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最終掲載日時:2006年06月18日
 
<掲載 -1141>
ネット講座【00209】〜より抜粋
このページは代理人弁護士を依頼せずに自分で裁判をしたいという方のために公開しているものです。
裁 判 の 知 識 001(Page 1)
初心者のための民事訴訟法(法律資格者のための交通事故業務ネット講座より)
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【6】初心者のための民事訴訟法

 1.はじめに
(交通事故ネット講座受講生の皆さんへ)

 ネット講座では、これまでアトランダムではありますが、交通事故賠償請求に必要な実務や法律知識について学習して来ましたが、これまで学習してきた多くは不法行為法(民法)や保険制度の仕組み(保険約款や商法)、そして、不法行為法の特別法である自賠法や製造物責任法等、実体法上の制度に関するものでした。

 いうまでもなく、民法や商法のような実体法の領域では、所謂「私的自治の原則」が採られていることから、交通事故賠償における民事紛争の自治的解決手段としては実体法上の和解契約(民法695条)に拠ることが多く、統計的にみても交通事故の当事者の90数%は、この制度を活用することで解決を図っているのが現状であるといえます。

 しかし、統計上は殆どの者が「私的自治」による解決を図っているとはいえ、中には「私的自治」により解決することを欲しない者までもが、何らかの事由により、裁判外の和解契約に甘んじているケースも少なくなく、その主な事由には次のようなことがあるものと考えられます。

 @ 訴訟(による判決)や訴訟上の和解(民事訴訟法89条)に限らず、調停(民事調停法)や仲裁契約(公示催告手続及び仲裁手続に関する法律786条以下)に拠る解決では、争っている額によっては費用(実質的には時間がかかること)対効果の面で難点があること。
調停・即決和解・訴訟・少額訴訟の手続の流れ及びその利点等についてはこちらを参照して下さい。

 A 争っている額によっては弁護士費用対効果の面で難点があること。

 B 本人訴訟により解決を図りたいが、(実体法、手続法の)知識がないこと。

 これらの事由はそれぞれが相関しているといえる場合もありますが、Bの場合は、争っている額の多寡や時間の無駄にかかわらず当事者本人の意向としては訴訟による解決を図りたいが、法律知識がないため(訴訟提起の是非=勝訴の可能性について判断できないことから)、裁判外の和解契約に甘んじるほかないというケースであるとの見方ができます。

 そこで、我々としては、依頼者から訴訟に関する相談を受けた際には、(本来業務や付随業務としてではなくても)、それなりの対応ができるよう訴訟に関する知識を得ておくことが望まれます。

 このことは、また本人訴訟の無償支援に限らず、受託事案の継続処理につき訴訟代理人としての弁護士を依頼者に紹介した場合や、依頼者本人が弁護士を依頼した場合でも、以後、弁護士との打合せなどの場では、訴訟に関する知識が豊富であることに越したことはないという考えに基づきます。

 したがって、我々が訴訟に関する知識を習得する目的としては、あくまでも業務の周辺知識としてのことであるとしても、それが依頼者に対する幅広いサービスの一環となることでは、それ以上のことでもそれ以下のことでもありません。したがって、現段階において民事訴訟法を学ぶことは、訴訟代理や訴訟支援を本来業務とすることを目的とするものではありません。

 前置きが長くなりましたが、このような考え方を前提として、今日からは民事訴訟についての学習を始めたいと思います。なお、解説の流れとしては、アトランダムながらも要点を絞りながら進めて行きたいと思います。

(1)判決手続による民事紛争解決の意義

 当事者の合意による実体法上の和解(民法695条)が成立しない場合においては、当事者は裁判上の和解(民事訴訟法267条275条、民事訴訟規則169条)、民事調停(民事調停法)、仲裁契約(公仲法786条以下)などの制度により紛争の解決を図ることも可能ですが、しかし、これらの紛争解決制度は、当事者の合意を前提とするものであることから、これらの制度はあくまでも「自治的な制度」であり、強行的(ないし強制的)制度ではありません。

 これに対して、判決手続における裁判所の最終判断は、(強制執行手続と相俟って)紛争解決のための「終局的手段」と言えるものです。

 では、何故裁判所の最終判断である(確定)判決を得ることが紛争解決のための「終局的手段」といえるのでしょうか?

 このことについてある者は「一事不再理」ということをもって、その理由とするという意見もありますが、これは間違いです。「一事不再理」というのは、刑事訴訟法上の確定力の効果(刑事訴訟法337条の1号)とは異なり、民事訴訟法上は、確定判決に一事不再理の効果はないとされており、すなわち、民事訴訟の訴訟物(訴訟において審判の対象となる事項で訴訟の目的又は客体を指す)である法律効果は判決があった後も新たに発生し、又は消滅する可能性があるから、厳格に同一事件というものは考えられず、すなわち、「既判力(後述)」は前の判決と抵触する判断を許さないという効果があるにすぎないとされているからです。

 尤も勝訴当事者が同一訴訟物につき重ねて訴訟提起した場合には、権利保護の利益を欠くものとして却下されることがありますが、その場合でも特に必要がある場合は再度の訴訟提起が認められる場合(例:判決原本滅失のため執行力ある正本が求められない場合、時効中断のためのほかに方法がない場合)があります。

 それでは、確定判決にはどのような効力があることから、紛争解決のための「終局的手段」といえるのでしょうか?このことについては次項の「既判力」の項で解説することとします。

(2)「既判力」について

 「確定判決」には、「判決の取消しを妨げる拘束力」があり、これを「形式的確定力」といいますが、この「形式的確定力」の効果は、「判決の判断内容については争うことができない」という拘束力にあり、これを「形式的確定力」との対比において「実質的確定力」といいますが、これが一般的に「既判力」(民事訴訟法114条・115条)といわれるものです。

 この「実質的確定力」即ち「既判力」については、具体例を挙げ解り易くいうと、交通事故の例でいえば、追突被害事故により、むち打ち症の傷害を負ったとして、賠償請求訴訟を提起した場合において、裁判所が原告の請求原因に関する主張や立証を不十分と判断して請求棄却の判決を下し、これに対して、原告は控訴及び上告をして争ったが、上級審でも原審の判決を覆すことができずに原審の判決が確定した場合において、原告としては、裁判所の判断といえども、どうしても納得がいかないということで、その後重要な証拠と思えるような資料を見つけ出したとか、或いは裁判中に気付かなかったような法律構成を考え、再度、同内容の訴訟提起をするに至ったとします。

 このような場合、再度の訴えを受理した裁判所が、仮に原告の主張を正しいと判断したとすれば、既に確定している判決を覆して原告の請求を認める判決を下すことができるでしょうか?このような再審理による判決を下すことはできないというのが結論なのですが、

 仮にこのような再審理により判決を下すことが認められるとすると、当事者によっては、何度でも紛争を蒸し返すことになりかねません。そうすると、その都度、裁判所が時間をかけ慎重に審理した上で判断したことが、再審理の度に無駄になってしまい、一方、当初の判決では勝訴した当事者においては、何時まで経っても法律関係上の安定が得られないことでは、勝訴判決を得ただけでは、安心してはおられなくなります。

 そこで、民事訴訟法114条1項では、このような事態を避けるため、「確定判決の主文」について前の訴訟で判断された事項と同一の事項が後の訴訟で、再度争われることになったときは、当事者はこれと矛盾する主張をして争うことはできないという拘束力につき定めています。

 この拘束力、すなわち、「既判力」というわけですが、この既判力の基準時(後述及び民事執行法35条2項)における法律関係や既判力の及ぶ範囲(民事執行法115条)などが規定されていることから、その効力の及ぶ範囲内では、再訴による争いを不許としているものであり、その意味で確定判決は紛争解決のための「終局的手段」であるといえます。

