古賀侗庵『今斉諧』補遺「妖僧」より

象人

 本所のある寺に、地方から来た僧が寓居していた。
 この僧は人のために呪術(まじない)を行い、広く世間に信奉された。寺門の前は呪術を請う者が市をなし、駕籠で乗りつける者も数知れなかった。
かくして僧は日々五十金以上を稼いでいたが、やがて忌まわしい所業を為した咎で獄につながれた。

 僧の呪術とは、次のようなものであった。
 たとえば重い病気に罹った人であれば、まず堂宇の奥深くの暗い場所へと導く。下僕などを伴うことは許さず、病者だけを連れ込んで、そこに寝かせ、まず手で胸や腹をなでる。
 傍らには、「象人」が立っている。それは等身大に造った像であるが、顔つきなどまるで生きているかのようだ。
「汝の疾病を、この象人に移そう」
 僧が言うやいなや、病者は病の痛みが洗い流されたように消え去るのを覚える。僧はさらに、
「象人といえども、長く病苦を引き受けていることは出来ない」
と言って、もぐさを取り、象人の体数ヶ所に灸をすえる。灸の痕はたちまち赤く腫れ、膿が流れ出る。まさに生きた人のようだ。そして、
「汝の病根は、残さず断った。もう心配することはない」
と、僧は告げる。

 これによって人々の尊崇が日々深まると、僧はたびたび信者の婦女子を術に陥れて、姦淫をなした。ついにそれが露見して、捕縛されたのである。
 僧の財物は、ことごとく官に没収された。処理に当たった役人某は、実際に目撃した象人について、
「あの相貌の奇怪さは、とても言葉にならない。きっと、どこか外国から手に入れたのだろう。断じて我が国の人が作りうるものではない」
と語った。
あやしい古典文学 No.1088