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医薬品の承認申請のための国際共通化資料
コモン・テクニカル・ドキュメント
臨床
CTD-臨床に関する文書の作成要領に関するガイドライン
第2部(モジュール2):臨床に関する概括評価
臨床概要
第5部(モジュール5):臨床試験報告書
臨床に関する概括評価(臨床概括評価)の構成及び内容
臨床に関する概括評価(以下「臨床概括評価」と言う。Clinical Overview)の目的は、国際共通化資料(CTD)に含まれる臨床試験成績に基づき得られた重要な分析結果を示すことにある。その対象となる資料は、臨床概要(Clinical
Summary)、個々の治験総括報告書(ICH E3)、及びその他関連資料で提供される申請データである。ただし、その主眼は、これらの資料から導かれる結論及び臨床上の意義にあり、内容そのものの繰り返しとならないよう留意すること。特に、臨床概要においては臨床試験成績が事実に基づいて詳細に要約されることになるので、臨床概括評価では、試験成績について、関連する非臨床試験成績(例:臨床的意義が示唆される動物実験データ、製品の品質に関する情報)にも言及しつつ臨床的考察と解釈を簡潔に記載すること。
臨床概括評価は、主として、規制当局が承認申請資料中の臨床に関する資料を審査する際に用いられるためのものである。また、臨床以外の分野を審査する規制当局担当者にとり、臨床に関する知見を総括的に得る上でも有用な資料となる。この文書では、申請医薬品の開発計画及び試験結果の優れた点と限界を示し、目的とする適用におけるベネフィットとリスクを分析し、試験結果が添付文書中重要な部分をどのように裏付けているか記述すること。
これらの目的のため、臨床概括評価は次のとおり記載すること。
- 申請医薬品に関する臨床開発全体の取り組み方を記述し、説明すること。試験デザイン上の重要な判断事項も含めること。
- 試験デザインや実施内容の質を評価し、GCP 遵守に関する記述を含めること。
- 臨床知見を簡潔に概観すること。重要と考えられる知見の制約についても記述すること(例:適切な実薬対照を用いた比較検討が行われていないこと、特定の患者集団・関連するエンドポイント・併用療法に関する情報の欠如)。
- 申請資料中の各臨床試験報告書の結論に基づいたベネフィットとリスクの評価結果を記載すること。記載には、有効性と安全性に関する知見がどのように申請する用法・用量及び効能・効果を裏付けるかの解釈、また、添付文書中の情報やその他の方策によって、いかにベネフィットが最適化され、リスクが管理されうるかについての評価を含めること。
- 開発中に見られた有効性又は安全性上の重要な問題点を挙げ、それらの問題がいかに評価され、解決されたかを述べること。・未解決の問題を挙げ、なぜそれらの問題が承認の障害とは考えられないのか説明し、解決のための計画を示すこと。
- 添付文書中の重要又は特別な内容についてその根拠を説明すること。臨床概括評価は短い文書にまとめること(約30
ページ)。しかし、その長さは申請内容の複雑さに依存する。文書を短くし、また、理解を助けるために、本文中では図や簡略化した表の使用が勧められる。なお、CTD
資料中の他の場所に十分に記載されている内容については、臨床概括評価中にそれを繰り返すことはせず、例えば、臨床概要や第5
部の詳細な記述を参照すること。
2.5.1 製品開発の根拠
2.5.2 生物薬剤学に関する概括評価
2.5.3 臨床薬理に関する概括評価
2.5.4 有効性の概括評価
2.5.5 安全性の概括評価
2.5.6 ベネフィットとリスクに関する結論
2.5.7 参考文献
申請医薬品の開発の根拠については、次のとおり記載すること。
- 申請医薬品の薬理学的分類を特定すること。
- 申請医薬品の治療、予防、診断の目標となる疾患(目標適応症)の臨床的/病態生理学的側面を記述すること。
- 目標適応症に対して申請医薬品の試験を行ったことを支持する科学的背景を簡潔に要約すること。
- 臨床開発計画を簡潔に記述すること。進行中及び計画中の臨床試験についての記述、また、開発計画全体における申請のタイミングの妥当性に関する記述を含めること。外国臨床データの利用計画についても簡潔に記述すること(ICH
E5)。
- 試験のデザイン、実施、解析に関して、現行の標準的方法との一致点、不一致点を挙げ、説明すること。関連する公表文献を引用すること。規制当局によるガイダンスや助言を記述し(臨床概括評価を提出する地域の当局からのものについては最低限必要)、いかにその助言に従ったかを論じること。公式の助言文書(例:公式議事録、ガイダンス、当局からの書簡)を参照し、その写しを第5 部の参考文献の項に添付すること。
本項の目的は、市販予定製剤の有効性、安全性に影響を及ぼすと考えられるバイオアベイラビリティーに関する重要な問題点について、重要な結果を提示することにある(例:剤型又は含量の異なる製剤間の比例性、市販予定製剤と治験用製剤の相違、食事の影響)。
