〜館主の書斎〜
 階段正面に造られた、簡素な小部屋。
 調度と呼べるものは何もなく――ただ、一番奥に小さな机がひとつだけ。窓から入り込んだ風が、開いたままの手記の頁を静かにめくってゆく。
 うつろいゆき二度とは還らぬ刻――その流れをせめて紙の上に留めんと、ひとは今日も言葉を紡ぐのか。



10年12月14日 
恋敵(ライバル)はお嬢様☆ その2! (電撃文庫)  恋敵(ライバル)はお嬢様☆ その2!
時田 唯 電撃文庫
先月発売のラインナップで一冊だけ読み逃してました。
同級生の天然元気少女への恋心を、彼女の友人のツンデレお嬢様とときに反目しときに協力しながら争う、ドタバタ学園ラブコメ。1巻の時から、変則的なとらドラ!構図と言われてしまえば確かに共通点は多いのですが、作風は多分に異なっているので、まったく別の方向性をもった作品になっていくのだと思います。
デビュー作の「有川夕菜の抵抗値」を読んだときから思ったのですが、今時珍しい、(いい意味で)素直なラブコメを書く作家さんです。展開も、ああああこれはこうなるんじゃないかなーという無意識の予想をわりと忠実になぞって進んでいくのですけれど、そこがかえって心地いい。
展開はコメディですが、各キャラが内側に持っている真剣な部分が繊細にきっちり描かれていて、純粋に応援したくなってきます。今回はお嬢様の唐沢さんの抱えている内幕もだんだん描かれてきて、次巻以降で読んでて落ち込むような展開もあるんだろうなと思いつつ、それも含めて楽しみ。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年04月08日)

10年12月14日 
いばらの呪い師 2 (ガガガ文庫)  いばらの呪い師 2
大谷 久 ガガガ文庫
呪術の存在が公認されている異世界の戦前東京で、妹溺愛の兄と微妙にヤンデレ気味な妹のコンビが怪盗怪人相手に捜査と戦いを繰り広げる、帝都活劇もの。
1巻は読んでいてときどきちょっと引っかかる(考証とかそういうものではなくって、キャラの癖的に)ところがあってしまったのですが、今回の巻は各キャラをのみこんだところから読み始めているからか、さくさく軽快に読めました。そうなると、ベースになっている帝都東京も、あれこれ行きすぎにケレン味のきいたアレンジも嫌いではない気がします。(各キャラの我の強さと変人具合は相変わらずなので、そのあたりは好みが分かれると思われますが)
しかしあれです。いくらなんでも次から次へと街を壊しすぎじゃなかろうか。このペースでいくと5巻目くらいで、東京の主な繁華街が焼け野原になりそうな(汗)

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年07月27日)

10年12月14日 再読
私の東京町歩き (ちくま文庫)  私の東京町歩き
川本 三郎 ちくま文庫
エッセイストの川本三郎が、銭湯、橋、酒場等の下町風俗について綴った街歩き随筆集。作品でちょうど銭湯のシーンを書いてるので、気分を盛り上げようと思って再読しました。
川本三郎の街歩きエッセイは、ほんとうにこう、路地を気まぐれにぶらぶらするのが好きなんだなあという雰囲気が伝わってきて、読んでいてぶらっと街に出かけたくなります。ビルからの俯瞰や車窓からの眺めだけではなく、大通りからは見えない建物の隙間とか、車が入れない入り組んだ細い路地とか、そういった場所を実際に歩かないと持ち得ない視点だと思う。
好みは一貫していて、ビルの並ぶ都心でもなく、さりとて緑の残る郊外でもなく、あくまでも俗でB級なのんびりが似合う感じの町がとりあげられています。その愛着ゆえ、新しい街に対する批判の目がときおり前面に出てきてしまう文章もあるのですけれど、「これだから現代は」的な書き方にはなっておらず、のんびりゆったり読めます。電車の中でこれを読みつつ、駅で降りて書かれた街を半日ゆっくり歩くなんてのも気持ちいいかも。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年12月14日 再読
銀座 (ちくま学芸文庫)  銀座
松崎 天民 ちくま学芸文庫
帝都風俗ものを久々に読み直してみようキャンペーン展開中。
路上観察や都市風俗観察に「考現学」という名前を付けて大正〜昭和初期の帝都東京に関する文献を数多く残した、帝都好きにとっては一大恩人のひとりである松崎天民。その彼が、震災から復興した直後の銀座の街を歩いて綴った、新聞連載のエッセイです。
内容は多岐にわたっていて、京橋〜新橋付近のお店の並びの列挙(これは、資料的にはえらく役立ちます)や、夜の銀座に並んだ夜店について、各カフェーやビヤホールの様子についてなど──当時の銀座の空気がかなり具体的に伝わってくる名著です。もしこの時代の銀座を舞台にするならば、手元において繰返し読みたい一冊。
第54節に書かれている、夜の銀座を歩む魔女めいた雰囲気の「月岡小夜子」は、結局正体はわからないままで実に魅力的です。正体は本当にひとなのか──短編一本書けそうなくらいのネタだなあ。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年12月10日 
イスカリオテ(6) (電撃文庫)  イスカリオテ 6
三田 誠 電撃文庫
第6巻。いよいよラストひとつ前です。ひとつの決着と、そして最後の戦いへの幕開けの一話。
ラス前なので、どこに触れてもネタバレをしてしまいそうで、多くは書けないですが──状況は絶望的すぎるほど絶望的なのに、一巻丸々とてつもない疾走感がある一巻でした。読んでる間は早く次の章が読みたくなるし、読み終えた今となっては次の巻が待ちきれない。敵味方含めて、誰もかれもかっちょいいぜ。うひょう!

ところで、僕的にはまゆきさんはそれでもまだ生きていると信じて疑わないのですが、どうなのだろう。最終巻で出番がありますように!

★★
■前巻までのレビュー
 第1巻(08年11月14日)
 第2巻(09年03月10日)
 第3巻(09年07月11日)
 第4巻(09年12月09日)
 第5巻(10年05月10日)

10年12月10日 
魔人伝奇OROCHI (角川スニーカー文庫)  魔人伝奇OROCHI
赤月 黎 角川スニーカー文庫
「繰り世界のエトランジェ」の赤月 黎 の新シリーズ。修行のために東京に出てきた退魔師見習いの少年が、個性豊かな面々に振り回されつつ自らの道を探していく、伝奇アクション。前作に比べて尖がったところがなく(←いい意味でも)、冷めたところのない熱血少年がストレートに困難にぶつかっていく王道的な展開が気持ちいいです。「操り〜」の確信的中二病ノリも好きだったのですが、こっちはこっちで好みだなあ。1巻は邂逅編だったので、学校に通い始めるところから始まりそうな次巻が、またいろいろトラブルが重なりそうで期待大です。

10年12月10日 
放課後ランダムダンジョン (一迅社文庫 せ 1-5)  放課後ランダムダンジョン
瀬尾 つかさ 一迅社文庫文庫
以前も書いた記憶があるのですが、瀬尾つかさ作品は初のシリーズ作品である富士見Fの『クジラのソラ』から今作に至るまで、「異世界とこの世界とが接触するとき、そのリンクの面に立たされた少年少女たちの行動と決断」という共通コンセプトを持っている気がします。
世界の動きは主人公たちの手に負えないくらいスケールが大きく。物語が開始したときにすでにそこにある特異な切り口から、読んでいる方でも、シリーズものを2巻から読み始めたときのような戸惑いを覚えてしまうのですが――メインのテーマはあくまでも少年少女たちの、特異な局面にあっても等身大な少年少女らしい煩悶に置かれています。この物語でも、RPGっぽい異世界との接触融合の傷跡が残る世界で、過去の痛恨事や無力感と向き合いながら迷宮に潜る少年少女たちの姿が、読んでいてまっすぐに気持ちいい。
しかしあれです。王道派な元気娘好きであることはかなり明白なので、もっとストレートな元気さんもたくさん登場させていただきたい。

10年12月10日 
笑わない科学者と咲く花の魔法使い (HJ文庫)  笑わない科学者と咲く花の魔法使い
内堀 優一 HJ文庫
13歳の魔法使い少女(といっても、イメージ的には巫女さん寄りの精霊使いといった感じですが)と同居することになった若手科学者の青年の日々を描く年の差ラブコメ、もとい伝奇アクション、第三巻。
1巻から続いてきた流れは、根本から完全解決とはいかないまでも一段落へ、といった感じの今回の巻ですが、これでシリーズ完結なのだろうか、それとも新展開が待っているのか。科学と魔法といってもこの巻までは魔法側がメインになっていて、科学者のとしての主人公はどちらかというと「ややロジカルな一般的視点から魔法を読み解く」という立ち位置で、「笑わない」科学者としての特性はこれからのような気がするので、できればもうちょっと続いてほしいなあと願います。なによりあれです、ヒロインの咲耶さん可愛いしな。礼儀正しい照れ屋って好きです。ネコミミとか下着姿とかもいいけれど、魔法使い娘は1巻の表紙のようにもっときちんと三角帽子かぶるべきだ。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年04月12日)
 第2巻(10年08月06日)

10年12月10日 
ヘヴィーオブジェクト 巨人達の影 (電撃文庫)  ヘヴィーオブジェクト 巨人達の影
鎌池 和馬 電撃文庫
巨大兵器「オブジェクト」による国家間の戦争が常態化した未来世界で、その巨大兵器に白兵戦めいた破壊工作を挑むことになる見習い兵たちの奮戦を描くアクションSF、第三巻。
圧倒的な戦力差によってつくられる絶望的状況を知恵と勇気で無茶してなんとかする、というコンセプトのシリーズですが、今回の三話目は今までの中でもかなり桁の違う驚異。
1巻に3話が入った短編連作という読みやすさもあって、見ていて心地いいシリーズだなあといつも思います。巨大な敵を作戦でもって一発逆転するというコンセプトが狙うカタルシスが、その狙い通りに炸裂している気がする。「とある魔術の禁書目録」シリーズもそうなのだけれど、鎌池 和馬作品の人気はオタク受けする設定郡というよりは、むしろ根底にある往年の少年マンガ的ストレートさに拠っているように、僕は思います。知恵と勇気と熱意が論理的予測に打ち克つ構図って、なんだかんだいって燃えますものね。
こういうコンセプトで敵の戦力を過度にインフレせずに危機感を感じさせ続けるのはなかなか難しそうだけど、この先の展開が楽しみです。

■前巻までのレビュー
 第1巻(09年10月19日)
 第2巻(09年06月17日)

10年12月1日 
ヴァンダル画廊街の奇跡〈3〉 (電撃文庫)  ヴァンダル画廊街の奇跡3
美奈川 護 電撃文庫
界政府によって芸術が抑圧された近未来世界で、禁書として管理された芸術作品の模写を街に描くアートテロリスト一味の活躍を描く活劇もの。3巻の今回が、完結編です。
最終巻なので伏線の回収とこれまで少しずつ語られてきた世界背景の説明にやや分量の割かれた今回。個人的な好みから言ってしまうと、こうした設定の緻密な部分よりも映画を観ているような短編連作の活劇ノリがこのシリーズの魅力なのだと思うのですが――でも、小粋な掛け合いと鮮やかなアクションは最後まで魅力的でした。ヒロインのエナさんも、テンションは元気っ娘というにはやや静かだけれど、個人的には今年の個人的好き元気娘の中に確実にノミネートされると思います。
★★

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年02月06日)
 第2巻(10年05月11日)

10年12月1日 
かんなぎ家へようこそ! (GA文庫)  かんなぎ家へようこそ!
冬木 冬樹 GA文庫
故あってひきこもり体質の少年と、同居する3人の一部人外姉妹との、普通なようでぜんぜん普通じゃない日常を描いたホームドラマコメディ。
うむむ……話のコンセプトは好きなのですけれど、主人公の少年のボケ倒しがあまりにもハイテンションに濃くって、そこがすこしばかり肌にあわなかったかも。展開部の前ふりとして彼のキャラの濃さを印象づけるために少し行き過ぎなボケ倒しパートが続くのかと思っていたら、まさか展開しないまま最後まで続くは予測だにせず……!
あ、でも、ツッコミ役を負わされた帯さんは可愛かったです。強気なのに人がよくて最終的に押し流される苦労性ツッコミキャラって、好みなのですよー。

10年12月1日 
俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈7〉 (電撃文庫)  俺の妹がこんなに可愛いわけがない 7
伏見 つかさ 電撃文庫
アニメ放映中なので、漫画専門店各店の平積み具合がものすごかった(汗)
前回ラストからの恋愛編。今回はシリーズ趣旨的には本筋に立ち返った、逆に一般倫理的には本道を踏み外した、久方ぶりの一冊まるまる桐乃編です。兄貴のやきもき具合が半端じゃないというか、いつの間に色々ここまで深まってしまったの?
ところで、今回ラストのあれはまあ次の巻の第一章くらいで、ああなんだこういうことかびっくりしたなあもう! 的なオチがつきそうな気はするのですが──それにしても前巻のラストから次巻まで続く恋愛編、桐乃VS黒猫さん構図が本格化して麻奈実さんの立場がまったくないのは一体どういうことだっ。前回くらいまでは毎回どこかに短めのエピソードがはさまれていたというのに、今回はほとんど通りがかりワンシーンのみですし。うおーん。シリーズ初期は特に彼女のために読んでいたといっても過言ではないのに、このまま報われずに終わったら承知せんことですよ。
ところで、真壁くんはほんとに馬鹿で清々しくって大好きです。登場して間もないのに凄まじいこの存在感。


■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(08年10月12日)
 第2巻(08年12月14日)
 第3巻(09年04月14日)
 第4巻(09年08月11日)
 第5巻(10年01月19日)
 第6巻(10年06月02日)

10年12月1日 
エアリエル〈2〉 〜蒼海の熾天使〜 (電撃文庫)  エアリエル2 〜蒼海の熾天使〜
上野 遊 電撃文庫
車椅子のツンデレ飛行士少女と、ひょんなことから巻き込まれたカメラマン志望の少年の、ヨーロッパをモデルにした架空の列国で繰り広げられる空戦活劇もの。
上野遊作品は『彼女は帰星子女』のときから好きで、のほほんおっとりとしたラブコメ路線に見えていったんマイナス方向にキャラの思考が傾くとじわじわボディーブローのように効いてくる暗さがある作家さんだと思っているのですが──今回の巻、けっこうそれが表に出てきたなあという気がします。いや、一巻のころからもしかしたらこの娘はこうなっていくのではないかというそこはかとない予感はあったのですけれど、そうかあ、うむむ。今回の前半がラブコメドタバタ三角関係路線だっただけに、黒変化するとことさらにずしっと来るなあ。傾向的に最後には、限度を超えて真っ黒な展開にはならないとは予測しつつも──うう、はらはらしながら3巻を待ちます。
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年06月30日)

10年12月1日 
神さまのいない日曜日III (富士見ファンタジア文庫)  神さまのいない日曜日3
入江 君人 富士見ファンタジア文庫
神様に見捨てられ、人が生まれず死ぬこともできなくなった世界で、その世界を救おうという決意を胸に秘めたちいさな墓守の少女の物語、第三巻。今回は、彼女が学校に行く話です。 1,2巻に続いて、救いがなく残酷な世界背景と、その世界をものともせずにおっとりまっすぐ生きていくアイさんと周囲のキャラたちのあっけらかんと柔らかな優しさ――そのミスマッチさに不思議な魅力のある物語です。残酷で、それでも優しく、けれどもやはり残酷で、にもかかわらず優しい。 ヒロインのアイさんは今回の巻、今年新たに読んだシリーズのヒロインの中でも一二を争うくらい萌えるような気がします。
★★

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年02月04日)
 第2巻(10年06月07日)


10年12月1日 
まよチキ!5 (MF文庫J)  まよチキ!5
あさのハジメ MF文庫
アニメ化だそうですね。アリアといいこれといい、MFはけっこうアニメ化にもってくのが早いなあ。
今回は、夏休み周辺を舞台にした短編集的な一冊。短編だけに、いつもよりよりいっそう(いい意味で)ダメな雰囲気のコメディ要素が強く、ひたすらに主人公のジローくんがひっぱり回される展開になっています。
しかしこのシリーズ、どのキャラもアクは強いのですけれど、たしかに女の子誰もかれも可愛いよなあ。最近のプラスアルファひとくせ属性ものの、最先端のひとつのような気がします、はい。


■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年11月26日)
 第2巻(10年01月26日)
 第3巻(10年05月09日)
 第4巻(10年07月28日)


10年12月1日 
ドラゴンブラッド (MF文庫J)  ドラゴンブラッド
伊上 円 MF文庫
MFの第六回ライトノベル新人賞受賞作。少し訳ありで意能力者がらみの事件の解決にあたる少年と、事件の中で彼と出会った「殺人鬼」の少女の物語。
ヒロインの行動様式がけっこう突飛で、敵として登場する能力者たちも理性が逝ってしまっているキャラが多いのですが――逆に主人公の少年が普通に倫理観を備えているので、物語があさっての方向には飛ばずに異能力活劇ものとして最後まで追っていける気がします。ヒロインの壊世さんは、この巻の時点ではかなりすっ飛んでいるのですけれどそのズレがときどき可愛い。2巻以降で変化していくさまを見てみたいなー、などと思います。

10年11月30日 
ホルモー六景 (角川文庫)  ホルモー六景
万城目 学 角川文庫
「鴨川ホルモー」の番外短編。角川の「きみが見つける物語」等に収録された短編も入っています。
本編のように京都の4大学のサークルがオニを使役して合戦する話そのものではなく、本編のキャラたちが話の本筋以外のところで出会った日々のあれこれや、本編の影で起こっていた気持ちの動きを補完する――番外ではありますが、もうひとつの本編のようなつくりになっています。
解説にも書かれているのですが、万城目学はほんとうに、気持ちよく途方もないホラ話を書ける作家さんなのだと思う。今回の短編も、読んでいると「鴨川ホルモー」の世界がへんてこな方向にどんどん広がっていって、もっと読みたくなってきます。
あと、やはり凡ちゃん、もとい楠木さんはいい眼鏡っ娘さんだと思います。僕がこのシリーズに最初に興味を持ったのって単行本で出ていたこの巻の表紙の楠木さんを見たのがきっかけだったので、文庫になっても表紙がそのままだったのはひそかに嬉しい。


10年11月30日 
鏡の迷宮、白い蝶 (創元推理文庫)  鏡の迷宮、白い蝶
谷原 秋桜子 創元推理文庫
アルバイト探偵(←このシリーズ名は創元推理に移ってからはなくなったのかな?)美波シリーズ番外編。中学校一年生のときの美波さんたちの出会う事件たちを描く短編集です。まだ登場人物たちが出会っていない時期なので、本編では故人になっている水島のじっちゃんを軸に、「かのこさん&修矢」「美波&直海」の2つのペアを主人公にした短編が交互に描かれていきます。
内容はまあ、ネタバレになるのでここでは触れないとして――なんといってもこの一冊は中学校1年生のかのこさんの破壊力に尽きると思う。いやもう、今年のお嬢様系キャラの中でもおそらく断トツな気がします。
あと、もちろん江戸っ子元気娘な直海さんも。この文庫が今月刊行されたということは、彼女を今年の私的元気っ娘グランプリにノミネートしていいということですよね! うおう、燃えてくるぜ!
キャラのことばかり書いていますけれど、日常系推理ものとしても実によくできています。本編の刊行も待ち遠しいけれど、番外のほうも番外のほうで続いて欲しい気がするなあ。
★★

10年11月30日 再読
新編銀河鉄道の夜 (新潮文庫)  新編 銀河鉄道の夜
宮沢 賢治 新潮文庫
「かしわばやしの夜」が久しぶりに読みたくなって、どの本に入っていたっけと思って持ってる文庫を片っ端から探したけれどわからなくって、そうこうしているうちにこっちの文庫を最初から最後まで読み返しちゃいました。ちなみに「かしわばやしの夜」は「注文の多い料理店」に収録されているっぽいのですけれど、本棚の奥にまぎれていまだ見つからず。うむむ。
内容に関してはもはや僕なんぞが述べるまでもないと思われるのですが――宮沢賢治の文章はやはり、自分にとって文章の理想形のひとつのような気がします。独自なのに「ああ!」と実感できる比喩というのは、ほんとうに凄い。
銀河鉄道の夜の蠍の火のくだりは何度読んでも胸にすとんと落ちてくるのですが、もうひとつ。鳥をとる人のシーンは、何度読んでも「僕も食べてみたい!」って思っちちゃうなと、今回改めて感じました。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年11月30日 再読
戯作三昧・一塊の土 (新潮文庫)  戯作三昧・一塊の土
芥川 龍之介 新潮文庫
冬コミの追い込み期が近づいてきたので、テンションあげるために今回も再読。
この読書記録でも何度も書きましたが、滝沢馬琴の創作の日常風景を書いたこの「戯作三昧」は、書き物をしているかたでまだ読んだことがないかたには、ほんとうにおすすめしたい一編です。読むたびに、創作関係で後ろ向きになっていた気持ちのもやもやが晴れて、気分が上向きになってくる。
「根ある限り書き続けろ。おまえが今書いてることは、今でしか書けないことかも知れないぞ」
という箇所にさしかかると、ぞくぞくっと来ます。今回原稿やっている間に、もう2、3回は読みなおしそうな気がする。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年11月30日 
UFO大通り (講談社文庫)  UFO大通り
島田 荘司 講談社文庫
短編がふたつ収録された、御手洗 潔シリーズの新作(文庫化)。表題作は、鎌倉を舞台にした殺人事件の、すこし風変わりな目撃証言の謎にいつもの二人が挑む話になっています。自分にとっての御手洗 潔シリーズの魅力は、ちょっとケレン味のある謎と、御手洗さんの小粋に皮肉めいた語り口(これは聞き手の石岡君もいてこそですが)、読み終えた後の心地いい余韻、といったあたり。今回の短編集は、その点では個人的にちょこっと物足りなかったですが――ただそれは、たぶん御手洗 潔シリーズだというだけで自分の期待値が異様に高くなっているからなのでしょうね。ミステリの短編として2編ともきちんと面白い。
しかし、鎌倉舞台の御手洗さんの活躍はもっと見たいなあ。横浜近いし、頻繁にこのあたりで事件が起こらないかしら(おい)。

10年11月30日 
ゴッドスター (新潮文庫)  ゴッドスター
古川 日出男 新潮文庫
古川日出男作品ははじめて読みました。
あらすじ、ということで言ってしまうと、「ひとりの女性がひとりの男の子と出会って同居を始める」話なのですが――そのあらすじから想像できるような日常っぽい話では全くありません。なんだろう。語り手の主人公の思考も突飛なら、周りの人物たちも、展開も、なにもかもが突飛。それでいて、ついていけないとか置いていかれるということはなく――圧倒的なスピード感と変幻自在な文章に、戸惑う暇もなく引きずられていきます。
むむ、紹介の難しい本だなあ。文章そのものに本質があるので、概要を述べてもお伝えがしにくいというか。好き嫌いはかなり分かれる作家さんだと思いますが、不思議なジェットコースター感覚があるので、もしご興味があれば。

10年11月30日 
古城の風景〈2〉一向一揆の城 徳川の城 今川の城 (新潮文庫)  古城の風景2 一向一揆の城 徳川の城 今川の城
宮城谷 昌光 新潮文庫
歴史小説作家の著者が、各地の古城と城址、城下町を歩いて綴った歴史随想集。1巻が文庫化されてからずいぶん間があいたのでやきもきしていたのですが、考えてみれば、紀行を重ねてこそ完成する本なのですものね。
今回は、駿河――静岡から愛知県にかけて。徳川家とその周辺の大名・家臣の城が中心になっています。
歴史小説作家さんのエッセイなので、史跡の紹介といっても、その史跡にまつわる歴史上のエピソードに文章の多くが割かれています。僕などは、現在の城址や町の様子がもうちょっと知りたいなあと思うところもあるのですが――けれども、歴史部分紀行部分ともに読みごたえがあって、一冊読み終えるとその地方に足を運びたくなっちゃいます。松平館とか、行ってみたいなあ。
戦国〜安土桃山〜江戸時代初期くらいの時代に詳しいかたは、おそらくさらに楽しめる一冊だと思います。お勧め。

10年11月30日 再読
文章のみがき方 (岩波新書)  文章のみがき方
辰濃 和男 岩波新書
文章指南の本というのは自分にとって、基本的には何か実用的な効果を期待して読むものではなくって、それを読むことでテンションがあがってくることを期待して読むものなのですが――そんな中でこの本は、文章を書く前に読むと実際にプラス効果がある気がする一冊です。「比喩の工夫をする」「文末に気を配る」「異質なものを結びつける」等々、普段から大事とは分かっていつつもついつい頭から抜け落ちてしまいがちな文章作法を、短い章で区切ってまとめてくれているので、読みやすくって、ひととおり読み終えると頭にしばらく各々の注意点がキープされる。こういう本って、たまにまとめて再読するよりは、ほんとうは毎日一章ずつくらい繰り返し読み返していくのがいいのかもしれないですね。しばらく手元において試してみようかなあ。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年11月8日 

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 クロノ×セクス×コンプレックス 3
壁井 ユカコ 電撃文庫
壁井ユカコの魔法学校/性別転換/タイムリープもの、第3巻。
物語も展開部に入ってきて、これまでは所在・正体・行方が不明になっていた複数のキャラの手がかりがだんだん見えてくるとともに、解決不能な運命の影も見え隠れして、物語は暗転部へ。性別転換ものであることもあり、かなり複雑な多角恋愛関係をはらんでいるシリーズなのですが、そっちのほうも物語本筋とともに困難度を増しつつあり、かなり目が離せなくなってきています。
それにしても、主人公の三村くん@ミムラさん。2巻の感想でも書いたのですが、そろそろ「男の子っぽい元気娘」にしか見えなくなってきてて、なんかもう中身男の子でもいいんじゃないかというかなり危うい嗜好ラインを踏み越えそうで困ってます(汗) なんかこう、普通に可愛いよなあ。
あと。2巻に続いてニコさんの挿絵がないのはなんということでしょう。そばかすめがね! そばかすめがね!
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年11月09日)
 第2巻(10年08月06日)