(3)既判力の基準時

 民事上の権利義務やその法律関係は、時間の経過とともに変化するのが普通です。したがって、例えば確定判決による被告の賠償債務も原告である被害者が弁済を受ければ、被告の賠償債務は消滅し、また交通事故賠償以外でも、例えば動産や不動産等の所有権やその他物権も契約や相続により次々と移転することがあります。

 したがって、既判力により確定された法律関係も「特定の時点」における法律関係でなければなりません。このことは例えば、交通事故賠償請求訴訟における原告勝訴の確定判決による債権債務関係において、被告がその確定判決に従い原告に賠償金を支払った場合、あるいは原告が被告に対して、その賠償金の支払いを免除した場合には、確定判決による債務が消滅し、そのことでは、被告はその事実を主張し請求異議の訴などにより争うことで強制執行を免れ得ることになります。

 このように「特定の時点」を基準として確定される法律関係も、その「特定の時点」以後に発生した事由によっては、その法律関係の変化に対応するべく、その基準時を明確にしておく必要があり、そのための規定は民事訴訟法では明文としては規定されていませんが、その時期は、民事執行法35条の2の規定(確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。)によるところ、既判力の基準時は「事実審の口頭弁論終結時」であると解されています。


(4)訴訟要件について

 民事訴訟制度は私人間の紛争を解決するために裁判所が法律を適用して、当事者の権利義務や法律関係の存否の判断につき「本案判決
(下記の注:1を参照して下さい。)」において示すことにより解決を図るべく国家が設けている広い意味での公法(下記の注:2を参照して下さい。)上の制度です。そこで国は、このような制度を合理的かつ能率的に運営していくため、訴えが本案判決をするに相応しいかどうか取捨選択する必要上、種々様々な点につき訴訟要件としての規定を設けています。

   訴訟要件の種類としては、以下に挙げるものがあります。

 @ 当事者及び事件が我国の裁判権に服するものであること。

 A 裁判所が職分・事物・土地管轄につき管轄権を有すること。

 B 訴の提起につき訴訟能力や代理権の存在等が有効であること。

 C 訴状の送達が有効適式であること。

 D 当事者が実在し、当事者能力を有すること。

 E 原告が訴訟費用の担保を提供する義務のあるときは、その提供があること。

 F 訴えの利益(狭義の訴えの利益及び当事者適格)が認められること。

 G 訴えの併合や訴訟中の訴え(訴の変更・反訴等)については、その要件が充足されていること。 

(注:1)本案判決とは、訴訟判決(訴え却下の判決)に対し、訴えによる原告の主張(請求)の当否に関する判決を意味しますが、他の用例もあります(単に本案という場合の意味とは異なる)。ここでは通常意味するところの請求を認容する本案判決としては、請求の趣旨に従い確認判決・給付判決・形成判決などを指し、請求を排斥する場合は、請求棄却・上訴棄却の判決という場合を指します。
   
(注:2)法を公法と私法に分けることは一般に行われているが、その区別の標準としては、権力関係の法か対等関係の法か(法律関係説・権力関係説)、公益に関する法か私益に関する法か(利益説)、国家に関する法か、私人に関する法か(主体説)など、種々に分かれており定説はありません。また、一部の学説純粋法学→本ページの末尾の参照資料001へジャンプ))は、法をその本質的性格に基づいて公法・私法に分けることの理論的可能性を否定し、あるいは最近における公法・私法の混在あるいは融合化の現象を重視して両者の区別を否定する者もいます。

 しかし、多くの国の実定国法上で、この両者を区別し、法の解釈・適用の原理を異にしていることは否定できません。ただ、近代法におけるこの区別は、一定の政治的社会的背景の下に生じた歴史的制度的所産であるから、国により時代によって同じでないことに注意しなければなりません。

 また、実定制度を運用する技術的必要からこの区別が要請される場合があり、特に行政裁判制度をとる諸国では、行政裁判所・司法裁判所の管轄権分配の必要上、何らかの基準によって公法・私法の区別をしなければならず、その場合には、この区別を必要とする制度の趣旨を考えて区別の基準を定めるのが相当であるといわれています。
   
 現在の我国法では、行政裁判制度は廃止されていますが、行政事件訴訟4条がこの区別を前提としています。なお、公法・私法を区別する意義は失われてはいないし、公法関係においては、私法関係と異なった法理が妥当する場合があり、法体系の分類としては、憲法・行政法・刑法・訴訟法・国際法等を公法に、民法・商法等を私法に属させるのが普通です。また、公法の語は、例えば公法学会や公法学者という場合には、しばしば憲法及び行政法だけを指すのに用いられていることがあります。

(5)(我国の)裁判権について

 裁判権は訴訟要件であることから、我国に裁判権が認められない事件については、その訴えは不適法として却下されることはいうまでもないことですが、仮に裁判権に服さない外国人などの事件につき過って判決が確定した場合はどうなるでしょうか?

 この場合は、再審事由(民事訴訟法338条)には該当しないので取消すこともできないとされています。尤もこのような裁判権に服しない者に対する判決は、その既判力や執行力は生じないことから、裁判は無効であると解されています。

 @ 民事裁判権

 裁判所が裁判によって法律事件を処理する国家権力を裁判権といいますが、民事事件に関するものを「民事裁判権」といいます。民事裁判権は、裁判によって当事者間の法律関係を判決手続により確定(給付・確認訴訟)又は形成(形成訴訟)し、必要に応じて執行手続により裁判の内容を強制的に実現し、また、これらの手続に関して訴状など訴訟資料を送達し、証人などを呼び出し尋問し、あるいは証拠物を所持する者に対し、提出命令を出し、これらに応じない者に対しては制裁することなどです。

 A 民事裁判権の対人的制約

 民事裁判権は原則として国籍を問わず国内に居る全ての人に及びます。ただし、治外法権(民事訴訟法4条、旧3条)を有する外国の元首、外交官やその随員及び家族などについては、これらの者が自ら治外法権を放棄しない限りは我国の裁判権に服する義務を負わないものとされています。(東京地裁昭和30年12月23日判決 下民集6巻12号2679頁)

 B 民事裁判権の対物的制約

 対物的制約というのは、どのような種類や性質の事件について我国の民事裁判権が及ぶかという問題ですが、この制約に関しては、国際民事訴訟の領域における問題であり、すなわち、渉外的民事訴訟における裁判権と国際裁判籍、外国判決の承認及び執行等に係る制約を意味します。詳細については、「国際民事訴訟」の項で詳述しますが、参考までに既述のネット講座【00193】の「(6)外国の製造業者等に対し賠償請求する場合の訴訟手続について」の項を参照してみて下さい。

(6)管轄

 管轄は、裁判所の側からみた場合は、裁判所間における裁判権の分担に関する規定であり、管轄権の分類としては「職分管轄」、「事物管轄」、「土地管轄」のほか「これら法定管轄以外の管轄(指定管轄・合意管轄・応訴管轄・任意管轄・専属管轄)」があります。(民事訴訟法10・11・12・281条但し書き 人事訴訟法1条、商法88条)

 @ 職分管轄

 職分管轄は、異なる作用の裁判権につきどの裁判所の職務権限とするかという区別の定めをいいます。判決手続と執行手続の裁判手続でいえば、それぞれ受訴裁判所と執行裁判所が管轄を有するというように。また、支払督促(民訴法383条)や訴え提起前の和解(同275条)の場合は簡易裁判所の管轄とするというように、さらには、三審制における審級管轄(第一審は簡裁あるいは地裁、控訴審は地裁あるいは高裁、上告審は高裁あるいは最高裁というように)も職分管轄であり、特別な審級管轄としては、高裁を第一審(独禁法85条、公職選挙法203条、204条)としている場合もあります。

