れたオリジナル曲を世に広く知らしめるきっかけになったアルバムと言えるでしょう。

 「Roberto Clemente」などとともに彼の代表作の一つといわれる表題曲「Through The Bottomlands」を収録。フォーク・ラグタイムの特色を踏まえながら、彼独自のロマンチシズムを導入したこの曲は、ラグタイムの新時代を予感させるもので、彼のコンサートでも欠かせない曲になっています。

 その他、「Glide」という舞曲の体裁で作られたA面4曲目、ジェリー・ロール・モートン風のB面1曲目、CD化されていない曲の中でもファンの間で人気の高いロマンチックなB面5曲目など、叙情的な曲とストンプする曲のバランスがよく、一曲毎に様々なスタイルの曲を楽しめます。

 なお、B面4は、前作A面3と同じ曲。これも前作同様、後のCDでいくつかが再録音されていますが、A面1と3、B面1、3、4、5と約半数がCD未収録作品。
 CD時代になっても再発されていないのが、大変もったいないアルバムです。

A面
1.The Family Lines System(1980)
2.Through The Bottomlands(1980)
3.For Teresa(1974)
4.The South Mississippi Glide(1978)
5.Poplarville(1979)
B面
1.Lily Langtry Comes To The Midwest(1979)
2.The Early Life Of Larry Hoffer(1977)
3.Braymer(1979-1980)
4.Rock Island(1979-1980)
5.Tallahassee(1975)
6.Waterloo Girls(1980)


★『The Amazon Rag』(Stomp Off Records S.O.S.1132、1985年)
コメント:
 デヴィッド・トーマス・ロバーツのLP時代最後のアルバム。
 驚くべき事に、先にご紹介した『An Album Of Early Folk Rags』(1982)、『Through The Bottomlands』(1984)、そしてこのアルバムは、大部分の曲が全く同じ日付・場所で(1981年6月29日〜7月2日、ニューヨークのペンシルバニア大学にて)録音されています。これらの「Stomp Off 三部作」を生み出したセッションは、彼の録音キャリアの中でも最も充実したものだと言えるでしょう。

 このアルバムは、この「三部作」の中で最もバラエティーに富んだ選曲が楽しめます。無名のフォーク・ラグ、「鍵盤上の子猫」で有名なゼズ・コンフリーのノベルティー・ピアノ、トム・シーの新しいラグ、ジョプリンの弟子だったブルン・キャンベルのワイルドなピアノ音楽、そして彼自身のオリジナルも二曲含んでいます。しかもその内の一曲が、彼の作品の中でも最高傑作との呼び声があるロマンチックな曲「Camille」(B面6曲目)ということで、まさに百花繚乱の印象です。

 アルバムとしてのまとまりはあまりありませんが、おそらく一般の人がラグタイムの入門用として楽しむには最適のアルバムです。もちろん、このアルバムもCD化が強く望まれます。
 ちなみに、後のアルバム『The Collected Brun Campbell』(2000)では、B面3、5曲目が再録音されています。

A面
1.The Amazon Rag(1904)Teddy Hahn
2.One O' Them Things!(1904)James Chapman & Leroy Smith
3.Little Wabash Special(1964)Tom Shea
4.The Watermelon Trust(1906)Harry C. Thompson
5.The Pen Pals(1981)David Thomas Roberts
6.Funny Bones(1909)Calvin Lee Woolsey
B面
1.Nickel In The Slot(1923)Zez Confrey
2.The Candy(1909)Clarence Jones
3.Barbershop Rag(1950?)Brun Campbell
4.Mandy's Broadway Stroll(1898)Thomas E. Broady
5.Chestnut Street In The 90's(1948?)Brun Campbell
6.Camille(1979)David Thomas Roberts


★『New Orleans Streets 1981-1985』 (Solo Art SACD-115、1992年)
コメント:
 CD時代における初めてのアルバム。後に「テラ・ヴェルデ」と呼ばれる、新しい音楽ジャンルの始まりを示しています。その後何度も再演・再録音されている、デヴィッド・トーマス・ロバーツの代表作です。

 彼は、LP時代のアルバムで、すでに現代ラグタイム作曲家としての地位を確立していましたが、その後は「ラグタイム」という狭い枠に留まらず、様々な音楽の影響が感じられる幅の広い作曲を志向していくことになります。初期の作品からそのような傾向は見えるのですが、それが大きな成果として最初に現れた重要な作品が、このピアノ組曲『ニューオーリンズ・ストリーツ』です。
 明らかに今までのラグタイムの枠を逸脱した、何か全く別のピアノ音楽。ラグタイム、ニューオーリンズ・ピアノ、クラシックなどの要素が渾然一体となり、独特の緊張感と魔力を感じる音楽になっています。