10年11月8日 
東京皇帝☆北条恋歌 7 (角川スニーカー文庫)  東京皇帝☆北条恋歌 7
竹井 10日 角川スニーカー文庫
はやくも7冊目の東京皇帝☆北条恋歌シリーズ。
おかしいなあ。分類で言ったらあきらかにこう、いろんな意味でダメな小説というか、むしろダメさこそがメインテーマというべき作品なのですが。読んでいると繰り返されるダメ描写とダメネタがじわじわとボディーブローのように効いてきて癖になってくるというか。今回は短編集なのでとくに、後半でクライマックスに向けてテンションがあがるということもなく――ああいや、むしろ斜めにあがりっぱなしなのか――ダメな日常がえんえん繰り返されるわけなのですが。
にもかかわらず濃い目のネタが鼻につかないというのは、きっとこの、文章の緩急のつけかたがかなり絶妙だからなのでしょうね。まったりだけどリズムがよくって心地よく笑える。頭を空っぽにして何も考えずに読みたいというときには、至高のシリーズだと思います。
それにしてもゆかり子さんの崩壊具合はまだ止まらないのか。そろそろ自分の中で「侍/堅物少女」カテゴリに入れておいていいのかわからなくなってきましたです。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年05月30日)
 第2巻(09年06月24日)
 第3巻(09年10月04日)
 第4巻(10年01月14日)
 第5巻(10年05月09日)
 第6巻(10年08月06日)

10年11月8日再読 
風の名前風の四季 (平凡社新書)  風の名前 風の四季
半藤 一利 荒川 博 平凡社新書
東風(こち)、虎落笛(もがりぶえ)、野分(のわき)――四季に吹くさまざまな風の名をとりあげ、俳句や短歌、小説作品の中における「風」のバリエーションを語る、風から見た文学エッセイ。
久しぶりに本棚から出して読んだのですが、やはり面白い。同じ岩波新書の「季語集」と並んで、繰り返し読みたい本です。
小説を書くときに、こういう四季折々の天候や風物を織り交ぜられるようになりたいなとはいつも思うのですが、あまり一般的になじみの無い単語を本から引用して貼りつけちゃうと、周囲の文から浮き上がってなんとなく高尚気取りっぽい空気になってしまうし、なかなか難しいですね。こういう本を繰り返し読んだうえで、その単語が登場する小説作品も読んで、実生活の中でも「あ、これがそうなのか」と気づけるようなアンテナを装備して、自分のものにしたうえで使いこなせるようにしなくてはと感じます。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年11月8日 
子ひつじは迷わない  走るひつじが1ぴき (角川スニーカー文庫)  子ひつじは迷わない 走るひつじが1ぴき
玩具堂 角川スニーカー文庫
今期のスニーカー大賞受賞作、2作品のうちのひとつ。
生徒会執行部が生徒のお悩み相談室として設置した「迷わない子羊の会」。相談役となった生徒会の面々と、相談に訪れる生徒――それに生徒会室の横の資料室に居座る幽霊文芸部員の少女を巡って展開される学園コメディ連作短編。
わりとよくあるタイプの話かな、と思って読み始めたのですが、テンポのいい連作短編で気持ちよかったです。キャラも、表面的属性にだけではなく、内面部分の個性付けで立ってる気がする。
ヒロイン? の幽霊文芸部員少女の仙波さん――身だしなみがやや適当な眼鏡さんで(本文とは関係ないけれど)イラストの髪の毛が薄紫だったので、ちょっとツンデレ入ったダウナーキャラの典型かと思っていたのですが、彼女の一人称のパートがあるのがこういうタイプの子としては斬新でした。過度にデレないところかデレの糸口すらほとんど見えてこないところが、僕的には好み。生徒会や周辺の面々もまだまだ隠れた面がありそうだし、続きが楽しみです。

10年11月8日 
“菜々子さん”の戯曲  小悪魔と盤上の12人 (角川スニーカー文庫)  “菜々子さん”の戯曲 小悪魔と盤上の12人
高木 敦史 角川スニーカー文庫
奈々子さんシリーズ第二巻。
ベッドに横たわって直接的な意思の疎通ができない「ぼく」との、ちょっと風変わりなダブル安楽椅子探偵ものの雰囲気があった第一巻とは少し様相を違え、今回の巻は高校2年生になった奈々子さんの日々を後輩の少年の視点から描く学園日常推理ものになっています。
これ以上あまり書いちゃうと、1巻に関する決定的なネタバレになっちゃいそうなので、内容については触れませんが――
全体を覆うトーンは1巻に比べていくぶんライトなものになっていて、1巻のひんやり尖がった感じとは異なりますが、個人的には1巻は1巻、今回は今回の巻で好き。ライトになったといっても、奈々子さん本人をはじめ周りのキャラクターのスマートな癖の強さはありあり。基本的に善人悪人問わず素直な傾向のある男の子キャラに対して女の子が誰も彼もどこか奥深く歪んでいるのも魅力的です。天坂さん可愛いなあ。頭のいいデレないツンキャラって大好きだ。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年08月02日)

10年11月8日 
小説の方法 (岩波文庫)  小説の方法
伊藤 整 岩波文庫
小説家・翻訳者・そして評論家として戦前〜戦後に活動し、チャタレイ裁判でも知られる伊藤整が、散文芸術としての小説について論じた代表作。
以前からタイトルにはひかれていて、何とはなしに手に取ったのですが――いや、難しかったです。久しぶりに、一冊通して読んでここまでついていけない(内容に対する賛否という意味ではなくって、それ以前の内容への理解のレベルで)本を読んだ気がする。
私小説批判――というより、日本において私小説という文学ジャンルの置かれた状況と、それによって生じたプラスマイナスの影響(主にマイナス面)について論じ、その論を展開することによって小説全般における統括理論を構築しようとした一冊……のように読めるけれども、僕はほんとにこんがらがりながら何とか最後まで読んだ口なので、まるっきり間違っているかもしれません(汗) 本文を読んだだけではなく、巻末に添付されているやや随想的な評論「逃亡奴隷と仮面紳士」を読んで、ようやく全体的な輪郭がおぼろげに見えてくる感じでした。
ちょっと時間を置いてから、もう一回チャレンジしてみようと思います。ううう、私小説と自然主義文学全般が苦手っていうのもあるかもですけれど、やっぱり文学論的なものには歯が立たないのかしら自分。

10年11月2日 
神明解ろーどぐらす 3 (MF文庫J)  神明解ろーどぐらす 3
比嘉智康 MF文庫
「下校」に魂をかけた自称・下校家少年が、下校仲間の女の子3人と買い食い・道草・カバン持ちその他もろもろに熱意をもって取り組みながら日々を送る、ちょっと変わった青春学園もの。
……というとなんじゃそりゃ? という感じで、毎回言葉ではなかなか紹介しづらいのですが──実際、読んでて実に気持ちのいい青春ものなのです。学生の頃の放課後にホントにどうでもいい雑談に夢中になって毎日のように数時間を費やした頃のことを思い出すというか。読んでてこう、気分が軽快になってきます。
あと、なんといってもヒロインの千歳さんでしょう。今年の自分の中の私的選出グランプリ・侍/堅物喋り女の子部門においていまのところほぼトップに近い位置、全キャラのうちでも5位圏内にいるような気がします。毅然とした言動と裏腹のほっとくと石抱いて水に入っちゃいそうなネガティブさのギャップが実に可愛い。
1、2巻で、ああ、こういうたわいのない日々がずっと続いていく展開がいいなあと思っていたのですが、キャラ同士の距離が近まってくるにつれやはり変化のときはやってくるもので。下校仲間最大の危機ともいうべき状況──次の巻が待ち遠しいです。
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年04月12日)
 第2巻(10年07月15日)

10年11月2日 再読
ユングの心理学 (講談社現代新書 (677))  ユングの心理学
秋山 さと子 講談社現代新書
フロイト入門を読んだから、というわけではないのですが、先日再読のフロイト入門を本棚に戻した時にとなりにあったのでついつい引っ張り出して再読。ユング研究の日本での第一人者である秋山さと子氏の、ユング心理学入門・概要書です。
先日のフロイト入門の感想の時に「フロイトの経歴紹介にけっこう多くのページ数が割かれている」旨を書いたのですが、この本も同じような構成になっています。「アニマ/アムニス」や「老賢者(オールド・ワイズマン)」等のキーワードが登場するユング心理学の実際部分については、最後の一章にて概要を述べている感じ。素人目には経歴部分をもうちょっと短めにして概要紹介にページをとってほしいなあとか考えちゃいますが、実際には彼らの方法論を述べるには、彼らがそれを編み出すに至る過程・経緯を辿ることは外せないものなのでしょうね。
ユングというとオカルティズムへの傾倒の有無がよく問われますが──その傾倒への是非はともかくとして、有無でいったら間違いなく有りのほうだと思います。でもって、自分のように書きもののネタ収集に本を読む人間にとっては、だからこそユング心理学の内容は魅力的というか。「アニマ/アムニス」「ペルソナ」「シャドウ」等のキーワードは、(実際に心理学の必要とされる場にいるかたから見たら不謹慎になっちゃいますが)読んでいて非常にわくわくします。新書ではユング心理学関連の本ってほかにあまり目にすることがないけれど、別の書籍でもいちど読んでみたいな。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年11月2日 
ほうかご百物語 9 (電撃文庫 み 12-9)  ほうかご百物語 9
峰守 ひろかず 電撃文庫
ほうかご百物語シリーズ、最終巻。
第一巻を読んだ時には、好きな雰囲気の作品だけど電撃の大賞にしては尖がりかたというか、インパクトがちょっと薄いかなーというのが正直な印象でした。ただ、巻を読み進めてイタチさんや経島先輩たちをはじめとする放課後メンバーの日常を追っていくにつけ、だんだんとこう、自分の中での存在感が大きくなっていって。なんだろうなあ、一巻ごとにまとまった連作短編型の物語なので「うわ、次はどうなるんだ!待ちきれねえ!」という方向とはちょっと違うけれど、電撃文庫の発売予定ラインナップにタイトルがあがると思わず頬が緩む、愛おしいシリーズでした。
最終巻なのでネタバレになっちゃいそうなことは書きませんが、シリーズ最後を飾るにふさわしい、キャラクター総結集なエピソードでした。まだこのあと短編集が発売されるそうで嬉しいのですが、まだまだエピソードを読んでいきたい物語なのでこれでひと区切りになるなのは寂しいなあ。
完結のこれを機に、コメディ学園ものお好きなかたにはお勧めなシリーズです。短編連作なので読みやすいですし、ぜひともに。
★★

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(08年02月16日)
 第2巻(08年06月15日)
 第3巻(08年10月12日)
 第4巻(09年02月20日)
 第5巻(09年06月16日)
 第6巻(09年10月16日)
 第7巻(10年02月10日)
 第8巻(10年06月26日)

10年11月2日 
学園祭前夜 青春ミステリーアンソロジー (MF文庫ダ・ヴィンチ)  学園祭前夜 青春ミステリーアンソロジー
  MF文庫ダ・ヴィンチ
学園祭の前夜──実際には、学園祭の準備期間から後夜祭までの期間の学校を舞台にした、学園ミステリーアンソロジー集。
本屋さんで平積みになっているのを見て、タイトルだけでもう即買いしちゃいました。学園祭前夜って舞台設定は、昔から大好きなのですよ。いつもとは少し異なる、高揚した、どこか浮き足だった学校内。共同作業のなかで見えてくる人間関係。そして、下校時刻の制限が特別に緩んでいるところからくる、夜の学校という非日常空間。気持ちのストッパーがいつもより外れやすい舞台で、だからこそ昔から、アニメや漫画、小説の中で描かれやすい時間なのだと思います。
この作品集も、そんな「学園祭前」という特別な時間の雰囲気を実によく活かした短編ばかり。執筆陣も、はやみねかおるをはじめ、こういうものを書くならまさにこのメンバー! というセレクトになっています。村崎 友は初めて読んだけど、女の子たちのキャラが僕のツボに近くってひきこまれました。個人的には赤川次郎と米澤 穂信を加えてくれれば完璧だったけれど、それはさすがに豪華すぎになってしまうのかしら。
学園ミステリもの、いえ、ミステリ好きでなくっても学園物好きなかたにはお勧めの一冊です。

10年10月26日 
太陽系大紀行 (岩波新書)  太陽系大紀行
野本 陽代 岩波新書
野尻抱介の短編集を読んだ直後に本屋さんを回っていたら目に入って、手にとった一冊。スプートニクからボイジャー、日本のはやぶさに至るまで、太陽系の惑星・小惑星・衛星を探査するために各国が送り出した探査機の年代誌を綴っています。
内容的にはごく基本的で、それぞれの探査機についてもあまりページ数を割いて記述されているわけではないのですが──それだけに、1957年のスプートニク打ち上げからまさに日進月歩で進んできた惑星探査の技術史を、目を見張りつつ追っていくことができます。
後半部では、現在各惑星・衛星について判明している最新のデータと今後の探査の展望を解説。
すでに惑星探査機が好きで書籍を読み込んでいるというかたには、親書一冊分ということで少し簡潔すぎて物足りないかもしれないのですが、個人的には今年読んだ新書の中でももっともわくわくできるものの一冊でした。昔のNHKスペシャルの惑星特集などに胸を躍らせたかたには全力でおすすめ。
★★

10年10月26日 
沈黙のフライバイ (ハヤカワ文庫JA)  沈黙のフライバイ
野尻 抱介 ハヤカワ文庫JA
野尻抱介作品は、以前富士見FTで刊行されて現在はハヤカワに移ったクレギオンシリーズが、歴代富士見FT作品中でもベスト3に入るくらい好きでした。本格的な宇宙ものであるというところを強調したいが故のハヤカワの地味めな装丁もありだとは思うけれど、やっぱりあのシリーズはややライトなキャラもの的な表紙でいってほしかったなあ(富士見FTは表紙・挿絵が弘司氏)
さて、その野尻抱介の短編集。SFマガジンに掲載された作品や、アンソロ掲載の作品を集めた一冊なので、SF系のアンソロを読まれるかたは読んだことのある話もいくつか含まれているかも。
どの物語にしても、描かれている技術は現在まだ実現されていないものなのですが──この分野に造詣が深い作者であるため、現在の技術をベースにして作りこまれた設定は、架空の物語であるとは思えない綿密さ。フィクションというより、一部ドキュメンタリーを読んでいるような気分になってきます。それでいて、それが中心になって物語の流れを圧迫してしまうことはなく、あくまでもさりげなく作品内に織り込まれているところがまた凄い。宇宙工学関係の機器や技術に関して、現在の日本SFの書き手のなかでもいちばんリアルな繊細さをもった描写ができる作家さんの一人ではないかと、個人的には思います。
あと、この短編集の最後の一篇もそうですが、『女の子が宇宙に行く話』を書かせたら本当に右に出る者はいない。芯の強さに萌えます。


10年10月26日 
A&A アンドロイド・アンド・エイリアン  星にいくつかの願いを (角川スニーカー文庫)  A&A アンドロイド・アンド・エイリアン 星にいくつかの願いを
北川 拓磨 角川スニーカー文庫
ひょんなことから人造の肉体に人格を転移させられて、エイリアンの女の子とともに地球侵略絡みのトラブルに立ち向かうことになってしまった少年の日々を描く学園コメディアクション、第二巻。
今回で完結なのですけれど、おそらくこれはまだ続きがあるところを半ばでピリオドという形なのでしょうね。本筋の物語も、幼馴染を含めての恋のさや当ても、これから盛り上がっていきそうなところなだけにちょっと残念。テンション高めに盛り上がるという物語ではなかったのですが、昔のソノラマとか角川の学園SFコメディっぽい雰囲気がちょっとあって、好みだったのですけれど。
あ、ちなみに、自分的には断然幼馴染の日奈ちゃん派であります。
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年03月04日)

10年10月26日 再読
フロイト入門 (ちくま新書)  フロイト入門
妙木 浩之 ちくま新書
『Self‐Reference ENGINE』にフロイトの話がでてきた(といっても、フロイトの心理学の内容とはあまり直接関係ないのですが(笑))ので、なんとなく本棚から引っ張り出して読んでしまいました。フロイトの心理学を、彼の経歴とその思想の形成過程から解説する一冊。
「フロイト入門」というタイトルですが、むしろフロイトという人間を生涯を追いながら解析していくという、ちょっと変わったつくりになっています。なので、(僕が飲み込みが悪いせいかもしれないですが)ほんとうの入門書として読むのには適しているとはいえない印象はあり。他の本などでフロイト心理学の概要をざっと飲み込んでから2冊目に読むべき本ではないかなあ。
しかしフロイト心理学って、なんとなくわかったようでいて、内容的なところに踏み込んでいくと未だによくわからないです。やっぱり一度は本人の著作(あ、でも翻訳のやつですけど)を読まないとダメなのかしら。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年10月26日 
Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA)  Self-Reference ENGINE
円城 塔 ハヤカワ文庫JA
円城 塔作品は、日本SF系のアンソロジーで短編をいくつか読んでいたのですが、単行本で読むのはこれが一冊目です。
時系の流れが崩壊する「イベント」という事象を経た後の、「タイムパラドックスという概念が意味をなさなくなった」世界で繰り広げられる出来事を、複数の視点から追った連作短編集。……と、こういうまとめかたで作品の概要を言い当てられているのかはちょっとわからないのですが――とにかく、全貌をはっきりと掴むのが非常に難しい作品です。時間のあり方、複雑系、その他様々な概念のかからが浮かび上がってくるようで、掴もうとすると軽妙洒脱にすり抜けられてしまう。一冊読み終えても、なんだか翻弄されっぱなしで終わってしまう感はあります。
ただ、掴めないからよくわからなくてつまらない、ということは決してない。ところどころに浮かび上がる物語のライン(いえ、もしかしたらそれも錯覚なのかもしれないのですけれど)を手繰りながら進んでいく目眩のような感覚は、文体の妙と相まって実に心地良いです。
うむむ、もしかしたらこれ、記憶が残っているうちにもう一度読むのが正しい本なのかなあ。いずれチャレンジしてみたいと思います。


10年10月26日 
ロウきゅーぶ! 6 (電撃文庫 あ 28-6)  ロウきゅーぶ! 6
蒼山 サグ 電撃文庫
今回は短編集。
短編集なのでいつもの前半部のゆるゆるなノリで一冊なのかなとも思っていたのですが、後半の中編の夏祭りの話は5人のお互いを思う気持ちが描かれていて、ぐぐっとひきこまれました。相変わらず紗季ちゃん可愛いなあ。しかしあれです、全部とはいわないまでも<ネタバレ>眼鏡娘さんは隠れヲタ属性持ち</ネタバレ>というのはラノベ界でもかなり定着してきている風潮なのかしら。
ところで、1、2巻のころはやたらと周囲からロリコン疑惑をかけられる主人公の昴くんをちょっと気の毒に思ったものですが、最近はもう自業自得というかむしろそれがおまえの進む道だという感じになってますな。
ところで、今回はいつも以上に挿絵に注意です。75ページとか電車の中で開くと社会的に人生詰む可能性が高いので取り扱いは慎重に!
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年02月12日)
 第2巻(09年06月14日)
 第3巻(09年10月14日)
 第4巻(10年02月13日)
 第5巻(10年6月30日)

10年10月17日 
アクセル・ワールド 6 (電撃文庫 か 16-11)  アクセル・ワールド 6
川原 礫 電撃文庫
今月の電撃文庫新刊読書、3冊目。
前巻で《災禍の鎧》の力を顕現させてしまったことが原因で、黒雪姫たちとともに七王会議に臨席することになってしまったシルバークロウ。そこで示された自己のバーストリンカー生命存続の条件を発端にして、始まる新たなるクエスト。
今回、七王の全貌が(一部を除き)明らかになったこと、先輩たちの過去のレギオンの経緯が少しずつ語られてきたこともあり、一気に世界観……というか、風呂敷が広がった感じがします。まだ名前や姿は明らかではないけれど今後登場しそうなキャラも増え、純粋にわくわくしますね。続きになっているので、ネタバレしないように感想は次巻以降を読んでからにしますが、ほんとにこう、早く先が読みたい。
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年02月14日)
 第2巻(09年06月13日)
 第3巻(09年10月09日)
 第4巻(10年02月13日)
 第5巻(10年06月26日)

10年10月17日 再読
日本の海の幽霊・妖怪 (中公文庫BIBLIO)  日本の海の幽霊・妖怪
関山 守弥 中公文庫BIBLIO
船幽霊をはじめとする海の妖異・怪異を広範囲に調査し、章をたてて論じる日本の海の怪異譚ガイドブック。
それぞれの妖異・怪異の起源発祥を推論してゆくような突っ込んだタイプの論考集ではなく、できるだけ広範囲に各地の伝承を蒐集して列挙するという形を取っており、この分野の資料としても入門書としても読みやすいです。その手の話を書くときに、本棚の手の届くところにおいておきたい一冊。
海女が海中で出会う一種のドッペルゲンガーである「共潜ぎ」については、この本を初読したときに初めて知った記憶がありますね。原因の分からない、何ともいえぬ気味の悪さが好きな伝承なのです。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年10月17日 再読
異人論―民俗社会の心性 (ちくま学芸文庫)  異人論―民俗社会の心性
小松 和彦 ちくま学芸文庫
『異人論序説』を再読(10月8日の感想)したので、こっちももう一度読んでおこうと思って本棚から出してきました。
『異人論序説』の本論――というわけでははく、別筆者(『鬼が作った国・日本』の小松 和彦)による、別の視点からの異人論。
『異人論序説』の感想で、異人という概念は広範すぎるのでどうしても各論的なものの積み重ねになっていくのではないかと書いたのですが、この本も「異人」全般を論じるのではなく、「異人殺し」「辺境に住み人を食らう女」等、いくつかの「異人」の形式をピックアップして論証を加えるといった形をとっています。従来の民俗学の調査・推論の展開の仕方についての批判となっている部分もあり、すべてには頷けないけれど、考えさせられる部分も多い。
個人的には猿婿に関する章が、この種の民話を読んだ際に引っかかる部分にひとつの答えを与えてくれる感じで、お気に入りです。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年10月17日 

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 ハロー、ジーニアス
優木 カズヒロ 電撃文庫
今月の電撃文庫新刊読書、2冊目。
超少子化が進んで学校の形態が変化している近未来、怪我がもとで陸上の道を絶たれた主人公の少年は、ひょんなことからひとりの「天才」少女と関わりを持つことになり――
ちょっと読んだときは、時々あるタイプのちょっと理屈先行気味なキャラたちによる変則ラブコメかなあ、と思っていたのですが、さにあらず。実にさわやかでストレートな青春ものでした。登場する少年少女たちの、一見ちょっとひねくれてるけど素直なキャラが読んでて心地いい。やや風変わりなボクっ娘のヒロイン八葉さんも可愛いし、1巻ではまだあまり中心には絡んでこないけれど、元気っ娘ライン一直線の有屋さんもとても好き。
思わぬお気に入りシリーズになりそうで、2巻が楽しみです。
★★

10年10月8日 
とある魔術の禁書目録 22 (電撃文庫 か 12-26)  とある魔術の禁書目録22
鎌池 和馬 電撃文庫
さて、そんなわけで今月の電撃文庫新刊読みウィーク、はじまりです。
「神の右席」編の最終章。というか、「神の右席」の流れって一つの章だったのか。現行22巻のうち半分くらいを占めちゃってるような気がするのですが。
新しい巻がでるたびにここの感想で書いているような気もしますが、このシリーズは一見設定優先もののように見えて、実は(良い意味での)往年の少年ジャンプ的作品の系譜に位置する作品なのだと思います。
今回も、行き着くとこまで行き着いちゃったパワーインフレーションといい、理論の限界を破壊して強い熱意と想いのパワーとか、昔ジャンプ作品で燃えた身としては非常に興奮する。
ところで、さらに話大きくなりそうなのはほんとにいいのかな。ラスボスが誰なのかまだはっきりとは分からないけれど、このまま行くとそろそろ宇宙か異次元に敵を求めねばいかんレベルになってきた気がします。


10年10月8日 
電子書籍の衝撃 (ディスカヴァー携書)  電子書籍の衝撃
佐々木 俊尚 ディスカヴァー携書
たまには時流っぽいものも読んどかないといけないかと思って手に取りました。
電子書籍の概念・現在の情勢(ただし、10年3月なので、まだ日本でipadが発売される前)・国内外における今後の展望を、読み手・出版社・書き手の層にもたらされるであろう影響を考察した一冊。
僕自身は、電子書籍の普及は、「紙媒体と共存するかたちで、音楽業界よりははるかに時間をかけて(10年以上のスパンで)進む」と予想しているのですが――ただ、出版・流通の在り方や書き手から読み手までの流れは、紙媒体のものを含めて先行で大きく変わっていく(というか、もうだいぶ変わっている)と思う。この本を読んで、いっそうそう感じました。
最終章に書かれた今後の変革の在り方についてはやや楽観的すぎる気もしましたが、電子書籍の現状をあまり分かっていなかった自分が入門書として読むには実に分かりやすい本でした。海外におけるamazon・apple・Googleのプラットフォーム争いの部分とか、策略に策略が絡んで、そのへんの戦記もの読んでるより面白いくらいだなあ。


10年10月8日 
放課後のダンジョンにほまれはよみがえる魔物を見た (角川スニーカー文庫)  放課後のダンジョンにほまれはよみがえる魔物を見た
築地 俊彦 角川スニーカー文庫
広大な敷地を持つ学園の地下を探索測量する、生徒会測量部。その測量部に引っ張りこまれた少女の悪戦苦闘の日々を綴る、学園冒険ものの連作短編集。
「まぶらほ」は読んでいないので、築地俊彦作品はこれが初読です。まだ1巻で各キャラもひととおり顔見せ的なところなので、好みに合うかどうかは2巻以降読んでから判断なのですが――学園冒険ものも部活ものも好きなので、コンセプト的にはわくわくします。
しかしあれですな、出てくる眼鏡さんが次々と変人さんなのはどういうことだろう。

