109回「ラフカディオ・ハーンの会」ニュース (200995発行)

 

米国による原爆投下から64年となった今年の86日、原爆死没者慰霊式・平和祈念式典は、灰色の雲が夏の日差しを和らげ、蝉時雨が降り注ぐ中、例年通り、爆心地に近い広島市中区の平和記念公園で営まれた。

昨年を5千人上回る5万人の参列者を前に、秋葉市長は平和宣言で、先のオバマ大統領のプラハ演説を支持し、2020年までの核廃絶実現に向け“Yes, we can.”と英語で締め括った。そして、廃絶を願う多数派市民を「オバマジョリティー」と称し、世界へ力を合わせようと呼びかけた。

 各新聞は、多くの人が4月のオバマ演説を歓迎し、被爆地の声として、オバマ大統領の来訪を期待する旨の記事で紙面を埋めている。しかし、今もなお米国民の6割以上が原爆投下の正統性を主張し続けるなど、「核兵器のない世界」の実現への道は、遠く嶮しいと言わざるを得ない。

 森重昭著『原爆で死んだ米兵秘史』(光人社)という本がある。広島が原爆投下の目標になった最大の理由は広島が軍都であったためだが、その他に連合軍の捕虜が一人もいなかったことが挙げられる。原爆投下によって約40万人が被爆、昭和20年のうちに約14万人が死亡した。所がこの14万人のうちに、米兵捕虜が12人いた。森氏は約20年前から調査を開始し、1000人にも及ぶ聞き取り調査の結果、数々の新事実を発見、その一環として、抑留されていた米兵捕虜12人の被爆死を知ったのである。

 長い間、米軍は広島において被爆した米兵捕虜はいないと発表していた。しかし、広島市での捕虜にまつわる証言、宇品にある米兵の墓などから、人々の間では被爆米兵の死が語り継がれていたのであった。広島では12人、長崎では9人、捕虜が味方の新兵器で殺されるという、皮肉な、そして残忍な出来事もあの戦争は引き起こしていたのである。

京都や奈良を空襲から救った恩人としての《ウォ―ナー伝説》は事実無根の作り話であったし、原爆投下目標の〈予約〉としての、広島、長崎などの都市が、他のあらゆる形式の爆撃も禁止して無傷の状態に残しておかれたのは、原爆の威力を測定するためであったことも考えれば、広島市民はなかなか“安らかに眠る”ことなど出来はしない。

1】《最近の情報から》

・岩波書店から『文学』隔月刊78月号・2009年「ラフカディオ・ハーン再読」=特集が出版された。河島弘美先生よりご寄贈を受ける。因みに、この号には河島先生の“「幽霊滝の伝説」はなぜ恐ろしいのか”と題する論考が載っている。なお、土谷直人氏によると、『講座 小泉八雲』(新曜社)が間もなく出版されるという。

・『ちりめん本のすべて』の著者石澤小枝子先生が、千葉の放送大学での特別講義「欧文絵本ちりめん本の魅力」(2008秋収録、20095月放映)の録画DVD45分)を送って下さった。

・小泉時先生の納骨式は826日(水)

・本日第109回例会に八雲会・松江から2名の参加予定(園部、真野)。

 

2《読みたい本》:モーム作/行方昭夫訳『月と六ペンス』(岩波文庫、2005

東京国立近代美術館で「ゴーギャン展」(73日から923日まで)が開催され、日本初公開となる最高傑作「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」に注目が集まっている。マルティ二―ク島でハーンと同じ時期、手の届く所に住んでいたゴーギャンの生き方を知るよい機会でもある。『月と六ペンス』は、40歳で妻子を棄て、絵を描くという芸術の魔力に取付かれた男ストリックランド(ゴーギャンがモデル)の徹底したエゴイズムを、シニカルな筆致で描くモームの代表作。

 

3】《次回の予定》: 103日(土)「停車場で」(『心』)

 

4】《事務局の本棚に加わった本》: 

・『限りなき前進』荒木栄之助追悼集(文化評論出版、昭和45)非売品

・マリー・ド・フランスのレー/月村辰雄訳『十二の恋の物語』(岩波文庫、1988

・森重昭『原爆で死んだ米兵秘史』(光人社、2008

・さだまさし『美しき日本の面影』(新潮文庫、平成20年)

