意見書ならびに要望書(4)
私たち「エコロジーと女性」ネットワークではこれまで三度にわたり、ピルの認可について慎重審議の要望書を厚生大臣、中央薬事審議会に提出してまいりました。私たちは、「内分泌攪乱物質」としてのピルの危険性をもっと慎重に検討すべきであると考えておりますし、1998年12月2日付けで厚生省中央薬事審議会より出されました「ピルの安全性、有効性についての中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」)につきましても、文献の評価の仕方などにおけるさまざまな問題点を見出しております。以下私たちの意見と要望を申し述べ、中央薬事審議会がここでの「中間とりまとめ」で審議を終わることなく、さらに真摯に検討を重ねてくださることをあらためて要望いたします。
T.「中間とりまとめ」の文献評価は、次の点で情報の出し方に問題があると考えます。
たとえば年齢別リスクなどの重要な情報が記載されていない。成分の違う6種類のピルが申請されているにもかかわらずひとまとめにするのはおかしい。成分によってのリスクの違いについてまったく触れられていない。「副効用」をうたっている試験の問題点等について触れていない。日本での臨床試験の問題点(乳癌の例が除外されている。血液凝固系検査や耐糖能検査の人数が少ないなど)が検討されていないということがあります。
またピルの一般的使用における失敗率(妊娠率)は3%から5%に更新され、アメリカで販売されているピルの説明書でもすでに変更されているにもかかわらず古い資料のみしか調べていないことは問題です。さらに、私たちが第3回目の要望書の中でコピーを添付した論文((15)遺伝子的男児で女性器をもった例)以外には、論文の出典を記したにもかかわらず取り寄せて検討された様子がうかがえず、これらは審議の怠慢を示すものとしか思えません。今回私たちは別紙のとおり「中間とりまとめ」の文献評価で触れられていない問題点を述べ、検討していただきたい別の論文を添付いたしました。なお私たちは次世代への影響などを含む重大な問題について検討を続けており、追って意見を申し述べる予定です。
U.イギリスでのピルに関連した死亡と集団訴訟
添付したイギリス保健省の手紙と資料(a)によれば、1994年から1997年までの4年間で50名がピルに関連した死亡としてあげられています。保健省は他のリスクファクターも考慮すべきであるとは言っておりますが、死亡者には若い世代が多く、なおかつピルの服用開始もしくは変更してから3ヵ月以内という短期間で死に至っている例が多いことは非常に重要です。この死亡例を含めてイギリスでは犠牲者とその家族による集団訴訟が起きていると報道されています(b、The
Mail on Sunday, 1998年2月15日)。私たちは資料にあがっている死亡例も氷山の一角と考えています。健康な女性が長期にわたって服用すると考えられる薬剤である以上、新たな薬害を生むことのないよう、慎重な検討をお願いいたします。
V.「内分泌攪乱物質」としてのピルの危険性はさらに検討されるべきです。
ピルはそもそも内分泌系を攪乱し生殖作用を阻害することを目的としてつくられた製剤です。使用されているエストロゲンの強さと摂取量は他の内分泌攪乱物質と比べて桁外れに大きくなります。アメリカの成人の1日に摂取するエストロゲン様物質をエストロゲン等量(EQ、摂取量と強度の積和)で比較した場合、たとえば環境中の有機塩素系農薬のエストロゲン0.0000025μg/日(EQ)に比べ、ピルから摂取するエストロゲンは16675
μg/日(EQ)に該当するという報告もあります(c)。
現在、内分泌攪乱化学物質の次世代への影響を考えるうえで、その論議は生殖系だけでなく免疫系や脳神経系にも及んでいます。流産防止剤DESの例のように、10数年〜20年を経て負の影響が顕在化することもあります。残念ながらそのような視点でピルが論議されてきたことは世界でもこれまでほとんどなかったと思われます。しかしすでに1985年にはそうした視点でピルの危険性を憂慮していた次のような報告もあります。
@1980年代に次世代のアレルギー、学習障害、多動症などと母親が服用したピルの関係が憂慮されていた
