要 望 書(2)
私どもは昨年12月24日、ピルの認可に関して慎重審議の要望書を提出いたしましたが、その後申請中の経口避妊薬の臨床試験記録12編(別紙@〜K)を検討いたしまして、臨床試験の過程でも多くの問題があることを知り、次の三点からいっそうの慎重審議および追跡調査を強く要望するものです。
1.臨床試験中および試験(服用)終了後の妊娠について
記録では試験中の妊娠は17例(Aー3 Bー1 Cー2 Fー4 Iー3 Jー3
Kー1例)あり、その原因は置くとしても判明するまでの妊娠初期にほとんどがピルを服用し続けております。うち1例は流産、3例は中絶(いずれもF)との記録がありますが、他の13例については妊娠判明後の経過についてまったく触れられておらず、そのこと自体問題であると思います。 またピルに使用されているホルモン剤の体内への残留期間についてはたとえば外国の例などのデータの有無も含めて触れられておりませんが、服用終了または妊娠を希望して中止した後どのくらいを過ぎて妊娠したかによっては胎児が影響を受けることも考えられます。服用終了もしくは中止後の妊娠の記載は82例(A
B F G I)ですが、出産確認は23例(A B F G)、流産4例(B F)、中絶2例(F)で、その他は試験中の妊娠と同じくその後の経過が触れられておりません。Aでは終了直後に妊娠した例が4例ありますが、出産に至っているとすれば胎児への影響が心配されます。もし流産や、中絶に至らざるを得なかった例があればそれも非常に重要な問題であり、当然記載されるべきです。
内分泌撹乱化学物質の胎児期の暴露の影響は甚大で、しかもその被害は出生時に「正常」と見られてもその子どもが生殖年令に達した頃に女性の膣がんや生殖器の異常、男性の生殖器や生殖能力の異常としてはじめて現われてきたという事実は、昨年の要望書でも述べましたように流産予防薬として使用された合成女性ホルモン剤DESの例ですでに示されております。したがいまして、この臨床試験中に妊娠し出産に至った例があればもちろんのこと、服用終了後妊娠し出産に至った例についても長期にわたる追跡調査が非常に重要であり、データが散逸してしまわないためにも即刻追跡調査の体勢を整えられますよう強く要望いたします。
2.試験記録の解析について
たとえば、不正出血を副作用に含むものと含まないものがあり、その判断によって副作用の発現率は当然変わってきます。また総じて「脱落」・中止者の割合が多いようですが、副作用発現者が途中で「脱落」・中止している可能性が高いため周期を経るにしたがって副作用発現率が下がるのは当然の結果であるので、これをもって「服用周期が進むにつれて副作用発現率が低下した」と一般化することはできないと思います。
また臨床検査のうち、とりわけ血液凝固系や耐糖能の検査の症例数は全解析対象数と比べてあまりにも少なすぎると思います。たとえばKでは血液凝固能検査は全集計対象例(624)に対し1周期目で29.8%(3項目平均)、6周期目で19.5%(同)、「有意な変化が見られなかった」とされる耐糖能はブドウ糖負荷試験が3.5%(22例)、糖負荷試験がわずか1.4%(9例)しか実施されておりません。他の薬剤についてもこれらの検査は総じて非常に少人数での検査になっており、この結果を一般化するような考察には疑問をもたざるを得ません。 その他、試験記録を詳しく見ていくと疑問点が多々見受けられます。これらについては後日あらためて質問書なり意見書という形で提出したいと思っております。
3.環境への影響について
内分泌撹乱化学物質問題は、現在その深刻さをいっそう増しており、次々と新しい研究や事実が明らかになってきています(L、M、N)。
英国では川魚に雌雄同体の魚が発見されていることから、本年1月22日英国環境庁のプレスリリースとして、環境中に入ってきている内分泌撹乱物質の量を最小にするよう工業界に行動を起こすようにとの要請を発表しています。
ピルに使用されているエチニール・エストラジオールは実験室において一リットル中一ナノグラム未満の低濃度で雄の魚のビテロゲニン値を上昇させるほどの強力な物質であり、そのエストロゲン作用は自然のエストロゲンの十倍から百倍にもなることが英国環境庁の実験(O)で明らかになっています。自然のものについても「排水中の自然のホルモンのレベルが魚の雌化を起こさせるのに十分な場合がみつかった」(同上プレスリリース)として、英国では排水中の自然ホルモンレベルを下げる技術の開発が目指されています。ピルについても研究が続けられると聞いており、この内分泌撹乱化学物質については今後解明されねばならない問題が山積しております。
このように見てきますと、現時点でピルの「安全性」が確認されているとはとても思われません。試験記録の中にも「本試験は ー 限局された中での成績であることを考慮すれば、今後更にデータを積み重ね安全性に対する結論を出す必要があろう。またホルモンの低用量化は全周期にわたって排卵を抑えることができない可能性も示唆している」(J)、「世界的にはー重篤な副作用ならびに次世代への影響等が大規模な疫学調査により検討を進められていることから、本剤についても、さらにこれらの調査、検討を必要とすると考えられる」(F)という意見も見受けられます。
したがいまして、1.で述べました出産例の追跡調査を含め、いっそうの慎重な審議を重ねて要望いたします。
「エコロジーと女性」ネットワーク
1998年2月27日
厚 生 大 臣 小泉純一郎殿
中央薬事審議会会長 内山充殿
中央薬事審議会常任部会委員各位
参考文献
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水口弘司ほか、臨床医薬、6巻11号(11月) 1990
COJK-1/35 「低用量経口避妊薬OJK-1/35の臨床的有用性の検討」-多施設共同による臨床第V相試験-
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松本清一ほか、基礎と臨床、vol.25, No.4, Feb.'91
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HSH B 264 ED 「SH B 264 ED(低用量三相性経口避妊薬)の臨床使用経験」
黄宏駿ほか、Progress in Medicine Vol.11 Nov.2 1991.2
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水野正彦ほか、臨床医薬、7巻3号(3月) 1991
JNSD-3 「NSD-3の避妊効果および安全性の検討」
谷澤修ほか、臨床医薬、6巻10号(10月) 1990
KOJK-777 「低用量経口避妊薬OJK-777の臨床的有用性の検討」-多施設共同による臨床第V相試験-
水野正彦ほか、基礎と臨床、vol.24, No.14, Nov.'90
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環境庁環境保健部環境安全課 1997年7月
M「奪われし未来」(Our Stolen Future)
シーア・コルボーンほか、長尾力訳、翔泳社、1997年9月
N「メス化する自然」(The Feminization of Nature)
デボラ・キャドバリー、古草秀子訳、集英社、1998年2月
O“The Identification and Assessment of Oestrogenic Substances in
Sewage Treatment Works Effluent" Dr.Geoff Brighty(Project Manager) Nov.1996
Research & Development Technical Summary