要 望 書(3)

 私どもは現在審議中の経口避妊薬(以下ピルとも表現)の認可に関し臨床試験記録12編(別紙@〜K)を検討しまして、本年2月27日に慎重審議の要望書を再度提出いたしましたが、それらに加えて以下の点からいっそうの慎重審議、ならびに情報公開を強く要望いたします。

1.臨床試験中および試験(服用)終了後の妊娠の追跡調査について
 私どもは前回標記の追跡調査を要望いたしましたが、厚生省として、あるいは中央薬事審議会としてこの件に関してどの程度把握しておられるのでしょうか。 

●男性遺伝子を持ちながら女性生殖器をそなえて生まれた子どもと
                 経口避妊薬服用との関係が疑われている症例
 American Journal of Obstetrics and Gynecology(1995:172 別紙L添付) によりますと、XYの男性遺伝子を持ちながら女性生殖器を備えて誕生した屈肢症候群の子どもの症例研究が報告されています。この性反転の原因として母親が妊娠前18ヵ月ならびに妊娠六ヵ月までピル(Ortho-Novum)を服用していたこととの因果関係が疑われています。母親には麻薬使用、感染、放射線被曝の経験はありません。本例は性反転を示す屈肢症候群の患者の母親が妊娠初期にピルを服用していた二番目の例であることも記されています。ここで疑われているピルは一錠中にノルエチンドロン0.5〜1ミリグラム、エチニールエストラジオール0.035ミリグラムという低用量二相性のものであり、現在中央薬事審議会に申請されているDEと同様のものです。妊娠六ヵ月までピルを服用し続けたことの背景事情については触れられておらず、妊娠に気付かなかったのかあるいは他の事情かは不明です。またこれに先立つ一例は1970年のもので(M)、ここでは母親が妊娠したと思ってすぐにピル(ノルエチンドロン2ミリグラム、メストラノール0.1ミリグラム)を六錠服用したことが記されています。前者の患者は併発していた他の疾患のために3ヵ月半で、そして後者も生後11週半で死亡しています。
 いずれも服用規定を大きく逸脱していますし症例自体が非常に稀ではありましょうが、内分泌撹乱化学物質が性の分化の時期に作用することによって雄の雌化が野性生物界で生じていることが問題になっている現在、ヒトにおいて性反転に至った例と経口避妊薬との関連が疑われる症例が現実に存在していることは極めて重大なことと考えます。そもそもホルモン様に働くことを意図して作られているピルのホルモン作用の強さを考えるならば決して無視できる事例ではないと考えます。

●臨床試験中の妊娠例ー妊娠初期にピルの合成女性ホルモンが影響
 今般の臨床試験中の妊娠についてその妊娠判明時期はAでは7週前後1例、記載なしが2例、Bでは6週後半〜7週一例、Cでは8〜9週1例、記載なし1例、Fでは判明時期としての記載ではありませんが7週、8週、14週でそれぞれ中絶が1例ずつ、時期不明で自然流産例1例、Iでは7週1例、10週3日1例、記載なし1例、Jでは6週1日1例、6週1例、6週5日1例、Kでは6週目となっています。したがいまして胎生期の性の分化にかかわる重要な時期に合成女性ホルモンの影響を受けていることが懸念されます。こうしたことがFのように流産や中絶に結びつくとすれば、それも痛ましいことと言わざるをえません。また出生に至ってもその影響がDESの例のように長期間を経て顕れる可能性もあります。