 A 事物管轄

 事物管轄は、簡裁と地裁間で訴額(注:訴訟物の価格 民訴法8条・9条ほか下記を参照)が60万円
(平成16年4月1日改正法施行)を越えない特定の少額訴訟及び90万円を越えない事件については簡裁の管轄とし、その額を越える事件及びその他不動産に関する事件は地裁の管轄とする(裁判所法33条1項1号・24条1号)という区別です。

 したがって、訴額が90万円以下の不動産に関する訴訟は、簡裁と地裁の両方が管轄権を有するとされています。

(注)訴額の算定方法については、民訴法8条及び9条によりますが、離婚や会社の決議の効力に関する訴訟、訴訟物が非財産権である場合において訴額が算定できない時は90万円を超えるものとみなされます。また行政事件訴訟における処分取消を求める抗告訴訟では、元来訴額は存在しないものとされていることから、このような非財産的な請求の場合も90万円を超えるものとみなされており(民訴法8条2項)、さらには、地方自治法242条の2第1項4号の住民訴訟や人格権に基づく差止訴訟など、たとえ訴訟物が財産権であっても訴額を算定するための客観的基準を見出すことが困難な場合は、前記同様90万円を越えるものとされます。なお、これら訴額が90万円を越えるものとみなされる場合の訴額は95万円とみなされています。(民訴費用法4条2項)

 B 土地管轄


 前記「事物管轄」により第一審の裁判所(簡裁又は地裁)の管轄権の区別に従い、次は、これら全国の裁判所中から特定の裁判所の管轄権、すなわち「裁判籍」をもって「土地管轄」とし、土地管轄の基準としては、当事者との関連では、「人的裁判籍」を定め、事件の訴訟物との関連では、「物的裁判籍」を定めるというのが土地管轄です。

 この説明では分り難いので、重複して説明します。事物管轄に従い、次に特定の裁判所を管轄とするには、全国の各簡裁又は各地裁は、それぞれが管轄する受持区域を持っているのですが、その管轄の区分は、一定の基準を設けて事件と関連する地点を決定し、その地点を包含する区域を受け持つ裁判所に管轄権を認めるというものです。このようにして定まる管轄を「土地管轄」といい、「土地管轄」を決定する基準となる地点のことを「裁判籍」といい、「裁判籍」の中で、事件の当事者との関連で決まる裁判籍を「人的裁判籍」といい、訴訟物との関連で決まる裁判籍を「物的裁判籍」といいます。

 なお、ここでいう「裁判籍」は、さらに「普通裁判籍」、「特別裁判籍」、「独立裁判籍」、「関連裁判籍」に区別されています。

 A 「普通裁判籍」

 普通裁判籍は、民事訴訟法4条の規定により訴訟において被告となる当事者の住所地(法人の場合は営業所の所在地、国の場合は法務省の所在地)を管轄する裁判所をもって裁判籍とされています。すなわち、事件の内容や性質とは無関係に被告の生活又は活動の本拠地となる地点を裁判籍としているのが普通裁判籍です。この普通裁判籍は、すべての被告について発生する「人的裁判籍」であり、これをもって普通裁判籍としているものです。

 B 「特別裁判籍」

 特別裁判籍は、事件の特殊性から、特定の事件について認められている裁判籍で、「人的裁判籍」と「物的裁判籍」に区別されています。この両者は原則として「普通裁判籍」と競合して認められています。この特別裁判籍は、他の事件と無関係に認められる後述の「独立裁判籍」と他の事件との関連で認められる「関連裁判籍」とに区別されます。

 C 「独立裁判籍」

 独立裁判籍については、民事訴訟法の規定(5条1号〜15号)されているところですが、その主なものとしては、財産権に関する訴えは、「義務履行地」、不法行為に関する訴えは、「不法行為地」、不動産に関する訴えは、「不動産の所在地」、特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴えは、民訴法6条の新設により「東京高等裁判所、名古屋高等裁判所、仙台高等裁判所又は札幌高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所(東京地方裁判所を除く。)東京地方裁判所、大阪高等裁判所、広島高等裁判所、福岡高等裁判所又は高松高等裁判所の管轄区域内に所在する地方裁判所(大阪地方裁判所を除く。)大阪地方裁判所」とされていますが、

 このうち、「特許権、実用新案権、回路配置利用権又はプログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴え」については、これらの訴えは、その専門性故に、担当する裁判官には、当該紛争分野に関する知識や理解力が要求されることに加え、事件を円滑に処理することも要求されるなどの理由から、これまで、この種の事件が集中している東京地裁と大阪地裁にできるかぎり集中させるよう他の土地管轄と競合的に認めるよう定められているものです。

 D 「関連裁判籍」

 一つの訴えで複数の請求(併合提起)をする場合には、その請求中、一つの請求につき管轄権を有する裁判所に訴えを提起することができます。(民事訴訟法7条前段)ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、同法38条前段(共同訴訟の要件)に定める場合に限る(同7条の但し書き)とされており、これは、すなわち、「訴訟の目的である権利又は義務が数人について共通であるとき、又は同一の事実上及び法律上の原因に基づくときは」訴えの主観的併合の場合でも関連裁判籍を認めるというものです。

 この「関連裁判籍」は、複数の請求がある場合、そのうち一つの請求だけでは管轄権を有しない裁判所であっても、そのうちのいずれかの請求がその裁判所の管轄権に属するものであるときは、他の請求についても管轄権を発生させるという規定である点、裁判所としても同時に審理できることでは訴訟経済上も効率が良くなるといえます。

(7)法定管轄以外の管轄について

 前記(6)の@〜Cの管轄(職分管轄・事物管轄・土地管轄)は、直接法律で規定されている所謂「法定管轄」ですが、このほか裁判所によって法定管轄のない裁判所に管轄が創設される場合(指定管轄)をはじめ、当事者の合意(合意管轄)や管轄違いの訴えに対して応訴することによって生じる管轄(応訴管轄)などがあります。

 @ 指定管轄

 指定管轄は、具体的事件について、法定管轄のある裁判所が裁判権を有していても、当該裁判所の裁判官全員に除斥理由があるとか、その他何らかの事由(例:裁判官全員が事故に遭ったとか、急病にかかったとか)により裁判権を行使することが不能であるとき、又は法定管轄の区域が明確でないとき(例:移動中の航空機内や船内、列車内での不法行為によるため不法行為の場所が特定できない場合)に当事者の申立により、事件に関係ある裁判所に共通する直近上級裁判所の裁判によって創設されるものです。(民事訴訟法10条)

 A 合意管轄

 訴訟の当事者は、第一審にかぎり、書面をもって合意した裁判所を管轄として定めることができます。これを「合意管轄」といいます。
 
 合意管轄における当事者の合意には、法定管轄のほかに新たな管轄裁判所を付加する「付加的合意」と、法定管轄を排斥して合意した裁判所にだけ管轄を認めるという「専属的管轄」がありますが、この選択は当事者の意思により定めることになりますが、これが不明瞭なときは、合理的意思解釈によるとしても、原則としては「専属的合意」とすべきであると解せられています。

 尤も、附合契約たる各種保険約款や各種運送約款などでは、初めから管轄合意がなされるような内容となっており、これを無条件に「専属的合意」とみなすことは不公平であるといえます。
  
 そこで、このような附合契約では、所謂「管轄合意条項」として約款を作成した側の本店等の所在地が記されている点、一般の契約者には事実上これを変更する自由がないことから、このような場合には、これを「付加的合意」であると意思解釈すべきであるとするのが判例です。(札幌高裁昭和45年4月20日下民集21巻3.4号603頁)

 B 応訴管轄

 被告が第一審裁判所において管轄違いの抗弁を提出せず応訴した場合には、その裁判所が管轄権を有することとなります。これを「応訴管轄」といいますが、これは実質的には黙示の合意による「合意管轄(前記A)」といえます。