 一聴してすぐにわかるのは、まずジェリー・ロール・モートンに代表される「ニューオーリンズ・ピアノ」スタイルの影響です。モートンが得意だったハバネラのリズムの曲も多く登場していますし、本人の解説でも彼の影響が大きいことが伺えます。
 しかし、「ニューオーリンズ・ピアノ」の単なる再現とは趣がまるで違います。彼は、モートンの音楽要素を通して示唆される、アメリカの縮図とも言えるニューオーリンズの万華鏡的なイメージを、より豊富な音楽言語を交えて叙述しているのだと思われます。
 ニューオーリンズ・スタイルと同じかそれ以上に本作の大きな音楽的源泉となっているのが、クラシックのロマン派的な音楽の影響です。しかし、本人が語る音楽の旅はほとんどジャンル横断的に、ニューオーリンズを軸にして大きな広がりと多様性を示しています。
 彼のその後の方向性を決定づけた点で、「ニューオーリンズ・ストリーツ」は、デヴィッド・トーマス・ロバーツの最も象徴的な業績の一つと言うことができるでしょう。

(CD『New Orleans Streets』日本語ライナーノーツなどを加筆修整)

1.序曲 Introduction
2.ディケーター・ストリート Decatur Street
3.ブルゴーニュ・ストリート Burgundy Street
4.フランクリン・アヴェニュー Franklin Avenue
5.ジャクソン・アヴェニュー Jackson Avenue
6.ワルツ Waltz
7.ナポレオン・アヴェニュー Napoleon Avenue
8.マガジン・ストリート Magazine Street
9.トゥールーズ・ストリート Toulouse Street
10.アナンシエイション・ストリート Annunciation Street
11.ブロード・アヴェニュー Broad Avenue
12.間奏曲 Interlude
13.フォンテーヌブロー・ドライヴ Fontainebleau Drive
14.復讐 Revenge
15.さようなら Farewell



★ 『15 Ragtime Compositions』 (PianoMania Music CD-108、1993年)
コメント:
 待望久しかったトーマス・ロバーツの名曲集と言えるアルバム。なぜか再発されないLPの時代に発表された曲の再録音を中心に、彼のラグタイムの真髄が楽しめます。
 このアルバムで彼のラグタイムに初めて出会った、という人も多いと思います。

 一曲目の「Waterloo Girls」から、彼の代表曲がこれでもかこれでもかという具合に続きます。最高傑作との声もあるロマンチックな「Camille」、痛快なモートン風ラグ「Kreole」、最新作『ディスカヴァリー』でも再録音されたハバネラ「Frederic and the Coast」、説明不要の代表作「Roberto Clemente」「Through the Bottomlands」「Pinelands Memoir」などなど、それぞれが現代ラグタイムの至宝の味わいがあります。

 また、ここで初登場した曲は、9、10、11、15の4つですが、こちらも既発表作に負けない素晴らしい曲です。特に15曲目「Maria Antonieta Pons」は、彼の作曲リストの中では(『ニューオーリンズ・ストリーツ』を除けば)初めて単独でテラ・ヴェルデに分類された曲で、ルンバの女王と言われた女性ダンサーに捧げられた素晴らしい曲です。

 現在は残念なことに入手困難らしいのですが、ぜひ再版が望まれるアルバムです。

1.Waterloo Girls(1980)
2.Camille(1979)
3.Kreole(1978)
4.Frederic and the Coast(1979)
5.Madison Heights Girl(1979)
6.Poplarville(1979)
7.Through the Bottomlands(1980)
8.Pinelands Memoir(1978)
9.For Kansas City(1980)
10.The Girl Who Moved Away(1981-1982)
11.Mississippi Brown Eyes(1989)
12.The Early Life of Larry Hoffer(1977)
13.The South Mississippi Glide(1978)
14.Roberto Clemente(1979)
15.Maria Antonieta Pons(1986-1987)


★『Early Tangos to New Ragtime』 (PianoMania Music CD-122、1995年)
コメント:
 「PianoMania」からの二作目は、これまでの「オリジナル」「フォーク・ラグ」という大まかな選曲の傾向とはひと味違い、初期のタンゴの名作曲家ナザレの作品と、デヴィッド・トーマス・ロバーツと親交のある現代作曲家たちのニュー・ラグタイムが中心。何と意外にも、ラムの未出版ラグやジョプリンのノンパレル、初期のカントリー(「Shoe Fly」)まで演奏しています。

 ニュー・ラグタイムの代表曲の一つと言える12曲目「Belle of Louisville」は、作曲者の演奏とはまた違う落ち着いたグルーブ感が体感できます。13曲目「Morelia」、16曲目「The Big Man」、17曲目「Mississippi Soul」は、それぞれデヴィッド・トーマス・ロバーツに献呈された曲で、各作曲家の個性がよく出ている興味深い選曲です。