●実際の使用上の有効率(失敗率)と使用上の忠告
 米国医師用添付文書ガイダンス(N)によれば、経口避妊薬の方法有効率は0.1〜0.5ですが使用有効率は3となっており、実際の使用上は1年の間に3%の妊娠が予想されます。米国で使用中のピルの使用説明書(O添付)にも同様の説明があります。また臨床試験という、かなりコントロールされている筈の状況でも、Aでは妊娠中にもかかわらず試験に参加しピルの服用を開始した例が集計除外例として1例報告されています。この妊娠がいつの時点で判明したのか経過はどうであったかはまったく触れられておりません。またピル使用中の2%から5%の女性が妊娠していることに気付かず服用しているという報告(P)もあります。
 またピル服用中止後の妊娠における胎児への影響を懸念して米国食品医薬品局は1977年4月からピルに対する使用者向け記載事項として「妊娠したいと望むなら、ピルを中止してから数か月待ちなさい。その間は他の避妊法を実施しなさい」という簡単な忠告をつけるよう要求し(Q)ています。たとえば前述のピルの使用説明書(O)では胎児へのリスクとして、服用中の場合そのリスクは千分の一のオーダーという小さなものであるが医師と相談すべきであるとし、また服用中止後妊娠を希望する場合には、ピルをやめた後、月経が規則的になるまでは妊娠を延期したほうが賢明であると記載されています。
 一方その自然月経の発来も本臨床試験では追跡できたもののほとんどが3ヵ月以内にみられているとのことですが、追跡できた人数も限られていますし3ヵ月という期間自体長いと思われます。まして服用終了後152日目(C)、179日目(E)の月経発来といった例をみますと、ピル服用によって体内のホルモンバランスがいかに阻害されているか懸念せざるを得ません。

 したがいまして私どもは今般の臨床試験中ならびに試験後の妊娠例についての追跡調査を重ねて要望し、認可の審査にあたってはこれらの情報ならびに関連情報を的確に把握して考慮されることを強く要望いたします。

2.臨床試験の問題点について
 前回の要望書で述べました問題点に加え、私どもは今般のピル認可申請にあたって行なわれた臨床試験に関して次の点でも問題があると考えております。

●臨床試験中に乳癌が発見されたが因果関係があいまいにされている
 Kでは15周期服用後、被験者(31歳)の訴えにより乳癌が発見されていますが、投与前に乳房検査がなく試験薬との関連は不明とされ、全体的な安全性の評価のなかにも記されていません。後述のとおり、ピルが若年女性の乳癌のリスクを増加させると報告されています。臨床試験前の検査体制の不備、ならびにその評価のしかたに問題があると思います。

●対象除外規定に抵触する例が多く見受けられる
 試験記録をみますと対象者とその除外規定が明記されているにもかかわらず、前記1の妊娠中服用開始例をはじめ除外規定に抵触する例が多くみられます。Iでは除外基準疾患5例が試験に参加し服用を開始していますが、高血圧症2例は血圧上昇のため第1および2周期目に、高血圧症+肝機能障害1例は疲労感、悪心、頭痛のため第9周期目に、糖尿病1例は血糖値上昇のため第2周期目にそれぞれ服用を中止しており、精神分裂病1例は他の薬剤を併用して22周期まで投与し終了していますが、解析の時点では除外基準疾患という理由で五例全部の全項目が解析除外となっています。これでは被験者はただリスクを負っただけではないでしょうか。その他の試薬でも合併症のあるもの、流産・月経後の正常周期未確認のもの、試験薬服用開始以前28日以内に他の女性ホルモン製剤を使用していたもの、喫煙者に関するものなど除外規定に抵触する多くの被験者が試験に参加しており、何のための除外規定であったのか理解に苦しみます。一般人からみれば信じがたいことです。

●試験期間が短く、かつ「中止・脱落」者が多い
 試験記録@〜Kをみますと、試験開始当初(第1周期目)の解析対象人数は総計5248八名ですが、6周期目ではすでに1200名余が「中止・脱落」し4037名(77%)になっておりますし、12周期目まで終了した人数は3120名(59%)しかおりません。Hにいたっては最長でも3周期しか試験が行なわれていません。当時のガイドラインでは6周期をひとつの目安にしていたようですが避妊薬という薬の性質上長期にわたる服用はおおいに考えられることであり、「安全性を確認した」とするにはあまりにも期間が短いと思われますし、また逆になぜこのように大量の被験者が「中止・脱落」したのかその原因を探ることに意味があると思われます。

