GITIC破産決定の波紋
−外資引き揚げれば経済に大きな影響−




 [要約]

  1. 広東国際信託投資公司(GITIC)が破産とされ、登録外債優先救済の方針が覆った背景には、中央にも地方にも救済するためのカネがないこと、優先救済で不利を被る国内外の他の債権者を無視できないことなどがある。
  2. 中国の信用は大きく損なわれ、最悪の場合、100億ドル単位の外国融資引き揚げが起きる可能性もある。これによって、経済の悪化やノンバンク破たんなどの表面化が予想されるばかりでなく、資金の流出で人民元の売り圧力も強まる。
  3. 中国政府はこの副作用をもっと深刻に認識し、外銀との交渉、合意によるGITIC処理を図るべきだ。同時に、輸出増値税(流通段階にかかる付加価値税)還付による輸出促進やサービス産業の対外開放などで外貨流入を促し、人民元の安定に努めることも重要になる。



  GITIC処理方法が急変

  2000億円相当の債務超過で破たんした広東国際信託投資公司(GITIC)の処理方法が急変したことが大きな波紋を呼んでいる。
  去る10月の閉鎖決定のときは、外為管理局に登録済みの外国債権は救済すると発表されたのに、わずか3カ月後の1月10日に、急転直下「破産」が打ち出された結果、登録外国債権者も残余財産の均等分配しか期待できなくなったためである。
  「外債登録は外貨流入と内貨転換の許可に過ぎず、政府保証ではない」とは、1月27日の記者会見における戴相龍人民銀行長の発言である。ごもっともだが、それでは同行長自身が10月時点で登録外債を保護する姿勢を示していたこととの辻褄が合わない。

  ない袖は振れない

  方針急変の最大の原因は、政府にも救済するカネがないことである。GITICだけでなく、全国各地には破たん状態の同種ノンバンク(ITICs)が数多い。
  戴行長はITICsの外債を合計してもわずか81億ドル、償還期日が近いものは20億ドルにすぎないと言明したが、GITICのケースでも、閉鎖後の精査で巨額の隠れ負債が判明しており、この数字は鵜呑(うの)みにできない。
  数多いITICsの破たん債務を全部救済していくことは、ハイピッチで公共投資などを続け、ただでさえカネのない中央・地方財政にとってあまりにも負担が大きい。外国融資引き揚げなどの悪影響は内部でも当然議論されたはずだが、朱鎔基首相は後ろ向き対策に財政資金を使うことを否定した。

  各国の利害は様々

  「ないそでは振れない」とは言え、方針変更は重たい決断である。結果的に中国が決断するうえでは、米国金融当局が透明、公平、ルール準拠と並んで、モラルハザード防止を助言したことが大きく影響したようだ。中南米とは異なり各国金融機関の中国向け貸し出しの中で米国が占めるシェアは低い(図表1参照)。



  昨年10月、お膝(ひざ)元のLTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)事件で護送船団型救済をやった米国も、こと中国ではモラルハザード論という正論を述べるのにあまりためらいは感じないのであろう。
  また、日本の銀行は登録債権の割合が大きいのに対し、最近貸し出しを伸ばしていた欧州の銀行は登録外の債権がかなりあると言われている。登録外債優先で各国が要求の足並みをそろえることも実は難しい。

  外銀対国内債権者の利害対立

  ITICsには国内債権者も大勢いる。戴行長はその保護も破産を選択した理由の1つであると言明した。GITICの資産負債状況から見て、登録外債が優先弁済されれば、国内債権者には配当が回らなくなる可能性が大きい。
  10月の外債優先方針に対しては、国内債権者から猛烈な反発があったのであろう。破たん寸前の多数のITICsの国内債権を合算すれば相当な金額であり、国内金融機関の不良債権顕在化も無視できない。破産はこれをふまえた「内外平等」の要請の結果でもある。

  GITIC再建案合意の可能性?

  戴行長は記者会見で「仮に(4月のGITIC債権者集会で)債権者と債務者双方が同意可能な再建案が合意されれば人民銀行は喜んで受け入れる」とも発言した。
  これには前段がある。昨年、中国当局はGITIC再建のオプションを内々打診したが、ソブリン(政府・公的機関)同等の処遇を期待する外銀側の反応は否定的だったという。
  上記発言は「破産と聞いて気が変われば、もう一度考慮しますよ」というサインだが、結局はない袖を振る魔法はない。再建といっても、外国債権者は債権額の大幅カットなどの「協力」を求められるだろう。また、国内債権者も参加する以上、内外平等の方針を変えるのは難しいだろう。

  中央政府が交渉に乗る可能性も

  「そんな再建は論外」、かもしれないが、検討はしてみるべきである。
  第1に、4月までに起きる信用収縮の度合いを横目に見ながら、中央・広東省政府が一部でも負担に応じる余地が全くないとは言えない。
  第2に、言いにくいことだが、破産手続きが開始されても、その透明性、公平性がどこまで信頼できるか不安がある。
  残存資産の保全や分配に信頼が置けないのなら、大幅カットであっても中央政府を相手に改めて約束した方がまだマシだという判断もありうる。