 彼自身のオリジナル3曲(うち11と18は初登場)のオリジナルも珠玉の逸品です。前作の「Mississippi Brown Eyes」、そしてそれとほぼ同時期に作られた11と18の三曲は、アメリカ南部三連作として見ることもでき、彼の作品の中でもかなり密度の濃い傑作ラグタイムです。

 まだテラ・ヴェルデを提唱する前のアルバムですが、すでにそういう感覚で様々な音楽の影響を検証しているかのようです。
 彼のアルバムの中でも、最も長時間(75分)、最もバラエティーに富んだ内容を楽しめる傑作アルバムです。
1.Odeon(1910)Ernesto Nazareth
2.Matuto(1917)Ernesto Nazareth
3.Rapid Transit(1964)Joseph Lamb
4.Bee Hive Rag(1964)Joseph Lamb
5.The Nake Dance(?)Jackson, Morton
6.For Molly Kaufmann(1981)David Thomas Roberts
7.The Show-Me Rag(1966)Trebor Tichenor
8.The Nonpareil(1907)Scott Joplin
9.Mississippi River Boulevard(1993)Brian Keenan
10.Shoe Fly(late 1920's)Kessinger Bros.
11.Memories of a Missouri Confederate(1989)David Thomas Roberts
12.Belle of Louisville(1990)Frank French
13.Morelia(1989)Hal Isbitz
14.Esta' Chumbado(1896)Ernesto Nazareth
15.Escovado(?)Ernesto Nazareth
16.The Big Man(1990)Tom McDermott
17.Mississippi Soul(1984)Jack Rummel
18.The Queen of North Missouri(1989)David Thomas Roberts
19.Ravenna(1993)Scott Kirby


★ 『American Landscapes』 (Viridiana Productions、1995年)
コメント:
 前々作『15 Ragtime Compositions』に続くベスト盤的なオリジナル曲集で、デヴィッド・トーマス・ロバーツのアルバムの中でも入手しやすいCD。ジョージ・ウィンストンの紹介文などからもわかる通り、メジャーを意識した作りです。
 選曲も、今までのアルバムから少しずつ、彼の魅力がバランスよく伝わるような配慮がされています。

 『15 Ragtime Compositions』とは、1、2、4、6、12、15、16と、ほぼ半数の曲がダブっていますが、録音はやはり後のこちらの方がよい仕上がりです。これは、演奏の出来不出来というより、単純にピアノの質に起因しているように感じます。
 今作の録音では、ピアノにベーゼンドルファーの最高機種「インペリアル・グランド」(Model290)が使われています。これは「クリス・フィンガー・ピアノ」という会社が提供したものですが、PianoMania での録音におけるヤマハのグランドに比べるとさすがに深みのある豊かな音です(もちろん人それぞれの好みはあるでしょうが)。
 なお、録音技師のファーガス氏は、「クリス・フィンガー・ピアノ」と同様に、1980年代から現在に至るまで、彼のほとんどの録音を手助けしています。

 ここで初登場した彼のオリジナル曲は、3、13、14の3曲です。そのうち、14曲目「Last Day Of The Poro Grounds」は、彼にしては珍しいラグタイム・ワルツで、無くなってしまった野球場への郷愁を感じさせるロマンチックな佳曲です。
 なぜか7曲目のみ John Hancock の作品ですが、これがブルース・フィーリングを持った小粋な曲で、意外なアクセントになっています。

 まず最初にデヴィッド・トーマス・ロバーツの作品に親しむには絶好のアルバムです。
1.Pinelands Memoir(1978)
2.The Girl who Moved Away(1981-82)
3.Back to Marion County(1981)
4.Through the Bottomlands(1980)
5.Muscatine(1979)
6.Kreole(1978)
7.Dixon(1983)John Hancock
8.The Girl on the Other Side(1979)
9."Franklin Avenue" from New Orleans Streets(1981-85)
10."Fontainebleau Drive" from New Orleans Streets(1981-85)
11."Napoleon Avenue" from New Orleans Streets(1981-85)
12.Madison Heights Girl(1979)
13.Anna(1978)
14.Last Day Of The Poro Grounds(1986-1987)
15.Roberto Clemente(1979)
16.For Kansas City(1980)


★ 『Folk Ragtime: 1899-1914』 (Stomp Off Records CD1317、1997年)
コメント:
 『The Amazon Rag』(1985)以来のフォーク・ラグ集で、私はラグタイムの歴史に残るべき名盤だと思います。オリジナルは一曲もありませんが、デヴィッド・トーマス・ロバーツが長年追求してきたフォーク・ラグの世界が、ここに質量ともに最高の形で提示されています。

