『訓蒙故事要言』巻之八「女嫁槃瓠」より

五彩犬

 『後漢書南蛮伝』によれば、はるかな昔、高辛氏が帝王の時代に、犬戎国が服属せず、これを征伐しようとしたが、勝つことができなかった。
 よって、天下に号令した。
「犬戎の大将呉将軍を殺害した者には、莫大なる黄金と、広大な領地とを褒美にとらせる。また、美少女を妻として与えよう」と。

 当時、五彩の毛色をもつ「槃瓠(ばんこ)」という名の犬がいた。
 あるとき槃瓠は、誰かの首をくわえてきて、王宮に蹲った。群臣があやしんで見ると、呉将軍の首だった。
 帝は大変喜んだ。しかし、なにしろ犬だから、人間の女を妻に与えることも、諸侯に封じて官爵を授けることも相応しくないと思われた。
 どのように褒賞すべきかと臣下に諮って、ああでもないこうでもないと議論していると、それを聞いた王女が申し出た。
「父上は、すでに詔を下されました。今さら変えてはなりません。わたくしが嫁にまいりましょう」
 帝はやむをえないと腹を決めて、娘を槃瓠の妻とした。

 槃瓠は、妻を背に負うて走りゆき、遠く南山石室の中に入った。そこは未だ人の通ったことのないところで、誰も在り所を知らなかった。
 三年を経て六男六女をなし、子供たちは互いに夫妻となった。そのことを、母親は帝に手紙で知らせた。
 帝は彼らを呼び寄せて謁見した。言語はひどく異なって通じなかったが、人里に住むことを嫌い、山岳に入ることを好むと分かったので、名高い山と周囲の湖沼地帯を与えることにした。
 その地に子孫は大いにはびこり、「蛮夷」と呼ばれた。今の「長沙蛮」「武陵蛮」がそれである。
あやしい古典文学 No.1464