・櫻井よしこ『明治人の姿』(小学館新書、2009

KOKORO1896)所収のAt a Railway Station: 

熊本時代の見聞をもとに、日清戦争を契機として欧化に走る近代日本の風潮を憂え、東西文化の比較を試みた『東の国から』(1895)の後を受けて、明治291896)年3月に出版された『心』は、平凡な日常生活の中に見え隠れする日本人の情緒的な特質を浮き彫りにする、ハーンの来日第三作である。『心』には、15篇の小品と、3つの俗謡(大黒舞)―「俊徳丸」「小栗判官」「八百屋お七」―が附録で収録されている。

 

◆【前回の復習を兼ねて】:

・「停車場にて」全体を4部に分けて考察する。

・丸山学『小泉八雲新考』から“第四章「停車場にて」など”を読む。

★『九州日日新聞』(明治26422日付け)の記事を発見。丸山氏の調査によって、ハーンが実際に池田駅(上熊本駅)に居合わせて犯罪者の到着を目撃したのではないらしいことが判った。作品化するに当って、ハーンが変更した事実は、@犯罪は7年前、子供は7歳で、母親に背負われてはいなかった。A犯人は佐賀から連行された。B人名(草部、野村貞一、杉原おきび)はハーンの創作。C広告の日付は、422日。

・アメリカでの犯罪記事、例えば「皮革製作所殺人事件」など、ルポルタージュの構成は、@まず要領よく事実を知らせる A実地検証(感覚的、具体的、会話的な内容)に移る、のが特徴である。

・日本の作品に材を取った時、ハーンには2つの目標があった。

@素材そのものの中に日本人の心性を捉える(客観的な報道)

A文章が芸術作品として一人立ちできる工夫(文章家としての野心)

・【第1部】では、@先ず「近代化の日本」を示す単語が目に付く・・・telegram; trial; trainなど。A似た内容を表わす言葉の言い換え・・・policeman; the police; captor; murdered officer (man); detective; policesergeant// felon; criminal; thief; prisoner; murdererなど。 

 B第1部で重要な語句は、“the police”であろう。『日本瞥見記』の第23章「伯耆から隠岐へ」の中でも「日本の警官は、何か新規なことを言い渡す時には、1回云うだけで、それ以上は決して云わない。それでいて、いつも必ず目的を達している。・・・日本の警官は殆ど皆士族出身だ。世界で最も完璧だ」と述べている。

 

◆【第2部】では、先ずMy anticipations were wrong.という表現が目に付く。群集は激昂しているのではないか。特に熊本人は正義感が強く、血気盛んである。リンチまがいの暴力沙汰が起きるのではないか。巡査が大勢で警戒しているのでは、というハーンの「予想が外れた」。

 次に重要な語句として、@the wicket 「改札口」の内と外 Aa child (on her back) Bgazed=looked; I saw~に注目したい。

最後の文にあるthe tears of a Japanese policemanが、いみじくもこの第2部を締め括っている。

・参考資料は『続・ラフカディオ・ハーン再考』から、アラン・ローゼン氏の“「停車場で」における芸術的技巧”(西川盛雄訳)である。

 

Grace James18821111196526)について

東京在住の丹沢栄一氏が関田かおる女史から得た情報を提供してくれた。それに拠ると、Grace JamesTHJamesの娘である。Mrs. Jamesはちりめん本で知られるJapanese Fairy Tales Seriesに「いなばの白兎」「大江山」「松山鏡」など8冊の翻訳をしている。チェンバレンの住居の隣に住んでいたので、娘のグレースは彼に可愛がられた思い出があるようだ。彼女の母のあとを継いで、Green Willow and other Japanese fairy tales1910年にロンドンのマックミランから出版している。

(注:チェンバレンは東京芝西久保広町の曹洞宗清龍寺に住んでいた)

馬本先生がネット上で検索して下さった情報で、ローマの「プロテスタント墓地の」墓碑リストに以下のものが併記されているとご教示下さった。

Grace James (Born Tokio November 11, 1882Died Rome February 6, 1965)

Elspeth Cavaletti Mee James (Born Tokio August 1, 1887Died Rome April 22, 1966)・・・Grace Jamesの妹か?

Grace Jamesの著書の一つに『ジャンヌダルク』がある模様。