(文責は「エコロジーと女性」ネットワーク)
(1999年12月9〜11日に神戸で行なわれた環境ホルモン国際シンポジウムより、フレデリック・フォンサール教授の講演(12月10日)の中の、エチニル・エストラジオールに関する部分を抜粋したものです。ただし、まだ論文は発表されておらず講演のみですので、本人の言い間違いがある可能性もありますので、その点ご了解ください。)
この講演の後、実験のもう少し細かいことについて、フォンサール教授に問い合わせたところ、メールで返事をいただきました。講演録の後に、補足としてメールの訳をつけていますので、そちらもあわせてご覧ください。
実験内容:
妊娠中のマウスに、ピルに含まれているエストロゲン剤(エチニルエストラジオール)を投与。生まれた雄マウスの前立腺と精子産生の状況について観察したもの。ピルに含まれている通常量の250分の1、25分の1、2.5分の1、4倍、40倍の5段階の投与量で実験。いずれの量でも前立腺重量の増加と精子の減少が見られたというものです。
ビスフェノールAとエチニルエストラジオールの低用量投与によるマウスの発生異常(抜粋) |
1999年12月10日、第2回環境ホルモン国際シンポジウム(神戸)での講演より
フレデリック・フォン・サール
現在の科学の中で非常に興味深い低用量のデータを紹介したいと思います。世界中の何千万という女性達が使っている重要な薬であるエチニルエストラジオールについて、そしてもうひとつはビスフェノールAについてお話します。(注:ビスフェノールAの部分は省略してあります。)
前立腺を焦点にして話します。これは非常にいやな器官でして、膀胱の下にあり尿道を囲んでいます。ここにいらっしゃる男性はご存知のように、これは年配の男性に多くの問題を引き起こします。それはマウスでも問題を起こします。このデータは我々のマウスのデータです。CF1のマウスです。これが月齢です。だいたい2歳ぐらいです。中年ぐらいまで体重は伸びていきます。私のところでは、体重はそれ以降は伸びません。そして前立腺の大きさも大きくなっていきます。思春期から成長期へとあがって、10ヵ月齢になりますと、前立腺の大きさは一定になりまして、これは体重とは関係ありません。
同じことが中年のげっ歯類でもみられるわけです。しかし我々がヒトで前立腺が再成長するのを体験するように、動物によってはまったく前立腺の重量が変わらないもの、前立腺のサイズが3‐4倍にもなるようなものもあります。したがって各マウスの系でみてみると、たとえばCD1マウスですと、これは非常に早い段階でサイズが増えます。いったんコントロール群が増加した前立腺を示すようになる場合には、化学物質が前立腺の形態にどういう影響を及ぼすかみるのは難しいわけです。しかしいろいろなコントロール群、70から80のコントロール群の動物を、若いものと成体で見てきました。このデータではかなり一定した結果が出ています。この臓器はかなり作業がむずかしいわけですし、このレベルの精度に達するためにはかなりの熟練が必要です。
またもうひとつ前立腺で興味深いのはこのような、尿生殖洞からでるわけです。これは42日の胚です。この組織、これが膀胱になります。これが前立腺になります。女性の場合は同じ組織が、膣の一部になるわけです。したがってたいへん興味深い組織といえます。なぜなら、違う方向で分化をしていくわけです。そのベースとなるのがテストステロンの量であり、尿生殖洞の細胞がどのくらいのテストステロンに暴露されるかによるわけです。テストステロンのわずかな差で、たとえば数十億分の1グラム/mlだけで、恒久的に細胞内の遺伝子がかわっていくわけです。
細胞の分解(分裂)の過程で、この中では前立腺が成長するわけです。エストロゲンの場合は、テストステロンがない時には、膣の分解(分裂)になることがわかっていますが、今から申し上げることは、エストロゲンは正常な形で密接に前立腺の発達にも関連しているということがいえます。エストロゲンがごくわずかにかわるだけで、将来の前立腺の大きさ、そして機能に影響を及ぼします。ヒトの場合はこのような性分化の期間というものを臨界期としており、6週から24週です。げっ歯類の場合は、まず前立腺の発生は妊娠16日から成体期まで、そしてラットの場合は妊娠17日から始まります。
エストロゲンが発育にどういう影響を及ぼすかをお話します。妊娠期間中エストロゲンレベルは高いと多くの人は思いがちです。血中ではたしかにたくさんのエストロゲンがあります。しかし、血中にはたくさんのタンパクがあるわけです。私の研究所でもいろいろその点についてはこの4、5年たくさんの文献レビューをしてきました。いま明らかになっていることは、すなわちタンパクに結合していないフリー(活性)の部分だけが細胞の中にあることができ、そして核のレセプターに結合し、細胞の機能に影響を及ぼします。
マウスの場合だと、500あるエストロゲンの分子の中でひとつだけが生物学的活性をもつ、つまり0.2%の割合です。100pg/mlの(天然)エストラジオールが、たとえばマウスの胎児の血清の細胞の中にあると、その中で0.2pg/mlだけが実際に生物的活性のあるフリー体のエストラジオールです。ここでやっております研究ですけれども、コントロール群の動物、これはオスの胎児です。これは正常なエストラジオール血中レベルを持っており、これが成体の正常な前立腺の重量です。そしてシリコンのカプセルを妊娠したメスに埋め込んで、オスの胎児の血中レベルを正常な生理学的値より50%(0.1pg/ml)高くしたところ、前立腺の重量は永久的にあがりました。これは6ヶ月くらいの時のものです。