本項の目的は、CTD 資料中の薬物動態学的(PK)、薬力学的(PD)及び関連するin vitro データについて重要な分析結果を提示することにある。分析では全ての関連するデータを検討し、導かれた結論がなぜ、どのように裏付けられているか説明すること。
特異な結果や、既知の又は考えうる問題点は強調して示し、また、問題点がない場合にはその旨を示すこと。本項では、以下の事柄に言及すること。
- PK:例:健康被験者・患者・特別な患者集団における比較PK の結果、内因性要因(例:年齢、性、人種、腎、肝機能障害)及び外因性要因(例:喫煙、併用薬、食事)を考慮したPK、吸収の速度と程度、血漿タンパク結合を含む分布、考えられる遺伝子多型や活性・不活性代謝物生成の及ぼす影響を含む特定された代謝経路、排泄、経時的PK 変動、立体化学的問題点、他の医薬品又は物質との臨床的PK 相互作用。
- PD:例:受容体結合等の作用機序に関する情報、作用の発現・消失、好ましい又は好ましくない薬力学的効果と投与量又は血漿中濃度との関係(すなわちPK/PD関係)、推奨する投与量及び投与間隔を裏付けるPD、他の医薬品又は物質との臨床的PD
相互作用、遺伝的に起こり得るPD 反応の差異。
- 臨床概要の第2.7.2.4 項に要約される免疫原性試験及び臨床微生物学的試験、医薬品の薬効分類に特有なその他のPD
試験の結果と解釈。
本項の目的は、対象となる患者集団における申請医薬品の有効性に関連する臨床データの重要な分析結果を提示することである。分析では、成績の如何にかかわらず関連する全てのデータを検討し、これらのデータが推奨する効能・効果やその他の添付文書中の情報をなぜ、どのように裏付けるのか説明すること。有効性評価に直接関係すると思われる試験を特定し、また、適切かつ十分によく管理された比較対照試験であるにもかかわらず有効性評価に用いられていない試験については,その理由を明らかにすること。途中で中止した試験についても特定し、その影響について考慮すること。
本項では、一般的には、以下の諸事項について言及すること。
- 対象となった患者集団の特性について、人口統計学的特性、疾患のステージ、その他の重要と思われる共変量、重要な試験から除外された重要な患者集団、小児や高齢者(ICH
E11 及びE7)の検討状況等を含め、記述すること。試験対象集団と市販後実際に薬剤を投与されると予想される集団の間の相違について考察すること。
- 患者選択、試験期間、エンドポイント、対照群の選択を含めた試験デザインの記述: 使用経験の少ないエンドポイントについては特に注意を払い、代替エンドポイントを使用した場合にはその適切性に言及すること。また、用いられた評価スケールのバリデーションについて考察すること。
- 有効性証明のため非劣性試験を用いた場合、その試験が十分な分析感度を有しており、また、非劣性の限界値の選択が妥当であると判断した根拠(ICH
E10)。
- 統計学的手法及び試験結果の解釈に影響すると考えられるあらゆる問題点(例:最初のプロトコルに記載されたエンドポイントの評価及び計画された解析等重要な試験デザイン上の変更、当初は計画されていなかったものの実際には実施された解析の適切性、欠測データの取扱い手順、複数エンドポイントに対する補正)。
- 試験間又は試験内の異なる部分集団における結果の類似性・相違、それらが有効性データの解釈に与える影響。
- 全対象集団及び各部分集団における適応症ごとの有効性、用量、用法の関係(ICH
E4)。
- 他地域で得られた臨床データを新地域へ外挿する場合、その可能性についての裏付け(ICH
E5)。
- 長期間の使用が想定される申請医薬品の場合、有効性の長期維持及び長期投与の用法・用量の確立に用いた有効性に関する知見。また、耐薬性の発現を考慮すること。
- (もし、あれば)血漿中濃度をモニタリングすることにより治療成績が改善されることを示唆するデータ、及び至適血漿中濃度範囲を示唆するデータ。
- 観察された効果の大きさの臨床的意義。
- 代替エンドポイントを用いて評価した場合、期待される臨床上のベネフィットの性質と大きさ、及びそのように期待することの根拠。
- 特別な患者集団における有効性。データが不十分にもかかわらず特別な患者集団における有効性を主張する場合、一般的な患者集団から外挿することの根拠。
本項の目的は、安全性に関する試験結果が添付文書中の情報をどのように裏付けし、妥当であるかに留意しつつ、重要な分析結果を簡潔に記述することである。安全性の分析に当たっては、以下の諸事項を考察すること。
- 薬剤が属する薬理学的分類に特徴的な有害作用。そのような作用を観察するために用いられた方法。
- 特定の有害事象(例:視覚系有害事象、QT 間隔延長)をモニターするための特別な方法。
- 動物における毒性学的情報及び製品の品質に関連する情報。ヒトにおける安全性の評価に影響するか、影響する可能性のある知見について考慮すること。
- 被験薬及び対照薬投与の対象となった患者集団の特徴及び曝露の程度。安全性データベースの限界(例:選択/除外基準や被験者の人口統計学的特性)について考慮すること。それらの限界が、市販後の安全性予測にどのような影響を及ぼすか明確に検討すること。
