ピル(低用量経口避妊薬)の安全性を「内分泌攪乱化学物質」の視点で
さらに検討し、審議継続を求めるアピール

 現在厚生省中央薬事審議会で審議されているピル(低用量経口避妊薬)について、マスコミでは「安全な低用量ピル」「6月認可」「求められる自己責任」といった報道があふれています。しかし本当にピルは「安全」なのでしょうか。

 安全性・有効性を評価した厚生省の「中間とりまとめ」では、服用開始が若いほど乳癌や子宮頸癌のリスクはより高くなるのにそうしたデータに触れないなど評価の仕方に問題があります。海外では「低用量ピル」の副作用で死亡や重症にいたり、集団訴訟が起きている事実もあります。このまま認可されれば乏しい情報の中で「薬害」が起きても「自己責任」にされてしまいます。さらに「内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)」の危険性が明らかになってきているなか、健康な女性が合成ホルモンを連日取り込むことに問題はないのでしょうか。ほぼ40年にわたる世界のピルの歴史の中では「内分泌攪乱化学物質」の視点からその安全性が問われてきたわけではないのです。

 DDTやPCB、ダイオキシンをはじめ多くの化学物質が、ごく微量で自然のホルモンのように作用して正常な内分泌系を攪乱し、生殖系、免疫系、神経系などに影響を与えていることが明らかになっています。妊娠中であれば胎児に取り返しのつかない影響を及ぼすことが危惧されます。流産防止剤として使用された合成女性ホルモン剤DES(ジエチルスチルベストロール)は1940年代からおよそ30年間、米国を中心に数百万の妊婦たちに投与されました。そのDESの影響は、10数年を経て子どもたちが成長した後に、癌や生殖系の異常として現れたのです。

 ピルは合成女性ホルモン(エストロゲン)と合成黄体ホルモン(プロゲストゲン)を混合した製剤で、妊娠状態と同じようなホルモンバランスを人工的につくりだし、脳下垂体からの排卵を促すホルモンの分泌を抑えるようにしたものです。つまり女性の「内分泌系を乱して」避妊を行うことを目的としてつくられているものであり、使用されている合成女性ホルモンのエチニルエストラジオールはDESよりもエストロゲン活性が強いと言われています。

 DESの発見者ドッズは当時妊婦へのDES投与に反対しましたが、ピルによる避妊についても次のように懸念を表明しています。「表面上すべてうまくいっているように見えても、身体の中で根深い変化が進行しているだろう。排卵のような周期的な働きを長期にわたりとめることは身体の他の働きに深刻な影響を与えないはずがない」。

 実際、重篤な疾病以外の服用者の免疫系や神経系に及ぼすピルの副作用はあまり注目されず見逃されてきました。次世代へ与える影響も、ほとんどは出生時の目に見える異常についての毒性だけが議論されてきました。しかしDESの例のように、出生時は健康に見えても10〜20年を経てはじめて影響が顕れることもあり、長期の追跡調査が必要です。

 厚生省はピルの「内分泌攪乱化学物質」としての検討結果を発表しましたが、それはピルが体内から排泄された後の環境および環境を介したヒトへの影響についてのみ言及したもので、それも現時点では概ね問題がないかのような論調です。たとえごく微量であっても体内に残留した合成ホルモンが本人や次世代へどのような影響を及ぼすかについてはまったく検討されていません。水系の汚染もピルに使用されている合成エストロゲンの強さから考えて、野生生物への影響を無視できるものではありません。
 いま多くの化学物質が「内分泌攪乱」という新しい視点にたって毒性評価の見直しを迫られています。医薬品も化学物質として同様の見直しが必要です。日本のダイオキシン汚染の現状もふまえ、すでに存在している他の「内分泌攪乱化学物質」との相加・相乗作用も考慮されねばなりません。

 健康な女性の服用を対象としたピルであればこそ、「6月認可」ではなく、厚生省ならびに中央薬事審議会が審議を継続し、「内分泌攪乱化学物質」の視点でさらに慎重に検討されることを私たちは強く求めます。

1999年5月25日

厚  生  大  臣    宮 下 創 平 殿
中央薬事審議会会長  内 山  充 殿

           「エコロジーと女性」ネットワーク

アピール賛同者・賛同団体(1999年5月25日厚生省提出時、194名13団体、6月2日時点210名13団体)

 

意識すると否とにかかわらず、いま私たちは「環境ホルモン」の時代に生きています。私たちの社会が「利便性」のために生み出してきたさまざまな化学物質が、自分たちや生態系の健康と生殖を蝕むだけでなく、未来の世代の生命と健康をより深刻に脅かしています。地球上の未来のすべての生命が、すこやかに生きていける社会を私たちの責任でつくっていきましょう。 
                                                「エコロジーと女性」ネットワーク