 C 任意管轄と専属管轄について

 前記Aの合意管轄やBの応訴管轄は、当事者の合意や応訴により、法定管轄を変更できる点で「任意管轄」といいます。これらは、原則として「土地管轄」や「事物管轄」につきその対象とされています(例外としては人事訴訟法1条、商法88条など)。これに対し、原則として管轄を変更することのできないとされているのが「職分管轄」です。

 例外としては、職分管轄の場合でも、当事者の合意によるときは審級につき管轄を変更し定めることができます。これは、当事者が上訴については、直近の上級審を省き上告の合意をする場合です。これを「飛躍上告」といい(民事訴訟法281条但し書き)、これも「任意管轄」の一種であるといえます。

(8)管轄権の調査

 @ 管轄権の調査・管轄違背等について

 前回までに述べたところの管轄権は訴訟要件であるから、管轄権のない裁判所に訴えが提起された場合には、裁判所は管轄に関する事項につき職権で証拠調べをすることができます。(民事訴訟法14条)また、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは申立て又は職権により管轄権を有する裁判所に移送することができます。(民事訴訟法16条1項)

 ただし、地方裁判所の場合は、訴訟がその管轄区域内の簡易裁判所の管轄に属する場合でも、訴訟がその簡易裁判所の専属管轄で当事者の合意によるものでない(民事訴訟法11条による合意管轄)ときは、申立て又は職権により訴訟の全部又は一部について自ら審理及び裁判をすることが相当であると認めるときは管轄裁判所に移送しなくてもよいものとされています。(民事訴訟法16条2項)

 したがって、これらの規定による措置が講じられることでは管轄権を欠く訴えであっても、その訴えが直ちに却下されることはありません。また、管轄権を有しない裁判所がその訴訟を管轄裁判所へ移送することなく、受訴裁判所として判決を下した場合には、当然に無効な判決とはされず、控訴審においても第一審の管轄権の不存在につき主張できないものとされています。(民事訴訟法299条)

 このように任意管轄の管轄違背については、判決の言渡しにより瑕疵が治癒されることから、判決言渡後において当事者は第一審の裁判所が下した判決に対しては、管轄違背を事由とする無効を主張し、取消を求めたりすることはできないものとされています。これに対し、管轄の違いが「専属管轄違背」であるときは、当事者は控訴((民事訴訟法299条但し書き)及び上告事由(民事訴訟法312条2項3号)とすることができます。

 なお、「専属管轄違背」の「専属管轄」とは、「法定専属管轄」を指し、任意管轄と同様の扱いを受ける「専属的合意管轄」と異なることはいうまでもありません。(「専属的合意管轄」については、既述ネット講座【00210】「(7)法定管轄以外の管轄について」の「A合意管轄」を参照して下さい。)  

 A 訴訟要件である管轄権の判断の基準時について

 訴訟要件の一つである管轄権に関する裁判所の職権による調査・証拠調べ及び移送・自判等にかかる「判断の基準時」は、他の訴訟要件の場合(口頭弁論終結時)とは異なり、「訴えの提起の時」とされています。(民事訴訟法15条)

 「基準時」の意義は、例えば審理中に被告の住所が当該管轄区域外に移転し、あるいは訴訟物の価格が物価変動により上下した場合でも、事物管轄や土地管轄に影響を受けることなく、当該裁判所の管轄権を維持させるためといえます。

(9)移送

 @ 移送とは

 移送とは、ある裁判所の訴訟係属
(注:下記を参照して下さい。)下にある訴訟を裁判により、他の裁判所へ移転することをいい、移送の裁判が確定すると移送先の裁判所へ訴訟記録が送付されます。移送の事由による種類は後述しますが、通常民事訴訟における移送は次による場合が挙げられます。

 ● 管轄違いによる場合(民事訴訟法16条1項)

 ● 著しい損害又は遅滞を避ける必要のある場合(同法17条)

 ● 簡易裁判所がその受理した訴訟を地方裁判所で審判するのが相当であると認める場合(同法17条)

 ● 簡易裁判所の訴訟手続中に地方裁判所の管轄に属する反訴の提起があったことに基づく場合(同法274条1項)

 ● 控訴裁判所において事件が管轄違いであることを理由として第一審判決を取り消すとき(同法309条)

 ● 上告裁判所が原判決を破棄して事件を原審級に差し戻すにあたって原
  裁判所に代えてこれと同等の他の裁判所へ移送する場合(同法325条)

 ● 高等裁判所が上告裁判所として受理した事件を最高裁判所の定める事由があるときに最高裁判所へ移送する場合(同法324条)

(注)「訴訟係属」とは、民事訴訟法上、ある事件が裁判所で訴訟中であること、すなわち一定の当事者間における特定の請求が国内の一定の裁判所で狭義の訴訟すなわち「判決手続」又は「督促手続」の対象となっている状態を指し、訴えの提起に基づいて生ずるのが通例であり、従前は訴訟継続を「訴訟繋属」と書いていました。訴訟継続に結び付けられた訴訟法上の効果の最も直接かつ主要なものは「重複訴訟提起の禁止」(民事訴訟法142条)であり、その他訴訟継続を前提として、「訴訟参加」(民事訴訟法42条・52条)や「訴訟告知」(同53条)が可能となります。

 A 移送の事由による種類

 A 管轄違いを事由とする移送

 管轄権を有しない裁判所に対して訴えが提起された場合、訴えを直ちに却下すると、原告は再度管轄権を有する裁判所に対して訴えを提起しなければならず、また時効中断などの利益を失うことになるなどのことから、管轄権を有する裁判所に移送することとされています。(民事訴訟法16条)

 管轄違いの事由が事物管轄の違いである場合において、それが簡易裁判所の管轄に属する事件が地方裁判所に対して提起された場合は、地方裁判所は移送せずに自ら裁判することができます(民事訴訟法16条)が、これに対し簡易裁判所の場合は、訴額が90万円を越える場合は管轄の地裁に移送することを要し、また越えない場合であっても、その訴訟を地方裁判所に移送することができるとされています。(同18条)

 B 遅滞をさけるための移送

 一つの事件の管轄権につき複数の裁判所が競合して管轄権を有する場合、原告は、そのうちの一つの裁判所に訴えを提起することができます(民事訴訟法7条)が、裁判所において訴訟の遅滞防止や当事者間の衡平を図るため他の裁判所に移送する必要があると認めるときは、当該裁判所は事件を移送することができます。(民事訴訟法17条)ただし、当該裁判所の「専属管轄」に属する事件については、「専属的合意管轄」(任意管轄)の場合を除き移送することはできません。(同20条)

 C 必要的移送

 第一審の訴えの提起に当たり当事者は合意管轄を定めることができることについては既述しましたが、この当事者の合意による管轄は、訴訟の提起後においても認められるのが原則です。したがって、裁判所は当事者の合意がある場合には、訴訟がその裁判所の管轄権に属する場合であっても、次の事由による以外の場合においては移送しなければならないものとされています。(民事訴訟法19条)ただし、その裁判所の「専属管轄」に属する事件は、前記Aと同様「専属的合意管轄」の場合を除き移送することはできないことはいうまでもありません。

 ● 移送することで著しく訴訟手続を遅滞させることとならないこと。

 ● 移送の申立てが、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て以外のものであって被告が本案について弁論をし、若しくは弁論準備手続において申述をしていないこと。

  本規定による必要的移送の形態は次のように区分することができます。

 簡裁→他の簡裁
 地裁→他の地裁
 簡裁→その所在地を管轄する地裁以外の地裁
 地裁→簡裁

 B 移送の裁判

 移送の裁判は「決定」
(注1:下記を参照して下さい。)の形式でおこなわれ、この決定及び移送の申立てを却下した決定に対して当事者は「即時抗告」(注2:下記を参照して下さい。)をすることができます。(民事訴訟法21条)

