178回「広島ラフカディオ・ハーンの会」ニュース  (201566発行)

 

 日本英学史学会中国・四国支部ニューズレターNo.82201555)冒頭の〈エッセイ〉において、副支部長の竹中龍範香川大学教授が“齋藤秀三郎『熟語本位英和中辭典』刊行100周年”を書いておられる。

本年2015年は、大正41915)年に齋藤秀三郎の名著『熟語本位英和中辭典』が刊行されてちょうど100年に当たり、その記念企画も予定されているそうだ。事務局の架蔵する版は、1936年に出版された新増補版であり、竹中先生ご指摘の、この「英和中辞典」が初版刊行時2分冊であったとは初耳であった。

 『熟語本位英和中辭典』の英語でのタイトルは、SAITO’S IDIOMOLOGICAL ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY となっている。この書名に冠せられた“Idiomological”の語こそが本辞書の特色を示しているのである。例えば、For, Get, Take, With などの項を開き読んだだけでも全豹が察せられる。With の用法の説明の如きは実に10頁余りに亘っている。

 “Preface”には、次の説明がある。

Words are nothing in themselves, and everything in combination. In the case of words, combination comprises construction and association. A verb without its constructions is no verb (動詞は不動詞); and association is what makes the most significant words what they are. By association are meant the idiomatic, proverbial, and conventional expressions in what each word usually occurs.

 

 ところで、事務局が高校生の時代、旺文社が「百万人の英語ラジオ講座」を放送していた。講師の一人に明治大学教授野原三郎という一風変わった講師がいて、独特なだみ声と説得力ある英単語の解説法ゆえに、事務局は野原先生の講座の虜になってしまった覚えがある。手元に『受験必修精選英単語5000』(南雲堂、昭和29、定価170円)という野原先生の本が残っているが、“単語は絶対に孤立しているものではない!“ が持論であった。

 例えば、“prove という単語には、「@証明する(不完他にも用いる)A試験する B(不完自)(=turn out)判る」と語義が分類されており、例文として次のような文例が提示されている。(1He has proved himself worthy of confidence. (彼は信任するに足ることを証明した。)(3The attempt proved a failure. (その企は失敗に帰した。)

 実は、野原先生自身が齋藤秀三郎著『熟語本位英和中辭典』の大フアンで、上記の例文も齋藤の辞書に載っており、そこからの引用である。この影響か、高校時代は「英和中辞典」を愛用していたことを懐かしく想い出した。

 

 

1】《最近の情報から》: 過去のものを含む

・平成27年度第11回熊本八雲会総会(426日)

・平成26年度山陰日本アイルランド協会総会(59日)→10月にアイルランドで小泉八雲のイベントが開催される。「アイルランドツアー」も企画。

トラモアのガーデン・オープンに小泉凡氏出席(626日)

・焼津・小泉八雲顕彰会総会(620日)【顕彰会50周年記念に向けて】

・田中欣二氏(米シンシナティ日本研究センター所長、87歳)が、春の叙勲において、在外邦人として「旭日双光章」を受賞された。

・日本モーム協会会誌「CAPFERRAT11号、丹沢氏よりのご恵贈。

・八雲会創立50年(第一次八雲会創立100年)記念イベントについて:

74日(土)松江市総合文化センター大会議室(祝賀会サンラポーむらくも)

◆全体タイトル「(八雲会創立100年記念)八雲の記憶・100年の継承」

◆講演:西川盛雄「ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の魅力」

◆シンポジュウム「八雲会100年/小泉八雲の顕彰に尽くした人々」

当日午前10.00〜八雲会定期総会(視聴覚室)

 

2《読みたい本》:小川和佑『桜の文学史』(文藝春秋、平成16

文春新書である。“ハーンの『怪談』―不思議なさくらに因む物語”として、ハーンの『乳母桜』『十六桜』を取り上げている。広島のハーンの会でも2度に亘って、この中の解説を援用させてもらった。本書の表紙裏にある説明文には、「桜と深いかかわりを持つ日本文化。桜がどのように文学上のテーマ、モチーフを形作って来たかを、古事記や日本書紀、萬葉集から現代の渡辺淳一まで丹念にたどりながら、日本人の心や文化に、梅や菊とも異なる、大きな影響を与えるに至った経緯を解き明かす。紫式部、西行、世阿弥、豊臣秀吉、松尾芭蕉、本居宣長、与謝野晶子、ハーン、萩原朔太郎、そして梶井基次郎を経て、谷崎潤一郎、水上勉、中村真一郎らへと継承され、変容した豊饒な桜の文学絵巻。」とある。

 

3《次回の予定》: 711日(土)

 

4《事務局の本棚に加わった本》:

・松田美緒『クレオール・ニッポンうたの記憶を旅する』(ARTES2014

・河井忠親『松江城』(今井書店、昭和42)山陰文化シリーズ28

・津野海太郎『花森安治伝』(新潮社、2013

・森銑三『物いふ小箱』(筑摩書房、1988

・田宮虎彦『木の実のとき』(新潮社、昭和37

 