●経口避妊薬服用経験者と未経験者との比較がほとんどなされていない
 この臨床試験の被験者の中にはすでにピルの経験者率が少ないもので約15%(I)、多いもので約60%(G)、被験者数の多いもので経験者率の多いものは約43〜45%(F、A)があげられます。C、Hについてはその率さえ不明です。この中で副作用などについて厳密に未経験者と経験者の比較をしているものはありません。かろうじてAでは本試験直前まで他のピルを服用していたものを「継続例」、試験までに1ヵ月間以上の休薬期間があるものとまったく服用経験のないものを合わせて「新規例」として副作用の発現状況の比較がなされ、概して「新規例」の方が発現率はわずかに高くなっていますが、厳密な意味での未経験者だった人々の状況は把握できません。
 一般にピルに対する耐性には人により大きな差があると言われており、経験者で本試験に参加した被験者はある程度耐性の高い人と考えられるのではないでしょうか。しかし正式にピルが認可されていない日本の現状では、仮に認可され一般的な使用が開始されれば未経験者の服用率が高くなることが考えられます。であるにもかかわらず、本臨床試験で経験者の率が高く、またその比較もなされていないことは問題ではないでしょうか。

 以上みてきましたように、私どもは本臨床試験のあり方、解析のしかたそのものにも問題があるのではないかと考えます。

3.ピルの副作用について
 日本での臨床試験は1987年から91年にかけて行なわれていますが、その後も副作用については外国の文献が次々と出されています。

●静脈血栓症のリスク増加ー血液の凝固を抑制するタンパクの働きをピルが阻害
 ピル使用による静脈血栓症発症のリスク増加が知られていますが、オランダの1994年の調査(R)では使用者対非使用者の相対危険度はほぼ4倍となっています。ここでは血液凝固系第X因子に遺伝的変異のある女性が使用した場合には危険度は34倍以上になると発表しました。白人ではおよそ5%がこの変異を有するがアジア人ではほとんどいないという報告もあるようですが(S)、Britshi Journal of Haematology(1997:97(21))によれば、この変異のない人でもピルを服用することによって、変異をもつ人々と同じように第X因子の凝固活性を阻害する活性タンパクCに対する耐性を獲得してしまい、凝固を抑制できなくなると発表されています。したがって、ピル使用者の静脈血栓症発症のリスク増加のうち、とりわけ第三世代ピルが第二世代ピル使用者に比べてさらにリスクが増加しているというさまざまな研究報告を説明するひとつとして、ピルに含まれるプロゲストーゲンの役割を無視できないとこの論文は述べています。WHO Drug Information(1997;11(22))でもこの研究についての報告があり、WHOの専門家委員会において第二世代ピルにくらべ第三世代ピルの方がより危険がたかまることが確認されているという報告(Lancet,1998;351(23))もあります。
 現在申請中のものでは@とAが第三世代のものになりますが、第二世代のピルもリスクは約四倍増加するのであり、きわめて重要な問題だと考えます。

●若年女性の乳癌のリスク増加
 若年でのピルの服用開始は若年女性の乳癌の発症リスクを高めるという報告が出されています
((24)(25)(26)(27))。
 (24)のスェーデンの報告は一七五例の閉経期前の乳癌患者を調べたものですが、20歳前にピルの服用を開始した患者の乳癌診断平均年令は36.5歳、20〜24歳開始では41.5歳、25歳以上の開始では45.9歳、ピルを服用したことのない女性では46.3歳となっています。ピル服用患者では非服用患者と比べて、腫瘍が大きく、腋窩への転移の頻度が高く、エストロゲンとプロゲストロンのレセプター濃度が低く、生存率が低いと述べています。
 (25)のオランダの報告では36歳前に乳癌と診断された女性のうち4年以上ピルの使用、とりわけ部分的に20歳前に服用の場合、4年未満の使用者に比べて2倍のリスクがあるとされています。また予期せぬ発見として、低用量ピル使用者の方が高用量ピル使用者より乳癌のリスクが高かったことがあげられていますが、これは今後の他の研究での確認が待たれています。 
 (26)のアメリカの研究は、25〜34歳の女性では、少なくとも1年以上のピル使用者は非使用者及び1年未満の使用者と較べて乳癌発症の相対リスクが1.7であると報告しています。
 (27)は過去の疫学データの再集計での分析ですが、非使用者と較べた相対リスクは、現在の使用者で20歳前に服用を開始したものは1.59、服用中止後1〜4年では1.49となっています。さらに、30歳前に乳癌と診断されたもののうち最もリスクが高いのは20歳未満で服用開始し服用中止後5年未満の女性で1.95、30〜34歳で診断されたうちの最高リスクも同様で20歳未満で服用開始し服用中止後5年未満が1.54となっています。