(注1)「決定」とは民事訴訟法上、裁判所のする判決以外の裁判を指しますが、判決による形式以外の裁判には、「決定」以外に「命令」があります。「決定」と「命令」の違いは、「決定」は合議制をとる裁判所では合議体のする裁判であるのに対し、「命令」は個々の裁判官(裁判長・受命裁判官・受託裁判官)のする裁判である点にあります。

 合議制でない場合(一人制)の場合は、裁判官が合議制であれば合議体に属するはずの権限でする裁判が「決定」で、裁判長の権限に基づく裁判が「命令」です。ただし、命令とあっても決定の性質を持つものがありますので、この点については留意する必要があります。命令とあっても決定の形式による裁判による例としては次のものが挙げられます。

 ● 督促手続における支払命令
 ● 差押命令・仮差押命令・仮処分命令
 ● 転付命令

 なお、「決定」は任意的口頭弁論に基づいておこなわれ(民事訴訟法87条1項但し書き)裁判所が相当と認める方法で告知すれば効力を生ずることとされています。

(注2)「即時抗告」とは訴訟法上(刑事・民事訴訟法共に)その提起が性質上迅速に確定させることの必要な「決定」につき明文の規定がある場合にのみ認められる不服申立ての方法のことをいいます。「即時抗告」がなされると、原則として執行停止の効力が生じます。なお、即時抗告することができる期間は民事訴訟法(同法332条)・非訟事件手続法(同法25条)では、1週間、破産法(同法112条)・民事再生法(同法9条)・民事調停法(同法21条)・家事審判法(同法14条)等では2週間の不変期間(下記:注3を参照して下さい。)とされています。

(注3)「不変期間」とは、法定期間であるが故に付加期間(民事訴訟法96条)を除き、裁判所がこれを伸縮することができない期間です。ただし、当事者の責めに帰すことのできない事由で徒過した場合には、訴訟行為の「追完」(下記:注4の条文を参照して下さい。)としての延長が認められることとされています。(民事訴訟法97条・116条・民事再生法95条・会社更生法127条)

 なお、「不変期間」は、即時抗告期間のほか控訴期間(民訴285条)・上告期間(同313条)・再審期間(同342条)・督促手続(同385条)又は手形小切手判決に対する異議期間(同357条)等手続の終結に関する裁判に対する不服申立てに関するものが多いのですが、そのほか除権判決に対する不服の訴え(同332条)・仲裁判断取消しの訴え(公示催告手続及び仲裁手続に関する法律775条)・行政処分の取消し変更を求める訴え(行政事件訴訟法14条)・行政事件訴訟上の当事者訴訟(同40条)などの出訴期間に関するものもあります。

(注4)民事訴訟法97条(訴訟行為の追完)
 当事者がその責めに帰することができない事由により不変期間を遵守することができなかった場合には、その事由が消滅した後一週間以内に限り、不変期間内にすべき訴訟行為の追完をすることができる。ただし、外国に在る当事者については、この期間は、二月とする。
2 前項の期間については、前条第一項本文の規定は、適用しない。

 C 移送の効力

 移送の裁判が確定したときには、訴訟が最初から移送を受けた裁判所に継続していたものとされます。したがって、訴えの却下や取り下げの場合のように時効中断や期間遵守等の効力は何ら影響を受けないこととなります。なお、移送を受けた裁判所においては、その事件をさらに他の裁判所に移送することはできないこととされています。(民事訴訟法22条)

(10)裁判官・書記官・執行官・調停委員・鑑定人等の「除斥・忌避・回避」について

 @ 除斥制度について

 
民事訴訟法23条では、裁判官は次の場合においては、その職務を執行することができないものとされています。この規定による制度のことを「裁判官の除斥」といいます。また、この制度は書記官にも適用されます。なお、本規定による除斥原因があるときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、除斥の裁判をすることとされています。

 【除斥原因】

 
1.裁判官又はその配偶者若しくは配偶者であった者が、事件の当事者であるとき、又は事件について当事者と共同権利者、共同義務者若しくは償還義務者の関係にあるとき。

 2.裁判官が当事者の四親等内の血族、三親等内の姻族若しくは同居の親族であるとき、又はあったとき。

 3.裁判官が当事者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。

 4.裁判官が事件について証人又は鑑定人となったとき。

 5.裁判官が事件について当事者の代理人又は補佐人であるとき、又はあったとき。

 6.裁判官が事件について仲裁判断に関与し、又は不服を申し立てられた前審の裁判に関与(注=「前審」については下記判例を参照して下さい。)したとき。ただし、本号に該当する場合でも他の裁判所の嘱託により受託裁判官としてその職務を行う場合は除斥原因にはならないとされています。

 【民事訴訟法23条6号の「前審」に関する判例要旨】

 
● 前審の裁判とは当該事件における直接または間接の下級審の裁判を指す。(最高裁昭和36年4月7日判決 民集15巻4号706頁)

 ● 一審の裁判に関与した判事は二審裁判の言渡手続に関与することを妨げない。(大審院昭和5年12月18日判決 民集9輯1140頁)

 ● 「前審ノ裁判ニ関与シタルトキ」〔旧三五条六号、現二三条一項六号〕とは、前審の裁判の評決に加わったときの意であって、たとえ前審において口頭弁論を指揮し証拠調べをした事実があっても、職務の執行から除斥されない。(最高裁昭和28年6月26日判決 民集7巻6号783頁)

 ● 再審の訴えによって不服を申し立てられた確定の裁判に関与したことは前審関与に該当しない。(大審院昭和18年6月22日判決 民集22輯551頁)

 ● 調停に関与した裁判官は、その後の訴訟事件の判決に関与することを妨げない。(最高裁昭和30年3月29日判決 民集9巻3号395頁)

 A 忌避の制度について

 
民事訴訟法24条では、裁判官について裁判の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は、その裁判官を忌避することができることとされています。(同法24条1項)このような忌避の対象となる事情を「忌避事由」といいます。

忌避事由がある場合であっても当事者は、裁判官の面前において弁論をし、又は弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判官を忌避することができななくなりますが、忌避の原因があることを知らなかったとき、又は忌避の原因がその後に生じたときはこの限りではありません。(同条2項)

なお、忌避事由は極めて狭く解せられていますが、忌避事由として認めなかった判例には次のようなものがあります。

 【忌避事由とは認められない事由に関する判例要旨】

 ● 裁判官が訴訟代理人の女婿であることは忌避の事由にあたらない。(最高裁昭和30年1月28日判決 民集9巻1号83頁)

 ● 最高裁判所規則の制定をめぐる訴訟において、右制定に関する裁判官会議に参加したことを理由に最高裁判所の裁判官につき忌避の申立てをすることはできない。(最高裁平成3年2月25日決定 民集45巻2号117頁)

 ● 弁護士出身の裁判官が、任官前、単に当事者の一方の顧問弁護士事務所に所属していたこと、あるいは同事務所で当該事件と無関係な法律事務を取り扱ったことがあることのみでは、裁判の公正を妨げるべき事情があるとはいえない。(東京地裁平成7年11月29日決定 判タ901号254頁)

 B 除斥及び忌避の裁判について

 
裁判管・書記官に除斥及び忌避事由があるとして当事者が除斥又は忌避の裁判を求めた場合には、合議体の構成員である裁判官及び地方裁判所の一人の裁判官の除斥又は忌避については、その裁判官の所属する裁判所が、簡易裁判所の裁判官の除斥又は忌避についてはその裁判所の所在地を管轄する地方裁判所が決定で裁判をすることとされています。(民事訴訟法25条1項)

 この場合、地方裁判所においては、合議体よることを要し(同条2項)、また、これら忌避の裁判においては、裁判官は、その除斥又は忌避についての裁判に関与することができないこととされており(同条3項)除斥又は忌避を理由があるとする決定に対しては、不服を申し立てることができないものとされています。(同条4項)なお、除斥又は忌避を理由がないとする決定に対しては、即時抗告をすることができます。(同条5項)