10年10月8日 再読
季語集 (岩波新書)  季語集
坪内 稔典 岩波新書
俳句に用いられる季語のうち、季候天文・年中行事・動物・植物などの主だったものを選んで、のんびりとした調子で述べた──季語解説本というよりはエッセイに近い一冊。これも、自分の本棚の中で定期的に読み返しちゃう本です。季節が変わると読みたくなるというか。
植物などは特に、よく小説で名前は目にしていても実際にはっきりその姿かたちを思い浮かべられなかったり、見たことは幾度もあっても実際にいつごろ咲いているのかはわからなかったり、漠然と流してしまっているものが多いなあと、こういう本を見ると改めて思う。そのあたりの季節感って、書き物をするにも大切な気がします。

引用されている俳句も、古今取り混ぜて素敵なものばかり。個人的には、
「緑雨です 今くちびるに 触れないで」(わたなべじゅんこ)
「行きましょう あの木犀の 夜の道」(連 宏子)
の二首が大好きです。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年10月8日 
地球の切り札  (2)先生に魔改造されました。 (角川スニーカー文庫)  地球の切り札 2
鷹見 一幸 角川スニーカー文庫
ひょんなことから異星人同士の抗争? に巻き込まれて地球を守ることになった中学生たちの、学園ドタバタラブコメ、第二巻。第一巻に引き続きネット発祥のネタや属性用語が積極的に使われていて、もともとどちらかといえば堅めの作風な筆者だけに、そこだけ妙に浮いて見えちゃってこそばゆいところは多々あるのですが──筆者も一巻のあとがきで述べているとおり、そのこそばゆさを含めてちょっと苦笑しながら楽しむべきシリーズなのでしょうね。読んでて安心なゆるーい雰囲気も継続。学園コミュニティものとして、こういうのは好きです。キャラ人数が増えてくると楽しいですしね。個人的には、今回新メンバーの中では小春さんののんびりさ加減が実に可愛いと思います。
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年07月05日)

10年10月8日 再読
異人論序説 (ちくま学芸文庫)  異人論序説
赤坂 憲雄 ちくま学芸文庫
共同体と外界との境界線上を往来する『異人』の概念を、その誕生と歴史上の変遷をまじえて解き明かさんと試みる論考集。久しぶりに読み返しました。
この「序説」についてあらためて思うには、『異人』という概念はやはり総括としてまとめることはできないのではないだろうかと。内から外へ、外から内へ、迫害・スケープゴートと畏敬・崇拝、漂泊と定着――『異人』というものが様々な様相をとることの背景には、もちろん『異人』を概念的につくり出す共同体の集団意志(ちょっと語弊があるけど)が横たわっているのだろうけれど、その集団意志を説こうとすれば、ひとつの論というよりはやはり、この「序説」のような論考集の形式をとらざるを得ないと思う。だからこそ『異人論』本体は未だに書かれていない(同タイトルの本はあるけれど、別筆者の著作)のだろうし、逆に言えばこの「序説」が『異人論』なのではなかろうか。
無数の問いの提起とヒントが散りばめられた、繰り返し読んでもやはり、刺激的な一冊です。時間をおいてまた読もう。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年9月30日 
サクラダリセット3  MEMORY in CHILDREN (角川スニーカー文庫)  サクラダリセット3
河野 裕 角川スニーカー文庫
住民の大半が特殊な能力を有する街で、時間を3日間だけリセットできる少女を中心に展開される少年少女群像劇、第三巻。
一巻のときは実のところそれほど強くは惹かれなかったのですが、巻を追って登場人物たちの内面や過去、町を貫く法則性と構造が明らかになっていくにつれ、ゆるやかにはまり込んでいくのを感じます。ちょっと違和感のあった外界との整合性も、今回で完全に説明がなされ、かつそのシステムがまた新たに魅力的な謎を生みだしていく。一見感情の起伏の少ない、過度に精神年齢が高いキャラクターのみで形成されているように見える物語も、今回過去の話が描かれたことで良い意味でのキャラの綻びが見えはじめて、実はけっこう正統派な青春ものの要素を含んでいるような気がしてきました。
2巻から続く今回の件はまだ先に続きそうですし、次の巻を読むのが楽しみです。
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年06月01日)
 第2巻(10年03月07日)

10年9月30日 
スノウピー2  スノウピー、憤慨する (富士見ファンタジア文庫)  スノウピー2 スノウピー、憤慨する
山田 有 富士見ファンタジア文庫
閉鎖された異世界でひとり過ごしてきた少女と、ひょんなことから共に学校生活を送ることになった少年の日々を描く、ちょっと不思議な現代ファンタジーものの第二巻。今回はまた周囲の女の子たちも増え、本格的に朴念仁ハーレムものの様相を呈してきました。
恋愛要素のみならず、いろいろ隅から隅まで甘々な物語ではあるのですが、ほんとに隅から隅までなので逆に鼻につかないと申しますか。ちょっとくすぐったさを感じつつも、のほほんと心地よく読めます。
スノウピーさんもかわいいのですが、やっぱり可香谷さんのごくごく淡いツンデレっぷりが愛おしい。えらく勝ち目薄そうだけどがんばれ!
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年04月01日)

10年9月30日 
寝ながら学べる構造主義 (文春新書)  寝ながら学べる構造主義
内田 樹 文春新書
タイトル見て、なんじゃこれと思ってつい手にとってしまったのですが、思いのほか(いい意味で)普通の本でした。
構造主義の成立の前史から、ソシュール、それに続く構造主義四天王(バルト、レヴィ=ストロース、ラカン、フーコー)までの思想を説いた入門書。それぞれの思想を端から端まではまとめようとせずに、あえて最も主要なポイントのみに絞って解説をしているので、理解がしやすいです。大学の時に現代思想関係をつまみ食い的に読んでからしばらくブランクが空いてしまっていて、去年くらいからときどきおさらいに入門書を読んでいるのですが、こういうのってやっぱり、全体をざっと俯瞰した本を何冊か読んでいくというのが効率が良いのでしょうね。
サルトルとレヴィ=ストロースの論争についての記述は、これまで読んだ構造主義入門書の中で最もわかりやすかったです。しかし、四天王のなかでラカンだけは、どの本で読んでもなんか狐につままれたような気分になる。日本語訳でも、著書そのものを一冊読んだら悪酔いを起こしそうだなあ……

10年9月30日 
怪談実話系 4―書き下ろし怪談文芸競作集 (MF文庫 ダ・ヴィンチ ゆ 1-4)  怪談実話系 4―書き下ろし怪談文芸競作集
  MF文庫 ダ・ヴィンチ
実話怪談──あるいは、実話に近い形の短編怪談を集めたアンソロジー。『新耳袋』の中山市郎、『山の霊異記』の安曇 潤平、『再生ボタン』の福澤徹三、『幽霊物件案内』の小池 壮彦、加門七海に岩井志麻子と、実話怪談ジャンルのオールスターといってもいい顔ぶれに、牧野 修といった他のジャンルで第一線の作家をも加えた、けっこう豪華な一冊になっています。
こうした実話怪談の魅力というのは、真正面から襲ってくる脅威としての怖さというのではなく、日常の隣にもしかしたら存在するかもしれない理不尽で不可解な不気味さであるのだと思う。創作怪談であればルールとして存在しなくってはいけない「オチ」=脅威の理由が最後まで判らないので、「自分の身には降りかからないという保証」も、「遭遇した際の避難の方法」もわからない。もしかしたら今にでも自分の隣を過るかもしれないという不安が、ねっとり静かに迫ってきます。
満喫しようと思ったら、人気のない場所で夕方とかに読むのがお勧めですが、何かあっても保障はしません。

10年9月24日 
桐咲キセキのキセキ (GA文庫)  桐咲キセキのキセキ
ろくごまるに GA文庫
うわ、ろくごまるにの新作です! 富士見Fじゃなくってこんなところから出てるとなんて!
デビュー作の「食前絶後!」が大好きで、封仙娘娘追宝録シリーズはまだいちばん最後の部分を読んでいないのですけれど、新作と聞いて反射的に手に取っちゃいました。
これまでとはずいぶんまた雰囲気が異なる作品で、あらすじが一言で語りにくいのですが――ですます調ツンデレ少女(デレないけど)とひょんなことから知り合って家督相続争いに巻き込まれた少年の苦心冒険譚。視点の切り替わりとかが、けっこうトリッキーなろくごまるに節なので、ときおりとっつきにくいところはあるかもですが、読み進めていくうちに癖になってきます。
とりあえず一巻時点では、おバカの子全開な夢月さんがえらく可愛い。まだ膨大に先がありそうな設定なので、続きが気になります。

10年9月24日 
路地の匂い 町の音 (ポプラ文庫)  路地の匂い 町の音
森 まゆみ ポプラ文庫
谷中・根津・千駄木のコミュニティ誌『谷根千』を発行している著者が、地域の路地の魅力、さらには町と人の在りかたについて自らの想いをつづったエッセイ集。
こういうタイプの本というのはときどき「それにくらべて今の都会は」的な論調になってしまうものがあって、この本もときおりそういう箇所は見られてしまうのですが――同時に、筆者が一面的に古いものを残そうというのではなく、新旧の良いところを織りあわせて町づくりをしていこうという考えの持ち主であることがわかって、頷けるところが多いです。
全体的には、そうした都市論的な面というよりも、山の手と下町両方の雰囲気を持ったあのあたりの地域の日常を繊細に描いたエッセイとしての面のほうが強く、気軽に読み進められます。根津界隈をぶらぶら歩きたくなる一冊。


10年9月24日 
量子回廊 (年刊日本SF傑作選) (創元SF文庫)  量子回廊  年刊日本SF傑作選
  創元SF文庫
創元SF文庫から年一回発売される、年間日本SFベストともいうべき短編集。3冊め、2009年版の今回も、629ページという大ボリュームで読みごたえがあります。
谷 甲州・皆川 博子といったベテランから、新城 カズマ。田中 哲弥らライトノベルジャンルでもおなじみの作家、円城 塔・上田早夕里というここ数年台頭してきた新世代SF作家に、自分もはじめて名前を目にする作家まで、顔ぶれも多彩で、作品の雰囲気はそれ以上に多彩です。
SFといわれる分野、特にここ数年の日本SFの短編分野は、文芸というものの実験場的な面白さがあると思います。この本に収録されたツイッター小説や、円上塔の数学ロジック的な作品、そのほかこれまでの文章作品の暗黙のルールを打ち破った作品の数々。いわゆる純文学といわれるジャンルとの間に混交――両方にまたがる作家の出現や、文芸系の賞へのSF作品のノミネート等が最近みられるのも、そのあたりに一因があるのではないかなあ。(ほかにも要因はあると思いますが、話がそれちゃうので別の機会に書きます) もとよりジャンルなんて便宜的なものにすぎないと思うので、こういう形で境界が崩れていくのを見るのは楽しいかも。ストーリー性を重んじる目から見れば一長一短なのでしょうけれど、SFジャンルが最も先鋭的になっている国はこの日本なのだと思う。
収録作品中では、上田早夕里の『夢見る葦笛』と、市川春子の漫画作品・『日下兄妹』が好みでした。
しかし、過去2冊には名前があった(このシリーズで初読だった)伊藤計劃が今回にはもう載っていないのが、実に寂しいな。


10年9月24日 
月光 (電撃文庫)  月光
間宮 夏生 電撃文庫
今月の電撃読み6冊め。とりあえず、MFも出たし今月はここで一区切りかな。
電撃大賞(第16回)の最終選考作に残った作者のかたのデビュー作になるこの作品。他者に向ける感情に、冷めた、という表現では足りない欠落を生じた主人公の少年と、楚々とした色才兼備の貌の裏にどこか得体の知れない陰をはらんだ少女との、恋愛――いや、恋愛と言っていいのかわからないですが――ミステリもの。
このタイプの、すこし人格に歪みのある主人公が淡々とロジカルに語るタイプの物語は、自分の好みでいえば好きではないのだと思います。物語の中心になる主人公ふたりにも、なかなか共感はしにくい。
ただ、それにもかかわらず、読んでいてひきこまれるものがありました。物語がどういう結末を迎えてしまうのか、大きなアクションはないのに実にスリリング。読みごたえ、という点でいってしまうと、今月の電撃のなかでいちばんだった気がします。うむむ、なんだろうこの存在感は。悔しいけど面白かった。
あと、元気っ娘好きとしては、<ネタバレ>宇佐美さんの今後の身の安全が実に気になります。ううう、可愛いのに可愛いのに。どうか幸せになってくれますように!</ネタバレ>
★★

10年9月24日 
花×華〈2〉 (電撃文庫)  花×華 2
岩田 洋季 電撃文庫
今月の電撃文庫読み5冊め。
尾道を思わせる坂道と海の町、美桜町を舞台にした映研(映像研究会)ラブコメもの、第二巻。今回は夏休み合宿編で、当然のことながら水着回です。
のびのびとした空気の中で展開されるさわやかな三角関係も、一巻に続いて良い感じ。恋の鞘あてだけではなく、登場する女の子たちのお互いの演技の才能への微妙な想いが繊細に描かれていて、好きなシリーズになりそうです。
一巻の感想でも書きましたが、知佳さんが自分的には一押し。ちょっといたずらっぽい友人スタンスの眼鏡キャラに弱いのです自分。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年03月19日)

10年9月15日 
日記の手がかり (ナンシー・ドルー・ミステリ7) (創元推理文庫)  日記の手がかり  ナンシー・ドルー・ミステリ7
キャロリン・キーン 創元推理文庫
少女探偵ナンシー・ドルーシリーズ、久しぶりの刊行7冊め。 とある屋敷で発生した放火事件と、その現場近くでナンシーが偶然拾った日記をめぐる冒険行。
こういう児童向けシリーズって、ものによっては巻が進むと物語が定形化してきてしまうものも多いけれど、このシリーズは謎と冒険のバリエーションが多彩で飽きさせないです。主人公のナンシーに関しても一巻の頃はちょっとアメリカ的優等生っぽいイメージが強くって感想にもそう書いた記憶がありますが、だんだん「明敏なおてんばさん」としてのキャラが強くなっていって、巻が進んでからのほうが活き活きしている気がする。
あと、なんといっても元気っ娘好きとしては、友人のジョージさんが気になります。ボーイッシュで短髪でスリムということが本文に明記されてる古典少年少女作品キャラって意外と少ないので、それだけでぐっときます。性格もさざさばしたしっかり者で好み。もうひとりの友人、ちょっとぽっちゃりさんなベスさんも含めた三人娘ものとしても読んでて楽しいです。今回は気になる男の子キャラも登場ですしね。
あ、それと。いつの間にかシリーズから退場してて気になっていた友人のカレンさんの消息がちょこっとだけ今回触れられてて、消えちゃったのではないことにほっとしました。ああよかった。
★★

10年9月15日 
ηなのに夢のよう DREAMILY IN SPITE OF η (講談社文庫)  ηなのに夢のよう
森 博嗣 講談社文庫
Gシリーズの6冊目。
繰り返される不可思議な自殺事件と、その現場付近に残されていたメッセージを巡って展開するミステリー。
ミステリーといっても今回は、この一巻で完結する謎解きというよりは、シリーズ全体の謎が浮上する繋ぎの話としての要素が強いです。S&Mシリーズ、Vシリーズ、四季4冊を通して展開する物語(あ、そういえばこの本で、長編30冊目なのですね)の中核に久しぶりに近づいていく動きがあって、ファンとしてはわくわくする。前2シリーズと同様になんとなくこのGシリーズも10冊完結のような気がするのですけれど、残り4巻がどのように進んでいくのかが気になるところです。

それにしてもやっぱり加部谷さんが可愛い。国枝助教授の物まねをするシーンがえらくもってかれました。いえ、国枝助教授も好きなのですけれど。あの物まね、本人にばれたら身の凍るような目に遭いそうですけれど。


10年9月15日 
小さな魔女と空飛ぶ狐 (電撃文庫)  小さな魔女と空飛ぶ狐
南井 大介 電撃文庫
今月の電撃文庫読み、4冊目。
「ピクシー・ワークス」の作者のかたの第二作。内戦の続く、西欧っぽい架空世界において、天才科学者の少女を補佐することになった戦闘機乗りの青年の日々を描く航空活劇もの。前作今作と続けて読むに、飛行機(戦闘機)ものを得意とする作家さんなのかな?
「ピクシー・ワークス」は、キャラクターは好きだったのですけれど、設定の緻密さと展開の飛躍性にちょっとアンバランスなところがあって、個人的にはいまひとつ入り込めなかったところがありました。今作もある意味、戦争ものとしての容赦のなさと、キャラクターパートにおけるコミカルさについてはアンバランスなところはあって、「千単位万単位でひとが死んでいく喜劇」的な雰囲気もあるのですが――そのアンバランスさは逆に、ある意味戦争ものとしてリアルなのかな、とも思う。ラブコメっぽいパートのある主人公だからといって、戦地で無差別爆撃をしないってのは逆に変ですものね。倫理感に矛盾――敵地の一般居住区は淡々と焼き払うけれど、顔を知ったひとりの人間は撃てないというのも、このジャンルではあまり書かれないけれど、ありうべき矛盾なのだと思う。
主人公たちのたどり着くひとまずの結論といい、あまり見ないタイプのちょっと不思議な物語でした。個人的には、前作よりこっちが好きだなあ。ただ、いい意味で、シリーズ化はしないでここで映画っぽく終わってほしい。


10年9月15日 
C3‐シーキューブ〈10〉 (電撃文庫)  C3 シーキューブ 10
水瀬 葉月 電撃文庫
今月の電撃文庫読み、3冊目。
いつのまにかもう十巻目になるのですね。
節目なだけあって、ある意味シリーズ基本に立ち返った雰囲気の展開というか、キャラもほぼ総登場に近いというか。久しぶりに黒っぽい描写もあり、一方で黒展開の払拭っぽい部分もあり。
この何巻か、いったいこのシリーズはどっちの方向に行っちゃうんだろうというそこはかとない不安があって――ラスボス的なところでは依然この巻でも見えてこないところはあるのですが、今回は物語的にこのシリーズらしくって好きでした。
しかしやはり、今作は錐霞さんにつきる。今年の私的グランプリ侍系少女部門で、確実に上位を走っています。


■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第9巻(10年03月09日)
 第8巻(09年11月07日)
 第7巻(09年07月10日)
 第6巻(09年03月11日)
 第5巻(08年12月07日)
 第4巻(08年08月23日)
 第3巻(08年04月10日)
 第2巻(08年01月21日)

10年9月15日 再読
スペース・オペラの書き方―宇宙SF冒険大活劇への試み (ハヤカワ文庫JA)  スペース・オペラの書き方
野田 昌宏 ハヤカワ文庫JA
野田昌弘大元帥も、もう亡くなって2年が経つのですね。
本棚の隅に置いてことあるごとにパラ見している、執筆時のお守りのような本のひとつなのですが、通して読むのは久しぶりになります。スペースオペラのわが国第一人者である著者が、スペースオペラの創作過程について、これ以上なくざっくばらんに、かつこと細かに記した一冊。内容については今更僕なんぞが説明をするのもなんなのですが、アイデアの熟成の仕方やプロットの構築法といった基本的なところから、机椅子や筆記用具、ホテル缶詰についてまで、読み物として実に楽しく書かれています。スペースオペラの、と書いてあるけれど、そのほかのジャンルを書くかたが読んでもじゅうぶん身になると思う。この本と並んで僕の中で小説指南本の双璧である中島梓の「小説道場」が、対象としているJUNE系物書き志望の人以外にも問題なく有益であるのと同じで。
以前にも書いたのですが、小説指南本を読む目的って、そこに書かれているノウハウを身につけるというのとはちょっと違うところにあると思うのですよ。その本を読んで、よーし書くぞ! という気持ちというか、テンションが高まることが重要。そういう意味ではこの本は、他の追随を許さない名著なのではないでしょうか。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年9月9日 
Baby Princess 5 (電撃文庫 き 3-9)  Baby Princess 5
公野 櫻子 電撃文庫
今月の電撃文庫読み、2冊目。
ベビプリももう5巻目か。けっこうペース早いなあ。
今回は表面的にはひたすら水着の回でした。どちらかというとつなぎ的な巻で、展開部は次の巻にやってきそう。
このシリーズ、自分にしては珍しくメインヒロイン的な位置にいるヒカルさんが一押しキャラなのですけれど、2番目以降は誰だろうと考えてみると、霙>観月>麗という順番な気がする。なんかこう、乙女度が低いっぽい順に好きというのも何なのですが(汗)

10年9月8日 
ゴールデンタイム 1 (電撃文庫 た 20-16)  ゴールデンタイム 1
竹宮 ゆゆこ 電撃文庫
さて、そんなわけで今月も電撃文庫新刊読み週間のスタートです。今月はシリーズ4冊+αと、ちょっと少なめ。
『とらドラ!』の竹宮ゆゆ子の新シリーズ。ちょっと訳ありな過去をもつ大学1年生の主人公と友人の周囲に繰り広げられる、ちょっと変則的な多重三角関係恋愛劇――に、おそらくなるのだと思います。一巻の時点ではまだ、現在の人間関係が提示されたところまでなので本当にそうなるのかはちょっとまだわからないのですが。

うむむ。ヒロインの香子さんのキャラは、1巻時点ではかなりひどいというか痛々しいというか――正直なところ現時点ではまだ、惹かれる糸口すら見出せない気がします。『とらドラ!』を読んだ後でなかったらもしかしたら、この1巻でギブアップしていたかもしれない。
ただ、大学生というやや年齢設定高めな舞台といい、このキャラ付けといい、あえてハードルあげて挑んできているのかも、という可能性も感じさせなくはなく――この状態からどのような萌えの巻き返しがあるのかとか、まだ二転三転と裏がありそうな周辺キャラの動向とか、逆に気になってくるというか。上にも書いたのですが1巻はまだまだ序盤な感じですし、とりあえず次を待とうと思います。

10年9月8日 
江戸の気分 (講談社現代新書)  江戸の気分
堀井 憲一郎 講談社現代新書
落語方面に造詣の深いコラムニストの著者が、落語に登場する江戸時代の住人たちのものの感じかた、考えかたについてをざっくばらんに書きつづった一冊。「キツネタヌキにだまされる」「江戸の花見は馬鹿の祭典だ」「神様はすぐそこにいる」等13の章に分かれていて、手軽に読めてしかも興味深い。こういうタイプの本によくある「昔は良かった。それに比べて今は……」的な言い回しも、全くないわけではないけれども、一方的な優劣付けではなくってさらりと軽く書かれているので鼻につかないです。
この本に出てくる江戸時代的な心情というのは確かに現代では珍しくなっているかもしれませんが、とはいえ完全に世間からなくなってしまっているわけではなく。読んでいてなんとなく、粋なお年寄りとか下町っ子とか、そういうキャラクターをつくるときに参考にできそうだなあと思いました。お勧めです。
★★

10年9月8日 
ソードアート・オンライン〈5〉ファントム・パレット (電撃文庫)  ソードアート・オンライン 5
川原 礫 電撃文庫
第5巻。今回から新章突入です。
3巻以降、現実世界とゲーム(電脳)世界の往還がフリーになってからはこのシリーズ、既存の電脳世界ものに比べて現実世界側の描写の比重がやや大きくなっていますよね。電脳世界ものの定石を丁寧に踏んでいるコンセプトの中で、その部分がこの作品特有のコンセプトになっているような気がします。
特に今回のように、章が変わって新しいゲーム世界に入り込んだようなとき。ゲーム世界へのアバターと現実世界の外見が異なっているので、電脳世界で出会った相手が現実世界の知人でもお互いそれに気付かない、というのは前章からも見られた仕掛けだけれど、今度はそれに「前章の電脳世界内で出会った相手と今回の章の電脳世界内で遭遇しても、アバターが異なっているのでお互いにわからない」という仕掛けが加わって、人間関係がより面白くなってきそう。複数の電脳世界を現実パートがベースとして繋ぐ構図というのは、ありそうでなかなかなかったように思えます。
今回登場の詩乃さんはいい眼鏡さんのような気がしますが、ええい直葉さんがほとんどでてこないのはどういうことか(泣) 巻数的にそろそろ短編集とか売り出されて直葉さんの短編とかその中に入ってないかなあ。
★★

■前巻までのレビュー
 第1巻(09年04月14日)
 第2巻(09年08月10日)
 第3巻(09年12月12日)
 第4巻(10年09月06日)

10年9月6日 
月見月理解の探偵殺人 3 (GA文庫)  月見月理解の探偵殺人 3
明月千里 GA文庫
傍若無人で心根真っ黒な車椅子少女と、誰も彼も性格に難のある女の子たちの間で翻弄されながら事件を解決する(あるいは解決しない)少年の物語。
言ってしまえば講談社ファウスト系列な、もっと端的に言ってしまうと中二病要素を濃くした西尾維新といった趣のシリーズで、個人的な好みの系統からは外れているのですが――その系列上にはありながら単なるコピーになってしまってはいないのと、一見思わせぶりな難解ロジックで防護しながら実際には推理可能なミステリになっているところが、ひき込まれて読める理由なのだと思う。
今回(孤島系の舞台だったので)妹さんが出てこなかったのが、かえって次巻に酷い展開が待ちかまえていそうでちょっと怖い。


■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年12月20日)
 第2巻(10年04月24日)

