172回「広島ラフカディオ・ハーンの会」ニュース  (2014126発行)

 

 愈々師走となりました。県北の山々も先月初雪で覆われました。昨年の暮れ内田融・八雲会事務局長に「ハーン周辺の人々の教育事情」なる話を頂いたが、あれから早くも一年が経過する。光陰の速さには唯々驚くばかりだ。

 さて、今年はビキニ事件から丁度60年目に当たる年(ゴジラの第1作は第五福竜丸事件をもとに、水爆怪獣のネーミングが冠された)でもあったが、最大のイベントは、ハーンの生誕地ギリシャ・レフカダで7月に開催された小泉八雲没後110周年記念事業であろう。広島ハーンの会からは古川正昭氏が参加され、詳しい報告を聞くことができた。

 3月には、松江八雲会主催「小泉八雲を読む感想文、作詞・詩」の一般の部において、広島市の長松美登里さんが2年連続で優秀賞を獲得された。今回は「八雲の心に寄り添って」と題し、珍しい「出雲再訪」を取り上げられため、後に広島ハーンの会でもその一部を読む機会をもった。大変参考になりました。

6月例会には翻訳家・浅尾敦則氏に「翻訳家・平井呈一と小泉八雲」と題して講演を頂き、映画『怪談』から「茶碗の中」を見ることも出来た。

621日、長年事務局の畏友であった呉市の佐藤俊之氏が肺癌のため76歳で他界された。氏は広島ラフカディオ・ハーンの会の設立者の一人で、長らく例会にもご出席下さった。秋月胤永についての優れたご研究は忘れられない。

7月例会で紹介した「カバヤ児童文庫」(浮田女史が日本産経新聞の記事をご提供下さった)は、8月に藤森夫妻が岡山のカバヤ食品工場へ出向かれ、『耳なし芳一』の内容など、さらに詳しい事情を採取、ご報告下さった。

その他、例会ではいつも参加者から数々の報告、情報提供があるが、中でも浮田佐智子氏の3回に亘る“松江訪問記”は圧巻であった。また、小泉凡著『怪談四代記』、長谷川洋二著『八雲の妻―小泉セツの生涯』は今年の記念すべき出版物、楽しく読ませて頂いた。八雲研究とは直接の関係はないものの、第150回芥川賞に広島県出身の小山田浩子さんの『穴』が決まったことは、広島県人にとり、大いに誇りとする偉業でした。

広島市は8月に大規模土砂災害という悲劇に心沈みましたが、ハーン研究の分野では、大変実り豊かな一年でした。会員各位に御礼を申し上げます。紙面の都合上ここにご紹介が出来なかった方々に対しても、その貴重なるご協力、ご指導に心から感謝しております。本当に有難うございました。

 

 昨年の「大遷宮」で湧いた出雲大社では、今年10月千家国麿権宮司と高円宮典子内親王とのご成婚がありました。誠に御目出度く、次なる年にも佳きことが続きますことを祈っております。皆様幸多き新年をお迎えください。

 

1】《最近の情報から》: 過去のものを含む

111日(土)、浅田栄次没100周年記念行事(周南市立中央図書館)

I浅田栄次没100周年記念式典 II浅田栄次没100周年記念シンポジュウム「浅田栄次の伝えるもの」cf. 822日(金)朝日新聞(山口版)に「旧徳山出身・浅田栄次氏・没後100年〜英語教育の礎、偉業後世に」が掲載された。

・「近代日本画のあゆみ」(日本美術院再興100年)泉美術館(912119

1110日、熊本アイルランド協会総会

1114日〜16日、第1回「広島国際映画祭」広島市中区基町のNTTクレドホールにて。今回の映画祭の前身は、200913年に毎年開催した米シアトル「ダマー映画祭」の日本版。実行委員会代表は部谷京子さん

1121日、広島文芸懇話会(袋町市民交流プラザ)西日本工業大客員教授・新田和雄「言葉はタイムカプセル〜スサノオに学ぶ〜」6:15

 ★この11月例会が最終回。1219日エンゼル・パークにて250回記念

1122日、第56回熊本県芸術文化祭参加事業「ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)と熊本のハーン研究の先達丸山学・木下順二の顕彰」熊本学園大学

 

2《読みたい本》:村上春樹『もし僕らのことばがウィスキーであったなら』(新潮文庫、平成14

 前回、朝日新聞の「ニュースの本棚」に出ていたということで、スコットランドに就いて高橋哲雄氏の『スコットランド・歴史を歩く』(岩波新書)を紹介した。その際触れておいたが、スコットランドの香り横溢の(そしてアイルランドの香りも漂う)本が、村上春樹氏によって書かれている。司馬遼太郎氏の『街道をゆく』(愛蘭土紀行III)とは趣を異にし、ウィスキーを旅のテーマとしながら、スコットランドとアイルランドの町や村を旅した旅行記である。折しもNHKテレビ小説が「マッサン」を放映中である。130頁ばかりの薄い本ではあるが、ウィスキーづくりの姿を生き生きと伝える美しい写真が満載で、旅心を誘ってくれる好著。一読されたし。

 

3《次回の予定》: 110日(土)

 

4《事務局の本棚に加わった本》:

・東京外語会有志『浅田栄次追懐禄』(みか子夫人編、大正5)非売品・復刻版

・多々納弘光『出西窯』(ダイヤモンド社、2013

・山田太一『月日の残像』(新潮社、2013

・行方昭夫『英会話不要論』(文藝春秋、2014

William Eliot Griffis, JAPANESE FAIRY WORLD ( printed in the USA)