 C 回避の制度について

 
回避とは、裁判官自らが除斥又は忌避事由があると認める場合に監督権を有する裁判所の許可を得て、自ら当該裁判の職務を退くことをいいます。ここで「裁判所の許可」とは、除斥や忌避事由についての裁判によるものとは異なり、「私法行政上の許可」を指します。(民事訴訟規則12条)
 なお、裁判所書記官の回避の許可は、その裁判所書記官の所属する裁判所の裁判所法37条
(注:司法行政事務=下記:注の条文を参照して下さい。)に規定する裁判官がすることとされています。(同規則13条)

 
(注)司法行政事務を掌理する裁判官については、次のとおり裁判所法37条で規定されています。
 裁判所法37条(司法行政事務)
 各簡易裁判所の司法行政事務は、簡易裁判所の裁判官が、一人のときは、その裁判官が、二人以上のときは、最高裁判所の指名する一人の裁判官がこれを掌理する。

 D 裁判所職員の除斥、忌避及び回避申立ての方式等について

 
裁判官や書記官の除斥・忌避等の申立ての方式は次によることとされています。

 ● 裁判官や書記官(同規則13条)に対する除斥又は忌避の申立ては、期日においてする場合を除き書面で、その原因を明示して裁判官の所属する裁判所に対して行うこととされています。(民事訴訟規則10条1項・2項)なお、除斥又は忌避の原因については、申立てをした日から3日以内に疎明しなければならないこととされており、法第24条(裁判官の忌避)及び同条2項の但し書き規定の事実(忌避の原因があることを知らなかったとき又は忌避の原因がその後に生じたとき)についても同様ととされています。(同規則3項)

 E 裁判官や書記官の除斥・忌避等に対する意見陳述について

 
前記法25条規定による裁判官や書記官の除斥又は忌避の申立てが成された場合においては、裁判官や書記官は意見を述べることができることとされています。(同規則11条)

 F 執行官・調停委員・鑑定人・仲裁人等への準用について

 
これまでに述べたところの裁判官・書記官の除斥及び忌避に関する規定は、執行官・調停委員・家裁参与員等にも適用され、また、忌避については鑑定人や仲裁人等にも適用の対象とされています。(民事訴訟規則13条・執行官法3条・民事調停法22条・非訟事件手続法5条・家事審判法4条・民事訴訟法214条1項・公催仲裁法792条)

(11)訴えと請求の特定

 はじめに、

 
訴訟提起するには、裁判所に対し自己に対する裁判権の行使たる判決や執行処分を求める者(原告)及びその相手方(被告)として、これに対する裁判権の行使の求められる者、すなわち当事者が存在していることのほか、当事者の一方、すなわち狭義の訴訟である判決手続におていは、訴える側(原告)の具体的な訴訟上の請求が特定されなければなりません。

 そこで、当事者については後の解説に譲ることとし、これからの講座の流れとしては、先ずは訴えと請求の特定について解説したいと思います。

 @ 訴え及び請求とは

 
訴えとは、民事訴訟又は行政事件訴訟を起こす行為であり、すなわち、ある者が他の者又は行政庁等を相手取って、自己の権利主張の当否について、特定の裁判所に対して行う審判の申立てを行うことですが、ここで「訴え」というのは、「刑事事件の公訴」に対応する語であることはいうまでもありません。

 また、民事訴訟及び行政事件訴訟では、訴えを起こす者を「原告」、その相手を「被告」といい、「請求」というのは、審判の対象となる原告が主張する特定の権利を指し、これを訴訟上の意味での請求というわけです。

 ちなみに「訴えなければ裁判なし」の喩えがありますが、訴訟は訴えがあることをもってのみ開始され、また裁判所は訴えで持ち出された請求の内容及びその範囲についてだけ判決をすることができるとされています。(民事訴訟法246条)

 したがって、裁判所は本規定に拘束されていることでは、例えば原告の請求と質的に異なる判断(例:金銭の支払いを求めているのに対して代替物の引き渡しを命じたりすること)や、量的に異なる判断(例:最近の例では青色発行ダイオード発明者の給付請求では200億円の支払いが求められていたのに対し、裁判所は当該ダイオード発明による被告への寄与度は600億円であると認めるも、この額の支払い命ずるようなこと)は原則として許されないこととされています。

 また留意すべき事項としては、訴えは、原告が国家の民事訴訟制度又は行政事件訴訟制度を利用し、裁判権によって自分と被告との間の紛争の解決を図ることを目的としていることから、「国家機関である裁判所へ審判要求する訴訟行為」であって被告に対する意思表示でないことはいうまでもありません。

 なお、訴えを提起するには、訴状を裁判所に提出して行う(民事訴訟法133条)ことが要求されますが、簡易裁判所では口頭ですること(同271条・273条)も認められており、また、督促手続(同395条)や和解申立て(同275条2項)が判決手続に転移する場合には訴えを提起したものと見なされる場合があります。

 A 処分権主義について

 
さらには、訴えに関して重要なことは、その提起後において、当事者(原告)は訴えを取り下げ(民事訴訟法261条)、又は(原告は)請求を放棄(同法266条)したり、(当事者間で)和解(同法265条)したり、あるいは(被告は)請求を認諾(同法266条)するなど、これらは訴訟上自己に与えられた権利
(例:上訴権・責問権←下記の注:を参照して下さい。)の放棄(同法284条・359条・90条)と合せて自由に行うことができることとされており、これらの権利、すなわち、これら処分権を行使することのできる制度については後に詳述しますが、この制度のことを「処分権主義」といいます。

(注)「責問権」とは、民事訴訟法上、裁判所あるいは相手方の手続法規の違背、例えば、方式に適合しない訴訟行為に対し異議を述べ、その違法を主張する当事者の権能を指し、効力規定に違背した訴訟行為は無効となりますが、これを前提として手続が進行した後においてもすべての違背を無効としてやり直さなければならないのではなく、

 効力規定の中でも主として当事者の利益保護のための規定(訴えの提起の方式・呼び出し・送達・手続の中断・中止・証拠調べの方式等の非強行規定に係る規定)の違背がある場合は、これにより不利益を蒙る当事者がその責問権を放棄して甘受するときは、これを無効とする必要はないとされており、

 さらには、積極的な責問権の放棄がない場合でも、当事者がその違背を知り又は知ることができたにもかかわらず遅滞なく異議を述べないときは、責問権を喪失(民事訴訟法90条)したものとして、手続の円滑と訴訟経済を図ることとしています。

 ちなみに、刑事訴訟法上、処分権というのは、基本的には検察官が公訴の取消しができることを指していますが、被告人(という場合は刑事事件のみです。)についても被告人自らが有罪である旨の陳述を行うときは簡易公判手続(刑事訴訟法291条の2)によることができることから、その限度では、検察官及び被告人の上訴の取り下げ(刑事訴訟法359条)と合せ、被告人の処分権が認められているものと解することができます。

 再度、元へ戻り、この処分権については、民事訴訟の場合であっても、裁判官や書記官等裁判所の職員の資格・裁判所の構成・裁判官の除斥・専属管轄・当事者能力・訴訟能力・訴訟代理・法定代理・弁論公開等(当事者適格や訴訟代理等については後述します。)のほか、身分関係についての事件、すなわち人事訴訟事件やその他多数の利害関係人に影響を及ぼすような会社関係の訴訟事件においては、その権利の性質上、処分権主義は否定又は制限されていることはいうまでもありません。

 このように処分権主義を排除・制限する考え方を処分権主義との対応では「職権調査主義」といいます。
 
 B 訴えの種類
   
 訴えには請求の内容及びその性質によって、「給付」、「確認」、「形成」の3種別とされており、また、これらそれぞれの訴訟を、「給付訴訟」、「確認訴訟」、「形成訴訟」といいます。