10年9月6日 
ダブルアクセス 3 (MF文庫J)  ダブルアクセス3
樋口 司 MF文庫
電脳世界で起きたトラブルを解決して借金を返済する主人公と、その周囲のひと癖もふた癖もある女の子たちが巻き込まれる事件を描くシリーズ、3巻目の今巻が最終回です。
うむむ。<ややネガな感想>最終回的な盛り上がりはあったのですけれど、ちょっとこう、これから面白くなりそうなところで途切れてしまっている感がありました。借金のこととか敵の正体とか、主人公の能力の今後とか、提示されていた複線が完全に消化されてはいないところもあり――</ややネガな感想>ただこれは、作者がそうしたかったのではないのだろうなあという感じがします。
もうちょっと先が読みたかった。残念。 ■前巻までのレビュー
 第1巻(10年01月28日)
 第2巻(10年05月23日)

10年9月6日 
武具の日本史 正倉院遺品から洋式火器まで (平凡社新書)  武具の日本史 正倉院遺品から洋式火器まで
近藤 好和 平凡社新書
古代から近世に至るまでの武具(武器と防具)の発展を、図表と用語で解説した一冊。刀剣や鎧はもちろんのこと、馬具や鉄砲(そういえば、「火縄銃」は後世の呼び名というのははじめて知りました)に至るまで、図表でもってすべての部品の名称と役割が解説されていて、新書のレベルを遥かに超えています。資料としては、これこれこういうのが欲しかった! という感じ。
ただ、あまりにも詳しく専門的に説明されすぎているため、読み物というよりはむしろ図鑑や事典に近い本になっていて、通して読んでも一度や二度ではとても頭に入りそうにないです。むしろ手元において、書き物をするときなどに必要な場所を参照する――といった使い方にぴったりな本なのかなと思いました。


10年9月6日 
緋弾のアリアIII 蜂蜜色の罠(ハニー・トラップ)  緋弾のアリア 7
赤松 中学 MF文庫
話的には前巻からの続きのレキ編で、今回の巻は「暴走列車」もの。こういう閉鎖空間内でのアクションって好みなので、ひき込まれて読めました。
前にも書いたのですが、このシリーズ、1巻を読んだ時には個人的にあまりのりきれなかったのです。それが、巻が進むごとにスピード感が増してきたように思えて。
5・6巻の話にしても、危機が波状を描いて迫ってくる、そのリズムがとても心地いいです。片鱗はのぞかせるもののなかなか明らかにならない敵側の特異能力とか、危機をひとつやり過ごしたところで明らかになる次の危機とか、活劇ものに必須な要素がしっかり押さえられている気がする。

アニメ化されるのですよね。
原作の扱い的におそらく期待度中、くらいのラインでスタートする作品になると思うのですけれど、「予想外に良質でミドルヒット」か「まったくダメ」の両極端なコースのどちらかに行きそうな気がする。
たしかにキャラ萌えを描かなくっては始まらない物語なのだけれど、そこに重点を置きすぎて話のスピード感とか活劇のリズムが崩れてしまうようなことがあるときっと目も当てられないので、活劇がきちんと描かれた脚本であってほしいなあと、心から思います。

■前巻までのレビュー
 第1巻(08年09月28日)
 第2巻(09年12月22日)
 第3巻(09年03月24日)
 第4巻(09年08月27日)
 第5巻(09年12月24日)
 第6巻(10年09月06日)

10年9月6日 
緋弾のアリアVI 絶対半径(キリングレンジ)2051 (MF文庫J)  緋弾のアリア 6
赤松 中学 MF文庫
第6巻はけっこう前に買ってたのですが、とっておきにしているうちに読むのが遅れてしまいました。だってだって! レキさんの話ですよ! うひょう!
こういう無表情系ダウナーで自己の命を顧みないタイプのキャラというのは当然ながら系譜があるわけで、彼女もそのパターンからは大きくはみ出さないキャラ付けではあるのですが──今回のシチュエーション設定といい、定石を丁寧に踏んでいく変化のしかたといい、ツボの押さえ方が実に着実だと思います。物語的には7巻に続くので、7巻レヴューでまとめて感想書きます。

(※過去レビューリンクも、すぐ上の7巻のところで)

10年9月6日 
ソードアート・オンライン〈4〉フェアリィ・ダンス (電撃文庫)  ソードアート・オンライン4
川原 礫 電撃文庫
ずいぶん読むの遅れちゃったけれど、第4巻。今回でいちおう、第一部完、のような形になっていますね。
作者あとがきにも書いてあるけれど、3巻以降は1巻と違って「電脳世界への強制束縛」と「電脳世界でのリスクと現実世界のリスクの直結」という、一般的な電脳ものの大半に見られるルールづけはないのですよね。その上で、ここまでの緊迫感と、主人公たちがクリアすべき障害に立ち向かう心のベクトルが演出されていくのは──やはり作者の筆の力というものなのでしょうね。敵役のキャラ付けとか、メインキャラの構図とか、そういうカタルシスを生み出すための矯めがとても巧みな気がする。

それにしても直葉さんは可愛い。3・4巻ではメインの視点が彼女に置かれていることもあって、微妙な心の動きに実にこう、引き込まれます。今年の妹キャラトップの座に近い所にいると思う。
★★

■前巻までのレビュー
 第1巻(09年04月14日)
 第2巻(09年08月10日)
 第3巻(09年12月12日)

10年9月6日 
遠まわりする雛 (角川文庫)  遠回りする雛
米澤 穂信 角川文庫
夏コミ終わるまで楽しみにとっといた、古典部シリーズ第4巻。今回は短編集。短編集だけれど、外伝的なものではなく――これまでの巻は古典部が事件を解決する形だったのに対して、今回は古典部の内側で発生した事柄が多い分、よりシリーズのセンターラインに近い気がします。
こういう学園生活ものってずっと変わることなく続いていくような印象を持ってしまうけれど、作者があとがきに書いている通りやはり時間は流れていて、登場人物のお互いへのスタンスの変化はある。このシリーズの場合、男子ふたりがどちらかというとスタンスの変化を望まない印象があったけれど、今回のラスト2話で内面の揺らぎが描かれたことで、次回から何らかの変化の方向に流れが加速しそうな予感が。切ないながらも、早く先が読みたいです。
それにしてもほんと、女の子ふたりが可愛いなあ。
★★

10年8月24日 
ビキニンジャ・ドキッ 2 (ガガガ文庫)  ビキニンジャ・ドキッ 2
わんぱく&チームビキニンジャ ガガガ文庫
さて、そんなわけで今日から、楽しみに積んどいたシリーズもの一気に読もうウィークです。昨日まで積んどいたの忘れてたけど気にしない。

このシリーズ、タイトルと設定にだまされがちですが、実際のところ、活劇としても青春ものとしてもラブコメとしても実に完成度が高い作品だと思うのですよ。ヒロインのゆりかさんは09年の私的元気っ娘グランプリで銀賞に挙げた実に良質な元気っ娘ですし、周りのキャラもハートウォームでいい感じだし、活劇としての展開は熱いし。元気っ娘好きと青春活劇もの好きは偏見振り払って読んでいいと思う。
三巻がしばらく出ていないのがかえすがえすももったいないなあ。2巻はビキニンジャの里方面の話だったので、あんどーさんとかの出てくるこっちパートの話ももっと読みたい。続刊希望です。
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年06月29日)

10年8月24日 
ゴミ箱から失礼いたします 4 (MF文庫 J い 3-4)  ゴミ箱から失礼いたします 4
岩波 零 MF文庫
ゴミ箱から出られない妖怪ゴミ箱男になってしまった主人公が、一風変わった女の子達と繰り広げる変則ラブコメディ、今回で完結編です。
最後まで、キャラものラブコメとして地味に名作だったなあと思う。女の子達のほのぼのした(してない?)ボケっぷりも、主人公の萌える太くんのツッコミも実に心地いい。萌える太くん、この数年で読んだライトノベルのツッコミ役キャラのうちでもたぶんトップクラスに好きだ。
地味っ娘赤星さんの地味っぷりがもっと見たかったですけれど、ラブコメ展開にもめでたく決着がついて、大団円? の4巻。まだ続いているシリーズもあるけれど、現時点ではMFライトノベル大賞の第5回入選作品ではこれが一番のお気に入りかな。
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年11月28日)
 第2巻(10年03月03日)
 第3巻(10年06月17日)

10年8月24日 
文士が愛した町を歩く (生活人新書)  文士が愛した町を歩く
矢島 裕紀彦 高橋 昌嗣 生活人新書
なんとなくときどき読み返しちゃう本の一冊。池波正太郎の浅草、大佛次郎の鎌倉・横浜、小泉八雲の松江などなど、日本文学史上に名を残した文士達ゆかりの町の名所、名店を気取りや嫌みのない調子で紹介するガイドブック。前半が東京近郊、後半が日本各地の都市のパートになっていて、前半を読むと散歩に、後半を読むと旅にでたくなる困った本です。前に読んだときにも書いたかもしれないけど、湯河原行きたいなあ……。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年8月24日 
きゅーきゅーキュート! 12 (MF文庫 J の 2-21)  きゅーきゅーキュート! 12
野島けんじ MF文庫
たぶんきっとMF文庫最高冊数のこのシリーズ、そのうちアニメとかになっちゃったらどうしよう。いやきっと目も当てられないような有様になるような予感もするのですが、反面ちょっと見てみたい。
今回は、商店街のひな祭りイベントを巡って、男雛役に理刀がついたことから始まる、女雛役争奪戦争。ラブコメの黄金パターンを正しく踏襲した、ブレない安心のベタさ加減が今回も健在です。(あ、でも、トーナメントの勝ち上がりかたにはけっこうサプライズはあり)
いえ、ダメにとられそうな感想書いちゃってますけど、僕はけっこうこのシリーズ好きなのです。なんだか読んでて安心する。

■前巻までのレビュー
※6巻まではまだ読書記録がない時期なので省略します
 第7巻 (08年04月30日)
 第8巻 (08年08月31日)
 第9巻 (08年12月22日)
 第10巻(09年05月25日)
 第11巻(09年12月23日)
 短編集1(09年08月25日)
 短編集2(09年05月09日)

10年8月24日 
ご主人さん&(と)メイドさま〈2〉父さん母さん、ロボットメイドはしまぱんです (電撃文庫)  ご主人さんとメイドさま 2
榎木津 無代 電撃文庫
突然やってきた日本刀メイドさんに、重度のメイドオタクの少年が振り回されるドタバタバトルコメディ、第二巻。今回はロボメイドさんネタです。

って書くといかにもちょっと前に粗製乱造された「メイドさんの本質を分かっておらずに表面的に属性を積み重ねたダメコメディ」的な匂いがしますし、僕も一巻を見かけたときにはそう思っていたのですが──
このシリーズは逆に、そういう風潮を分かった上で全力で逆利用した作品なのだと思う。
なんというのかもう、ほかの作家さんには絶対真似できないレベルの悪乗りヒートアップが読んでて実に気持ちいい。小学生が友人との悪ふざけで考えたような呆れるレベルのテンション頼みギャグの連続も、リズムが良すぎて呆れる暇がありません。類をみないダメ人間な主人公も、クライマックスにはかっこよく見えてくるから不思議です。いやほんと、人のいないところで飲み物飲まずに読むの推奨のシリーズです。
ところで、言葉だけちょっと出てきた「アイヌメイド」ってどういう種類のメイドさんだよ。いやもうほんとに。


■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年02月10日)

10年8月24日 
入門 経済学の歴史 (ちくま新書)  入門 経済学の歴史
根井 雅弘 ちくま新書
経済学はずっと昔にちょこっとだけかじったことがある(いえ、大学の講義で間違ってとっただけなのですが)のですが、そのときには殆どちんぷんかんぷんだったので、基礎的なところだけでもちょっとは理解できないかなと思って買ってきてみたのです。
結論からいって、やっぱり自分は経済学の素養はないようです(汗) ミルやケインズくらいであれば基本理論はいろいろなところに出てくるので概要的なところはわかるのですが、グラフや数式が出てくると、言葉で説明される現象がその数字上にはどのようにあらわれてくるのかが、なかなか頭の中で結び付いてくれない。
ただ、「経済学の本」というよりはあくまでも「経済学史の本」としての性格が強いので、体系的にとらえるのは難しくても、個々の学者がどのような論を展開していたかを押さえていくには使いやすい一冊でした。うむむ、もうちょっと入門書を重ね読みしないとダメかな。

10年8月24日 
ぬばたま (新潮文庫)  ぬばたま
あさの あつこ 新潮文庫
あさのあつこは実はこれまで一冊の本で読んだことがなく、アンソロジーに入っている短編やシリーズの一編を数編読んだだけで。どれか読んでみたいなーとつねづね思っていたのですが……いや、最初の一冊にこれを選ぶというのはちょっと間違いだったのではないかとも思います。ほかの作品とタイプが違いすぎますものね(汗) 山に囲まれた田舎町を舞台にした、ひたひたと迫りくる闇を描いた連作ホラー──というと、『屍鬼』やひぐらしに代表される閉鎖集落もののように思えますが、そのラインの作品ともちょっとまた毛色が違う。山村の持つ独自の禍々しさというのはもちろんあるのですが、それ以上に、田舎という空間のじっとりと重い人間関係の楔とそれによっていつの間にか病んでいく登場人物たちの心が、緻密な筆調で描かれていきます。鋭利な刃物でぐさりというより、錆びた鈍い刃でゆっくり刺されるようなタイプの恐怖。いい意味で、後味の悪い一冊でした。

10年8月24日 
とある魔術の禁書目録(インデックス)〈21〉 (電撃文庫)  とある魔術の禁書目録21
鎌池 和馬 電撃文庫
とうとう21巻。電撃文庫最長シリーズの記録更新中なのかな?
ロシア編も展開部へ。前回までは当麻・一方通行・浜面の3人が交わりそうで交わらないラインを歩いていたけど、今回は交点が訪れて──交点が訪れた以上、これまでになく大規模な戦闘イベントが勃発します。
これまでにも何度も、「このシリーズは一見緻密膨大な設定が一番の売りのように思えるけれど、それはあくまでもアクセサリー的なもので、本質としては勇気と熱血でもって不可能状況を突破していく往年の少年漫画的なカタルシスが魅力なのではないかと思う」的なことを書いているのですが──今回の桁はずれな戦闘インフレーションも、そう思うと特に気にはならない気がする。
それぞれのパートが全部いいところで引きになっているので、次回が楽しみです。ところで、このシリーズって今回のロシア編(あるいは次あたり)がクライマックスなのかなあ。世界の魔術側のトップ勢力のリソースが、そろそろ尽きかけているような。あるいは、今回のロシア編でもって形成される連合勢力VS学園都市中核みたいなところがオーラスになってくるのかな。

10年8月24日 
現代思想の冒険 (ちくま学芸文庫)  現代思想の冒険
竹田 青嗣 ちくま学芸文庫
この間、現代思想入門書の『現代思想のパフォーマンス』を読んだので、この機会にもうちょっとおさらいをしておこうと思って久しぶりに再読しました。初めて読んだのは16,7年前の学生の頃で、哲学や現代思想分野も面白いなあと思ったのはこの本がきっかけだったような気がする。
前半は、ソシュールからポスト構造主義の直前くらいまでの現代思想史の流れを簡潔に追っていて、後半はそこに至るまでの哲学(デカルト以降)の命題の変遷が語られていきます。筆者の専門がフッサールの現象学なので、後半パートちょっとフッサール贔屓しすぎ、ってところはありますが、いま読んでもやはり解りやすい。
ソシュールから構造主義までの部分をさらっと追いたい(あるいはおさらいしたい)という目的だと、この本と『現代思想のパフォーマンス』(光文社新書)、『はじめての構造主義』(講談社現代新書)あたりがフラットでわかりやすい気がします。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年8月9日 
司書とハサミと短い鉛筆 7 (電撃文庫 ゆ 1-24)  司書とハサミと短い鉛筆 7
ゆうきりん 電撃文庫
今月の電撃文庫読書2冊め。シリーズ最終巻。
やっぱりネタバレになってもいけないのであまり多くは書けないですが、各方面の最終決戦と決着あり、謎の解明あり、<ネタバレ?>ちょっと切なめなお別れ</ネタバレ?>ありで――やっぱりゆうきりん作品って、シリーズ通して安定しているなあ。
クライマックスの戦闘がメインの巻なので、雲木さんの出番がやや少なめなのが唯一の残念ポイント。いやこれはさすがにしかたがないのですけれどね。彼女の外伝とか出ないかなあ。(いやそれこそ無理だろ(汗))
しかしほんと、はいてないを最後の最後まで引っ張るとは天晴れすぎる。

■前巻までのレビュー
 第1巻(08年07月24日)
 第2巻(08年11月07日)
 第3巻(09年04月08日)
 第4巻(09年08月07日)
 第5巻(09年12月08日)
 第6巻(10年06月09日)

10年8月6日 
クロノ×セクス×コンプレックス 2 (電撃文庫 か 10-18)  クロノ×セクス×コンプレックス 2
壁井 ユカコ 電撃文庫
そんなわけで、今月も電撃文庫ウィークがやってまいりました。最初の一冊。

刊行が延期されているなあと思っていたら、イラストレーターのかたの交代があったりしたのですね。交代は事情もあるっぽいのでやむをえないとしても、ひとつだけ言いたい。
新しい挿絵にニコさんのイラストが一枚もないのはどういうことか! うう、せっかくの赤毛三つあみそばかす眼鏡というフルコンプな組み合わせをっ。

タイムリープものという物語の性格上、感想に何を書いてもネタバレになってしまいそうでなんなのですが、今回も学園不思議冒険モノのわくわく感と、キャラたち微妙での繊細な心理的さや当てが描かれた、読んでてぐいぐい引き込まれる一冊でした。

あと、あれです。
事情は知っていつつも、主人公のミムラさんに普通に元気っ娘として萌えそうになっている自分に気付いて危機感を覚えています。
今回は次巻への引きで終わっているので、次が楽しみです。そして3巻こそはぜひともニコさんのイラストがあることを祈る。
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年11月09日)

10年8月6日 
笑わない科学者と神解きの魔法使い (HJ文庫 う)  笑わない科学者と神解きの魔法使い
内堀 優一 HJ文庫
わけあり13歳少女魔法使いを世話することになった21歳科学者が主人公の同居系年の差ラブコメディちょっと変わった現代伝奇アクション。こういう「未成年の女の子とひょんなことから同居する」というシチュエーションの物語というのは数多いけれど、ふたりの距離感、のようなものがポイントになってくるのだと思います。表向き犯罪にならないシチュ内で、どこまであざとくもうお前ら結婚しちゃえよ的空気を作り出すか、みたいな。そういう意味主人公の耕介さんの、表情がなくきわめて理性的で天然で朴念仁というキャラクターは実にこのシチュ向けによくできていると思う。
と思ったけどやっぱりこれは犯罪ですな。裸ワイシャツ(違うけど)はねえだろう。

周囲の人たちがちょっとアクが強すぎるきらいは1巻から引き続いてあるのですが、ヒロインの咲耶さんの可愛さだけでいけるシリーズだと思います。理知的な天然娘ってけっこう好き。
しかしあれです。今回のこれは仕方ないとはいえ、やはり魔法使いにはネコミミではなく三角帽子だろう。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年04月12日)

10年8月6日 
東京皇帝☆北条恋歌 6 (角川スニーカー文庫)  東京皇帝☆北条恋歌 6
竹井 10日 角川スニーカー文庫
ナンセンスラブコメ街道一直線な第6巻。
これほど悲壮感を伴わない記憶喪失シチュって初めて見たよ! <ちょっとネタバレ>前巻ラストのあの暗転的な引きは何だったの!?</ちょっとネタバレ>
あと、ハーレムものといってもどちらかというと主人公の一斗くんは周りの引き起こす騒ぎに毎回巻き込まれて難儀、なイメージがあったのですが──記憶喪失中の天然でフラグを乱立するふるまいを見ていると、なんかあれだ、お前も悪いよとか思わなくもない。

相変わらずゆかり子さんが可愛いと思う。しかし、毎回書いてるけど、初めに出てきたときのあの堅物侍キャラの気配はもはやどこにも求めようがないな……

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年05月30日)
 第2巻(09年06月24日)
 第3巻(09年10月04日)
 第4巻(10年01月14日)
 第5巻(10年05月09日)

10年8月6日 
妄邪船 人工憑霊蠱猫 (講談社文庫)  妄邪船 人工憑霊蠱猫
化野 燐 講談社文庫
人口蠱猫シリーズも、早くも第6巻。今回も例によって600ページ超のボリュームです。
デジタルデビルシリーズと京極堂シリーズと森博嗣作品を足して斜めにひねったような妖怪伝奇もの。時々こう、そりゃ反則だろう! というストーリー展開があったり、敵の雑魚キャラがあまりにもしつこくってうっとうしかったり、逆に美形ボスがチープだったり、挙げてしまうと個人的にいろいろ難点はあるのですが──でも、読み始めると600ページをちっとも長く感じない不思議な魅力がある。不思議なシリーズです。
今回は、主人公の白石くんが純粋にメインな話なので、あまり斜めな超展開ではありませんでした。白石くんと、長らく消息不明になっていた「彼女」の話。この娘、元気娘っぽい気配がしてひそかにお気に入りキャラだったのですけれど、これでさすがに登場は一段落なのだろうなあ。ちょっと寂しい。

天然眼鏡天才SEの百代さんは相変わらず可愛いです。あと、今回はポニテ女狐諏訪苑子さんが出番少なかったのが残念。竜造寺との敵味方に分かれた痴話ゲンカが、次の巻ではまた見たいです。


10年8月6日 再読
東京ハイカラ散歩 (ランティエ叢書)  東京ハイカラ散歩
野田 宇太郎 ランティエ叢書
いまはあちこちの出版社で様々な著者によって書かれ、趣味系雑誌などでもよく特集が組まれる「文学散歩」。その元祖ともいうべき一冊なのだそうです。日本各地の文学ゆかりの地を歩いてしたためた著者の随想集の中で、東京の山の手下町を中心に書かれたのがこの一冊。樋口一葉が過ごした本郷の路地や、永井荷風の散策の道を訪ねて歩きます。
全体的に、良き当時を偲んで現状を嘆く筆の調子で、個人的にそのタイプの随想というのは好みではない(最初に読んだ時は、もっと老境に入ってからの随筆だと思ってて、42歳の作品とは思わなかった)のですが──これが書かれたのは戦後6年目、あちこちが空襲で焼けて、かろうじて残された古い街並みも計画的な保存などを行う余裕はなかった時代。やや後ろ向きな感傷が随想の主を占めるのも、当然といえば当然のことなのかもしれません。
現在では、この随想にとり上げられた路地や建物の中にもすでに見ることができなくなっているものも多いですが、それでもなお残った文学の遺構をこの本を片手にのんびり散歩するのも面白いような気がします。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年8月6日 
いわくつき日本怪奇物件 (ハルキ・ホラー文庫)  いわくつき日本怪奇物件
福澤 徹三 ハルキ・ホラー文庫
夏なので、怪談ものでも一冊と思って。
なんだかんだいって、実話怪談物って好きで読んじゃうのですよね。

集合住宅、街道、トンネル、スタジオ、橋──いわゆる「いわくつき」と言われるスポットでの体験談をもとに筆者が編んだ怪談集。『再生ボタン』などを書いている福澤 徹三なので、突き放すような筆調が淡々と怖いです。
個人的に、あまり派手なオチがついた話より、日常の脇を不可解なものが不意に横切っていくタイプの怪異譚がより不気味で好み。この本の中では、『アイドルの顔』という話が怖かったです。

あと、『板前』という話にでてくる「神奈川県N駅前にあった喫茶店B」ってたぶん、最近日記にも書いた、昔よく執筆に使ってた喫茶店だ……(汗)
いえ、いいお店でしたし、僕は別に変なことはなかったのですけれど。

10年8月6日 再読
現代思想のパフォーマンス (光文社新書)  現代思想のパフォーマンス
波江 和英 内田 樹 光文社新書

20世紀の現代思想のキーマン6人(ソシュール、ロラン=バルド、フーコー、レヴィ=ストロース、ラカン、エドワード=サイード)を選んで、それぞれについて

【案内編】その思想家の簡単な来歴
【解説編】思想(方法論)の概略
【実践編】その思想(方法論)を用いて、作品(映画・小説等)を読み解く

という構成で解説を行った、現代思想入門書。先日久しぶりに読んだら思いのほか読みやすかったので、ちょっと日を置いてもういちど付箋挿みながら読んでみました。
入門書としての中核になっている【解説編】の理解しやすさももちろんなのですが、この本の特色は何といっても3つめの【実践編】だろうと思います。
筆者も冒頭で述べているとおり、現代思想は「使う」ためのものだと僕も思う。哲学はものによってある程度それ自体が答えを内包している構造になっていることも多いけれど、現代思想(ソシュール前後からの)は方法論としての意味合いが強いので、それ自体を習得して完結するとまったく意味がない。その思想をツールにしてテキストなり記号の群れなりを切り分けていくところにはじめて面白みがでてくるものでしょう。
なので、解説編でそれぞれの思想家の方法論を学んだすぐ後で、それを使って題材を読み解く「例題」が用意されている構造というのは、現代思想を楽しむという観点からすると実によくできているのだと思います。
6人を選んだ選択基準に関しては、ソシュールとレヴィ=ストロースあたりを除いては人それぞれ是非があろうかと思われますが、入門書としてもおさらい用の本としてもぴったりの一冊です。今度また読もう。

個人的に、エドワード=サイードはあまりこれまで触れたことがなかったので、この本で興味がわきました。【実践編】の題材になっている映画『エム・バタフライ』も面白そうだなあ。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年8月2日 
“菜々子さん”の戯曲  Nの悲劇と縛られた僕 (角川スニーカー文庫)  “菜々子さん”の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕
高木 敦史 角川スニーカー文庫
第13回角川学園小説大賞優秀賞受賞作。
小学校時代に校内で起こった事故によって、病院での暮らしを余儀なくされた少年と、精神に傷を負って「名前」を失った少女。ある日、いつものように病院を訪れた少女は少年に、あの事故は「事件」だったのではないかと、独自の調査を行うことを告げて──

