松浦静山『甲子夜話』巻之七十二より

鴨を撃つ与一

 わが家臣の与一左衛門という者が、ある日、平戸郊外の貯水池に行き、堤防に立って、池の鴨を銃で撃とうとした。
 鴨は池に浮いて、揺れ動いている。与一は精神を統一し、狙いすまして一発で仕留めた。
 すると、たまたま堤防の向かいにいた一人の農夫が、背負っていた肥桶を叩きながら、
「当たった、当たった!」
と叫んだ。
 それを聞いて、与一は農夫と向かい合ったまま、大きく嘆息した。

 後に、与一の友人がこの件を評していわく、
「その昔、源平合戦のおりの那須の与一は、衆目の見守る中、波に動揺する扇を一矢で射落とし、味方は箙(えびら)を叩き、敵は舷(ふなばた)打って、大騒ぎで賞讃した。今の与一はただ一人、閑寂の中、波に浮かんだ鴨を一発で仕留め、一農夫がポコポコと肥桶を叩いて嘆声した。その騒寂は、古今対照的であることよ」 と。
あやしい古典文学 No.414