「混合経済」に向かう中国
−財政制約で企業公有制は維持困難に−





[要約]
  1. 9月下旬の中国共産党4中全会は国防産業など例外分野を除き、国有企業の民営化(資本多元化)を進めることを発表した。「名」は公有制でも、「実」は西側に似た混合経済を目指す大きな軌道修正である。
  2. 国有企業の不振に加えて、財政から国有企業への資本の供給は限界に近く、今後も高い経済成長が必要なら資本を民間に求めるほか道はない。混合経済化は国有株の放出(投資済み資本の退出)と私営制企業の発展の形で進むだろう。
  3. 混合経済化の実行は現場の抵抗などにより一定の時間がかかるだろう。また、4中全会が企業に対する共産党の指導強化を求めたことには批判もあり、改革開放は最後に政治体制改革が必要になることを示唆している。



   事実上の「混合経済」に向けてカジを切る


  9月22日、中国共産党の第15期中央委員会第4回全体会議(4中全会)が「国有企業改革と発展に関する重要決定」を採択して閉幕した。内外の予想では「社会の安定」が優先され、国有企業改革はスローダウンするので、4中全会は見るべき進展がないとの見方が一般的であった。
  しかし、結果的には「期待したほどの進展はなかったが、心配したほどの停滞もなかった」と考えられる。社会主義の根幹に関わる所有制問題について、「公有制」の名前を残しつつも、事実上「混合経済」を目指すのに等しい軌道修正が行われたからである。
  中国は狭義の公有経済の傍らで混合所有経済と非公有経済を発展させてきた。「それでも全体としては公有制だ」と説明するために、97年10月の第15回党大会は「合弁会社(混合所有経済)の公有持分を合算すると公有制の成分が量的に過半を占める」と説明した。
  ところが、今次4中全会はこの量的基準も放棄したのである。

   公有制の対象を重要業種に限定

  今回のキーワードは「有進有退、有所為有所不為」(国有企業は進むことも退くこともある、為すことも為さざることもある)である。具体的には、国有経済によるコントロール、すなわち狭義の公有制を維持する経済領域が安全保障関連業種、自然独占業種、公共サービス・物品業種の3業種及び国家の支柱産業及びハイテク産業の中核企業に限定された。その他の業種・企業では国有企業の民営化(国家資本の退出による混合所有化)と非公有経済の発展(個人企業、外資企業を含む私営企業など)を促すことになったのである。
  重要性基準とも言えるこの考え方により、今後公有経済は重要だが少数派の存在になる。また、戦略産業や自然独占産業を国有企業が担当する体制は、西側資本主義国でも民営化が潮流になるまでは普通に見られた。4中全会決定は事実上「混合経済」を目指すに等しいと考えるのはこのためである。

   国有企業への財政からの出資に限界

  混合経済化により経済体制は西側資本主義国にますます接近する。中国共産党がアイデンティティを危うくしてまで混合経済を目指すのはなぜか。
  「国有企業がうまくいっていないから」という答は最も分かりやすい。企業は「上級機関」ではうまく管理できないことは現状が雄弁に物語っている、経済はもっと市場に委ねないとうまくいかないなど。そのとおりだが、もっと明白で余儀ない理由もある。財政制約である。
  事業の採算をとるには自己資本の充実が必要である。今後も公有制を維持しながら経済成長を続けたいなら、政府が財政から十分な自己資本を供給しなければならない。
  しかし、中国の財政は弱体なうえ、社会保障、インフラ整備、国防など国家の本務に必要な支出増加要因が山積みしているため、公有制を維持するための出資が十分できないのである。