コンセプト的に、異色作といえるでしょう。何が変わっているかといえば、一人称語り手の「ぼく」が眼や口を含めて全身が動かない状態なので、ヒロインの菜々子さんとを含めて対話というものが一切存在しないまま話が進んでゆくことでしょうか。ヒロインの奈々子さんも、知的でアクティヴである程度饒舌なので、話の動きはあるのですが──「ぼく」が動けない(行動をともに出来ない)ため、病室の外のことはすべて彼女の口からの伝聞になります。結果として、二人の安楽椅子探偵が別々に推理を行う変則ミステリという感じのストーリー構成になっています。
ヒロインの菜々子さんは、帯に書いてある「まったく新しいヒロイン」というよりは、ライトノベルのキャラ手法である属性の一点をデフォルメするやり方ではなくある程度多面性を持たせた(非ライトノベルジャンル寄りな)造詣になっていて、新しいキャラパターン、というのとは少し異なるかもしれないのですが、知的で快活でちょっと狡猾、という雰囲気は魅力的です。
全体的に底意地……というか性格の悪いタイプの物語なので好き嫌いは分かれるかと思われますが、個人的にはこういうタイプの変則ミステリは好み。


10年8月2日 
羽月莉音の帝国 2 (ガガガ文庫)  羽月莉音の帝国 2
至道 流星 ガガガ文庫
「新しい国家を作る」という野望を抱いた女子高生とそれに付き合わされることになった少年少女たちが、株式会社を設立して経済社会の中で成り上がっていく──なんだろう、1巻ではギリギリ学園小説ジャンルだったような気がするのですが、1巻ラストで株式上場して社長になっちゃったんで、さすがにもう学園小説とは呼べないかな。
2巻は、1巻で入手した会社を再生させるための新事業の展開と、大企業とのM&M合戦が展開されます。
実際のところ、ビジネス小説として見れば穴はいくらでもあるのだと思います。今回の展開にしても、ハイリスクな手法で資金を集めている段階で、情報収集能力もある敵対企業がその間手をこまねいて見ていてくれるはずはないとか、いろいろ都合のいい展開はある。
ただ、そのあたりは痛快なライトノベルとして力押しし、一方で経営手法の関連ではある程度リアルっぽい言葉を並べて引き込むという、非リアルとリアルをうまく使い分けて痛快さを演出するやり方はけっこうはまっている気がします。うまく事が運びすぎ、とは思いつつも、読んでいてけっこうスカッとカタルシスがある。
2巻のラストは、これまでにない大ピンチの引き。続きがすでに出ているので、早速買ってくるかな。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年03月20日)

10年7月31日 
迷宮街クロニクル4 青空のもと 道は別れ (GA文庫)  迷宮街クロニクル4 青空のもと 道は別れ
林 亮介 GA文庫

最終巻である4巻が発売されているのは数ヶ月前に知ったのですが、どこの本屋さんにいっても見つけることができず、先日やっと見つけて読了しました。
京都に開いた底知れぬ地下迷宮の入口――それぞれの事情を抱えて迷宮に潜る数多の冒険者たちの日々を描く、迷宮街叙事詩。
3巻以前の感想にも書いたのですが、コンセプトとしては「ウィザードリィの迷宮と付属設備が、もしも現代日本存在したら」というごく単純なところから始まっているシリーズだと思われます。WIZの迷宮がモデルになっていることは、地下一階で定位置エンカウントする幽霊の名前が『エディ』だったり、今回の巻で冒険者たちが建設の警備に携わる地下4階層までのゴンドラにもあらわれていますし。
WIZの素材としての特性を活かし、かつWIZプレイヤーたちがプレイしながら頭の中で空想補完していた様々なストーリーを、現代日本という舞台に置き換えて描き出した作品。それがこの、「迷宮街クロニクル」だといえるでしょう。

この物語を深く印象づけるのは、以前も書いたのですが、迷宮における命の「軽さと重さ」、のようなものが実に緻密に描かれていることだと思います。
死亡フラグのようなものは、この物語には存在しない。ぱっと出のキャラであろうが、間違いなくシリーズラストまで生き残りそうな印象のレギュラーキャラであろうが、数ページ前までは何の予感も抱かせないまま、一瞬のミスやタイミングの狂いによって迷宮内に散っていきます。仲間をかばって、というような理由の死もあるけれど、大半の死はヒロイックなものではない。冒険者全体の趨勢には関わりない、単純なミスから生じた全くの犬死にをするキャラも数多いです。死ぬ間際に仲間に遺言を残すようなシーンもなく、亡骸も、端正な容姿のキャラであろうが迷宮内で死んだら良くて足一本くらいしか残らない。作品内において、冒険者の死はあくまでも「劇的」な要素を排して記されます。
筆者が筆を多く配しているのは、死のシーンよりも、ひとの死の後に生じた――予期もせず突然ぷっつり断ち切られたひとり分の生活のあとに生じた、空洞の部分です。同じパーティのメンバーはもちろん、交流のあった他のチーム、噂程度にしか名前を知らなかった冒険者、迷宮街から離れたところで暮らす友人や親類、彼/彼女が立ち寄っていた酒場や武器商店のアルバイト店員――そうした人々の動きを、あくまでも感傷的にではなく静かな描写で重ねていくことによって、人がひとりいなくなるということの重みを描き出していく。通常のシーンでキャラクターたちの「日常」が繊細に積み重ねられているからこそ、いっそうその重みは堪えます。

リアリティという意味では、他の迷宮冒険モノが物語に進行のためにあえて省いてきた部分を、むしろ中心に据えていることもこの作品の特色だと考えられます。
今回、第四巻の話のメインになっているのは、上にも書きました「冒険者を運ぶゴンドラ(エレベーター)の建築」。冒険者たちに課せられた役割は、戦闘能力を持たない工務店の技術者たちの作業を、迷宮内のモンスターの襲撃から守ること。最終巻としては実に地味な使命と思ってしまいますが――始まってみると、「非戦闘員の作業を迷宮内でガードすること」がいかに困難で危険な役割であるかが明らかになっていきます。4層を貫くゴンドラなので、各層の作業ポイントの周りにバランスよく冒険者たちがガードにつかねばならない。警備の穴を作ることは許されないから、戦闘で欠員が出れば互いのフォローは迅速に行わねば作業が崩壊する。そうした多々の困難に直面しながら行われていく作業の描写に、最後まで惹きこまれました。

正直に言って、読みやすい話でも入りこみやすい話でもないです。僕自身、最初「ちょっと冗長な話だなあ……」という印象を受けて、1巻を読んでから2巻を手にとるまではけっこう間が空きました。のめりこんだのは、2巻の途中でだんだん話のコンセプトが把握できてきてからです。
キャラクターが実に多人数で、しかも現実世界の人物の枠を超えた個性付けはあまり行われないので、なかなか区別がつきにくい。しかも、通りすがりのように一回しか出てこないキャラクターも多いです(実際、そういうキャラクターが作品世界の空気を作るのに重要な役割を果たしているのですが)。
カタルシスも少ない。あえてカタルシス的なものを除外して、冗長ともいえるペースで進むシリーズです。なので、スピード感もあるかといえば、ないと言わざるをえない。

でも、それでも、お勧めしたいシリーズです。例えば、一瞬でキャラが死亡する初期TRPGやウィザードリィを経験したかたに。逆に、そのあたりの古典ゲームにはこれまで縁のなかったかたにも。
読んで得るところの大きい作品だと思います。
冒頭にも書いたとおり、どこの本屋さんにいっても4巻を見つけることができなくってやきもきしたのですが――実はひそかにシリーズ購読しているかたが多かったのかな。もしそうだったら、とても嬉しい。
★★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(08年11月17日)
 第2巻(09年04月21日)
 第3巻(09年10月19日)

10年7月30日 
テルミー きみがやろうとしている事は (集英社スーパーダッシュ文庫)  テルミー きみがやろうとしている事は
滝川 廉治 集英社スーパーダッシュ文庫
クラスメイト24人が亡くなった修学旅行のバス事故――そのバスの中で唯一生き残った少女と、行事を欠席した故にバスに乗らなかった少年。少年は、亡くなった24人の最後の想いが少女の意識のなかに宿っていることを知り、その願いを叶えてゆこうとする少女に協力を申し出る。
戦闘シーンがなく、かつラブコメ要素もない、こういうタイプの物語はライトノベルジャンルで久しぶりに読んだ気がします。<ネタバレ>願いをひとつ叶えるたびに友人との別れがあるという設定</ネタバレ>は、一見泣かせ系に流れていきそうな先入観がありましたが、そういう作意的な演出はほとんど見られず。淡々と、けれども力強く少年少女達の想いが描かれていきます。それゆえにかえって、読んでいて気持ちを動かされる。
良作でした。続きが書けそうな引きだけれど、個人的には1巻完結のままでいいかな。
★★

10年7月30日 
ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下) 新潮文庫  ローマ人の物語 5   ハンニバル戦記(下)
塩野 七生 新潮文庫
3巻にわたるポエニ戦役編――ハンニバル戦争編の最終巻。
1、2巻のローマ建国編と3巻の第一次ポエニ戦役(ハンニバル登場以前)を読んだ時点では、敗者を自発的に融合させていくシステムを持ったローマを、ハンニバルのカルタゴがこれからどのように揺さぶれるのかというのが実に興味深かった。
それに関しては、結果としてカルタゴはハンニバルの圧倒的な戦術・戦略の才でローマを存亡の危機にまで追いつめたけれど、ローマの統治政治の軸を根本から揺るがすことは最後までできなかったのだという印象を受けます。対するローマは、戦地にあったスキピオが、それまでに築かれた自国の政治システムを利用しながら戦っていた(晩年で足を引っ張られるけれど)。そこが、最終的な勝敗を分けた点だと思う。もしもカルタゴの側に、ハンニバルの戦術戦略のレベルに呼応する政治的な才の持ち主があって彼を本国から支えていたら、また異なる結果があったのかもしれない。この戦争で、ローマはカルタゴを敵にしていたというよりは、ハンニバル一人を敵にしていたような気がします。
そう考えると、バックアップもなく個人の才でローマという国一つと互角以上に渡り合ったハンニバルの能力は本当に並外れていたのだと思う。ミーハーな見方ですが、人物的にもストイックでかっちょええしなあ。戦死したローマの武将、「イタリアの剣」マルケルスの亡骸の処遇に関しての彼の言動は、読んでて震えが走るくらい魅力的でした。

ポエニ戦役の終末付近にローマのなかでも政治システムの変化が生じ、寛容で柔らかな(それゆえに強固な)侵略国家としてのローマの時代は終焉を迎えます。ここからローマは、いかなる発展を遂げていくのか――
しかし、ここまで読んだ時点でかなりのボリュームを感じるのですが、ローマ史はむしろここからなのですよね。2度の三巨頭政治も帝政ローマの誕生もカリギュラもネロも五賢帝も軍人皇帝時代も東西分裂もキリスト教公認もまだこれからなのか。
いまさらながらですが、ローマ史とこのシリーズ、やっぱり面白いですな。わくわくします。
★★

10年7月30日 
ローマ人の物語 (4) ― ハンニバル戦記(中)    新潮文庫  ローマ人の物語 4   ハンニバル戦記(中)
塩野 七生 新潮文庫
(感想は、5巻にまとめて書きます)
★★★

10年7月30日 再読
古代哲学への招待―パルメニデスとソクラテスから始めよう (平凡社新書)  古代哲学への招待 パルメニデスとソクラテスから始めよう
八木 雄二 平凡社新書
古代ギリシャ時代の哲学の流れを、パルメニデスとソクラテスという二人の哲学者の思想を軸に読み説く古代哲学史入門。内容的には、自信の著作というものが残っていない――弟子のプラトンらが師の言葉として語ったものを通してしか知られていないソクラテスの思想について、プラトン達が行った記述・解釈の恣意的な部分を取り除き、ソクラテス本来の思想を浮き彫りにする。その上で、ソクラテス(あるいは、パルメニデスやピタゴラス)が与えた影響を考慮しながら、ストア派・エピクロス付近までのギリシャ哲学について語られていきます。
久々に読んだのですが、それぞれの哲学者を考察する段階でその思想が簡潔にまとめられている点、思想だけではなく歴史内での彼らの行動が併記されているので、ギリシャ哲学をおさらいしていくのにぴったりな一冊だと思いました。ただまあ、軸になっているソクラテスの思想の部分に筆者の解釈が入っているところはあるので、完全に鵜呑みにしてはいけないのでしょうけれど。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年7月28日 
白夢4  雲壁の彼方へ (富士見ファンタジア文庫)  白夢4 雲壁の彼方へ
瀬尾 つかさ 富士見ファンタジア文庫
異世界からの来訪者とある時は斬り結び、あるときは交流の道を探りながらこの世界と自分たちのあり方を探る少年少女たちの、すこし不思議な現代伝奇ファンタジー。今回が最終巻です。
コンセプトが独特なこともあって、自分のテンション的にはスロースターターだったのですが――終わってみればこのシリーズ、地味に好きになってました。
瀬尾つかさ作品はこれまで読んだ三シリーズとも、人類と未知なる種族とのコンタクト、そのコンタクトの窓口の役を担うことになってしまった少年少女たちの群像劇になっています。そうした位置に置かれながら、少年少女たちの心の動きが実にみずみずしく身の丈に合っていて、素直に青春ファンタジーとして読めるところがいいなあと思う。

あと、前にも書いたのですが作者さんはかなり純度の高い元気っ娘好きな気がします。1シリーズごとに必ず、僕的にストライクな元気っ娘が登場する。今回の雪姫さん、がむしゃらだけど可愛かったなあ。

4巻で唯一残念だったのは、3巻では大活躍だった主人公の友人の月丸くんが出番がなかったことでしょうか。こんなカッコいいロリコン男キャラ、久しぶりに見た。彼の外伝とかぜひ読みたいです。


■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年06月22日)
 第2巻(09年10月23日)
 第3巻(10年03月03日)

10年7月28日 
まよチキ!4 (MF文庫J)  まよチキ!4
あさのハジメ MF文庫
男装ボクっ娘執事と女性恐怖症主人公の学園ラブコメ、第四巻。もう四巻か、ペース早いなあ。
3巻の感想でちょっと予測したとおり、今回の表紙は彼女です。ネタバレになってしまうので詳しくは書けないのですが、内容でも大暴れというか。
しかしアレだな。出てくる女の子キャラ女の子キャラ、どの子もどの子も精神か身体能力のいずれかあるいは両方にデンジャラスマークがついてる気がするな。かなり極まったツンデレキャラであるはずのマサムネさんが、実にこう、良識派キャラに見えるくらい。
キャラの個性が引き起こすドタバタのみに特化して勝負! というコンセプトっぽいシリーズですが、そのキャラが躍動的でノリがいいのでさくさくリズムよく読めます。ボクっ娘コンセプトのあざとさのようなものって普段はどちらかというと苦手なのですが、ここまでぐぐっと押してこられると可愛く思えてしまう。
巻末でちょっと展開があったし、次巻が楽しみです。



■前巻までのレビュー
 第1巻(09年11月26日)
 第2巻(10年01月26日)
 第3巻(10年05月09日)

10年7月27日 
いばらの呪い師 (ガガガ文庫)  いばらの呪い師
大谷 久 ガガガ文庫
大正〜昭和初期あたりの東京を模した「帝都」を舞台に、負の感情を現象に換える「呪い」の能力を持った兄妹が、超常能力を操る怪盗と戦いを繰り広げる活劇もの。
ヒロイン(主人公の妹)と主人公のキャラクターが、ちょっとイチャイチャ度が濃すぎて個人的に受け付けないところはあったのですが──活劇向きに構築された帝都の設定と雰囲気、二転三転するスピード感のある展開が好みでした。眼鏡秘書さんいいな。次の巻があったらもっと活躍しないだろうか。

10年7月27日 
ヘヴンズ・ダイアリー002 (富士見ファンタジア文庫)  ヘヴンズ・ダイアリー002
直江 ヒロト 富士見ファンタジア文庫
世界の命運をかけて天使と堕天使が策略と抗争の糸を張り巡らせる、学園天然ラブコメディ、第二巻。
今現在読んでいるライトノベルでいちばんお馬鹿な作品を選べと言われたら、このシリーズは確実に候補に入ると思います。ヒロインの天翔さん、こんな頭の弱い女の子キャラ久しぶりに見たよ!
ただこう、お馬鹿さ加減が読んでいて辟易しないのは、キャラ的に果てしなく人畜無害なところと──あとは、作者の筆力ゆえに、お馬鹿なダメさがわざとらしくなく心底ナチュラルに描かれているからなのでしょうね。
しかし、こういう娘に世界の命運を握られたんじゃ、敵も味方も世界そのものもそりゃ、こういう風にダメになっていくよなあ……。
いい意味で、1ページに一回くらい全力で脱力できる、良質なコメディだと思います。説明してもなかなか伝わりにくい空気なので、ご興味のある方はぜひとも。
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年03月25日)



10年7月15日 
神明解ろーどぐらす 2 (MF文庫J)  神明解ろーどぐらす 2
比嘉 智康 MF文庫
下校に情熱を燃やす高校生の少年と、ひょんなことから下校仲間になった女の子たちの、ゆるゆるだけれども時に熱い放課後ライフ、第二巻。
いや。この話、けっこう地味に良作な気がします。放課後という時間特有の、はたから見れば馬鹿なことが当人たちにはひどく楽しいあの感覚が作中に現れてて、読んでて思わずニヤニヤしちまいます。
こういう日常ものというのはやはりキャラの魅力あってこそなのだと思いますが、そそこがまたツボを押さえていて。女の子3人とも可愛いのですが、なんといってもヒロインの千歳キララさんが。この、「堅物喋りの超ネガティヴキャラ」という一見へんてこな取り合わせが、絶妙にマッチしてます。なんというか、久しぶりに新しいヒロインキャラパターンを見た気がする。
個人的には、大きな山とかはなくってもこのままゆるっと続いてほしい気がしますが、次あたりから関係の変化も起こってくるんだろうなあ。いずれにしても、続きに期待です。

★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(10年04月12日)

10年7月15日 
ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上)    新潮文庫  ローマ人の物語 3 ハンニバル戦記(上)
塩野 七生 新潮文庫
2巻からちょっと読むのにブランクあけちゃいましたが、ローマ人の物語の3巻目。今回から3冊はいよいよ、カルタゴ──ハンニバルを向こうに回してのポエニ戦役です。
今回は、ハンニバルとスキピオのひとつ上の世代。シチリアを巡っての、第一次ポエニ戦役とその戦後処理までが描かれます。
感想は5巻まで読み終えてからまとめて書きますが──前巻でも感じたとおり、ローマの長所というのは支配下に置いた地域を支配するのではなく、自然に融合させてしまう戦後処理の巧みさ、計算高い寛容性にあるのだと思います。シチリアをめぐってもその戦略は成功をおさめていきますが、ここから第二次ポエニ戦役の苦戦へとどのようにローマが追い込まれていくのか、4巻はそこが楽しみです。

10年7月15日 
不堕落なルイシュ (MF文庫J)  不堕落なルイシュ
森田 季節 MF文庫
うわ。プラスマイナス両方の意味でこれはひどい。
2つ前レビューの「地球の切り札」の鷹見 一幸の筆を、意識している感のあるちょっとぎこちないイタさと書いたのですが、こっちはナチュラルで滑らかなイタさだと思います。(あ、褒め言葉としてですよ)
なんだかこう、ストーリーとかうまく説明しようがないのでご興味のあるかたはamazonのリンクをご使用ください(汗)
とんじゃってるキャラ付けとストーリーは、個人的には読んでて面白いのですけれど──ただまあ、かなりアクは強いので、というかアクの強さが主軸の話なので。日日日作品の前半展開あたりを抵抗なく読めるというかたなら、半々くらいの可能性で最後まで生き残れるかも。
森田 季節 作品はこれで読むの4作目ですが、読めば読むほど作者の方向性がわからなくなっていくなあ。個人的に好きな順ではビター>桜木メルト>本作>原点回帰でしょうか。

10年7月15日 
隙間女(幅広) (電撃文庫)  隙間女(幅広)
丸山 英人 電撃文庫
今月は、電撃文庫に読んでいるシリーズや作家さんの本がないという珍しい月。とはいえ新刊を一冊も読まないというのもなんか物足りないので、直観でてきとうに手に取ってみることにしました。
ぽっちゃり系好きな大学生の部屋に突然現れた隙間女(隙間女にしてはぽっちゃり気味)さんとの日々を描く表題作をはじめ、都市伝説をモチーフにした独立した5つの物語から成る短編集。
紹介文を見た時には正直なところ討ち死に覚悟だったのですが、どの話もけっこう、ほのぼのした微笑ましい短編でした。自分としては、第三話の「デコは口ほどにものを言う」が好きかな。

10年7月15日 
地球の切り札  (1)彼女は最終兵器になりました。 (角川スニーカー文庫)  地球の切り札
鷹見 一幸 角川スニーカー文庫
前作「会長の切り札」と同じ、楢山町を舞台にした新シリーズ。とはいえ作品の雰囲気はまるで違っていて──偶然からとんでもないエネルギーを手に入れてしまった中学生の女の子が、地球の……というか、町の平和のために活躍するお話です。
うむむ。
前作あたりから鷹見 一幸作品には、現代ライトノベルジャンル特有の属性付けとかオタク世界用語が積極的に取り入れられているような気がするのですが、そこがちょっとぎこちないというか無理してる感があるというか──おじさんが無理やり若い子に話を合わせようとして流行の若者言葉を使っているのを見た時のようなこそばゆさが否めない気はします。(あ、あくまでも例えであって、作者が年だというわけではないです)
ただまあ、今回のシリーズはそういう痛々しさを逆手にとって利用しているところもあると思うので、こそばゆさを感じるということはこっちが作者の手の内にはまっているということでもあるのかな。
前作に引き続いての、ちょっと古風なドタバタストーリー展開は好きです。細香さん、かわいいしな。


10年7月8日 

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 めぐらし屋
堀江 敏幸 新潮文庫
堀江 敏幸の小説は、『いつか王子駅で』 (新潮文庫)を読んで以来のファンです。なにか、この人といえばこう! というひとことで説明できる際立った特徴があるわけではなく、日常の機微を淡々と静かに描いていく作風なのですが──でもやっぱり堀江作品は堀江 敏幸にしか描けない作品なのだと思う。
芥川賞作家なのですが、芥川賞作家らしいかというとそうではなく。かといって直木賞よりかというとそれもちょっとそうではなく。不思議な作風というか。うまく説明できないのがもどかしいのですが、読んでいてとてもゆったりします。
亡くなった父のアパートで、「めぐらし屋」と表紙に書かれた古いノートを見つけた主人公の「蕗子さん」。周りのひとたちの話を聞いていくうちに、どうも父はその「めぐらし屋」というものを生業にしていたらしいことがわかってきて──という、ちょっとミステリめいた展開ですが、やっぱり主要部分はミステリではなく。その謎を通して出会っていく人々の心の持ち様……それも、大きな感情の動きではなく、ほんとうに機微といっていい日常の中の気持ちの揺らぎが繊細に描かれていきます。

主人公の蕗子さん、おそらく年齢は四十過ぎなのですけれど、実に萌えます。真面目なのだけれどスローペースなおっちょこちょいなところが。
『いつか王子駅で』の主人公の家庭教師先の女の子(陸上部のおてんば中学生)も、06年の私的元気娘グランプリの銀賞に選んでいるのですが、堀江 敏幸の小説に出てくる女の人って心にストライクな人が多いです。

10年7月8日 
おやすみ魔獣少女  暗黒女神の《領域》 (角川スニーカー文庫)  おやすみ魔獣少女
川人 忠明 角川スニーカー文庫
身のうちに魔獣を宿し、その力を解放して戦う「領域魔術師」──故郷の村を離れて領域魔術師となった少女の運命を描くファンタジーシリーズの第一巻。
あまり奇をてらったところのない、素直なつくりのファンタジー活劇でした。こういう設定には王道といってもいい、制御を怠ると暴走の危機のある力を徐々に自分のものとしていく成長過程も描かれてきますし、強大な帝国に対しての小国の抵抗という構図もお約束。とはいえ、退屈なステロタイプということではなく、それぞれの王道がきっちり踏まれていて、変に尖っていないのが逆に気持ちいいです。
切迫した状況に対して、ややキャラが呑気というか認識が甘めなところもあるようには感じますが、軽快な活劇もの──いい意味でのライトファンタジーのような気がします。お元気少女のヒロイン、エストさんも可愛いし、次が楽しみ。

10年7月7日 
小説家という職業 (集英社新書)  小説家という職業
森 博嗣 集英社新書
森 博嗣が、小説を書くということ──小説書きを職業とすることについて語った一冊。 いわゆる、小説ノウハウ本というものとはちょっと毛色が違います。確かにこう、森 博嗣自身の執筆のスタイルや小説家としてのスタイルには随所で触れられていますが、これは森 博嗣だからこそできることであって、同じスタイルをとれる人間はいないだろうと思う。(それにまあ、これをノウハウ本とみてその方法論に染まってしまうというのは、そもそもこの本に書かれている主旨にもとると思いますし) 執筆に関することから出版業界の現状にいついてのことまで、一冊を通して切り口は鋭く(冒頭から、「僕は、小説がそれほどり好きではない」ですぜ)、森 博嗣の筆で書かれるのでなかったら暴論と見なされてしまうかもしれない箇所もあるのですが──森 博嗣はここで書いたとおりのスタイルを事実実践しているので、そうそう反論もできないでしょう。一見暴論のように見える箇所も、実のところしごくストレートに正論を述べているだけであったりしますしね。 森 博嗣らしく淡々飄々としているのですが、実に刺激的な一冊でした。

