インターネットで変わる中国社会
−海外とのアクセスが崩す情報統制−



[要約]
  1. 中国でインターネットが爆発的な勢いで普及し、米国流のインターネットビジネスも急速に拡大している。
  2. インターネットは海外との自由なアクセスを通じて当局の情報統制を崩すとともに、本音での意見交換の場になるなど、政治面にも影響を及ぼしつつある。
  3. 当局にとっては頭の痛い問題だが、もはや勢いを止めることはできず、中国は経済でも政治でも、情報技術革新の大波に洗われようとしている。



  3月下旬、北京で海外のウェブサイトへのアクセスが極端に遅くなる異変が起きた。原因は3月18日に行われた台湾総統選挙である。膨大な中国のネット人口が陳水扁氏当選後の成り行きを知ろうと、一斉に海外のウェブサイトにアクセスしたせいで、通信速度が極端に落ちてしまったのだ。

   1000万人を超えるインターネット人口

  この1、2年の中国のネット人口の拡大は文字通り「爆発的」だ。特に接続料金が下がった昨年からは拍車がかかり、1998年末から99年末の1年間で210万人から890万人へと、実に4倍以上も増加した(図表)。4カ月後の今は、恐らく1000万人を超えているだろう。
 ユーザーを性別、年齢別、学歴別に見ると男性、30歳以下、大学・大学専科(日本の短大に相当)卒以上の高学歴者がそれぞれ全体の約8割を占め、特に若年高学歴・高収入層では仕事でもオフビジネスでも、もはや不可欠のコミュニケーション手段になっている。



  これに伴い、民営企業のウェブサイト開設やプロバイダー(接続会社)の設立も盛んで、電気通信事業の国家独占の建前をしり目に急成長を遂げている。今や大型ウェブサイトは200万人以上の無料電子メールユーザーを抱え、ウェブ閲覧も1日500万ページにのぼる。

   米国流ビジネス展開する留学経験者

  ひと昔前まで中国のインテリといえば、貧乏な暮らしと相場が決まっていたが、改革開放の進展は知識が富に直結する仕組みを中国に持ち込み始めた。
  理系の雄、清華大学では卒業生の4割近くが海外留学する。かつては、海外留学した中国人は母国に帰らないのが当たり前だったが、それもここ数年で様相が一変した。理系ではIT(情報技術)やバイオテクノロジーを、文系では金融・証券を留学先で専攻し、実務経験も積んだ留学生たちが中国に戻ってインターネットを駆使する米国流のビジネスを展開する例が急増しているのだ。
  米国系ファンドの投資やアドバイスを受け入れる例も多く、ナスダック(米店頭公開市場)での株式公開を目指すといった意気込みも強い。

   政治行動にも影響及ぼす

 インターネットはビジネスや私生活だけでなく、政治行動にも影響を及ぼす気配がある。
 とりわけ、情報が簡単に国境を越えて飛び交うインターネットの特性が中国のこれまでの情報統制を崩しつつある。例えば99年4月の朱鎔基首相訪米の際、米国がインターネットを通じ中国のWTO(世界貿易機関)加盟交渉の内容を一方的に公表、たちまち中国国内に知れ渡る事件があった。中国ではそれまで交渉途中の情報が国内で報道されることはなかった。しかも、この時は公表された内容が多くの中国人にとって衝撃的ともいえる大幅譲歩であり、交渉が不調に終わったこともあって朱首相がその後、著しい政治的窮地に陥るもとになった。

   貴重な情報媒体となったインターネット

  その直後、ユーゴスラビアの中国大使館がNATO(北大西洋条約機構)軍の空爆を受けた時も、すぐに衝撃の第一報を中国にもたらしたのはインターネットであり、学生をはじめとする若者の多くは公式メディアの発表前に事実を知っていた。
  中国のメディアはひところに比べれば自由化されてきたが、新聞やテレビは依然厳しい規制を受けている。それだけに、中国ではインターネットが他の国以上に貴重な情報媒体となっている。上に掲げた例は中国でのインターネットの威力を物語るとともに、もはや国民を情報から隔離したり、操作したりすることが難しくなりつつある状況を端的に示している。

   本音レベルで語られる政治・外交問題

  情報の受信だけでなく発信の面でも、大きな変化が起きている。これまでの中国では、当局のチェックを受けない言論が文字の形で一般大衆の目に触れることは稀だった。
  しかし、今日では多数のウェブサイトが電子掲示板や電子会議室を設けており、これまで親しい者同士の間にとどまっていた政治・外交論議を、不特定多数の人々が文字の形で交わすことができるようになった。内政問題も含め、本音レベルの議論が交わされることも多く、こうして言論発表への人々のためらいが消えていけば、次第に政治にも影響していくと思われる。

   中国人の対日姿勢知ることも

  余談だが、日本との関係はインターネット上で取り上げられることの多いテーマの一つで、日中間で何か「事件」が起きるたびに日本を非難する書き込みが殺到する。日本人の視線を意識せずに書き込んでいるだけに激烈なものも多く、そのような書き込みを目の当たりにするたびにショックを受ける。見方を変えれば、従来触れる機会のなかった日本に対する中国人の本音を我々日本人が知ることになったわけで、これもインターネットの「効用」のひとつというべきであろう。

   インターネット禁圧できない当局

  情報の発信を巡っては、当局にとって更に深刻な事例もある。邪教として徹底的な取り締まりの対象になっている法輪功の信者たちが通信連絡用に活用したとされるなど、インターネットが反体制運動を支える有力な手段になっていることだ。しかし、だからといって高度な産業技術の導入による経済発展を急ぐ中国としては、インターネットを禁圧することなど到底無理な話でもある。

   関心呼ぶ台湾の民主選挙

  さて、冒頭に挙げた台湾総統選挙は、台湾独立を掲げる民進党の勝利だけが大陸の関心を呼んだわけではない。陳水扁氏の勝利は中国五千年の歴史上初めて民主選挙によって政権が交代する大事件でもあった。大陸でこのことを特に注目している中国人も数多い。
  陳氏の中国訪問は容易なことでは実現しそうもないが、仮にその機会があったとしたら陳氏は江沢民主席に何を語るのだろうか。その語りかけは海外メディアで報道され、ネット上で待ち構えている若者を通じてたちまち中国国内にも伝わる。
  世紀の変わり目にあって、中国は経済のみならず、政治面でもインターネットが及ぼす世界の変化から無縁ではいられないだろう。

(日経テレコン デジタルコラム 2000年4月25日)






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