神谷養勇軒『新著聞集』第十八「洛陽小左衛門狂人」より

名刀

 京都の長刀鉾町に、小左衛門という絹織物商人がいた。
 小左衛門は商売のかたわら刀の目利きをして、ある時、正宗の名刀を一振り手に入れた。
 その刀を、刀剣鑑定の権威である本阿弥に見せたところ、「これは偽物」と言って突っ返してきた。
 小左衛門は激怒し、
「情けないことを言うものだ。それならば、名刀の証拠を見せてくれるわ」
とわめいて、門柱の石に斬りつけ、刀をさんざんに折ってしまった。

 その後、本阿弥から「もう一度見せてくれ」と言ってきたが、すでに刀はないばかりか、小左衛門は狂気を発して家を飛び出していた。
 狂人は幾年も、京都の往来で袖を広げ、あらぬ事を口走った末、その命を終わった。
あやしい古典文学 No.1369