10年7月7日 
竜王女は天に舞う3 White Cage (MF文庫J)  竜王女は天に舞う 3
北元 あきの MF文庫
相変わらずシャルロッテさん(今回の表紙の子です)のエロ暴走がとどまるところを知らないです。赤眼鏡ショートカット幼馴染という属性にプラスして全開で犬耳属性まで加味されて、その加味された背景に係る危機感からちょっとた立ち位置が変わってくるかと思いきや──むしろライトノベルでやっていいギリギリまでパワーアップしている気がする。うむむ、こういう積極性をもったキャラって元来的には苦手なのですけれど、ここまで一直線だとだんだん可愛く思えてくるから不思議です。
堅物・ツンデレ・エロ幼馴染という個性的な複数ヒロインを配しての旅路もの、という色合いが強いシリーズですが、実のところ活劇ものとしてストレートに白熱できる物語だと思います。敵味方のキャストも揃ってきて、次回以降の展開が楽しみです。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年11月28日)
 第2巻(10年02月26日)

10年7月7日 
みにくいあひるの恋 3 (MF文庫J)  みにくいあひるの恋 3
日日日 MF文庫
恋をすると死んでしまう「恋の病」が蔓延した世界で繰り広げられる、少年少女たちのすこしアンバランスな恋愛模様、第三巻。
うわぁ……。今回はこう、実に痛々しい話でした。
前作「魔女の生徒会長」を読んだ時にも思ったのですが、日日日作品というのはアクの強さと純粋さ、黒さと白さが不思議な感じに溶け合っていて。表面上黒く見えるときには白さが、表面上白く見えるときには黒さがその根底で進行しているような気がします。今回は典型的に後者でした。
<ネタバレ>ラスボス? と思しきキャラもお目見えして、主人公二人の間にも決定的な障壁が築かれて、これは次巻かその次あたりで終幕かな。</ネタバレ>1巻を読んだ時にはペースがつかめなかったですが、気づけばけっこう引き込まれているなあ。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年09月27日)
 第2巻(10年02月02日)

10年7月2日 
ゼロ年代SF傑作選 (ハヤカワ文庫 JA エ 2-1) (ハヤカワ文庫JA)  ゼロ年代SF傑作選
SFマガジン編集部 ハヤカワ文庫JA
最近のSFジャンルを語るときによく言われる「ゼロ年代(世代)」という括りは実はあまり好きではなくって、それもあって見かけてからしばらく手にとらないできたのですが――沖方 丁・新城 カズマ・桜坂 洋・元長 征木・西島 大介・海猫沢 めろん・長谷 敏司・秋山 瑞人という顔ぶれ(あと、表紙はシライシユウコです)の短編集というのはやはり買わずにはいられない。
ほぼ全員、ライトノベルジャンルあるいはゲームシナリオ等に活動分野を有する作家さんですが、収録されている短編はキャラクター寄りではなく。どちらかというと硬質なSF短編となっているものも多いです。創元SFの短編集といい、ここのところ日本SFの短編集が数多く刊行されているのは、昔ハヤカワの年間ベストが好きだった身としては嬉しいところ。
収録作では、ラストの2編――長谷 敏司「地には豊穣」・秋山 瑞人「おれはミサイル」が読み応えがあって好みでした。

10年7月2日 
ななめカンナヅマ (ファミ通文庫)  ななめカンナヅマ
木村 航 ファミ通文庫
木村 航の作品はいろいろなレーベルから、油断してると忘れた頃にいつのまにか発刊されているような気がします。偶然秋葉原で本屋に入らなかったら気がつかなかった(汗)
はねっ返りの巫女さんと神さまたちが、刻が停まった楽園で遭遇する一大騒動。木村 航の作品らしく、冒頭から予告なく独自の筆調で独自の世界観が語られていくので、ペースにのりきるまでちょこっと戸惑いますが、読み進めていくとこの空気が心地よくなってくる。
盛り上がり等が強い作品というわけではないので、どちらかというと作品内に仕掛けられた神話学だったり心理学だったり民俗学だったりのシグナルを、筋に関係あるものから関係ないものまで含めて拾いつつ、ゆるりゆるりと読んでいく作品のような気がします。

10年6月30日 
ロウきゅーぶ!〈5〉 (電撃文庫)  ロウきゅーぶ! 5
蒼山 サグ 電撃文庫
今月の電撃文庫新刊読み、ラストの8冊目。
相変わらず通勤電車の中で読んでるとカバーをかけてても周囲の視線が気になってしまうシリーズです。今回の巻はとくに、海に行く話だけあって挿絵がどれもこれも危険すぎる。
主人公の昴くんは今回もなんかいろいろあらぬ疑惑をかけられてますが、どんな疑惑をかけられようともはや申し開きはできないと思います。全編条例違反みたいな展開です。
ただ、毎回書いているのですが、このシリーズは基本的に少女萌え小説の皮をかぶったスポ根少女小説なのだと思う。後半の展開は毎度ながら、微笑ましくも、萌えるというより燃える方向性で。がんばる女の子というのは可愛いですな。
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年02月12日)
 第2巻(09年06月14日)
 第3巻(09年10月14日)
 第4巻(10年02月13日)

10年6月30日 再読
山伏―入峰・修行・呪法 (中公新書)  山伏 入峰・修行・呪法
和歌森 太郎 中公新書
山伏──修験道の歴史を辿る一冊。
民俗学的なところというよりは宗教史的な方向からのアプローチが主で、それぞれの時代の権力といかに関わっていったか(あるいは、権力側が山伏たちをどう統制したか)、神道や仏教(ことさらに密教)とどのような相互関係・力関係を持っていたかに重点が置かれています。なので、各時代の山伏がどのような活動形態(装束などを含めて)を持っていたかというところを知りたい場合は、ちょっと物足りないかもしれない。
ただ、密接にかかわる仏教勢力との関係史部分は、実に興味深いです。神道と仏教の双方にかかる勢力なので、神仏習合史等の本と併せ読んでも楽しいのかも。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年6月30日 
妖怪アパートの幽雅な日常4 (講談社文庫)  妖怪アパートの幽雅な日常 4
香月 日輪 講談社文庫
妖怪アパートシリーズ、第四巻。
前の巻の時にも書いたのですが、ときどき話が現代社会批判っぽい色合いを強めてしまうとちょっとお説教っぽくなってしまって、鼻についてしまうところはあります。メールもネットも使いようによっちゃ気持ちの入ったコミュニケーションツールになると思うんだけどなあ。(ただまあ、これに関しては作品の色合い的なところにかかわってくるから、仕方がないのですけれど)
相変わらず秋音ちゃんはいいポニテ元気っ娘です。そして相変わらずアパートのご飯は美味そうだ。

■前巻までのレビュー
 第1巻(08年10月22日)
 第2巻(09年03月31日)
 第2巻(09年12月20日)

10年6月30日 
エアリエル―緋翼は風に踊る (電撃文庫)  エアリエル 緋翼は風に踊る
上野 遊 電撃文庫
今月の電撃文庫新刊読み7冊目。
「彼女は帰星子女」「銀鎚のアレクサンドラ」の上野 遊の新シリーズ(ということは、銀鎚は打ち切りなのか(泣))。
上野 遊は、良い意味で素直な作風の作家さんだと思います。キャラクターがあまりひねていないというか、とんがっていないというか。ヒロインキャラは主人公に対してちょっとキツめの立ち位置からスタートすることが多いですが、ツンデレというよりは意地っ張りという言葉のほうがよく似合う感じ。
善意がまっすにいい結果を産みすぎてちょっと受け付けないという向きもあるかもですけれど、これはこれでいいのだと思う。
今作は、飛行機でボーイミーツガールで冒険活劇な、わくわく要素の強い作品。ラストがちょっとあっさりでしたけれど、続きが楽しみです。

10年6月30日 
紙魚家崩壊 九つの謎 (講談社文庫)  紙魚家崩壊 九つの謎
北村 薫 講談社文庫
この間北村薫の短編集(「1950年のバックトス」)を読んだら、巻末解説でこの本のことが触れられていたので、なんとなく。
「1950年のバックトス」もそうですが、こっちもずいぶんヴァリエーションが広い短編集だなあと思います。ホラーから、太宰治ばりの新釈昔話まで計8編。これもこの間の短編集の時に書いたのですが、北村薫のようなタイプの作家がたまにホラー書くとほんとに怖いです。心の急所的なところにずっしり重くのしかかってくるというか。
短編2編に登場する千春さんが、ボーイッシュな女のひとで気になります。シリーズ化しないかなあ。

10年6月26日 
九十九怪談 第一夜 (角川文庫 き 27-11)  九十九怪談 第一夜
木原 浩勝 角川文庫
『新耳袋』の編者による、新たな実話怪談シリーズの第一巻。こういう実話系さながらの「オチもなく不可解なままの階段」のなんとも言えない不安さというものが好きなので、見るとつい買っちゃいます。
ちょっと前の都市伝説ブームなどもあって実話怪談系ってけっこう出版されたけれど、編集の仕方と筆の運び方──変に作為を加えずに突き放したほうが怖いということをよく心得ている点において、やはりこの筆者が第一人者だと思う。第二十二話の「ギシギシ」とか、実に気味悪いです。
話数が99なのは、『新耳袋』を読んだかたにはもはやよくわかる理由によるものと思われますが……例によって、少し底意地の悪い仕掛けもほどこされています。夏の夜のお供に、ぜひ。

10年6月26日 
神道入門 日本人にとって神とは何か (平凡社新書)  神道入門
井上 順孝 平凡社新書
神道の成り立ちと歴史、神仏習合や国学の興りと関わった幾多の変遷、神社本庁を中心とした現在の全国組織の構成、果ては戦前戦後に神道から派生した新興宗教の流れまで、わが国における神道というものの概要を説く一冊。
ただ、「神社」というものよりはあくまでも「神道」についての本なので、いちおう神社についても建築様式等についてざっと触れられてはいる者の、どちらかというと思想精神史的なところに重きが置かれている感はあります。なので、入門とは言いつつも、とっつきやすい本ではない。身近な神社についての知識としては、最近けっこう新書のラインナップも充実しているので、他の本(光文社新書の「神社の系譜」とか)を読んだほうがわかりやすいです。神仏習合についてはかなり詳細に流れを記しているので、その方面にご興味のある方にはお勧め。
(再読なので★つけ評価はなし)

10年6月26日 
ほうかご百物語〈8〉 (電撃文庫)  ほうかご百物語 8
電撃文庫
今月の電撃文庫6冊め。
少し前から予兆の出ていたアレがついに訪れて、いつもの平和でのほほんとした学園生活を護れるか否かを賭けての、今回は総力戦の巻です。
とはいえまあ面々が面々なので、敵が強大で展開がハードといっても、いつものハートウォームコメディな空気はそのまんま。これまで登場したキャラたちが勢ぞろいのわくわくする展開でした。吊り橋効果というべきか、いつもよりむしろラブコメ度は高めな気がする。赫音さんが実に可愛いです。
現在の電撃ラインナップのなかで、実はアニメ化したらヒットしそうな作品の筆頭ってこれのような気がするなあ。 。
★★

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(08年02月16日)
 第2巻(08年06月15日)
 第3巻(08年10月12日)
 第4巻(09年02月20日)
 第5巻(09年06月16日)
 第6巻(09年10月16日)
 第7巻(10年02月10日)

10年6月26日 
1950年のバックトス (新潮文庫)  1950年のバックトス
北村 薫 新潮文庫
北村 薫の、ミステリからホラー、なにげない日常もの、他の長編の外伝(後日談)的な作品まで23篇を集めた短編集。ちょっと前に読んだ恩田陸の「朝日のようにさわやかに」と、コンセプト的には同じ感じでしょうかね。サスペンスホラー短編に関しては僕の中で、「ふだん比較的穏やかだったり繊細で明るいタッチだったりする物語を書いている作家さんがホラー書くと静かに鋭い作品になることが多い」の法則というのがあって、赤川次郎のホラー作品とかがまさにそうなのですが、北村 薫もそれに該当するような気がするなあ。

しかし、『円紫さん』シリーズも止まって久しいし、久しぶりに北村 薫のシリーズ長編も読みたいなあ……と思ったら、ああっ、そういえばいつか読もうと思ってとっておいたベッキーさんシリーズ2巻の「玻璃の天」をまだ読んでないや。さっそく読まねば。


10年6月26日 
ピーチガーデン  3.ラスト・コノテーション (角川スニーカー文庫)  ピーチガーデン 3.ラスト・コノテーション
青田 八葉 角川スニーカー文庫
運命の恋人を巡るドタバタ修羅場ラブコメ、完結編の第三巻。
一巻を読んだときの印象は、もう直球過ぎるくらいのダメダメ空気系ハーレムラブコメという感じで、そのコンセプトそのものは最後まで変わらなかったのですが――三巻冒頭の急展開からクライマックスまでは、近年まれにみるくらい心がギリギリ締め付けられる展開でした。
<超ネタバレ>しかしあれです。自分的には容貌性格ともに美里さん一本だったのですが、やはりこういうふうになってしまうのかあ。まあ、あのまま主人公とゴールしてしまうと依存的な関係になってしまうので、自分の活路を見いだして成長して歩みだしていったというエンドとしてとれば、悪い終わり方ではないのかな。
いい元気娘さんでした。それだけでこのシリーズ読んだ価値が十分あります。
</超ネタバレ>



■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年12月08日)
 第2巻(10年03月04日)

10年6月26日 
アクセル・ワールド〈5〉星影の浮き橋 (電撃文庫)  アクセル・ワールド 5 星影の浮き橋
川原 礫 電撃文庫
今月の電撃文庫5冊め。
現在の電撃レーベルで、理屈抜きに面白いシリーズをひとつといわれたら、個人的にはこれを選ぶなあと思います。
謎の提示とそれが解けたときの展望の広がりとか、抑圧(敵から、内因心理的なものまで)とそれに打ち克つときのカタルシスとか、ほんとに絶妙で読んでて気持ちいい。1巻を読んだときには、ところどころ引っかかるところもある(そのときのレビューにも書いたのですが、タクムくんの心理の動きとか)印象だったのですけれど、巻を追うごとに引き込まれている気がします。 そういえば、先輩の本名って現時点でもまだ未出ですよね。サっちゃんかあ。うむむ。。
★★
■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年02月14日)
 第2巻(09年06月13日)
 第3巻(09年10月09日)
 第4巻(10年02月13日)

10年6月26日 
茶人たちの日本文化史 (講談社現代新書)  茶人たちの日本文化史
谷 晃 講談社現代新書
 日本における茶の発祥から、歴史とともに様々な変遷を遂げて近代に至るまでを、茶の文化に深く関わった人物を中心において語った、日本茶道史入門書とも言うべき一冊。
 茶の文化には独自の思想史・精神史がどうしても平行してくるので、一読して概要がつかめるというタイプの本ではありませんでしたが――千 利休レベルの人物はともかくとして、ほかはこれまで「名前くらいは見たことがある」くらいの知識しかなかった茶の世界の人物について、初めて目にする事柄も多々あって興味深かったです。利休の神格化が始まったのは江戸時代もしばらく過ぎてからだった件とか、抹茶にかなり遅れての煎茶の発祥と初期の変遷とか、そのあたりのところも初耳の知識が多かった。そのうちまた読もう。

10年6月17日 
ヘヴィーオブジェクト採用戦争 (電撃文庫)  ヘヴィーオブジェクト 採用戦争
鎌池 和馬 電撃文庫
今月の電撃文庫4冊め。
オブジェクトと呼ばれる巨大兵器による戦闘が「戦争」の常態となった世界で、オブジェクト乗りではない少年兵たちが自らの活路を切り開いていく物語、第二巻。
一見緻密でシビアな戦略・策謀モノに見えて、作者が鎌池 和馬なのでまあ、わりと知恵と勇気の名のもとに無理が通る活劇モノなのですが――「とある魔術の禁書目録」シリーズと同様、おそらく鎌池作品の魅力というのはその部分におけるカタルシスなのだと思う。到底無理そうなミッションや強敵をがむしゃらな手段で突き破る、少年マンガ的なカタルシス。
「とある魔術の禁書目録」シリーズで最近第三局に成り上がりつつある超脇役キャラ出自の浜面といい、「強大な存在のぶつかり合いの中における非ヒーローキャラの活路」というコンセプトが鎌池作品内で流行りなのかもしれないなあと思います。


■前巻までのレビュー
 第1巻(09年10月19日)

10年6月17日 
カオスの紡ぐ夢の中で (〈数理を愉しむ〉シリーズ) (ハヤカワ文庫NF)  カオスの紡ぐ夢の中で
金子 邦彦 ハヤカワ文庫NF
講談社現代新書の「複雑系とは何か」を久しぶりに読んだのでその弾みで。
日本における「複雑系」の研究の第一人者である筆者が「複雑系」について語ったエッセイに、異色作とも言えるSF短編を加えた一冊です。
エッセイ部分は、日本のこの分野の研究やマスメディアでの取り上げられ方に対する批判――というより愚痴がメインになっているようなところがあって、正直なところもうちょっとこう、複雑系研究の最前線がどうなっているのか的な話題が読みたかったなあというのはあるのですが。
一方、SFの短編『小説 進物史観』のほうはけっこう面白いです。物語のパーツを投入することによって自動的に物語を生成し続ける機械をめぐる、物語群の進化と突然変異、抗争と興亡の物語。軽妙なタッチながら、狭義のSFとしてきっちり作り込まれている話でした。
しかし、SF作家の円城塔の出自がこんなところだったとはまさか思わなかった。円城塔ファンのかたも、一見の価値はあります。



10年6月17日 
恋する鬼門のプロトコル (電撃文庫)  恋する鬼門のプロトコル
出口 きぬごし 電撃文庫
今月の電撃文庫3冊め。
上野周辺を舞台にした、幽霊が見える少年と自覚がないまま霊的に訳アリな少女たちが不可思議な事件に挑む、ラブコメ現代ファンタジー。
うむむ。個人的にはちょっと、キャラクターたちの恋愛の心の針の振れ幅がえらく急というか、ツンからデレへの移行とか、他の人に興味を持っていたところからの心変わりとかがあっという間なところが、読んでて戸惑ってしまう部分もありました。
ただ、上野やその周辺の舞台装置に絡めた様々なギミックは、都市モノ好きにとっては実にわくわくできるところがあります。アメ横の迷宮の話とか、いかにもありそうで。2巻が出たら、また違う町がテーマになったりするのかな。それはそれでおもしろそうな気がします。

10年6月17日 
レンタル・フルムーン〈3〉第三訓 星に願ってはいけません (電撃文庫)  レンタル・フルムーン3 第三訓 星に願ってはいけません
瀬那 和章 電撃文庫
今月の電撃文庫2冊め。
クールなツンデレ(デレないけど)少女たちとともにご町内から異次元にまたがる怪事件を解決する、ちょっと雰囲気の変わった禁書ハンター系活劇、第三巻。しかし、読めば読むほど「under」の作者さんとは思えないです。その、良い意味におけるダメさにおいて(笑)。特にこの、敵役に登場するキャラクターがどいつもこいつも、その。この世界、美形なキャラほど理性のどこか大切な部分の戒めが緩んじゃってるという法則でもあるのだろうか。
今回のクルンちゃんの話は、実にいとおしくていいエピソードでした。作品全体のちょっとB級な雰囲気もあいかわらずで、個人的には自分、このシリーズは好きだなあ。


■前巻までのレビュー
 第1巻(09年06月12日)
 第2巻(09年12月14日)

10年6月17日 再読
「複雑系」とは何か (講談社現代新書)  「複雑系」とは何か
吉永 良正 講談社現代新書
 ちょっと前に一世を風靡した複雑系科学――単純な作用の集合が相互の影響により、純粋な作用の総和を超えた突然変異的な乱れや、その乱れをさらに超えた規則性を生み出していく現象を扱う、分野のフレームを越えた科学手法。その複雑系科学の概要と成り立ちの経緯を説く入門書です。
この本を最初に読んだのは14年ほど前で、おそらくそのころに比べて内容も最前線から遠ざかってしまっているのでしょうし――別のネット記事で読んだところでは、本書でとりあげられているサンタフェ研究所の研究内容も、「ちょっとハッタリだったんじゃないの?」的な批判を受けてもいるようなのですが。それでもやっぱり、単純ないくつかのルールを付与されただけのCP内仮装生命プログラミングが、相互作用によって実際の生物群にもひけをとらない変異や進化を遂げてゆくくだりとかは、今読んでも純粋にわくわくします。
複雑系科学の黎明期にはいまより単純なネットワークしか存在していなかったコンピューターも、今やけた外れの性能とネットの広がりを見せて――このあたりの研究って、いまはどういうふうに行われているんだろう? しかしあれですね、こういう分野の科学者がコンピューターウィルスの製造に一枚噛んだりしたら、WEB世界はえらいことになりそうだなあ。あるいはもうなっているのか。そういう、いろいろな想像が膨らむ一冊です。


(再読のため★つけはなし)

10年6月17日 
ゴミ箱から失礼いたします 3 (MF文庫 J) (MF文庫J)  ゴミ箱から失礼いたします 3
岩波 零 MF文庫
 ゴミ箱から出られない妖怪ゴミ箱男になってしまった少年が仲間とともに妖怪に立ち向かう不条理コメディ、第三巻。
 今回は、ある意味難敵の登場です。これまで登場したメンバーを巻き込んでの大乱戦になっていくので、中盤まで読んで うわ、これはもしかして今回で最終回か? とも思ったのですが、まだ続くようで一安心。
 相変わらず萌太くんのツッコミは波長が合います。こういう「個性がきわだった複数ヒロインキャラ+ツッコミ型一人称主人公」の組み合わせの作品だとなんといってもツッコミの質でおもしろさが左右されるので――その系統の作品の中では個人的に現行で一番好きかもしれないです。ナンセンスコメディはかくあるべしというか。
 あとは、赤星さん妹の出番がもう少し増えてくれれば言うことないんだけどなあ。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年11月28日)
 第2巻(10年03月03日)

10年6月9日 
司書とハサミと短い鉛筆 6 (電撃文庫 ゆ 1-23)  司書とハサミと短い鉛筆 6
ゆうきりん 電撃文庫
今月の電撃は8冊。まあ来月は逆に、読んでいるシリーズの新刊が1冊もないというちょっと珍しい月なので――うちにまだある未読本といっしょに、ゆっくり読んでいこうと思います。

最終回1巻前。
うん、実にゆうきりんのシリーズの最終回1巻前っぽい話です。
詳しく書くとネタバレしてしまいそうなのであれですが、けっこうずっしり来るなあ。2巻前ラスト(コミエス前夜の話)のときのコメディ調が嘘のよう。
全体の感想は最終巻を読み終えてからにしますが、とりあえず今は、がんばれ雲木さんっ、とだけ書いておこう。


■前巻までのレビュー
 第1巻(08年07月24日)
 第2巻(08年11月07日)
 第3巻(09年04月08日)
 第4巻(09年08月07日)
 第5巻(09年12月08日)

10年6月7日 
神さまのいない日曜日II (富士見ファンタジア文庫)  神さまのいない日曜日2
入江 君人 富士見ファンタジア文庫
2月にファンタジア大賞の受賞作の本作1巻を読んだときには、あぁ、これはあまり読んだことのない作品だなあという新鮮な驚きがありました。それは「神様に見捨てられ、人類が死んでも死ねなくなり、かつ生まれなくなった世界」という設定の特異さのみに起因するものではなく――どこまでもほのぼのとしたハートウォームなテンポと、そのテンポのままで語られていくどこまでも容赦ない残酷さが表裏一体になった物語の空気にあるのだと思います。シリーズが本格的に動き出した今回の巻も、その空気は引き継がれていて――すべてがうまくいくなどということは絶対にないことはわかっていつつも、すべてがうまくいくように読みながら切実に祈ってしまう、そんな物語になっています。
そしてやっぱりアイちゃんが可愛い。今年の上半期に読んだヒロインキャラの中でも1、2を争うくらい可愛い。この可愛さは確かに、世界を救っちゃったりするのかもしれないです。

★★

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)

 第1巻(10年02月04日)


10年6月7日 
朝日のようにさわやかに (新潮文庫)  朝日のようにさわやかに
恩田 陸 新潮文庫
 新潮文庫では『図書室の海』以来になる、恩田 陸の短編集。今回は、前作にもましてバラエティーに富んだつくりになっていて……星 新一ばりのショートショートもあり、不条理ホラーもあり、稲垣 足穂のオマージュもあり。その中に、ごくふつうの(とはいえやはり恩田陸らしい)日常もの短編も入っていたりします。それらがミックスされているので、どのタイプに振れていく話なのか、短編ごとに読み終わるまで油断できない。それを含めて、スリリングな一冊です。
あと、なんといっても冒頭の一編、『麦の海に沈む果実』の外伝がファンにとっては嬉しい。


10年6月7日 
へんないきもの (新潮文庫)  へんないきもの
早川 いくを 新潮文庫
 20種類の生物に擬態するタコ、内臓がすべて脚部にあって脚だけで生きる蜘蛛――世界各地に生息する珍妙な形状・生態の生き物を集めた生物図鑑。とはいえタイトルからもわかるとおり断じて堅苦しい内容ではなく、くだけた――というかむしろくだけすぎた筆調で語られていきます。
 電車の中では読まないほうが吉。あと、けっこうグロい生き物がリアルなイラスト入りで載っているので食事前にも読まないほうが吉。
 それにしても、「かわゆいどうぶつさん」の項に収録されているプレーリードッグとアイアイは超怖いです。可愛いだけでは野生の世界は生き抜けないのね。