 これに対応して原告の請求を認容する(原告勝訴)の判決には、「給付判決」、「確認判決」、「形成判決」の区別が生じます。また訴えは、その提起の態様や時期の点から、単一の訴えと併合の訴え(訴えの併合)、独立の訴えと訴訟中の訴えである「訴えの変更」(民事訴訟法143条)・「反訴」(同法146条・300条)・「当事者の参加」(同法47条・52条・22条)等の区別がありますが、ここでは先ず「請求の内容及びその性質」による区別について解説することと致します。

 A 給付訴訟

 給付訴訟とは、請求が被告の給付義務の存在を主張する訴えをいい、例えば、「金何円を支払え」、ある「物を引き渡せ」、ある「行為をしてはならない。あるいはせよ」等の請求の趣旨で表わされるものをいいます。

 ここで、「金何円を支払え」というのは、例えば交通事故の損害賠償債務の履行として、「〇億〇千万円を支払え」という判決や、敷金返還請求につき、「金〇〇拾万円を支払え」との判決を求めるというような場合であり、

 また、ある「物を引き渡せ」というのは、例えば土地や家屋の明渡し請求や土地建物の売買による引き渡し義務につき、「土地・建物を引き渡せ」との判決を求めるという場合を指し、

 ある「行為をしてはならない。あるいはせよ」というのは、例えば騒音被害差止請求につき、「夜間にはピアノを引かないこと」、あるいは注文家屋の建築工事請負債務につき、「何時何時までに工事を着工し、何時何時までに完成せよ」との判決を求めるなどの例が挙げられます。

 このように、給付の訴えは、金銭の給付や物の引き渡しを求め、あるいはある行為につきその「不作為又は作為」を求めることであり、また、その請求権は、債権であると物権によるとを問わず、また、原告勝訴の給付判決(本案判決)は、後述の確認訴訟による確認判決や形成訴訟による形成判決と異なり、既判力を有するのみならず、原則的には執行力
(民事執行法23条 注1=下記の注1を参照して下さい。)が生じることでは、その確定判決は債務名義(民事執行法22条 注2=下記の注2を参照して下さい。)の中でも代表的なものであるといえます。

(注1)「執行力」とは、狭義、広義と二つの意味がありますが、狭義では、判決に基づき強制執行できる効力をいい、この意味での執行力はすべての確定判決がもつのではなく、これを持つのは前述のとおり給付判決に限られます。ただし、給付判決でも、例えば夫婦の同居を命ずる判決のように請求権の性質上強制執行に適さないものは執行の方法がないことから、そのような場合には執行力がないといえます。

 これに対し、確認判決や形成判決でも訴訟費用の点では費用確定決定とともに執行力が認められ、さらに執行力は確定判決に限らず、債務名義として認められた仮執行宣言の付された未確定の判決(民事訴訟法259条)や仮執行宣言付の支払督促(民事訴訟法387条)のほか執行証書(債務者が執行を受諾する旨の記載のある公正証書=民事執行法22条5号)にも認められます。

 なお、仲裁判断(公催仲裁法802条)や外国裁判所の確定判決(同法118条・民事執行法24条)は当然に執行力を有するのではなく、執行判決により内国の確定判決と同一の効力を認めることのできる要件の具備をもって確定した場合に執行力が付与されるものとされています。

 次に広義の執行力とは、広く強制執行以外の方法で判決内容に適合する状態を実現できる効果を指し、したがって、例えば、確定判決に基づき戸籍や登記の変更を管轄官庁に申請し、あるいは執行機関に執行の停止や取消しを求めるなど、広義の執行力に関しても仮執行宣言を付することができることとされています。(例えば民事執行法173条に関して)

 ちなみに、これに関する判例には登記の抹消手続を命じた例では、「登記抹消手続を命じた判決には、仮執行宣言を付することができないが、これに違反した仮執行宣言付判決は当然無効ではなく、取り消されない限り、これに基づいて登記手続をすることができる。」としたものがあります。(大審院昭和10年9月27日判決 民集14巻1650頁)

(注2)「債務名義」とは、一定の私法上の給付義務につき、その存在を証明し、法律によって執行力を付与された公証の文書を指しますが、主なものとしては、裁判書及びこれに準ずる効力を持つ調書等が挙げられますが、具体的に何が「債務名義」となるかといえば、民事訴訟法では、確定した給付判決及び仮執行宣言付判決をその代表的なものとして認めているほか、

 抗告をもってのみ不服申立てをすることが許される裁判、すなわち決定や命令で給付を命ずる仮執行宣言付支払督促(民事訴訟法387条)、執行証書(民事執行法22条5号)、裁判上の和解、請求の放棄・認諾を記載した調書(民事訴訟法267条)、過料の裁判、民事執行法303条1項の裁判の執行を命ずる検察官の命令(民事訴訟法189条)を債務名義として認めています。

 なお、民事調停法16条の調書、同31条の商事調停調書、家事審判法21条の2の遺産分割に関する受諾する旨の書面、民事再生法185条2項の再生債権者表、破産法287条・328条の確定債権を記載した債権表、会社更生法245条・283条の更生債権者表、刑事訴訟法490条の罰金、科料、没収、追徴、過料、没取、訴訟費用、費用賠償又は仮納付等の執行における検察官の命令、非訟事件手続法(附則)208条の検察官の命令による過料裁判の執行、商法394条のA・454条のBの損害賠償請求権の査定にかかる判決、法廷等の秩序維持に関する法律7条のCの過料にかかる命令等のように他の法律で個別的に債務名義になると定められたものもあります。

 T 履行期の到来していない請求権について

 給付訴訟における請求は原則として、既に履行期の到来した請求権に基づくものであることを要しますが、例外として「あらかじめその請求をする必要がある場合」には、「将来の給付を求める」(民事訴訟法135条)ことができることとされています。

 U 民事訴訟法135条の規定につき判例が示す考え方について

 ここでいう「あらかじめその請求をすることが必要である場合」(民事訴訟法135条の規定)とは、判例によれば、「・・・およそ将来に生ずる可能性のある給付請求権のすべてについて前記要件のもとに将来の給付の訴えを認めたものではなく、

 主として、いわゆる期限付請求権や条件付請求権のように、既に権利発生の基礎をなす事実上及び法律上の関係が存在し、ただ、これに基づく具体的な給付義務の成立が将来における一定の時期の到来や債権者において立証を必要としないか又は容易に立証しうる別の一定事実の発生にかかっているにすぎず、

 将来具体的な給付義務が成立したときに改めて訴訟により右請求権成立の、すべての要件の存在を立証することを必要としないと考えられるようなものについて、例外として将来の給付の訴えによる請求を可能ならしめたにすぎないものであると」解されています。(大阪国際空港事件 最高裁昭和56年12月16日判決 判旨(一)多数意見@より 民集35巻10号1369頁)

 さらに、前記判例では「継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権」についての意見(前記同様の扱いとする意見)も述べられていますので、同判例及び同判例の解説は別冊ジュリストbP45 1998年2月号「民事訴訟法判例百選T[新法対応補正版]」138頁の「68将来の給付の訴え―大阪国際空港事件 松浦馨名古屋大学教授解説」を参照してみて下さい。

 なお、前記判例(大阪国際空港事件)とは対照的な事案としては、交通事故の被害者が、加害者に対する損害賠償請求と併合して、保険会社に対し加害者に代位して保険金の支払いを訴求した事案があり、本例の場合は、その代位請求は、「あらかじめその請求をする必要がある場合である」として、将来の給付の訴えが認容されています。(最高裁昭和57年9月28日判決 民集36巻8号1652頁)