この量を3倍にして4倍にして、最終的に8倍の血中エストラジオールにしますと、このエストラジオールの刺激作用がなくなっていきます。そして逆U字型の用量反応曲線が得られます。ここに出していますのは、0.1pg/mlだけエストラジオールを増やしたものです。この動物の中で、非常に小さい量のエストラジオールの増加で、前立腺の大きさが永久的に大きくなりました。この根拠となっているのは、このエストラジオールの変化が前立腺内でアンドロゲンレセプターを永久的に増やしてしまったということです。この点についてはあとで話します。
次の実験は、妊娠しているメスのマウスに、交尾時から妊娠中、エチニルエストラジオールを与えています。これは経口避妊薬に入っている量と同じで0.5μg/kgあたりです(注:人間でいうと、50kgの人だと25μgとなります)。欧米で6000万の女性、そしてそのうちの毎年200万人がピルのあやまった飲み方によって妊娠しています。最近のアメリカのティーンエイジャーはだいたい月当り3錠飲み忘れています。ティーンエイジャーのピルを飲んでいる人の20%が毎年アメリカでは妊娠します。その結果としてどうなるか。胎児はエチニルエストラジオールに暴露していることになります。
しかし文献の中には臨床的に関連性のあるエチニルエストラジオールの用量反応関係の量がはっきりしません。実際、健康影響ということで胎児がエチニルエストラジオールに暴露した場合どうなるかという研究はほとんどありません。そこで我々は0.002μg/kgで始めました。これは現時点の臨床的に意味があると言われているエチニルエストラジオールの250分の1です。それから20μg/kgまでみていきますと、恒久的に前立腺の重量があがっています。
この用量を妊娠しているメスに与えると、これが子どもで、前立腺の大きさです。そしてこれが前立腺での細胞当りのアンドロゲンレセプターの数です。興味深いのは、前立腺の重量はこのように増加していますけれども、この量、そしてこの量ではアンドロゲンレセプターは増えていません。非常に幅の狭い用量範囲において、エストロゲンがアンドロゲンレセプターを増やしています。ということは、この前立腺は生理学的にこの前立腺とは違うということがいえます。重量が非常に似ていても、ということです。
私たちはビスフェノールAで報告されている通りのことを見ました。精子の1日の生産量の減少をみていきますと、すべての用量のエチニルエストラジオールに関して見られるわけですが、用量反応曲線はありませんでした。その根拠が何か聞かないでください。まったく手がかりがない状態です。説明はできないのですが、非常に興味深いのは、これは何度も何度も見ています。すべてのエストロゲン投与の中で、だいたい15から20%の精子の減少が見られているわけです。しかし用量反応曲線は出ていません。まったくフラットな現象であるということです。有効用量に関しては。これについてはまったく説明がつきません。
ここで興味深い点は、エチニルエストラジオールが医学界においては、胎児が曝露されても生殖的には安全だと基本的に考えられたわけですが、投与される量は成人である女性の生殖系をコントロールするにもかかわらずです。なぜみんなが発生(成長)しつつある生殖系も同様にコントロールすると考えなかったのか、私は困惑しています。その根拠となっているのは、なぜ何百万人もの女性がDESを投与されてきたのかということと同じ根拠です。
これは1950年代の医学界の広告です。DESはすばらしい薬だから飲みなさい。子どもが強く丈夫な子になると書いてあります。そしてまだ当時は小さな問題もわかりませんでした。なぜわからなかったか。外部の異常しか見ていなかったからです。しかし今日、DESの話で最終的に出てきたのは ― 結論ではありませんが ― 胎児のエストロゲン暴露が大量であっても、多くは外部の異常はないということです。
女性達はずっと低用量のDESでは影響がないと言われています。私は(低用量のDESとは)エチニルエストラジオールのつもりで言っています。
(後略)
フォンサール教授よりのメール |
(2000年2月14日着。論文や実験内容確認への返事のメール)
エチニルエストラジオールに関する論文はまだ発表されていません ー 残念ながらこれはゆっくりとしたプロセスなのです。しかしあなたの質問に答えますと、我々は、妊娠中のマウスに、交尾の日から妊娠17日目(出産の2日前)まで投与しました。これは、胎児の発育段階でみると人間の妊娠期間の約16週目に相当します。したがって我々の処置は、経口避妊薬(OC)を飲みながら、はからずも妊娠してしまう多くの女性たちの経験に等しいものです。多くの女性たちは、おそらくは規定のピルを飲み忘れることによって経口避妊薬服用中の女性たちの3〜6%が毎年妊娠していることを知りません。
投与量は、母親(マウス)の体重1kgあたり2ナノグラム(ナノグラムは10億分の1グラム)から、1kgあたり20マイクログラムまでで、それぞれ1kgあたり2、20、200、2000、20,000ナノグラムでした。我々はコントロールと比較してすべての投与量の群で精子産生の減少と前立腺の増大を見ました。
女性たちが服用している量は、1kgあたり500ナノグラムの範囲です(体重に応じて)。したがって我々は、人間においては胎児のエチニルエストラジオールへの曝露は害を与えないと想定される前に、精巣や前立腺の機能への影響といった、これまでまったく調べられてこなかった影響を調査すべきであるということを示したのです。
これがあなたの質問の答となることを願っています。
フレッド・フォンサール