イギリスでのピル導入時、その医学的側面を研究するチームのメンバーであったエレン・グラント博士は広範囲な研究からピルの危険性を確信するに至りましたが、1985年に発行された彼女の著書『ビター・ピル』(d、邦訳1992年)では、ピルの副作用を広範囲にわたって述べています。さらに次世代に与える影響として、服用中に妊娠した場合や服用中止してすぐに妊娠した場合、出生した子の目に見える障害がない場合でも、アレルギーや学習障害、多動症など、こんにち「内分泌攪乱化学物質」の影響として懸念されている問題についてもピル服用との関連を憂慮し、こうした視点での研究がなされるべきであると早くも警鐘をならしています。
グラント博士は、ピルが体内の亜鉛やマグネシウムといった微量元素の不足や過剰を招いてバランスを崩し、ピルをやめてもすぐにはバランスは回復しないため、妊娠したときに胎児の脳や神経、筋肉の機能の発達に必要な微量元素の不足や過剰を招き、また死産や先天異常を引き起こすと述べています。こうした視点からもう一度ピルの安全性を検討することがこれから求められると考えます。
環境中に放出される合成エストロゲンの問題も無視できません。
Aイギリスの汚水処理場排水からピルに使用されているエチニルエストラジオールが発見され、雄魚のビテロジェニン生成への影響が疑われております。同時に検出された天然エストロゲンと比べてその量が少ないとはいえ、エストロゲンの強さから言えば非常に強力であり、検出量だけで比べることはできません。1998年12月11日〜13日に京都で行われた「内分泌攪乱化学物質問題に関する国際シンポジウム」(環境庁主催)の席上でイギリス・ウェールズ環境庁のジェフ・ブライティ氏は、「エチニルエストラジオールは天然エストロゲンより100倍も強力であり、7ng/リットル以下であってもエストロゲン作用があるかもしれない。加算的に作用するため今の下水処理レベルでは充分ではない。低用量でリスクは低いといっても残留性があるし、半減期もずっと長い。したがって問題がないとは思っていない。妊娠に気づかずに飲めば胎児への影響の可能性はある。この物質を許容するかどうか、今後も検討していかなければならない」と発言しています。(12月13日)
内分泌攪乱物質に関する研究はまだ緒についたばかりとも言えます。服用者本人への副作用のみならず、長期的、また生物界全体をも視野に入れてピルの安全性を考えることが今まさに問われていると思います。他の内分泌攪乱化学物質との相加・相乗作用も考えられます。内外の研究の進展を待つだけでなく、ピルに関わる研究もぜひ進めていただきたいと考えます。たとえば、臨床試験(服用)中の妊娠例はもとより、試験(服用)終了または中止後の妊娠例についてこうした視点に立って追跡調査していただきたいと思っております。
1999年1月29日
「エコロジーと女性」ネットワーク
厚 生 大 臣 宮下創平殿
中央薬事審議会会長 内山充 殿
*要望書(4)に添付されている意見書は別ファイル(ikennsho)
参考文献
a .イギリス保健省からDr.Guly(ピルの問題でキャンペーンを行っている引退した開業医、新聞記事参照)宛ての手紙と1994年-1997年のピルに関連した死亡例の添付資料
b.
ピルに関連して死亡した女性の家族と副作用の犠牲者が“危険なピル”を提訴したことに関する記事
The Mail on Sunday, 15 Feb. 1998
c.下表は
“いわゆる「環境ホルモン問題」” 鈴木継美、学士会会報 No.821:68-86(1998-10) より抜粋
註)なお、エストロゲンの強度はレセプターとの結合度、ビテロゲニン生成量、子宮重量変化、乳癌細胞増殖などで測定される。
アメリカ成人の摂取する各種エストロジェン様物質の量
| 種類 | 1日摂取量 (EQ マイクログラム/日) |
| 避妊用ピル | 16675 |
| 閉経期ホルモン補充療法 | 3350 |
| 食物中イソフラボノイド | 102 |
| 有機塩素系化合物 | 0.0000025 |
EQは作用強度と摂取量の積和
出典:Safe, Environment Health Perspectives, 103,346-351,1995
d.『ビターピル −経口避妊薬の落とし穴』エレングラント著、うえのけいこ、服部祐子訳、
メディカ出版 1992年7月
表中の参考文献出典(22‐33を除き表中に記載)
(22)-(33) 要望書(2)の@−Kに同じ