●その他の副作用
 こうした血栓や癌といった重篤な疾病に限らずピルの副作用として他の多くの疾病との関連についても報告されています((28)(29)(30))。健康な女性が服用するという性格のものであるからこそ本当に「安全」なものが求められるのは当然のことであり、諸外国で出されている多くの研究報告を「予防原則」に則って厳しく検討していただきたいと切に願います。

 ピルの副作用や内分泌撹乱化学物質について再度新医薬品第五調査会で検討されると報道(薬事日報、1998.3.6 )されましたが、ぜひともそれらについて追跡調査の実施も含めて慎重に審議されること、そしてその情報を広く一般市民に公開されますよう最後に重ねて要望いたします。

                     「エコロジーと女性」ネットワーク

1998年6月3日

厚生大臣 小泉純一郎殿
中央薬事審議会会長   内山充殿
中央薬事審議会常任部会委員各位
中央薬事審議会新医薬品第五調査会御中

参考文献
@-K  要望書(2)の参考文献@−Kに同じ
L“A genetic male infant with female phenotype in camptomelic syndrome: A possible    relationship to exposure to oral contraceptives during pregnancy" Kim MR et al., American Journal of obstetrics and Gynecology, 1995;172-3:1042-43
M“46 XY female: anti androgenic effect of oral contraceptive?“
 Gardner LI et al. Lancet 1970;2:667-8
N「避妊の基礎知識」 桜井加那子、桑原慶紀  産科と婦人科、1998 Vol.65-5(5月) p.563
O経口避妊薬NORDETT-21,OVRAL,LO/OVRAL,NORDETT-28,OVRAL-28,LO/OVRAL-28に共通の使用説明書, Wyeth Laboratories Inc.,
P“Oral contraceptives and birth defect"
 Smithells RW. Developmental Medicine and Child Neurology, 1981;23:369
Q『胎児からの警告ー危機に立つ生命環境ー』
 クリストファー・ノーウッド著、綿貫礼子、河村宏訳 新評論 1982年 p.114-119
R“Increased risk of venous thrombosis in oral-contraceptive users who are carriers of factor X Leiden mutaion"  Vandenbroucke JP et al. (Lancet 1994;344:1453-57)
「薬剤疫学論文の評価研究(その2)」平成10年2月 日本RAD−AR協議会海外情報研究会
S「薬剤疫学論文の評価研究(その2)」平成10年2月 日本RAD−AR協議会海外情報研究会
 上記Rの論文に対するコメント p.15
(21) “Oral contraceptive and venous thrombosis: different sensitivities to activated protein C in women using second- and third-generation oral contraceptives"
Rosing J et al. British Journal of Haematology,1997;97:233-238
(22)“Oral contraceptives and venous thromboembolic disease", Skegg D.C.G.,WHO Drug     Information,1997;11:53-56
(23)“Increased risk of cerebral venous sinus thrombosis with third-generation oral  contraceptives" Bruijin de SFTM et al. Lancet,1998;351:1404
(24)“Proliferation and DNA Ploidy in Malignant Breast Tumors in Relation to Early   Oral Contraceptive Use and Early Abortion" Ollson H et al. Cancer,1991;67:1285-1290
(25)“Oral contraceptives and risk of breast cancer in women aged 20-54 years",
  Rookus MA et al. Lancet,1994;344:844-851
(26)“Case-control study of Oral Contraceptive Use and Risk of Breast Cancer"
 Rosenberg L et al. American Journal of Epidemiology,1996;143:25-37
(27)“Breast cancer and hormonal contraceptives: collaborative reanalysis of individual data on 53297 women with breast cancer and 100239 women without breast cancer from 54 epidemiological studies", Collaborative Group on Hormonal Factors in Breast Cancer, Lancet, 1996;347:1713-27
(28) “A Consumer's Guide to the Pill and other Drugs" Second Edition
 John Wilks, ALL Inc. 1997 Oct.
(29)『ビターピル ー経口避妊薬の落し穴ー』
 エレン・グラント著 うえのけいこ、服部祐子訳 メディカ出版 1992年7月
(30)“Sexial Chemistry - Understanding Our Hormones,The Pill and HRT"
 Elen Grant, A Mandarin Paperback,1994