 参考までに、同判例(加害者に対する損害賠償と併合してなされた代位による保険金請求)の判例要旨を前掲判例の典拠ジュリスト140頁 広島大学教授  田邊誠 執筆より一部を引用して紹介しておきます。(「判旨」以外は原文と異なります。なお、執筆者の解説は前掲ジュリスト141頁を参照して下さい。)

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 【参考判例】

 【事実の概要】


 Xら(原告兼控訴人兼被上告人)の子Aは、昭和51年8月23日、原動機付自転車の運転中、Y1会社(被告兼被控訴人)の被用者B(事故の加害者)の運転するY会社保有の貨物自動車と接触して死亡した。

 そこで、X(事故で死亡した被害者の遺族)らはY1会社(事故の加害者の使用者)に対し自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という)3条に基づき各自1798万円の支払いを求める損害賠償請求の訴えを提起するとともに、Y1会社(事故の加害者の使用者)が保険金額4000万円の(昭和51年改訂の自動車保険普通保険約款に基づく)自動車対人賠償責任保険契約を締結していたY2保険会社(被告兼被控訴人兼上告人)に対して、直接請求として、Y1(事故の加害者の使用者)に対すると同額の保険金の支払いを求め、予備的に、Y1(事故の加害者の使用者)のY2(保険会社)に対する保険金の支払いを求める訴えを提起した。

 第一審(東京地裁昭和53年11月30日判決 民集29巻9〜12号342頁)は、Y1(事故の加害者の使用者)に対する請求を一部認容し、Y2(保険会社)に対する保険金の直接請求はいずれも請求を棄却した。

 棄却の理由は、直接請求については、自賠法が特に規定を設けていることなどからすれば、商法667条を責任保険一般に類推適用することはできないし、昭和51年約款1章4条が被保険者の行方不明などの場合に直接請求権を認めていることからすれば、解釈によりさらに直接請求権を認める必要はない。次に、代位請求については、本件では、同約款4章17条(後掲の<判旨>を参照)の定める保険金請求権発生の条件が充たされていないから、代位行使の対象となるY1(事故の加害者の使用者)の具体的保険金請求権は発生していないとした。

 これに対して、第二審(東京高裁昭和54年11月28日判決 交民12巻6号1477頁)では、当事者双方からの控訴を受けて、第一審の判決を変更して、Y1(事故の加害者の使用者)に対する請求の認容額を増額し、Y2(保険会社)に対する請求については、直接請求(権)は、第一審の判断を支持し退けたが、代位請求については、Y1(事故の会社の使用者)に対する請求権認容判決の確定を条件として、Xら(事故で死亡した被害者の遺族)各自へ575万円及び右確定日の翌日から年5%の割合による遅延損害金の支払いを命じた。

 中略・・・前記併合による損害賠償と代位による保険金請求については、・・・中略・・・代位による保険金請求を将来の給付の請求としてその必要があるかぎり認容することができ・・・中略・・・将来の給付の請求も含まれているというべきで・・・Y1(事故の加害者の使用者)のY2(保険会社)に対する保険金請求権は、前記約款から判決の確定と同時にその履行期が到来するものと解せられること・・・中略・・・とした。

 これに対して、Y2(保険会社)だけが原判決の法令違背を理由として上告、したがって、Y1(事故の加害者の使用者)に対する請求のみが確定した。

 【上告審の判旨】

 上告棄却。


 「原審が適法に確定したところによれば、・・・約款第4章17条には、被保険者の保険者に対する保険金請求権は、損害賠償責任の額について被保険者(加害者)と損害賠償請求権者(被害者)との間で判決が確定したとき又は裁判上の和解、調停もしくは書面による合意が成立したときに発生し、これを行使することができると規定されている・・・が、

 右規定及び本件保険契約の性質に鑑みれば、右保険契約に基づく被保険者の保険金請求権は、保険事故の発生と同時に被保険者と損害賠償請求権者との間の損害賠償額の確定を停止条件とする債権として発生し、被保険者が負担する損害賠償額が確定したときに右条件が成就して右保険金請求権の内容が確定し、同時にこれを行使することができることになるものと解するのが相当である。

 そして、本件におけるごとく、損害賠償請求権者が、同一訴訟手続で、被保険者に対する被保険者の保険金請求権の代位行使による請求(以下「保険金請求権」という。)とを併せて訴求し、同一の裁判所において併合審判されている場合には、被保険者が負担する損害賠償額が確定するというまさにそのことによって右停止条件が成就することになるのであるから、

 裁判所は、損害賠償請求権者の被保険者に対する損害賠償請求を認容するとともに、認容する右損害賠償額に基づき損害賠償請求権者の保険会社に対する保険金請求は、予めその請求をする必要がある場合として、これを認容することができるものと解するのが相当である。」
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 V 民事訴訟法135条に関するその他の判例

 その他本規定に関する判例には下記のものがあります。

 【関連判例要旨】

  抵当権の実行による競売手続において目的土地を買い受けた者が、執行妨害の意図をも含んで結ばれた短期賃貸借に基づきその土地を占有する者に対し、将来の賃貸借期間満了の際における土地明渡しを求める将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をなす必要があるとした。(最高裁平成3年9月13日判決 判時1305号51頁)

  意思表示義務の履行を求める訴えと併合して提起された、右意思表示義務の執行不能を条件とする代償請求の訴えは、その本来の給付請求が執行 不能となることがありえないので、条件成就の可能性がなく、将来の給付の訴えとして不適法であるとした。(最高裁昭和63年10月21日判決 判時1311号68頁)

  土地の共有者の一方が、他方を被告として、被告が右土地を第三者に賃貸することによって得た収益のうち、その持分割合をこえる部分につき不当利得の返還を請求する場合には、不当利得返還請求権の将来における成否は不確実であるから、事実審の口頭弁論終結後の期間にかかる請求部分は、将来給付の訴えの対象適格を有しないとした。(最高裁昭和63年3月31日判決 判時1277号122頁)

  空港のジェット化計画が予定通り実施されても、ジェット旅客機の運行が4年後であり、原告らに対しいかなる程度の危険、騒音、振動その他の損害を生ずるかなどを現在確定することが困難で、権利内容が不明確かつ未成熟の状態にあるときは、これに基づき空港拡張工事の差止めを求める訴えは、権利保護の要件を欠き、不適法であるとした。(東京高裁平成2年6月27日判決 高民集43巻2号100頁))

   
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「純粋法学」とは?
参照資料0001
 「純粋法学」とは、ハンス・ケルゼンの唱えた法の一般理論ですが、法学を政策的・イデオロギー的歪曲から開放し、また観念形象としての規範や法を現実の事実と混同して因果科学である社会学的方法をもって捉えようとすることを方法論的混交として排斥、法の強制説に立ち、一切の法学上の問題を要件と効果(強制)の結合である「法命題」(「独」Rechtssatz)に還元することにより、混乱した論争に理論的解決を与え、権利・義務・自由等の概念を定義しようとした。そのために人格概念・実体概念の解消を唱え、法人格というものは擬人化された法秩序であり、その意思は法規範にほからならいとして法人理論や意思理論(「独」Willensdogma)を批判した。国家も擬人化された法秩序であり、国民や領土は法秩序の効力範囲にほかならないとする。また代表の意思を本人の意思とする代表理論の擬制的性格を指摘、国民代表の概念を反民主的イデオロギーであるとした。規範的認識の統一という認識論的要請から国際法・国家法の二元論を批判、両法体系の上下関係は理論の前提の選択の問題であって理論的には解決できないとしたが、フェアドロスはそれに反対して国際法上位説をとる。主権も認識体系の独立性という認識論的概念として再解釈され、国家主権論の反国際主義的傾向を指摘した。この理論は多大の反響を呼び、ウィーン法学派という学派を生み出した。(有斐閣 新法律学辞典より)
 
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【 更新日=2006/06/18 日曜日
 
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