  懸念される外国資金引き揚げ

  今後の悪影響で何より懸念されるのは、外国融資の引き揚げである。外為管理局統計によれば、98年央の中国の対外債務1380億ドル(年末:1450億ドル)のうち、金融機関借り入れは380億ドル。また、短期債務は180億ドルとされている。
  しかし、国際決済銀行(BIS)統計によれば、同時期の外銀の対中貸し出しは593億ドル、うち短期債権は308億ドルとなっている。また、金融機関向け貸し出しは銀行向けが236億ドル、銀行以外の民間向けが289億ドルとなっている(図表2参照)。

                  図表2. 外銀の中国向け融資の内訳

  このうち特に短期債権308億ドルや銀行以外の民間向け289億ドルの行方が焦点になる。その中には親会社の保証する外資系企業の借り入れも相当含まれているから、すべてがGITIC向け債権のような危機にあるわけではない。しかし、少なくとも今回の決定で信用度が当てにならなくなった地方系企業については、外国金融機関が今後新規借り入れはおろか、借り換えにも応じないだろう。かねて疑問視されていた不良ITICsが行き詰まるのも時間の問題だろう。
  また、メリルリンチは昨年秋、登録外のヤミ外債が約300億ドルはあるという推計を発表している。今のままでは、最悪100億ドル単位で外国債権が引き揚げられるか、焦げつくかの二者択一になる可能性がある。

  香港の窓口会社にも打撃

  影響は香港のレッドチップ(香港に上場された中国大企業の窓口会社)企業にも及び、新規上場は麻痺(まひ)状態である。外国融資の大量引き揚げは金融機関の破たんだけでなく外資導入のスローダウン、信用収縮による経済の悪化など様々な悪影響をもたらすであろう。

  人民元防衛のコストも増大

  最近China Daily紙が人民元切り下げの可能性を示唆(しさ)して以来、切り下げ観測が再浮上しているが、朱鎔基首相や戴行長はこれを強く否定している。筆者も「引き下げはかえって中国経済にマイナス」という得失判断は依然正しいし、今後も当分変わらないと考えている。
  仮に、外国融資が短期間に300億ドル引き揚げられても、理論的には1450億ドルの外貨準備で十分対応可能である。
  しかし、中国は昨年人民切り下げの噂に怯(おび)えて急増したキャピタルフライト(資本逃避)と闘っている。当局が懸命の努力でこれを取り締まった結果、9、10月には市場のドル売りがやや戻り、外貨準備も増加した。ところが、11月以降は再びその勢いがなくなっている(図表3参照)。



  憶測であるが、早くも外国融資の引き揚げが始まったのかもしれない。外国融資引き揚げは外為需給を悪化させる。
  仮にドル売り市場介入を余儀なくされ、外貨準備が減るような事態になれば、また不安心理が増大し、キャピタルフライトが増大するおそれもある。今回の決定で元防衛のコストは確実に増大したと思われる。

  中国は今後何をすべきか

  中国政府は、金融面の対外信用が今回大きく損なわれたことをもっと深刻に認識すべきである。特に、「救済するカネがない」以上、抜本的な方針再変更は望めないとしても、悪影響を緩和する措置を執ることは極めて重要である。

  切り捨てでなく交渉と合意を

  第1にリスケ(返済計画の改定)の交渉すらせずに、モラルハザード論で民間債務を切って捨てるのは信義に反するだけでなく、無謀(むぼう)である。GITICの処理については、広東省、中央政府も何らかの負担を用意して合意による「再建」を目指すべきである。
  外銀側に落ち度があったとしても、それは交渉で反映させるべき事柄であり、「切り捨て」的な破産処理は、今後必要以上の悪影響を招くおそれがある。

   地方の外資取り入れ枯渇も

  第2に地方プロジェクトの信用補完策を早急に検討すべきである。
  地方政府主導で収益性の低いプロジェクトを実施する場合、必要な商業借り入れを行うには何らかの信用補完措置が必要である。他の国には、このために地方政府の債務保証や起債の制度があるが、中国は地方政府による乱用を恐れてこれを禁じている。融資に当たって中央政府によるプロジェクト批准を重視する慣行は、まさにその代用品として利用されてきたのである。
  「そういう曖昧(あいまい)な慣行はもう通用しない」と言うのはよいが、今のままでは地方の外資取り入れは本当に枯渇してしまう。中央認可による地方政府の債務保証制度など、世界標準に則った信用補完策を検討すべきである。

  輸出増値税の全額還付を

  第3に輸出・直接投資による外貨流入を増大させる観点から、かねて悪評の高い輸出増値税の一部不還付問題では全面還付を実現すべきである。先般、電機製品など一部については17%全額還付の方針が打ち出されたが、品目別に還付率を小刻みに引き揚げるのは「兵力の逐次投入」である。
  この問題のせいで、中国の投資環境の評価も大きく傷ついた。財政負担は大きいが、収益性の低い公共投資にまで手を広げるくらいなら、全面還付を本気で検討すべきだと思われる。

  サービスの対外開放も選択肢

  第4に同じく外貨流入を増大させる観点から、サービス分野の対外開放を更に加速し、直接投資を促進すべきである。流通、運輸、電気通信など、外国投資が見込め、その必要も高い分野は多い。製造業が過剰設備に喘(あえ)ぐ中、3次産業における外資の受け入れは民間投資増大の有力な手段でもある。
  最後に、言わずもがなであるが人民元安定の路線を引き続き堅持すべきである。それは今回のGITIC問題で大きく損なわれた中国経済政策の対外信用の最後のよりどころでもある。

(日経テレコン デジタルコラム 1999年2月18日)




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