   国有商業銀行の不良債権増加にも歯止め

  公有制はある意味でとうに限界を超えている。過去に自己資本充実を軽視、借り入れに依存して建設した国有企業の採算が悪化し、不良債権問題を更に深刻化させているからである。
  最近、4大国有商業銀行が不良債権処理のため米国の整理信託公社(RTC)に倣った整理会社を設立し、債務株式化(Debt Equity Swap)により不良債権を処理しようとしている。前途のある赤字企業は累積負債を額面で株式に転換、資産管理公司に譲渡する。これにより銀行の不良債権を解消する一方、企業の利払いと負債比率を下げることが狙いである。

   高成長維持のためメンツ捨てる

  しかし、未納利息も含めて額面で転換された株式は収益性が低いから、やがて額面割れによる損失の顕在化が避けられない。この損失は将来国家が財政で負担する約束だが、この隠れた財政負担こそ、過去自己資本充実を軽視して公有制建設を進めたツケである。テクノクラートは公有制を維持して経済成長を続ける無理を悟ったはずである。
  公有制は共産党のアイデンティティに関わる理念であり、軌道修正は容易でない。しかし、今回「国有企業改革の必要」に「財政制約」が加わったことがダメを押した。13億人を養うために高成長が必要な以上、中国は公有制を縮小するほかないのである。

  今後の流れは国有株放出と私営企業発展

  混合経済化は今後2つの方向で進められると思われる。
  第1は国有企業からの資本退出、すなわち企業売却や株の放出による投資済み資本の回収である。民間保有株の比重増大は株式市場を通じた経営改善の圧力を高める効果もある。
  所有が分散された株式制は資本の「社会化」であり「私有経済」ではないから、社会主義市場経済でも利用可能だとするのが中国の立場である。
  大型国有企業は一部既に上場されているが、公有制の量的基準との兼ね合いから発行済み株式の7割前後は流通を認められない国有株だった。今後はまず非重要業種で国有持株率を51%まで落とし、次に50%を割り込む放出が行われよう。将来は重要業種でも「51%までの放出は公有制に矛盾しない」とのレトリックが試されることになろう。
  第2は私営企業の発展である。私営企業は従来日陰者だったが、持ち前の活力を生かして各分野で急速に台頭しつつある。3月の憲法改正で認知され、今後は輸出入権や上場資格を巡る差別待遇撤廃も期待できるため、この流れは更に加速するだろう。


  混合経済化の実行スピードには懸念も

  一定の進展を見た4中全会だが、混合経済化の実行スピードには懸念材料がある。上級政府部門にとっては、株放出に適した優良国有企業は「金のなる木」であり、支配力の減退につながる株放出には抵抗も予想されるからである。
  また、社会主義イデオロギーの呪縛も簡単には消えないから、現場は消極的になるだろう。昨年既得権益打破に辣腕(らつわん)を振るった朱鎔基首相の権力が最近衰えていることもあり、中央の強い指導力もあまり期待できない。
  しかし、一方で既に地方政府が独自に管轄国有資本の撤収を始めている例が出てきている(湖南省など)。混合経済化は意識の高い地方から徐々に進むことになるだろう。


  残る課題は政治体制(共産党)の改革

  第2の懸念材料は「党組織と企業の関係」についてである。識者の間では、企業監督の権限・責任は会社法(公司法)に基づく株主総会や取締役会などに委ね、位置づけの不明確な「党」は介在すべきでないとする声が強い。しかし、4中全会は国がコントロールする企業では党委の書記と会長職に当たる董事長の兼任など、企業と党の役職相互乗り入れを求めた。
  これは党の指導を重視する江沢民主席の意向であるが評判が良くない。行政と企業の分離(政企分離)を求めながら企業党委と経営者の一心同体を求めるのは何故か、党委と株主総会の方針が食い違ったら党委書記兼董事長はどうすればよいのか。識者が4中全会に「突破的」進展の賛辞を送らない理由の一つはここにある。
  しかし、省みると日本でも最近JR各社の国鉄年金長期債務承継問題というのがあった。混合所有制における政府と株主の利害対立は中国だけの問題ではない。
  また、役職相互乗り入れの対象は国の持ち分が過半を超える狭義の公有制企業に限定されている。今後、混合所有が進む大半の国有企業は国の持株比率が50%を割り込んだ段階で対象から外れることになる。これとて保守派の抵抗を振り切ることは簡単でなかったはずであり、今はこれが限度であろう。
  いずれにせよ、経済体制は混合経済化により資本主義国家に更に接近する。改革開放の過程で一つ一つかんぬきを外していくと、最後に共産党、すなわち政治体制の改革が残ることがますますはっきりしてきたと言えるだろう。

