『岩邑怪談録』「山県氏、天狗倒しに逢ふ事」より

天狗倒し

 山県何某という人が、西国の旅から岩国へ帰ってきたとき、欽明寺峠で日が暮れた。人里をはるか離れた場所だから、心細いことこの上ない。
 そのとき、にわかに山の麓から火が燃え出た。やがて、山も谷も空も、数万の燃え上がる火となった。

 これすなわち「天狗倒し」というものだろうと、聞いた人々は恐れあった。
あやしい古典文学 No.1355