 

★「十六桜」「乳母桜」について:

前回、前々回と上記2作品を取り上げて読んできた。ハーンがこれら『文藝倶楽部』所収の話に興味を持ち再話を試みたのは、正月十六日、二月十六日という早咲きの桜にまつわる不思議な物語に心惹かれた為でもあろう。それ以外に気付いた点を23挙げておく。

ア、原典とハーンの作品の長さ比較→3倍と3分の一

イ、ハーンの文の特徴→“O”の多用、エロティシズム(乳首)

Cf. “Himawariにおける太陽が朝から日没までに弧を描くイメージ

ウ、「身代わり」substitute、アニミズム

エ、『怪談』における作品の序列

・「お貞の話」(第3話)「乳母桜」(第4話)…女の一途な愛が転生へ

・「青柳の話」(第12話)「十六桜」(第13話)…樹にも人の命が宿る

オ、『怪談』におけるハーンの遊び→(イ)を参照、magical なタイトル

 “十六”に拘っているのは、ハーンの好きな“8”の倍数だから?

カ、「乳母桜」は3部構成

 事実/ お露の発病・お袖の発病/ 遺言・直接話法

キ、「乳母桜」には仏領西インド諸島での作品『ユーマ』の影響がある。

ク、ハーンには上野で買い求めた「桜の精」の掛け軸がある。

ケ、サクラには、死の影が射している。

昭和文学の“サクラ”は全て、梶井基次郎の「桜の樹の下には死体が埋まっている」という桜観から出発している。

 

John Hersey, HIROSHIMA, Bantam Books/ New York, 1959

この名著については前回のニュースで紹介したが、今年が広島にとって被爆70年(原爆ドーム100年)の記念すべき年に当たるので、さらに説明を加える。全体は4部構成である。( )は石川欣一・谷本清共訳『ヒロシマ』の訳語。

1. A Noiseless Flash (音なき閃光)

II. The Fire (火災)

III. Details Are Being Investigated (詳細は目下調査中)

IV. Panic Grass and Feverfew (黍と夏白菊)

 

表紙をめくると、冒頭に著者の紹介がある。

John Richard Hersey was born in Tientsin, China, in 1914, and spoke Chinese fluently before he knew a word of English. Mr. Hersey was educated at Hotchkiss School, Yale and Cambridge, and then became secretary to Sinclair Lewis. As war correspondent for the magazines, Time and Life, he served on both fronts and was commended for heroism for his assistance to the wounded on Guadalcanal. From his experiences in Italy came Mr. Hersey’s A BELL FOR ADANO, for which he received the Pulitzer Prize. HIROSHIMA is told by Mr. Hersey through the intimate records of six survivors of the bombing. Dr. Fujii, one of its central characters, said of Mr. Hersey: “When he ws here speaking to me, and when I looked at him, I said to myself, ‘This young man is the type of American the great President Lincoln must have been.’ “

 

 序でに本文に入る前に書かれている英文も紹介しておきます。

Hiroshima originally appeared in The New Yorker. The author wishes to thank the editors of that magazine, especially Mr. Harold Ross and Mr. William Shawn, for their considerable share in its preparation.

 

★市河三喜(18861970)は、人も知る幕末三筆の一人で加賀の前田家に仕え、その書道塾には5000人が入門したという米庵の孫である。45歳の頃から既に父および兄三陽について書や漢文の指導を受け、書家清庵としてのお家芸を身につけた。東京台東区上野公園1249(国際子ども図書館)に建つ「小泉八雲記念碑」には次の文言が読める。

 

“先生原名ハらふかじお・へるん英国ノ西紀千八百五十年地中海ノれふかす島ニ生レ四十一歳ニシテ来朝シ尋デ帰化シ姓名ヲ改メテ小泉八雲ト曰フ職ヲ東京帝国大学ニ奉ジ英文学ヲ教授シ日本ニ関スル著述頗ル多シ千九百四年東京ニ没シ雑司ヶ谷ニ葬ル先生ヲ景仰セル土井英一ノ遺言因リ父林吉松本喜一ト相謀リテ此記念碑ヲ帝国図書館ニ建ツ小倉右一郎コレガ彫刻設計ヲ為ス 昭和10年(19356月 藍谷温撰 市河三喜書”

 

 なお、新宿区富久町730(成女学園)の「小泉八雲旧居跡」に東京八雲同人会によりハーン生誕100年を記念して建立された記念碑、その碑面に刻まれた英文の筆跡はイギリス詩人エドモンド・ブランデン、日本文は市河三喜博士のものである。

 

★文化審議会が15日、江戸時代初期に築かれた松江城天守を国宝に指定するよう、下村博文文科相に答申した。近世城郭の国宝指定は63年ぶり(『中国新聞』516)。『湖都松江』vol.18 200910)の《特集》には「松江城を国宝にしよう市民の集い」がある。長年の取り組みが実を結び、誠に御目出度い。