10年6月7日 
はじめての言語学 (講談社現代新書)  はじめての言語学
黒田 龍之助 講談社現代新書
 言語学、というとソシュールの存在が大きいためか、どうしても現代思想の思考法の基盤になった部分がとりあげられがちですが――あれは言語学にとってもあくまでも思考法の部分なのであって。言語学という学問そのものは、その思考法をツールのひとつとしてきちんと存在しているのですよね。この本はそうした、主要部分のはずなのにあまりとりあげられることのない、「ソシュールから始まる現代思想の系譜」という点以外の言語学分野について説いた入門書。とはいえ詳細な諸々の研究について掘り下げていくのではなく「言語学とはどういう学問で、どういうことを研究しているのか」というはじめの一歩の部分を一冊かけて語っていきます。(結局のところ「こう」という答えはなく、言語学がヴァリエーションに富んだ学問であることがわかるというところですが)
読みやすさを意識してかちょっとライトすぎるところはありますが、不慣れな自分にとっては、これから別の本を読むにあたっての心構えづくりに最適な一冊でした。

10年6月7日 
夏海紗音と不思議な世界2 (富士見ファンタジア文庫)  夏海紗音と不思議な世界 2
直江 ヒロト 富士見ファンタジア文庫

 おてんばワンマン少女によって異世界の航海にかり出された少年の奮戦活劇の記、第二巻。一巻がああいうちょっと切なめな幕切れだったので、二巻始めるの難しそうだなーという印象があったのですが、けっこうさくっとライトに始まったなあ。それはそれで、この作品らしくって(というか、ヒロインの夏海さんらしくって)いいのかもしれない。
 いわゆる異世界往還型の冒険ものなのですけれど、こっちの世界の日常との微妙な距離感がおもしろいです。世界の枠組みも示されてきて、本格的にシリーズとして幕を開けた感じ。

 巻末に予告が載っていたのですが、同作者の『ヘヴンス・ダイアリー』(3月25日
読書記録
)の2巻も七月にでるのですね。楽しみだ。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)

 第1巻(10年02月2日)

10年6月2日 
六畳間の侵略者!?4 (HJ文庫)  六畳間の侵略者!? 4
健 速 HJ文庫
六畳間をかけて男子高校生と地底人と宇宙人と幽霊とコスプレイヤー魔法少女が戦いを繰り広げる集合住宅乱戦コメディ、早いものでもう4巻。
今回はゆりかさん表紙ですよ! 思わずHJ文庫のサイトで壁紙ダウンロードしちまいました。相変わらず不遇続きで可愛い。挿し絵とかに登場すると半分以上が泣き顔ですし、巻頭カラーにもなってる文化祭の劇で割り振られる役が馬の後ろ足だったり散々なのだけれどそこがまた良し。こういうタイプのキャラにここまでひきこまれるのも久しぶりです。
今回のメインは宇宙人主従。表向きには学園祭の話。裏側では、3巻から地味に引き継がれた伏線が不幸な形で炸裂する話です。この、なんともいえないゆるいコメディがいいなあ。まだあまりとんがっていない時代の学園ライトノベルっぽい感じ。最近のHJ文庫、『じんじゃえーる!』といいこれといい、こういう雰囲気の話が多くってちょっと好きです。



■前巻までのレビュー
 第1巻(09年11月16日)
 第2巻(10年01月19日)
 第3巻(10年03月09日)

10年6月2日 再読
現代思想のパフォーマンス (光文社新書)  現代思想のパフォーマンス
難波江 和英・内田 樹 光文社新書
ソシュール、ロラン=バルド、フーコー、レヴィ=ストロース、ラカン、エドワード=サイードという現代思想の基本ライン6人(ひとによっては、選定の仕方に異もあるかと思いますが)について、「概要を学んだうえでその思想を実践的に使いこなす」という点に目的をおいて書かれた入門書。
以前読んだときには比較的ぱらぱらっと流してしまったのだと思いますが、久しぶりに目を通したら、実に入り込みやすく理解の助けになる一冊でした。思わず読み返したりして、読み終えるのに一週間くらいかかってしまった。
近いうちに付箋つけながらもう一度読み直す予定なので、詳しい感想はそのときにまた書きます。

(再読のため★つけはなし)

10年6月2日 
俺の妹がこんなに可愛いわけがない〈6〉 (電撃文庫)  俺の妹がこんなに可愛いわけがない 6
伏見 つかさ 電撃文庫
前回のレビューでも書きましたし、そろそろするだろうなあと思ってはいたのですが、アニメ化かあ。未成年が18禁ゲーをプレイしてあまさえコミケで成年向同人誌を買いあさるというのは話的に公共電波に乗せて大丈夫なのだろうか。うむむ。
2〜3話の中編がかたまってひとつの長編を形成、という構成のことが多いシリーズですが、今回は特に短編集っぽい色合いが強め。強力な障害とか不和が起こるわけではないので盛り上がり的にはゆるやかですけれど、そのぶんほのぼのハートウォームな話が多くって好みでした。それにしても主人公の京介くんはいいやつだなあ。こういうタイプの話って、主人公に対してお前はモテても許してやると思えるかどうかでけっこう評価が決まってくるような気がします。
それにしても今回、麻奈実さんの出番が少なめで寂しい。自分の中では断然あの子が正ヒロインなんだけどなあ。



■前巻までのレビュー
 第1巻(08年10月12日)
 第2巻(08年12月14日)
 第3巻(09年04月14日)
 第4巻(09年08月11日)
 第5巻(10年01月19日)

10年5月23日 
ダンタリアンの書架5 (角川スニーカー文庫)  ダンタリアンの書架 5
三雲 岳斗 角川スニーカー文庫
禁じられた知識が記された「幻書」の数々を巡る、ゴシックホラー風ツンデレロリ萌え連作短編小説、第5巻。
もう幾度か書いたのですけれど、このシリーズの世界観は実に好みです。現実の歴史軸ではないけれど、産業革命〜第一次世界大戦前くらいのヨーロッパを思わせる、スチームパンクをもうちょっとしっとりさせた感じの空気。展開される怪異譚はときに少し皮肉めいていて、英国怪談やサキの短編のような趣があり――そこに、違和感が起こらないようにライトノベルキャラを溶け込ませているような感じがする。短編を読み終えたときに、なんともいえない小気味よさがあります。
あとやっぱり、ヒロインのダリアンの意地っ張りぶりが実にかわいい。ツンデレ萌えの気はさほどないのですが、その属性分野のなかでは現在この娘がトップにいるような気がします。

★★
■前巻までのレビュー
 第1巻(08年11月06日)
 第2巻(09年01月18日)
 第3巻(09年05月13日)
 第4巻(10年01月07日)

10年5月23日 
七花、時跳び!―Time‐Travel at the After School (電撃文庫)  七花、時跳び! Time‐Travel at the After School
久住 四季 電撃文庫
突然タイムトラベルの能力を手に入れてしまった少女とその先輩が、その能力を使って――特に役に立つことは何もしない物語。
久住四季作品は何冊か読んでいて、その印象から同作者の「タイムトラベルもの」というと、もっとこう複雑怪奇なギミックとロジックをわんさか盛り込んで煙に巻くタイプの話になりそうな気がしたのですが――さにあらず。ほんとにこう、人畜無害(かつ無益)な日常が延々繰り広げられていく、ある意味学園SFコメディの基本に忠実な連作短編です。
ヒロインの生真面目ドジっ娘七花さんは殺人的に可愛いし、鈴ヶ森さんも魅力的。こういう話好きだなあ。
いままでの久住四季作品が変なベクトルに尖がりすぎててちょっと受け付けない、というかたでも、学園SFコメディがお好きであればお勧めです。

★★

10年5月23日 
ダブルアクセス 2 (MF文庫J)  ダブルアクセス 2
樋口 司 MF文庫
背負った借金の返済のために仮想現実の難事件解決に奔走する、お兄ちゃんの悪戦苦闘の日々。第二巻。
仮想空間ものというと読み応えのある先行作品がたくさんあるので、どうしても比較して読んでしまいがちなのですけれど――個人的にはこの作品、コメディ要素とちょっと懐かしめのB級感(昔のソノラマ文庫のコメディもののような)がでていてけっこう好きです。1巻はまだ各キャラの立ち位置がつかみきれなかったのですが、今回いくつかの関係性が明らかになって、話が発展部に突入した気がします。「彼女」の目的といい、3巻がちょっと楽しみ。

■前巻までのレビュー
 第1巻(10年01月28日)

10年5月23日 再読
旧暦はくらしの羅針盤   生活人新書  旧暦はくらしの羅針盤
小林 弦彦 生活人新書
そろそろ内容を忘れてきたので復習用に再読。
明治5年に「旧暦」が撤廃された際に、旧暦の日付の大半をそのまま新暦にあてはめたことによって発生した様々な矛盾。その矛盾を解き明かしつつ、本来の暦が有していたひとつひとつの意味を見直していくガイドブック。
個人的には、筆者が旧暦を持ちあげすぎな部分――特に、「閏月」が挟み込まれていた旧暦を現在の暦に適用してそこから年毎の気象を予知していくくだりは、解釈によってなんとでも取れてしまうしあまり合理的とはいえないと思う。僕も趣味として旧暦の暦は好きですが、その不定性ゆえにやはり、社会がそこに回帰することは無理がありますしね。

ただ、「神無月」や「葉月」といった月が実際には現在の何月を指していたとかとか、七夕や桃の節句といった年中行事が本来的にはどの季節に馴染んでいたものなのかといった基礎的知識としての事柄は、年中行事の日のニュースを見るたびになんとなく生じる違和感を正しく解消するためにも必要なことなのでしょうね。季節ものを書いているので、二十四節季はわかるとしても――七十二候あたりまで、完全にはそらんじられないまでも概要をおさえておきたいなあと思う。
(再読のため★つけはなし)

10年5月16日 
ベン・トー  5.5 箸休め~燃えよ狼~ (集英社スーパーダッシュ文庫)  ベン・トー 5.5 箸休め 燃えよ狼
アサウラ 集英社スーパーダッシュ文庫
ちょっと前に買ったのですけれど、もったいないのでゆっくり読める休日まで棚に置いといた、ベン・トーシリーズ5.5巻。
6ではなく5.5、スピンオフとか短編集1ではなく5.5なのは、5の物語の後にくる中篇エピソードがひとつ収録されているからなのだそうです。なのだそうですが、そのエピソードが本編に何か影響してくるかというと壮絶なまでにしてこない気がするのは、さすがこのシリーズというべきか。真剣勝負パートがないぶんテンションの方向はちょっといつもと違いますが、硬質なリズムで馬鹿一直線なのはいつもの通り。
今回は、表紙にもなっているあせびちゃんが猛威を振るう話です。でもって、白粉さんは相変わらず可愛い。相変わらず、この娘のこと可愛いとか書いちゃって大丈夫なのか自分の人間としての尊厳は損なわれないのかとか実に判断に迷います。
面白かった。6巻早く出ないかな。

★★

■前巻までのレビュー
 第1巻(08年03月03日)
 第2巻(08年07月10日)
 第3巻(09年01月24日)
 第4巻(09年07月24日)
 第4巻(10年01月26日)

10年5月16日 
破小路ねるのと堕天〈だてん〉列車事件 (スマッシュ文庫 き 1-1-1)  破小路ねるのと堕天〈だてん〉列車事件
木戸 実験 スマッシュ文庫
スマッシュ文庫なるレーベルがPHP研究所から創設されたそうで、さっそく 表紙買い 
超絶に妄想過多な気があって異性関係の話になると大量の鼻血をふきだしてしまう眼鏡っ娘と交際している主人公の少年が、態度の大きなツンデレロリ少女と出会ったり、空から降ってきた列車が校舎に激突する怪事件の推理に挑む。
……という設定と前半部分を読むと、(別に悪い意味ではなく)ダメダメな雰囲気の変則コメディではないかと思ってしまうのですが。読み進めていくと、けっこう淡々とシリアスでときおりエグいところもある現代ファンタジーでした。ちょっと変わった雰囲気ですが、個人的には好き。ねるのさんは普通に可愛い地味眼鏡さんだと思います。




10年5月16日 
ぼくこい (角川スニーカー文庫)  ぼくこい
森橋 ビンゴ 角川スニーカー文庫
あれ? 森橋ビンゴって、あの『三月、七日』の森橋ビンゴ氏ですよね。なんかこう、表紙の雰囲気からしてこれまでのイメージと違うような。
オタク高校生男子4人がとある事情で、リアル彼女を作るために奔走する話……と書くと、わりとよくあるライトノベル学園もののパターンのようですが、ちょっとばかりそうした作品とは違うところがあって。その、<超ネタバレ>けっこうリアルに残酷というか容赦ないというか、結論から言って表紙の女の子とはフラグはまったく立たないです。いや、普段学園ラブコメ読んでて「そううまくいくもんか!」と思うことというのは多々ありますが、かといってこう、現実的でうまくいかない話を読むと意外と凹むものですね。甘苦い。
あ、ところで、紅子ねえちゃんは話のラストを待つまでもなくかわいいと思う。
</超ネタバレ>

10年5月16日 
もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ (宝島社文庫)  もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ
高橋 由太 宝島社文庫
オサキモチ――憑き物筋であるがために故郷を追われ、江戸で古道具屋の手代となった周吉が、憑き物オサキを懐に入れて怪事件に立ち向かう、時代もの怪異譚。のほほんとしているようで、江戸という時代と憑き物という主題ゆえにときとして容赦のない展開もあり。そうした、明暗が自然に表裏一体になっているところなども含めて、畠中 恵の『しゃばけ』シリーズを髣髴とさせるところがあります。というか、おそらく影響を受けているのだと思う。
ちょっとリズムに入り込みにくい印象のところがあって、個人的にはやっぱり本家の『しゃばけ』シリーズのほうが好みですが――懐のオサキのどこか憎めない愛らしさは本作の魅力だと思います。続編がもし出るなら、読んでみたい。

10年5月16日 
昭和。あの日あの味 (新潮文庫)  昭和。あの日あの味
新潮文庫
戦前・戦中から敗戦後、そして高度経済成長時代――昭和という時代の「食」をテーマに、六十六人の著者が筆を執った随筆集。
食べることに困窮した時代ことを綴った随筆も多いため、こんなことを書くと不謹慎になってしまいますが――そうした時期のことを記す記述でも、描かれた食物が美味しそうに思えてしまうのは、錚々たる顔ぶれの著者のかたたちの筆の繊細さによるものなのでしょうね。
片岡義男氏の一編の中にできてた「スパムライス」(SPAM缶のランチョンミートを横に3枚に切って、焼いたものをご飯に乗っけただけという、実に不健康な料理。そこがポイントらしく、氏もこのエッセイの中で「健康的に野菜などを添えてはいけない。添えるなら目玉焼き」などと書いている)は、なんだか作ってみたくなっちゃいました。

10年5月11日 
ヴァンダル画廊街の奇跡〈2〉 (電撃文庫)  ヴァンダル画廊街の奇跡 2
美奈川 護 電撃文庫
芸術が禁じられた近未来の世界を舞台に、封印された絵画の複製を街に描き出すアート・テロリスト『ヴァンダル』と彼らを追う者たちの交錯を描く、リリカルな活劇アクション。第二巻の今回は、新たな物語の序幕的な趣きになっています。好敵手の出現と、大きな謎の提示。
第一巻を読み終えたときに、続きはなくここでラストというのも綺麗でいいかなと感じたのですが、彼らの活躍がしばらく楽しめそうなのは純粋にうれしい。1巻に引き続き、連作短編の各話とも繊細さと、小粋な読後感のよさがあります。そしてやっぱりエナちゃんは可愛い。言葉は編ですが、静かな元気っ娘という感じがします。

★★

■前巻までのレビュー
 第1巻(10年02月06日)

10年5月10日 
イスカリオテ 5 (電撃文庫 さ 10-9)  イスカリオテ 5
三田 誠 電撃文庫
第5巻。今回は聖誕祭、クリスマスのお話。クリスマスのお話、なのですが。
うわわわあ。なんだか色々大変なことになっちゃってますな。
まあ、<ネタバレ>前半いつもの日常パートにも増して雰囲気が柔らかで幸せそうだったので、後半こうなるための布石だろうなーというのはわかっちゃいましたが、それにしてもかなり非道い状況だなあ。</ネタバレ>

こういうタイプのヒロインキャラクターには定番の展開とはいえ、今回のノウェムさんは実に可愛いと思う。
でもあれです。せっかく学園内パートが多いのにまゆきさんの台詞が少ないうえに挿絵がひとつもないのは実に哀しく。というか、この展開、まゆきさん無事なのか!?

あとがきによれば7巻で完結とのこと。ここから先は2巻まるまるクライマックスですね。


■前巻までのレビュー
 第1巻(08年11月14日)
 第2巻(09年03月10日)
 第3巻(09年07月11日)
 第4巻(09年12月09日)

10年5月9日 

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 Baby Princess 4
公野 櫻子 電撃文庫
19人姉妹ヒロインの学園&ホームラブコメドラマ、第四巻。今回は前回から続いての体育際編と、九女の麗さんのスク水編(?)の冒頭。
19人の中で主人公に対してまだ心理的抵抗があるのが六女の氷柱さんと九女の麗さんなので、逆にやっぱりこの二人が話の中心に絡んでくることが多いですね。しかしその、19人のヒロインのうち15人が中学生以下でさらに12人が小学生以下というのはアレだなあ。
設定だけを見るともっとあざといハーレムものっぽい印象を受けるのですが――4巻まで読んできたところでは、意外と爽やかで繊細な感じに話が進んでいて、ホームドラマとしても学園ものとしても好みです。メインヒロインに惹かれるのってちょっとなんか悔しいですが、やっぱり堅物元気っ娘のヒカルさん可愛いなあ。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年04月17日)
 第2巻(09年09月08日)
 第3巻(10年01月07日)

10年5月9日 
スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン (集英社文庫)  スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン
小路 幸也 集英社文庫
待ちに待っていました第三巻。
都心の真っ只中の路地裏に広がる下町空間で代々続く老舗古本屋「東京バンドワゴン」――その古本屋を営む三世代の大家族・堀田家とご近所の人々の間に起こるちいさな事件の数々を描く連作短編集です。
このシリーズに関してはもう、こまごました感想というより、良いです好みです! としか書きようがないです。下町のほのぼのした人情といい、各巻春夏秋冬一話ずつ収録された物語の季節描写といい、頑固爺さんの勘一さんやしっかり者中学生の花陽ちゃんたちの繰り広げる懐かしめのホームドラマといい、美味しそうな食事シーンといい――なにからなにまでが自分のツボにストライクに触れる。
あとやっぱり、ロックンローラー不良壮年の我南人さんのふらふら浮雲なノリがいつ見てもなんか可愛いです。お店の改装も始まって、また家族の一員の増えそうな堀田家。次の巻が待ちきれない。
いま自分の読んでる一般書籍のシリーズの中では、吉野北高校図書委員会 (MF文庫ダ・ヴィンチ)とこれがやっぱり双璧だなあ。昭和のころのホームドラマが好きなかたには、全力でお勧めしたいシリーズです。

★★★

10年5月9日 
東京皇帝☆北条恋歌 5 (角川スニーカー文庫)  東京皇帝☆北条恋歌 5
竹井10日 角川スニーカー文庫
いつのまにか5巻まで出ちゃっています。恐ろしい話ですが、もしかしてそのうちアニメ化とかしちゃうんじゃあるまいか。アニメ化したら確実に、OP/ED双方とも電波ソングで固めそうな気がする。
今度はヤンデレネタかよいい加減にしとけよもう! とか思いはするのですが、ただ、あれです。このシリーズの前に(読んではいないですが)いろいろ前科があった作者のひとだけに最初はおっかなびっくり読んだのですが、この作品単体で見ると、悪ノリ200%な文体と展開がほんとに小気味よくて、電車とかの人がいるところで読むのはちょっと危険なレベルの面白さだと思います。
巻を追うごとにダメになっていく侍っ娘のゆかり子さんが実に可愛い。あと、あちこちで置いていかれてるけどおバカ元気の四菜さん。しかしこの国家、1巻が始まる前はこの首脳陣でどうやって統治とかしていたんだろう?


■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年05月30日)
 第2巻(09年06月24日)
 第3巻(09年10月04日)
 第4巻(10年01月14日)

10年5月9日 
ごくペン! 3 (MF文庫J)  ごくペン! 3
三原 みつき MF文庫
極道学園を舞台にしたドタバタラブコメ、最終巻の第三巻は冬の津軽海峡への林間学校兼スキー合宿兼修学旅行兼卒業旅行の話です。
いろいろ想像を絶するまでのぐだぐだ感――たぶんほんとはもうちょっと続きの話があったんだろうなあという感じ――はあったり、これは元ネタあれだよね、というところもあったりしますが、このシリーズの場合おバカノリの勢いですべてが許せてしまうような気はします。
あれ? でも、考えてみたら主人公、3巻ではすでにタイトルの「ペン」にあたる小説執筆をわずかたりともしていないような……。まあでも、いいですそんなことは。大団円です。

■前巻までのレビュー
 第1巻(09年10月29日)
 第2巻(10年01月28日)

10年5月9日 
きゅーきゅーキュート!SS2 素敵にスイート! (MF文庫J)  きゅーきゅーキュート! SS2 素敵にスイート!
野島 けんじ MF文庫
今回もやっていまいりましたこのシリーズ。SS含めて13巻めというのはもしかして、MF文庫で一番巻数でてるシリーズのひとつなのではあるまいか。
今回は、キュートの双子の姉のスイートさん主役の短編集。ナイムネとか惚れ薬とか夜這いとか湯けむりとか、そういうお話です。
なんだろうなあ。いつ読んでもどの巻を読んでも、端から端までこう、ダメダメな要素に満ち満ちているのに――なぜだかこのシリーズ、出るとつい速攻で手に取ってしまうのですよね。ダメなのだけれど愛すべきダメさというか、昔の少年マガジンとかのちょっとH系少年誌ラブコメ読んでるみたいで懐かしい気分になるというか、どこかホッとするというか。
あと、今回までの巻のレビューでも時々書いているのですが、黒服眼鏡秘書の毒舌丸さんが巻を追うごとに可愛くなってきます。彼女のSS、いつか出ないかなあ……

■前巻までのレビュー
※6巻まではまだ読書記録がない時期なので省略します
 第7巻 (08年04月30日)
 第8巻 (08年08月31日)
 第9巻 (08年12月22日)
 第10巻(09年05月25日)
 第11巻(09年12月23日)
 短編集1(09年08月25日)

10年5月9日 
まよチキ! 3 (MF文庫J)  まよチキ! 3
あさのハジメ MF文庫
男装ボクっ娘執事の秘密を偶然目にしてしまった主人公が、策略家のお嬢様とか格闘家の妹とかに振り回されつつ日々を送る学園コメディ、第三巻。
前にも書いたかもしれないのですが、自分は元気っ娘好きかつ短髪娘好きなわりに意外とボクっ娘は苦手なことが多いです。それはたぶん、(例外はありつつも)いつか女の子っぽく崩れることが前提になっていてその導火線が最初から用意されてるところに微妙なあざとさを感じることが多いからだと思うのですが――ただまあ逆に、強さと隙の境界線上の部分に危ういバランスで揺らいでいるところにボクっ娘という属性の魅力があることも確かで。ツンデレと同じで、記号として割り振ることは安易だけれども良質なキャラが乗れるバランスゾーンは意外と狭い属性なのかもしれないと思うのです。
そういう意味、この作品のボクっ娘のスバルくんの強がりっぷりは読んでて可愛い。これ以上デレてあざとくなってしまうと個人的にはちょっと苦手ですけれど、主人公に惹かれているところに自覚がないのが肝なのだと思います。
あと、眼鏡っ娘が登場しているのに眼鏡描写がないという今回の特異な状況は次の巻で解消するのかが気になるところです。次回の表紙は妹さんか彼女のような気がするのですが。


■前巻までのレビュー
 第1巻(09年11月26日)
 第2巻(10年01月26日)

10年5月9日 再読
怪談の心理学―学校に生まれる怖い話 (講談社現代新書)  怪談の心理学 学校に生まれる怖い話
中村 希明 講談社現代新書
戦前から伝わる「赤い紙・青い紙」から「赤いはんてん」「赤いちゃんちゃんこ」を経て近年の「トイレの花子さん」に至る、学校のトイレ怪談の変遷。口裂け女から人面犬へと受け継がれた「学校の外で遭遇するもの」の噂の伝播。そうした少年少女たちの口伝怪異譚がどうして発生し、どのように伝わっていくのかを社会心理学の観点から解析する一冊。
うむむ、学生のときに読んだときにはかなり引き込まれた記憶があって再読したのですが、「噂」の伝播の方法がこの十数年のうちに変化(この本が書かれたときにはまだ、携帯やネットは普及していなかった)したところがあったり、筆者が児童生徒を取り巻く情報化・技術化の波にステロタイプな警鐘を鳴らしているところがちょっと鼻についたりして、初読のときほどは頷けないところが多かったです。
ただ、トイレ怪談の根底に横たわる少女期の不安とか、こっくりさんブームの変遷とか、やっぱり学校の怪談には興味深いトピックが多いなあとあらためて感じました。松谷みよ子の「現代民話考」とか、久しぶりに読み返したくなった。
(再読のため★つけはなし)

10年4月24日 
中世を道から読む (講談社現代新書)  中世を道から読む
齋藤 慎一 講談社現代新書
街道や峠、河川を越える橋と渡し――領国と領国を結ぶ「道」という観点から鎌倉〜戦国時代を読み直す、中世交通史考察。「信長が関所を廃止した」「江戸幕府は五街道を整備した」等の決まり文句が、誤りではないもののかなり事実とかけ離れた認識である点。戦国時代の有名な合戦や進軍が、当然のこととはいえそのときの街道事情・河川事情によって大きく影響を受けている点等を実際の史料記述を引用して解き明かしており、新鮮な内容の歴史本になっています。
本屋さんで手に取ったのは、当時の街道の様子等について考察された本だったら資料的に面白そうだなあと思ったからで……実際の内容は上記のようにそれとは違っていたのですが(汗) でも、思いがけず引き込まれた一冊でした。関東一円に名の残る鎌倉街道については以前から興味があったので、一章を使ってなされた詳細な解説はほんとうにわくわくして読めた。