(日経テレコン デジタルコラム 1999年10月19日)

  <4中全会決定(99年9月22日)のポイント>

  1.国有企業改革の要点と目標

  • 大胆に現代の経営・組織方式を試し、生産力発展を促す公有制の各種実現形式を探索。
  • 他方、改革の強弱、発展の速度は国力と社会の受容能力にふさわしいものとする。
  • 3年で(98年〜)赤字国有大中型企業の赤字を解消、中核企業は民営化など経営形態の最適化を進め、現代企業制度を確立する。
  • 2010年には、国有企業の戦略的調整と改組を終了、現代企業制度を確立する。
  2.指導方針
  • 公有制を主体としつつ、各種の所有制経済を共同発展させる。
  • 国有経済の分布と構造を合理化、このため国有資産の流動化とリストラを進める。
  • 現代企業制度をうち立て、所有関係、権限と責任の明確化、自主独立経営を促す。
  • 企業の科学技術の進歩を推進する。このために利子補給、優遇税制を創設。
  • 科学的、効率的経営管理を強化、経営者の素質向上、不法行為の根絶に努める。
  • 優勝劣敗型競争、合併の促進、破産の適正化、レイオフ(人員の一時的解雇)、再就職プロジェクトを実行。
  • 政府改革、国有資産管理、法制建設、社会保障改革など他の改革との協調推進を図る。
  • 党の指導を強化、企業党組織の政治作用を発揮、また、企業の精神文明を建設する。

  3.国有経済の分布を戦略的に調整

 (1) 国有経済が支配持株でコントロールする必要がある経済領域
  • 安全保障関連業種、自然独占業種、公共サービス・物品業種の3業種。
  • 国家の支柱産業及びハイテク産業の中核企業。
 (2) その他の業種・企業
  • 大中型国有企業は上場、公衆資本の吸収、外資との合弁・株式交換。
  • 個人企業、私営企業など非公有制経済の発展を促す。

  4.国有企業の戦略的リストラを推進

 (1) 優良企業:上場を促し、上場企業は公衆流通株の比重を上げる。
   非上場企業に土地使用権処分による増資減債を認める。一部企業に社債(外国社債含む   の発行を認める。
 (2) 前途はあるが高負債の企業:債務の株式化などによるリストラで再生。
 (3) 前途のない長期欠損企業、汚染・資源浪費型小企業:破産、または操業停止。
 (4) 中小企業:「大をつかみ小を放つ」で活性化、中小企業支援政策を充実する。

  5.現代企業制度の確立
  • 政企分離を進める、政府・党機関は所属する企業のヒト、カネ、モノに干渉しない。
  • 株主総会、取締役会、執行役員など会社法に基づく管理機構を確立する。
  • 国有独資、国の支配持株企業では、党組織と会社経営陣の役職者を相互乗り入れする。

  6.社会的負担の緩和
  • 企業の学校、病院などは地方政府に逐次移管、費用は当初企業と折半、次第に政府負担。
  • 余剰人員処理:独立採算化が可能な部門は極力分社化。レイオフ・再配置は財政と社会の受容力、特に社会保障制度確立との兼ね合いで行う。労働者の職業観念転換を促し、非公有企業への転職を奨励する。
  • 社会保障体系確立を急ぐ。各種保険制度を私営、外資まで広げ、費用の徴収を強化。




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