『怪談四更鐘』より

山寺の夜

 ある旅人が道に迷って、とある山寺に宿を借りた。

 山中の夜はしんしんと更けていったが、旅人は夜具にもぐったまま寝つけなかった。なんとなく不穏な気配がたちこめるようで、しきりに身震いがした。
 そのうち、じわじわと便意をもよおしてきた。我慢しきれず、こわごわ起きて雪隠へ行こうとするに、明かりは消えて勝手が分からない。
「ああ、もう何時ごろだろうか……」
などと呟きながら手さぐりで行って、やっと雪隠を探しだした。
 掛け金を外して戸を開けようとしたが、開かない。全身の力を込めて、やっ! と引き開けたら、内から怪しいものが怒鳴った。
「もはや夜中の二時じゃわい」
あやしい古典文学 No.1665