10年4月24日 
ザ・サードIX  竜谷の涯の旅人たち (富士見ファンタジア文庫)  ザ・サードIX 竜谷の涯の旅人たち
星野 亮 富士見ファンタジア文庫
はい、そんなわけで。
何ヶ月か前の短編集に続いて、ザ・サードシリーズの新刊。本編第9巻です。両親を失った幼い兄妹を霧の峡谷を越えて送り届ける――久しぶりに、火乃香が依頼を受けてそれをこなす中で展開される物語。
このシリーズの場合、自分の好きな話・そうでない話というのははっきりしていまして。火乃香中心にキャラの心の綾を描く話になるか、キャラというよりは世界のシステムにかかわる話になっていってしまうかによってくるのですが。今回は――<ネタバレ>うーん、ちょっと判断が難しいかもです。途中、6巻以降くらいから感じられる語り口や内容の回りくどさ的なものはありますし、火乃香本人の心理が描かれるシーンはあまり多くはないので、2〜5巻の頃に比べるとあまり深くひきこまれるところまではいかないのですが……ただ、ラストのやりとりとかはけっこう好きでしたし、物語的にはあまり広がらずにこういう依頼をこなしていく展開が続いてほしいなあと思います。</ネタバレ>
(あ、今回はちょっと、★の数そのものもネタばれになっちゃいそうなので、いまはつけないでおきます。後日になって、過去ログに送るあたりにあらためて)

10年4月24日 
月見月理解の探偵殺人 2 (GA文庫)  月見月理解の探偵殺人 2
明月 千里 GA文庫
探偵役のヒロイン月見月理解をはじめ、キャラの大半が誰も彼もどこか微妙に人格破綻した面々によって繰り広げられる殺人と推理のゲーム、第二巻。今回は、ドッペルゲンガーの通り名を持つ正体不明の存在を相手に繰り広げられる――結果的にはクローズドサークルもの、なのかな。
幾度かページをめくり直してしまう複雑なゲームルールといい、尖がったキャラの癖のつけかたといい、講談社ファウスト系の影響を色濃く受けていることは間違いなく……本家講談社以外のレーベルから出るこのタイプの作品というのは自分的にはあまり好みではないのですが。ただ、面白いか面白くないかというと、この作品面白いんだよなあ。うむむ、なんか悔しい。
面々の中では(物腰はともかく倫理観的に)一般人寄りの京先輩が、この作品中だとえらく爽やかに見えて可愛いです。この先もどこかで潰れずにがんばり続けてほしい。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年12月20日)

10年4月24日 
荒瀬はるか、容赦なし! 3 (MF文庫 J く 2-8)  荒瀬はるか、容赦なし! 3
熊谷 雅人 MF文庫
無表情腹黒策士眼鏡っ娘との、ラブのフラグが果たして立ってるんだかどうかわからないまま進む退魔ラブコメ。今回が最終巻です。
前作(『ネクラ少女は黒魔法で恋をする』)今作と読んで思うに、ひねくれものの女の子がちょっとずつ周囲と心を通わせていく展開を、古典的なハートウォームコメディで描いていくのが十八番の作者さんなのかもしれないです。その女の子側の一人称だった前作に比べて、<ネタバレ>無表情属性まで加わってる今回はなかなか雪解けへの壁が厚く――というか、最後まで解けたのかどうかわからないくらいですが。でもまあ、簡単にデレちゃわないところが見所なのかもしれない。</ネタバレ>
好みでいえば前作のほうが好みですけれど、こういう素直なつくりのコメディというのはやっぱりツボであります。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年08月05日)
 第2巻(09年11月21日)

10年4月24日 
ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下)    新潮文庫  ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下)
塩野 七生 新潮文庫
 ローマ人の物語、第二巻。今回は、ローマがイタリア半島をほぼ統一する紀元前270年代までの道のりが描かれます。
 世界史を全体的に追った本(高校の世界史教科書とかも含む)では、この時期のローマってあまり目立った取り上げられかたをしておらず、むしろギリシャ都市国家群・ペルシア・アレクサンダー大王のマケドニアが栄えて没落している間にいつのまにか膨れ上がってたイメージが強かったです。華々しく世界史上に登場してくるのはカルタゴとのポエニ戦役あたりからで。
半島統一までの、ケルト族によるローマ陥落や山岳民族との抗争を含む200年を、外交史・内部の政治史の両面から読めるのは、楽しかったです。

この巻を読んで思うに――文中にもところどころで書かれていますが、ローマが急速に発展して一大国となったもっとも大きな要因は、「敗者の遇し方(取り込みと同化の計り方)」が巧みであったところなのだと思います。「急速に膨張して、その最盛期勢力を(形態はいろいろあれど)ある程度持続させた国家」というと、世界史上の東西横綱は古代ローマとモンゴル(元以前)だと考えるのですが――共通点としてあるのが、少し時間がたつと被征服民の中から能力を持つ者が人材として登用され、人材的な融合がはかられていくところで。広大な面積と多様性を持つ国土を統治するに、自国のみから有能な人材を派遣し続けるのは不可能だということを知っていたからこそのシステムなのでしょう。中国本土に建った諸大国やナポレオンのフランスが、最盛期は即・転落の始まりのような形態になってしまうのは、そのあたりの差もあるのではないかと思う。
イタリア半島統一成ったローマ――次巻からはいよいよ、カルタゴのハンニバルを向こうに回しての戦役です。やはり面白いなあこのシリーズ。

★★

10年4月19日 
踊る星降るレネシクル (GA文庫)  踊る星降るレネシクル
裕時 悠示 GA文庫
各人が有する『個性』で生徒たちがランキングを競って戦う、ミカホシ学園。かつて共に格闘術を学んだ少女を追ってこの学園に転入した少年は、ひょんなことから不思議な「ほっぺた」を持つドジっ娘と出会い、彼女を弟子にすることに。
過去に討ち死に経験のあるGA文庫の大賞《奨励賞》作品ということもあり、ちょっと覚悟を決めての特攻。実際、エキセントリックなキャラと暴走気味なハイテンションに最初のうちは戸惑ったのですが……読み終えてみると不思議と面白かったです。ヒロイン? のすまるさん、こういうタイプのツンデレというのは初めて目にしたなあ。うん。

10年4月19日 
カラー版 奈良の花ごよみ (じっぴコンパクト 60)  カラー版 奈良の花ごよみ
大貫 茂 じっぴコンパクト
奈良・大和路の四季を彩る樹々と草花を、春夏秋冬に章立てして語る万葉の花ガイドブック。
タイトルは「奈良の」となっていますが、もちろんとりあげられた花や樹は全国共通に見られるものばかり。ひとつひとつにカラーの写真がついているので、「この花、この季節によく見るんだけどなんて花だっけ」という花の名前を知るのにも役立ちます。自分の文章の中に登場させるにはもちろん実際に咲いているところを見るべきですが――そのための足がかりとして、こういう一冊が欲しかったという本。持ち歩き似も便利ですし、お勧めです。

★★

10年4月19日 再読
檸檬 (新潮文庫)  檸檬
梶井 基次郎 新潮文庫
 純文学、というジャンル括りはあまり好みではないですが――いわゆるその区分にカテゴライズされている中では、梶井基次郎は好きな作家の一人です。すべての作品を集めても20にしか満たない短編ですが、どれを読んでも、文章がほんとうに繊細で鋭く、静かに打ちのめされる気がする。
 好きな作品は『冬の日』『蒼穹』『器楽的幻覚』あたりなのですが、今回は初期の作品『城のある町にて』が読みたくなって再読しました。伊勢湾にほど近い城址の町での日々を描く、梶井基次郎作品としてはまだ病苦の翳りの少ない(無縁ではないですが)一編。この作品中の風景描写は、今まで読んできた文章作品の中でもいちばん好きかもしれないです。
「今、空は悲しいまで晴れていた。そしてその下に町は甍を並べていた。」
の一文とか、何度読み返してもやっぱり、胸にすとんと来ますね。
(再読のため★つけはなし)

10年4月19日 再読
「鎌倉百人一首」を歩く (集英社新書 ビジュアル版 9V)  「鎌倉百人一首」を歩く
尾崎 左永子 集英社新書 ビジュアル版
 先日の日記で、久しぶりに鎌倉行きたいなーとか書いていたら読み直したくなったので、本棚から引っぱり出して再読。  鎌倉ペンクラブが2006年に、鎌倉を詠んだ/鎌倉で詠まれた古今の歌から百首を選んで編まれた『鎌倉百人一首』。その中からさらに五十首を選び、鎌倉在住の写真家が撮影した四季折々の風景をあわせて収録したフルカラーの新書。鎌倉がお好きなかたであれば読んで損はない一冊です。  収録されている歌の中では、個人的には ・心より やがてこころに 伝ふれば さく花となり 鳴く鳥となる(釈 宗演) ・水色の 鎌倉山の 秋風に 銀杏ちりしく 石のきざはし(与謝野鉄幹) ・明けてゆく 家並の甍 ひかりつつ あづま鎌倉 夏ならんとす(島田修二) ・われひとり 鎌倉山を 越えゆけば 星月夜こそ うれしかりけれ(肥後(常陸)) の四首が好きです。
(再読のため★つけはなし)

10年4月13日 
カラクリ荘の異人たち 4 ~春来るあやかし~  カラクリ荘の異人たち 4 ~春来るあやかし~
霜島 ケイ GA文庫
妖怪と人間が共存する賽河原町のアパート、カラクリ荘に住まうことになった少年が送る、不可思議で切なく柔らかな日々――カラクリ荘シリーズ、最終巻。今年はこう、好きなキャラのいる作品が完結を迎える年で、うれしいような寂しいようなですね。
最後まで、繊細でほんのりと胸に沁みてくる物語でした。読み終わったときに、ふうっ、と満足げな息をついてしまうような。レトロで季節感あふれる舞台も、作品に満ちるこの世とこの世ならざるものの溶け合う空気も、このシリーズは本屋さんで偶然手にとって以来、隅から隅まで好き。
そして、やっぱり最後の巻も采奈ちゃんでしょう。一昨年昨年のうちの私的元気っ娘グランプリ金賞ですが、今年もよほどのことがない限り3連覇はおびやかされないと思う次第です。ああ、もう、一挙手一投足が可愛い。
★★★

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第2巻(08年08月13日)
 第3巻(09年05月08日)

10年4月13日 
鹿男あをによし (幻冬舎文庫)  鹿男あをによし
万城目 学 幻冬舎文庫
そういえばこの作品、ドラマ化されてましたっけ。このストーリーどうやってシリーズドラマ化したんだろう? と気になっちゃうくらい、ちょっとこう、言葉で説明しにくい展開。とにかくこう、鹿です。ひょんなことから奈良の女子校に赴任した主人公が巻き込まれる、日本の存亡をかけた探索の十日間。最初は読んでて主人公とシンクロして困惑しっぱなしなのですが、いつに間にか引き込まれて夢中になってしまいます。
しかし万城目 学って、ほんとにこう、最初の外見描写は褒め言葉でなされない女の子をストーリー展開で魅力的に見せていく展開が巧い作家さんだなあ。
★★


10年4月13日 
実践!交渉学 いかに合意形成を図るか (ちくま新書)  実践! 交渉学
松浦 正浩 ちくま新書
一見ビジネス書にでもありそうなタイトルですが、さにあらず。アメリカで「交渉」というものを論理的に分析するために築かれた「交渉学」という学問を、具体的な実例(実際の国際会議から、町内会の会合、夫婦のあいだの会話、ネットオークションまで)を示して解説する一冊です。「交渉術」ではないところがポイント。
それほど突飛なことが書かれているわけではなく、例えば条件的に不利な議論を逆転するウルトラC的なものはない──むしろ、そういう裏技的なものは存在しないという前提から始まる学問なのですが、そういう当たり前のことゆえに普段はあまり考察することのない行動理論を例をあげて解き明かしているので、読みやすくって面白いです。最近よく聞く「WIN/WIN交渉」という言葉の誤解と罠のところとか、僕なんか典型的にひっかかるタイプでした。たまにはこういう本って新鮮だなあ。


10年4月13日 
ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上)    新潮文庫  ローマ人の物語 1 ― ローマは一日にして成らず(上)
塩野 七生 新潮文庫
今年の100冊目なので、何かここぞというものを──と思ったわけではありませんが、前から読もう読もうと思っていたこのシリーズを、読み始めてみることにしました。もはや説明は不要かと思われますが、ローマ誕生の前史からローマ帝国の終焉までを描いた、塩野七生版・ローマ帝国興亡史。
第一巻は、第一の王・ロムルスが都をひらく以前のローマ周辺史から、共和制ローマの成立までが描かれます。
『コンスタンティノープルの陥落』から始まる三部作はほんとうに好きで、以来塩野七生はときどき読んでいるのですが、新しいシリーズに触れるのは久しぶり。史実を物語的にアレンジすることはなく、むしろ忠実に追っていっているのに、それでいて抒情的な雰囲気もあるというのが塩野七生の筆の不思議なところだと思います。ローマの歴史を知識に蓄えようというつもりで読んでいても、いつにまにか引き込まれて高揚してきちゃいます。
初期ローというのはいままでロムルス王くらいしか記憶してなかったのですが、第二の王が対照的な隠れた名君だったのですね。王の追放→共和制の始まりのくだりも面白かった。


10年4月12日 
笑わない科学者と時詠みの魔法使い (HJ文庫)  笑わない科学者と時詠みの魔法使い
内堀 優一 HJ文庫
とある要因で「表情」というものを失った科学者見習いの青年は、恩師の依頼で13歳の「魔法使い」の少女と同居を始める。しかし、彼女の出自には或る残酷な秘密があって――白衣(科学)と黒衣(魔法)の邂逅が引き起こすものは。
何となく手に取った一冊だったのですが、思わぬお気に入り作品でした。
表情のない主人公のキャラにあわせてか、わりと淡々とした文体なのですが――それでいて、雰囲気は柔らかでリリカル。対照的な歳の差コンビのかけあいは微笑ましいですし、なにより咲耶さんが破壊的に可愛い。超速でデレるので分類的にツンデレキャラではないですが、素直なところと素直じゃないところのバランスが愛おしいです。


10年4月12日 
神明解ろーどぐらす (MF文庫J)  神明解ろーどぐらす
比嘉 智康 MF文庫
 昨年昨々年のひそかなお気に入り作品、『ギャルゴ!!!!!』の比嘉 智康の新シリーズです。
 小学校中学校と学校のすぐ近くに住んでいたがゆえに、「友人と一緒に帰る下校」に憧れ、高校でようやく「下校デビュー」をはたした少年が、知り合ったちょっと風変わりな女の子3人と来る日も来る日もゆるゆるな下校ライフを送る短編連作学園小説。
 それだけの話です。ほんとにそれだけの話なのです。特にこう、急な展開やものすごい盛り上がりが起こることもなく。
 それだけの話なのですが――読んでるとだんだん引き込まれて癖になってくる。前作とは文体はまったく異なっていて、実はあとがき読むまで比嘉作品だということを知らずに読んでいたのですけれど、形はちがえどやはり比嘉作品、このゆるめで何ともいえない魅力は、実に好きです。堅物しゃべりの斜め下自信無し思考のヒロイン、千歳さんのとんちんかんなネガティヴさが毎話おかしくて可愛い。続きが楽しみです。


10年4月8日 

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 とらドラ・スピンオフ! 3 俺の弁当を見てくれ
竹宮 ゆゆ子 電撃文庫
とらドラ! シリーズの3冊目の短編集――そして、全体のラストを飾る一冊。過去話からパラレルものまで、ドタバタからちょっと切なめな話まで、10編が収録されています。
夜の学校怖ぇ。コメディでこんなにずっしり来るのって初めて見たです。

雨宿りの話がすごく好きでした。<ちょっとネタバレ>作品内の時系列的にはおそらく、これが最後の話になるのですよね。このシリーズにふさわしい、思わず笑みがこみ上げてくるラストシーン。</ちょっとネタバレ>
ほんとうに、愛すべきシリーズでした。まだ未読のかたは、いまからでもぜひにとも。
★★

10年4月8日 
λに歯がない λ HAS NO TEETH (講談社文庫)  λに歯がない
森 博嗣 講談社文庫
φシリーズ(でしたっけ)第5作。大学研究棟内の密室で見つかった4つの死体。その死体からは歯が抜けており、さらに現場には「λに歯がない」と書かれたメモが残されていて――
<ちょっとネタバレ>φシリーズのなかでは今回ちょっと異色作というべきでしょうか。ふつうのミステリだと普通のことなのですけれど、森作品の中で提示されると逆に新鮮に感じる動機というか。</ちょっとネタバレ>
それにしても、毎回言いますが加部谷さんは可愛い。事件の解決にはほんとに役に立っていないのだけれど可愛い。こういうタイプの後輩元気娘キャラって実に好みです。
あと、今回は国枝先生の出番も多くってファン的に嬉しゅうございました。かっこいいなあ先生。


10年4月8日 
恋敵(ライバル)はお嬢様☆ (電撃文庫)  恋敵(ライバル)はお嬢様☆
時田 唯 電撃文庫
先月の電撃ラインナップからちょっと見逃していたのですけれど、『有川夕菜の抵抗値』(09年6月12日レビュー)の作者さんなのですね。あの話好きでしたので、これは読まねば。
クラスメイトの元気っ娘に一目惚れした少年が、ラブレターを間違って見られかけた縁で知り合った黒髪ロングのお嬢様。しかし彼女には秘密があって――主人公は世にも珍しい三角関係の一角に組み入れられることに。
いや、実に爽やかな学園ものでした。この作者のかたの作品って、前作も今回も物腰が過度にどげとげしい、対人関係にバリケード張ってるタイプの女の子が話のメインになってます。その障壁が融解してく話というのはライトノベルのラブコメでも定型パターンではあるのでしょうけれど、その障壁の崩れかたに変ないやらしさがなくって、読んでいて心地いいです。とろけるとかデレるとかではなくって、もっと凛然として殻を破っていくような。
キャラ配置とか、ちょっと『とらドラ!』シリーズを彷彿とさせますけれど、雰囲気はまた違う感じかな。ツンデレものは好きで、でも近年のツンデレものはちょっと食傷気味で……というかたにおすすめの一冊です。
★★

10年4月8日 
末代まで! LAP2 丑三つトライアングル (角川スニーカー文庫)  末代まで! LAP2 丑三つトライアングル
猫砂 一平 角川スニーカー文庫
お岩さんとトイレの花子さんの二人の霊にとりつかれた? 主人公が夜の道を舞台にターボ婆さんを乗りこなすレースを繰り広げる――ちょっとここで説明してもコンセプトがうまく伝わらない学園コメディ、第二巻。
うむむ。今回はレースの存在が前回で説明されていて、その技術内容について細かく語られていくので、その分読んでてちょっと説明からおいていかれがちなところがありました。
あと、リサさんは可愛いのだけれどそれ以上に変すぎて、いまだにキャラの全貌がつかみきれません。こういうタイプのダウナーっ娘って、ライトノベルでも初めて見るなあ。

■前巻までのレビュー(タイトル右の月日はレビュー日です)
 第1巻(09年10月31日)

10年4月8日 再読
日本の色を歩く (平凡社新書)  日本の色を歩く
吉岡 幸雄 平凡社新書
定期的に読み直す新書のうちのひとつ。
茜、藍、弁柄といった日本古来よりの色の、染色法の歴史と現在について述べた一冊です。朱・赤・青・白・黒・紫・黄(黄金)色の7章にわけられ、それぞれの章の中にもいくつも繊細に分化された色彩がとりあげられていて、何度読んでも面白い。御嶽神社の茜染めの鎧とか、実際に見に行きたくなります。
いつもは「赤」の章が好きなのですけれど、今回読んでみて「白」という染料の歴史にも興味がわきました。白って「色がない状態」という意識が強いけど、考えてみたらそれは白い紙というものがあるからで、天然には(花や雪といったうつろうものをのぞいて)白という色はなかなか見られない。蔵壁や布の綺麗な白というものを作るにはやはり古代からの試行錯誤の歴史があったわけで――「白」というものを見る目がちょっと変わります。
(再読のため★つけ評価はなし)

10年4月8日 
キーワードでわかる最新・心理学 (新書y)  キーワードでわかる最新・心理学
成田 毅・編 洋泉社新書y
「トラウマ」「アイデンティティ」ラトリアム」といった心理学の基本用語から、「引きこもり」「エンプティセルフ」といった近年よくとりあげられる主題まで、31の言葉を心理学・社会学の方面から解説した、現代心理学入門書。各キーワードごとに数ページにまとめられているので、読みやすく解りやすいです。
もちろん、こういう総括的に記事がまとめられている本を一冊読んで「解ったような気分」になってしまうことは非常に危険なことなのでしょうけれど、それぞれの項目について自分の考えをまとめていくための起点にするには、最適の一冊であると思います。


10年4月1日 
ハーモニー (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)  ハーモニー
伊藤 計劃 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
伊藤 計劃、三作中の最後の長編。
健康や倫理までもが慈愛にあふれた「生府」によって管理された未来社会。生活のすべてを柔らかに束縛される社会に抵抗するため、自死の道を選んだ少女たち。それに失敗し、生き残ってしまった霧慧トァンは、13年後、医療福祉社会を脅かすひとつの事件に直面する。世界保健機構の監察官として、かつ当事者の一人としてその事件を追う彼女はその先に、13年前に死んだはずの友人――ミィハの影を感じる。探索の果に彼女が目にする、終焉のかたちとは――
他の二作の長編とは舞台設定が異なる本作ですが、個人とシステム――各人がID管理された社会という意味のシステムと、元来より人類という種の精神根底に横たわる不可分のシステムという伊藤 計劃作品のモチーフは今作においても主題となっています。
ユートピア的なディストピアとそれに抵抗する個人という図式、それから、種の成熟の結果として訪れる終焉(複数のA.C.クラーク作品に見られるような)という図式もSFのなかで繰り返し取り扱われるものですが、その系譜の中における、本作はまた新しい形なのだと思います。
精密機械のように容赦がなく凄惨でもある中に、どこか繊細でリリカルな空気も感じさせる伊藤 計劃の作風。圧倒的な筆力で、最後まで先へ先へとページをめくらされます。昨年の夏にアンソロジーで偶然短編を読んで打ちのめされてから、自分の中でほんとうに存在感の大きな作家でした。商業誌に掲載されている完結作品は長編短編含めてこの5作ですべてですが、いつかまた読み返したいとも思います。

★★★

■『The Indifference Engine』(短編)
 『虚構機関 年刊日本SF傑作選』(09年06月22日レビュー)収録

■『From the Nothing, with Love』(短編)
 『超弦領域 年刊日本SF傑作選』(09年07月15日レビュー)収録

■『虐殺器官』(10年02月22日レビュー)

■『メタルギア ソリッド ガンズ オブ ザ パトリオット』
 (10年03月26日レビュー)

10年4月1日 再読
日本の樹木―都市化社会の生態誌 (中公新書)  日本の樹木―都市化社会の生態誌
辻井 達一 中公新書
山地に生える現生種から、街路樹に用いられる外来種まで。日本の樹木について記した、図鑑ともエッセイともとれる一冊。自分の本棚の中で、定期的に読み返しちゃう本のひとつです。
樹木ごとに3〜4ページに項目だてられて形状・分布・日本での植樹に関する歴史やエピソードについて記されていて、葉の形などもイラストで載っているので、わかりやすいし資料としても使いやすいです。
木を見て「あれは○○の樹だ」とわかるようになるには実物を見て歩かなくってはいけないのでしょうけれど、そうした際に鞄に入れて参照するハンドブックとしても使える本だと思います。
(再読のため★つけ評価はなし)

10年4月1日 
超ライトノベル実戦作法  超ライトノベル実戦作法
バーバラ・アスカ 若桜木 虔 アスペクト
うう、本屋さんであまりよく確認せずに買ってしまった。<ちょっとネガな感想>小説全般やライトノベルの書き方指南本ってけっこう読むのは好きでよく買っちゃうのですが、この作者さん(指南本をけっこうな数書いている)の本はちょっと苦手なのです。
けっこう断定が強いのと、その断定内容が個人的に肌に合わないところがあって。
この本での一例をあげると、「ライトノベルは読むな」のところとか。ラノベを書く糧としてはラノベだけを読んでいてはダメ、というのは僕も同意できるところですが、それはたぶんラノベもラノベでないものも含めて幅広く読むべき、ということであって。良くない影響受けるからラノベをあまり読まないほうがいい、的なところまで行っちゃうと暴論のような気がする。あと、「師匠にあたる人間や指南書の教えてくれることに疑いをはさんではいけない」というところも自分的にはなんか読んでてもやもやします。
いや、まあ、個人的な好みなのでこれは言ってもしょうがないのでしょうけれど。
<ちょっとネガな感想>

10年4月1日 
スノウピー1  スノウピー、見つめる (富士見ファンタジア文庫)  スノウピー、見つめる
山田 有 富士見ファンタジア文庫
ひょんなことから不可思議な異世界に踏み込んだ少年が、行きがかり上その世界から連れ帰ってしまった少女、スノウピー。人間のことが知りたい、という彼女だが、長らく雪の異世界で独り映像だけで他人を見て見て生きてきた彼女の言動は、少年や周囲の少女との間に微妙なトラブルの数々を生んで、そして──

こうしてあらすじで書くとよくある話のパターンのような気もするのですが、なんだろう、その、ちょっと変わった雰囲気の物語でした。たぶん第一には、語り手の少年がよくいえば温厚で物事に動じない、悪く言えば自分というものが希薄な性格の持主であることからくるのでしょうかね。「普通の少年が突然やってきた異世界不思議少女にひっぱりまわされる話」ではなく、「二つの世界のちょっと変わった少年少女同士のコンタクト」といった雰囲気の物語になっていて、面白かったです。周りの女の子たちの個性や、誰の行動が正しくて誰の行動が間違っているというラインでは語られない物語の進行もいい感じで──タイトルから受ける印象通りの、冷たいけれど柔らかい感じな話でした。

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