- 比較的よく見られる重篤でない有害事象(臨床概要中の被験薬及び対照薬別の有害事象一覧を参照すること)。考察の結果は、相対的に頻度の高い事象、プラセボと比較し頻度の高い事象、実薬対照での事象、同じ薬効分類にある医薬品の使用で発現することが知られている事象に焦点を当て、簡潔に記述すること。特に強い関心を持たれるのは、実薬対照と比較し被験薬において発現頻度が明らかに多い事象や少ない事象、あるいは持続期間と重症度からみて問題のある事象である。
- 重篤な有害事象(臨床概要中の関連表を参照すること)。本項では、死亡を含めた重篤な有害事象及びその他の重大な有害事象(例:投与中止又は投与量の変更に至った事象)の絶対数及び発現率について考察し、被験薬と対照治療との比較結果について考察すること。因果関係の有無に関するいかなる結論をも記述すること。医学的に重大な影響を実際にもたらしたか、もたらす可能性のある臨床検査所見について検討すること。
- 各試験結果の類似性及び相違点、並びにそれらが安全性の評価結果に及ぼす影響。
- 人口統計学的特性、体重、合併症、併用療法、遺伝子多型代謝等により定義される部分集団における有害事象発現率の差異。
- 投与量、投与方法、投与期間と有害事象との関連性。
- 長期投与時の安全性(ICH E1)。
- 有害事象の予防、軽減、管理方法。
- 過量投与に対する反応。依存性、反跳現象、乱用を誘発する可能性、又はそれらのデータの欠如。
- 世界における市販後使用経験。次の点について簡潔に考察すること。
- 世界における使用経験の程度。
- 新たに明らかとなった安全性上の問題点。
- 安全性のための規制上の措置。
- 他地域で得られたデータを新地域へ外挿することが適切であると判断した場合の裏付け(ICH
E5)。
本項の目的は、前項に記述する生物薬剤学、臨床薬理、有効性、安全性に関する結論の全てを統合し、医療現場において使用した場合のベネフィットとリスクを総合的に評価することである。規制当局からの助言又はガイドラインからの逸脱、利用可能なデータにおける重大な限界が考えられれば、その意味するところを本項で考察すること。この考察を添付文書中の重要な内容として反映させること。代替治療法と比較した場合のベネフィットとリスク、医学的治療法がない疾患においては、治療を行わなかった場合と比較した場合のベネフィットとリスクについても評価し、申請適応症に対する当該医薬品の予想される治療上の位置付けを行うこと。もし、投与を受ける患者以外の人々に対するリスクが考えられる場合には、そのリスクについて考察すること(例:軽度の疾患に抗生物質を汎用した場合の薬剤耐性菌発現のリスク)。これらの内容がこれまでの項で既に記述されていれば本項にて繰り返さないこと。特に問題がない場合や、申請医薬品が良く知られた薬効分類に属する場合では、本項の記述はかなり簡略化できる。
このベネフィットとリスクに関する分析は、一般的には極めて簡潔であることが期待されるが、以下の点について重要な結論及び問題点が何かを明らかにする必要がある。
- 申請適応症それぞれに対する有効性。
- 重大な安全性所見、及び安全性を高めると思われるあらゆる方策。
- 用量−反応及び用量−毒性関係。最適な用量の範囲及び投与方法。
- 部分集団(例:年齢、性、民族、臓器機能、疾患重症度、遺伝子多型により定義される部分集団)における有効性と安全性。
- (データがあれば)年齢にて層別化した小児データ、及び小児における開発計画。
- 食物−薬物及び薬物−薬物相互作用を含む既知又は可能性のある相互作用の患者に対するリスク、及び推奨される使われ方。
- 自動車の運転能又は重機器類の操作能に対し予測される影響。
ベネフィットとリスクに関し、より詳細な考察を必要とする例を以下に列記する。
- 致命的でない疾患の治療に用いられる医薬品で、癌原性、催奇形性、催不整脈作用の可能性(QT
間隔への作用)、肝毒性の徴候等、重篤な毒性を有しているか有する可能性がある場合。
- 申請医薬品が代替エンドポイントに基づき評価されており、かつ、十分に資料が得られている重要な毒性がある場合。
- 申請医薬品を安全に、かつ(又は)、効果的に使用するために、場合によっては困難な医師・患者の選択や管理(医師の特別な専門性や患者のトレーニングを含む)が求められる場合。
引用した参考文献のリストを「生物医学雑誌へ投稿するための統一論文規定:Uniform
Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical Journals」に関する1979
年の「バンクーバー宣言: Vancouver Declaration」又は「ケミカル・アブストラクト:
Chemical Abstracts」に用いられている書式に従って作成すること。臨床概括評価で引用した全ての参考文献の写しを第5
部第5.4 項に添付すること。
(編者注 Uniform Requirements for Manuscripts Submitted to Biomedical
Journals の2001年10月改定は次のwebページに掲載がある。
http://www.icmje.org/)