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薬審第592号
平成7年5月24日

各都道府県衛生主管部(局)長殿

厚生省薬務局審査課長

致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について(通知)

近年、優れた新医薬品の地球的規模での研究開発の促進と患者への迅速な提供を図るため、承認審査資料の国際的ハーモナイゼーション推進の必要性が指摘されている。

このような要請に応えるため、日・米・EU三極医薬品承認審査ハーモナイゼーション国際会議(ICH)が組織され、品質、安全性及び有効性の3分野でハーモナイゼーションの促進を図るための活動が行われている。

本ガイドラインは、ICHの一つの課題として検討されていたものであり、致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要と考えられる症例数と投与期間について指針を示すものである。

平成9年4月1日以降に申請される医薬品については、本ガイドラインに基づいた資料を添付されたい。

以上の点をご承知の上、貴管下関係業者に対し周知方よろしくご配慮願いたい。


致命的でない疾患に対し長期間の投与が想定される新医薬品の治験段階において安全性を評価するために必要な症例数と投与期間について

本ガイドラインの目的は、致命的でない疾患の治療のために長期間の投与(6ヵ月以上にわたり継続的に、または繰り返し間歇的に)が想定される新医薬品の安全性を評価するために必要と考えられる基本原則を提示することである。新医薬品の治験段階での安全性評価においては、承認後に想定される長期間の投与に相当する適当な期間にわたって、当該医薬品の安全性の側面を明確かつ定量的に評価することが期待されている。従って、そのために必要となる症例数の規模を決定する際には、医薬品の投与期間、有害事象の発現時期と程度との相関関係が重要な検討事項となる。

 本ガイドラインの目的のためには、短期投与試験で得られた有害事象*1に関するデータと同時対照のない試験の場合が多い長期投与試験で得られたデータとを区別して考察することが有用である。短期間のうちに発現する有害事象の発現率(例えば、3ヵ月間の累積発現率が約1%)が明らかにされることが期待されている。当該医薬品を長期にわたり投与すると発現率が変わってくるような事象については、その重症度及び医薬品の有効性と安全性の総合的評価(リスク・ベネフィットアセスメント)における重要性を勘案して、その特徴を明らかにすることが必要な場合もある。一方、治験段階での安全性評価においては、例えぱ1,000例に1件未満の割合で発現するような稀な有害事象を検出することは期待されていない。

治験の実施計画により有害事象と当該医薬品との間の因果関係の判定が大きく影響されうる。例えば、プラセボを対照とした比較試験では、治験薬投与群での有害事象の発現率と、試験対象患者群でのバックグランドとしての事象発現率とを直接比較することができる。一方、実薬を対照とした比較試験では、両群間の有害事象発現率の比較は可能であるが、試験対象患者群でのバックグランドとしての事象発現率を直接評価することができない。また、同時比較対照群を置かない試験では、実際に発現した有害事象と治験薬との因果関係を評価することはさらに難しくなる。

