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複合性腸炎と腸内毒素症(enterotoxemia)

 軟便と下痢などの症状から,内毒素症,敗血症そして死へと関連づけられる複合腸炎は臨床においてはよく見る疾病の一つである.気をつけなければいけないのは何の前触れも無く死の転帰をとる場合があるということだ.食欲や糞の状態が正常であってもこれらは突然死という形で現れる.治療をする暇がなく死亡する点においては非常に恐ろしい疾病と言える.
 この疾病は病原性のある細菌とそれらの増殖を許す要素が原因となる.これらの要素は食事,抗生剤の影響,各種感染症,寄生虫,ストレス,先天的な腸の機能障害などに関与している.
 軟便やしまりのない糞がでるような簡単な腸炎の場合は,盲腸内細菌叢,pH,あるいは腸管の運動性の変化が原因でおこる物と考えられる.簡単な食事の改善−たとえば野菜や干し草などの給餌により繊維質を増やしてやったり,ストレスを取り除いたりすること−で問題点は改善される.
ただし,仔ウサギに関しては早急に糞便検査を施し,寄生虫性の腸炎を除外しておかなくてはいけません.また必要に応じて皮下補液を行い脱水の改善を行う必要があります.

腸性毒症
 腸炎よりも重篤な悪性細菌症(dysbiosis)として特徴づけられるうさぎの腸内毒素症はClostridium spiroformeが産生するイオタトキシン様毒素に依って引き起こされる.他のクロストリディウム属,とりわけC.difficileとC.perfringensも報告されているが,現在では本疾病の原因とは考えられていない.
 若齢のうさぎ(3-6週齢)はこの影響を大変受けやすく,死亡率も非常に高い.
またC.sporoformeの場合わずかな曝露でも腸内毒素症が発症する可能性がある.発症の可能性が高い要因として,若齢うさぎの胃腸内細菌叢が未発達であることに加え胃のpHも高いことが挙げられる.このため容易にC.spiroformeの増殖を許してしまう.
 成うさぎは抵抗力が強いので,一般的には悪性細菌症を起こしたり,細菌などが繁殖するためには食事,環境,あるいは他のストレスが必要とする.急激なC.spiroformeの増殖によって,正常な盲腸細菌叢の深刻な破壊を招くことになる.
 腸内毒素症の雌うさぎが子うさぎに授乳していると,いわゆる「ミルク介在性腸内毒素症」を引き起こす.これは雌の盲腸で産生されたClostoridium属の腸内毒素が原因でおこり,ミルクを通じて子供に移行するものである.
 急性の病気で,うさぎは食欲廃絶となり,著しく元気がなくなる.
下痢は茶褐色の水様で,会陰部とうさぎの後肢を汚す.便は血液か粘液を含んでいるかも知れない.病気が進行するにつれ,うさぎは低体温を呈し消耗してゆき,そして24-48時間以内には死亡するかもしれない.この病気が慢性に移行した場合は,間欠性の下痢,食欲不振そして体重減少などの特徴的な症状を呈する.
 これらのうさぎの死亡解剖の結果,盲腸の漿膜表面に点状出血や斑状出血が認められる.盲腸や結腸の基始部もまた含まれているかもしれない.イレウスの結果,大量のガスが腸管,盲腸,結腸のいたる所でみられる.また出血,偽膜,粘液が盲腸や結腸の基始部の粘膜に出血や,偽膜,粘液がみられるかもしれない.

粘液性腸炎
 7〜14週齢の子うさぎが羅患し死亡する大きな原因の一つが粘液性腸炎である.特徴的な症状は食欲不振,元気消沈,体重減少,下痢,盲腸の縮小,そして盲腸内での過剰な粘液の産生である.細菌性のdysbiosis,盲腸の酸分泌過剰,そして粘液性腸炎などの症状との関連を関係は不明である.変性した生産物,揮発性脂肪酸の吸収,炭水化物の激しい発酵などから盲腸のpHが変化し,盲腸内の微生物の数を不安定にし盲腸と結腸内で粘液生産が促進される.繊維質が多く単純な炭水化物が低い食事を与えることで予防となる.

抗生剤投与による二次的な悪性細菌症(医原性の菌交代症)
 腸炎の発症に関わる他の要因として,抗生物質投与とストレスがあげられる.ある種の抗生剤は正常な細菌叢を破壊し,病原性を持つ細菌の繁殖を許してしまう.クリンダマイシン,リンコマイシン,ペニシリン,アンピシリン,アモキシシリン,セファロスポリン,エリスロマイシンはうさぎに腸炎を誘発する.
 エピネフィリン介在性の腸運動抑制はストレス誘発性腸炎の原因と考えられる.

【 治療 】
 まず,寄生虫性の問題を除外しておく必要がある.このため糞便検査は必須である.
 重篤な腸炎,腸内毒素症,粘液性腸炎などに羅患したうさぎの治療は,積極的な支持療法と,盲腸および腸管の運動性の増加,病原性菌の増殖および毒素の産生の抑制,常在菌叢の成長を促すことを目的とした治療からなる.
 抗菌剤はこの病気の治療において特別な価値があり,最初に支持療法として用いられ
る.C.spiroformeはクロラムフェニコールやサルファキノキサリンに対して感受性が認められるれ,他の抗生剤(エリスロマイシン、アンピシリン)では悪性細菌症を誘発する可能性がある.そしてこの病気の治療としての有効性は認められなかった.しかしメトロダニゾールを使用する事で腸内毒素症の死亡例数を減少させることができるという報告がある,私はメトロダニゾールの薬用量は 20mg/kg q12hを推奨している。脱水の補正と正常な水和状態の維持は最も重要な点であり,静脈内投与あるいは骨内投与はしばしば必要となる.
私の経験では消化管運動刺激薬(シサプリド;アセナリン錠 2.5mg)の投与と水分含有量が多く高繊維食(野菜)の給餌で良い結果を得ている.脱水が認められる場合は皮下補液を必ず行う.また胃拡張や胃閉塞を起こしていなければこれらの強制給餌も可能である.
 コレスチラミン樹脂(商品名;クエストラン Bristol-Myers Squibb K.K.)というイオン交換物質は細菌の毒素と結合する能力があるので,この薬剤 2gを20mLの水で溶解した物を投薬することで本症の発生を抑えることが期待できる.実際,ウサギに高い死亡率が知られる抗生剤(クリンダマイシン)を実験的に投与したウサギのうち,無処置のウサギは6頭中4頭が死亡したのに対して,コレスチラミン投与群は一頭のウサギも死亡しなかったという報告がある.ただし閉塞を起こしている場合は禁忌である.

【 予防 】
 腸内毒素症の予防は,適切な食事を与え,最適な環境を維持しストレスを最小に抑えることが大切である.
 食事は野菜を中心としたものに,上質の干草を加え与える.また清潔で適温が維持できるような環境を用意することも必要とされる.
 一番難しいのがストレスの管理であるが,ここで言うストレスは精神的なものだけではなく,気候の変化,各種疾病,外傷,縄張りの問題,異物の摂取,不正咬合,感染症など多岐にわたる.そのため,これらのストレスを完全に除外することは困難であろう.それでも排除可能なストレスは確実に除外して行く必要がある.