 

 

ハーンと英語教育

I need scarcely tell you that the greatest force in England is public opinion that is to say, the general national opinion, or rather feeling, upon any subject of the moment. Sometimes this opinion may be wrong, but right or wrong is not here the question. It is the power that decides for or against war; it is the power that decides for or against reform; it is the power that to a very great degree influences English foreign policy.from Literature and Political Opinion (1899)

今回はちょっと趣向を変えて、行方昭夫著『解釈につよくなるための英文50』(岩波ジュニア新書)からの出題である。皆さんの読解力を試す和訳問題なので、敢えて日本語訳は付さないが、この英文には「著者の心を読む」とヒントが添えてある。イギリスの“世論”についての文だとは容易に察しがつくが、そこにやや少しの批判が加わっていることに気付いて下されば、ハーンの心が読めたことになる。それはどの部分であろうか?Let’s try it !)。

[参考] 岩波ジュニア新書からは、『英語の発想がよくわかる表現50』(2005)、『解釈につよくなるための英文50』(2012)、『身につく英語のためのA to Z』(2014)と題する、行方昭夫氏の3部作が出ている。

 

★前回のニュースに添付した資料「五高での講義記録ノート発見」(1018日の中国新聞記事)で明らかなように、『ラフカディオ・ハーンの英語クラス』が弦書房から発行された。これでハーンの教え子のノートを中心とした記念すべき、且つ貴重な記録である@『ラフカディオ・ハーンの英作文教育』、A『ラフカディオ・ハーンの英語教育』、B『ラフカディオ・ハーンの英語クラス』と、こちらも3部作が揃った訳である。

@は、松江中学時代の生徒、大谷正信と田部勝太郎の英作文をハーンが添削したものである。Aは、熊本時代の教え子、友枝高彦のノート(高田力および中土義敬両氏による筆写)の復元。Bは、既に銭本健二氏が「(ハーン)熊本第五高等中学校における英会話授業―ある学生の筆記ノートから」とのタイトルで『へるん』2930313234号に紹介していたものだが、東大英文科研究室にあったそのノートが黒板勝美氏のものと特定されたことによる出版である。

夫々分析、解説、出版に至る経緯などは必要かも知れぬが、一次史料提供者に“敬意を表する真心”を最優先させるなら、次のようなタイトルにすべきではないか。監修者名など「あとがき」に小さく付記するだけでよかった(?)

@『ハーンの英作文添削―松江中学・大谷正信と田部勝太郎の作品』

A『ハーンの英語講義録(その1)―熊本五高・友枝高彦のノート』

B『ハーンの英語講義録(その2)―熊本五高・黒板勝美のノート』

 

《バック・パッカー(旅に暮らす人)の元祖・ハーン》:E

8月下旬横浜から神戸に着いた(京都で1?)ハーンは、4日間の人力車による山越えの旅をして、松江を目指した。この山越えについては、『八雲の五十四年』の中で小泉凡氏も書いておられるが、鳥取県中山町の「小泉八雲を語る会」によってルートが考証されている。中山町小泉八雲を語る会が平成3年に出した八雲来町百年記念誌『「盆踊り」ゆかりの地なかやま』(非売品)の記述を紹介する。

 

(鳥取県)山口から山陽側へ行くには、犬挟峠を抜けねばならない。旧美作往来の山口を基点にした里程は、犬挟峠(県境)まで13町・湯原まで3里・勝山まで15里・関金宿へ1里・倉吉まで3里と地元に伝わる。矢送神社・岩崎神社地域を繋いでみると、ハーンの通ったコースは、姫路―津山―勝山(国道179181号線で121キロメートル・約30里)、勝山から美作往来に入り、湯本(湯原温泉がある)―土居分―上長田を経て、岡山、鳥取県境の犬挟峠を越え―山口―関金宿―中河原―倉吉の出口から八橋往来(倉吉往来)に入り、和田―上神(かずわ)―瀬戸を経て西園の西方から山陰道へ出、由良―妻波(岩崎神社鎮座)―八橋を経て上市着と考えられる。倉吉―上市間は図上測定で約24キロメートル(約6里)だから姫路―上市の道のりは、約217キロメートル(約54里)、姫路から上市まで3日の旅となり、このルートがハーンの叙述する中国山地越えの〈最も遠い道〉に当たる。

 

ハーンは敢えてこのような山路を選択したが故に、逢坂村上市(現、中山町)の倉吉屋に投宿することとなり、妙元寺で「以西踊り」を見ることができたのであった。なお、ハーンの言う「YUASAKI神社」は大栄町妻波の「岩崎神社」、天狗の面の神社は関金町山口の「矢送神社」だと特定された。

 

★「草雲雀」のポイント: @infinitesimal, atomy Aorganic memory, dust of the past Bthe atom of ghost in the tiny cage, and the atom of ghost within myself, were forever but one and the same in the deeps of the Vast of being.

Grass lark=Hearn 「歌うために心臓を食う」→ハーンは心臓病で死去(余りにも予言的!!)全体が詩的なリズムに満ちた文で書かれていることも特徴!!

 

[お詫び]前回のニュース(p.4)。會津八一氏の随筆「リーチさん」は昭和33年発行の『全集』(全9巻)では、第6巻に載っている。事務局が所蔵する全12巻ものの『全集』(昭和59525発行)では、第7巻に所収されているため、早とちりをしてしまいご無礼しました。謹んでお詫び申し上げます。