 選曲も見事。特に多く取り上げられているチャールズ・ハンター、カルビン・ウールシーを筆頭に、ほとんど失われつつあった無名の曲に光を当てる、素晴らしい内容です。
 ここでの彼の演奏は、ラグタイム本来のリズムの快感を保持しながら、この時代のロマン派音楽的な側面をも感じさせる懐の深いものです。特にブラインド・ブーン作による9の解釈は大胆で、もとの楽譜から再構築されたゴキゲンなプレイが楽しめます。

 録音時期は、1994-96年とかなり長い期間に少しずつ録音されていますが、これはヤマハのディスクレイバー・ピアノ(MIDIの演奏記録を保存できるもの)に録音されたものです。そのため、1996年に改めてまとめて「再生」録音されています。この録音方式は「PianoMania」独特のもので、PianoManiaのその他のアルバムでも採用されています。

 先輩格のトレバー・ティチェナーがライナーを書いていますが、そのトレバー・ティチェナーの「Tempus Ragorum」(1994)と同様、どっぷりとラグタイムに浸れる素晴らしいアルバムです。
1.Blue Blazes(1909)Arthur Sizemore
2.A Tennessee Tantalizer(1900)Charles Hunter
3.A Tennessee Jubilee(1899)Thomas E. Broady
4.Tickled To Death(1899)Charles Hunter
5.Poison Rag(1910)Calvin Lee Woolsey
6.Scizzor Bill(1909)Arthur Sizemore
7.The Dockstader Rag(19??)Les Copeland
8.Camp Meeting Melodies(1912?)Blind Boone (John W. Boone)
9.Southern Rag Medley 2 -Strains From The Flat Branch-(1909)Blind Boone (John W. Boone)
10.Felix Rag(1910)H. H. McSkimming
11.The Pirate Rag(1904)E. A. Windell
12.Medic Rag(1910)Calvin Lee Woolsey
13.Just Ask Me(1902)Charles Hunter
14.Why We Smile(1903)Charles Hunter
15.Cotton Balls(1901)Charles Hunter
16.Possum And Taters(1900)Charles Hunter
17.The Black Cat Rag(1905)Frank Wooster & Ethyl B. Smith
18.X. L. Rag(1903)L. Edgar Settle
19.A Bran Dance Shuffle(1902)Wade Harrison
20.Whittling Remus(1900)Thomas E. Broady
21.Lover's Lane Glide(1914)Calvin Lee Woolsey


★ 『The Collected Brun Campbell』 (PianoMania Music CD-136、2000年)
コメント:
 ジョプリンが支援した数少ない白人の弟子、ブルン・キャンベル(Sanford Brunson Campbell, 1884-1952)は、1940年代に再発見されて多くの録音や叙述を残しました。彼はアメリカ中西部のフォーク・ラグのパイオニアの一人であり、そのワイルドなラグタイムはまるで初期のカントリー、ストリング・バンド演奏をピアノ・ソロにしたような、不思議な魅力に溢れています。

 デヴィッド・トーマス・ロバーツは、キャンベルからも影響を受けていて、LP『The Amazon Rag』でもキャンベルの曲を取り上げている他、彼自身のラグタイム作品の一部にもその片鱗を伺うことができます。
 このアルバムは、そんな彼がキャンベルに敬意を表して作ったもの。痛快なキャンベル節が全編に渡って鳴り響く、ラグタイム・ファンには堪らないアルバムです。

 このアルバムは、彼の全アルバム中で今のところ唯一、アップライト・ピアノで録音されています。曲の扱い、雰囲気、サウンド、ストンプ(足踏み)に至るまでマニアックに再現され、キャンベルの当時の録音にほぼ近い演奏になっているのです。
 今まで他人の曲をやっても、少なくとも演奏表現に関しては意外とかなり自分の色や演出を加味していたデヴィッド・トーマス・ロバーツにとって、これは全く異色の事と言っていいでしょう。次回作のスコット・ジョプリン集と同じ演奏家の作品とは思えないくらいです。

 残念ながらすでに絶版らしく、入手困難なCDになってしまいましたが、現代ラグタイム界を代表する音楽家の、意外なルーツの一つが垣間見える、ユニークで興味深いアルバムと言えるでしょう。

1.Eassy in Ragtime I
2.Ginger Snap Rag
3.Barber Shop Rag
4.Reminiscences
5.Slow and Easy
6.Salome Slow Drag I
7.Blue Rag
8.Brun's Slow Dog
9.Short Rag
10.Frankie and Johnny Rag
11.Maple Leaf Rag
12.Chestnut Street in the 90's
13.Tent Show Rag
14.Grandpa's Stomp
15.Campbell Cakewalk
16.Rendezvous Rag
17.Fragment
18.Lulu White
19.Salome Slow Drag II
20.Barrelhouse Rag
21.Eassy in Ragtime II

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