一般的な原則

一般的な原則を以下に示す。

  1. 致命的でない疾患の治療に対し長期間の投与が想定される新医薬品の安全性デー夕ベースを作成するための症例数と投与期間について、各国のガイドラインを調和することは有益なことである。本ガイドラインは、多くの適応疾患及び薬効群を網羅するが、例外もある。
  2. 医薬品の安全性評価のためのガイドラインは、有害事象の発現と発見に関するこれまでに得られてきた経験、特定の発現頻度の有害事象を発見できる確率の統計学的考察及び実施可能性に関する考察に基づくものでなければならない。
  3. 個々の薬効群における治療期間と有害事象の発現との関係についての情報は、十分でない。そのため、今後の研究でこれらの情報を得ることは有益である。
  4. これまでの情報では、ほとんどの有害事象は、投与開始後最初の数ヵ月の間に発現し、またこの期間での発現頻度が最も高い。治験薬を予定される臨床用量で6ヵ月間投与する症例の数は、投与期間中の有害事象の経時パ夕ーンが明確に把握できる規模に設定する必要がある。
    このためには、妥当な頻度(一般的には 0.5〜5%程度)の遅発性の有害事象が観察できるとともに、より高頻度に発現した有害事象がその後の期間中に増加するのか、あるいは減少するのかを観察できるだけの十分な症例数が必要である。通常 300〜600例の対象症例数が適当である。
  5. 一般的ではないが、有害事象の中には投与期間が長くなるにつれて発現頻度または重症度が増すものがあり、また投与開始後6ヵ月以上経って初めて発現する重篤な有害事象もある。従って、治験薬を12ヵ月間投与して得られた成績も必要である。
    有害事象と投与期間の関係についての十分な情報がないため、1年間の経過観察を必要とする症例数は、一定の発現率の有害事象を発見する確率と試験実施の実現性に基づいて判断されることが多い。
    100例の患者に対して最低1年間投与して得られた成績は、安全性データベースの一群として採用できると考えられる。そのようなデータを得るためには、治験薬を予定される臨床用量で少なくとも1年間投与するように適切に計画されたプロスペクティブな試験を実施すべきである。1年間の投与期間中に何ら重篤な有害事象が認められない場合には、そのような有害事象の1年間の累積発現率は3%未満と考えてよい。
  6. 市販後調査により安全性に関するデータが収集されることも勘案して、短期投与も含め、治験薬が投与される総症例数は 500〜1,500例程度*2が望ましい。
    また、個別の医薬品の投与症例数は、その医薬品及び薬効群に関して得られる情報に基づいて決定することになる。
  7. 臨床における安全性を評価するための上記のような調和された一般的な基準が適用できない場合もかなりある。そのような例外が生じる理由及びその実例を以下に示す。この他にも同様の例があると思われる。また、有効性評価のために必要なデータベースには、本ガイドラインに規定されている安全性評価のために必要なデータベースに比べてより大規模、又はより長期の観察が必要とされる場合があることも認識すべきである。

    例外
    1. 遅発性の有害事象、又は重症度や発現頻度が時間経過とともに大きくなる有害事象を引き起こすおそれがある医薬品の場合は、より大規模、長期間の安全性データベースが必要となる。それは下記に示す情報等により予測することができる。
         @動物試験のデータ
         A化学構造が類似する、又は同系統の薬効群に属する医薬品の臨床情報
         B当該有害事象との関係が明らかな薬物動態学的または薬動力学的性質
    2. 予期される特定の低頻度の有害事象の発現率を推定する必要がある場合には、より大規模な長期間のデータベースが必要になる。特定の重篤な有害事象が類似の医薬品で認められている場合や、重篤な有害事象の発現を予想させるような事象が治験の初期段階で認められている場合も同様である。
    3. 以下のような場合には、有効性と安全性の総合的評価(リスク・ベネフィットアセスメント)のためにより大規模な安全性デー夕ベースが必要となる場合もある。
        すなわち、当該医薬品の投与による有益性が、
         @小さい場合(例:あまり重篤でない疾患の症状の改善)
         A投与患者のうちのごく少数に限られる場合(例:健常人に対する予防的治療)
         B明確に示されていない場合(例:代用(surrogate)エンドポイントで有効性が評価される場合)
    4. すでにかなりの罹患率又は死亡率が背景として存在し、医薬品の投与がそれをさらに増加させるおそれのある場合には、基準となる罹患率又は死亡率からの事前に想定した増加を検出するのに十分な統計学的検出力が得られるように、十分な症例数を対象とした試験計画の作成が必要となることもある。
    5. 例えば対象患者数が少ない場合には、より少ない症例数でも差し支えない。
  8. 通常は、6ヵ月間投与して得られた成績をもって当該医薬品の承認申請を行うことが可能である。その場合は、12ヵ月間投与して得られた成績を承認前の可能な限り早い時点に追加提出しなければならない。