古賀侗庵『今斉諧』巻之三「蛇啼」「水虎」より

蛇が啼き、板が睨む

 下総国葛西下岩村の新三郎という者が あるとき田の畔を通っていて、身の丈三メートル余りの巨蛇を見た。
 ただちに持っていた鍬で力任せに打ち据えると、蛇は一声叫んで死んだ。
 新三郎は蛇の死骸を打ち棄てて進んだが、道々で無数の蛇に遇った。
 蛇のすべてが、かの巨蛇の死んだ場所へと向かうのを見て、新三郎は大いに恐れ、慌てて家へ走り帰った。
 翌日、その場所へ行ってみると、すでに死骸は消え失せていた。

        *

 また、新三郎は戸田川の堤防を歩いていて、一枚の木の板が流れてくるのを見た。
 木目の緻密な、光沢の美しい板だ。新三郎は板を手に入れたかったが、岸から離れたところを流れていて、手が届かない。
 さいわい傍らに竹林がある。竹竿を切り出して、それを用いて板を引き寄せようと考えた。
 急いで所持していた斧でもって竹を伐るとともに、板が流れ去るのを恐れて、たびたび川面を顧みた。
 すると突然、板が両眼をカッと見開き、怒りをみなぎらせて新三郎を睨んだ。
 新三郎は思わずたじろいで、その場を逃げ去った。
あやしい古典文学 No.1474