皆既日食 Sun Eclips

中華人民共和国 甘粛省張掖市 黒水国南城遺址
2008年8月1日 19:14 (現地時間) 筆者撮影

撮影機材/条件 Nikon D80, Nikkor18-135mm F3.5-5.6G, ISO100, 1/60s F/5.6

2008年8月1日の皆既日食は、中国西部からモンゴル、ロシア、北極地方、グリーンランドに跨る地域で観測されました。
私が住む北京から、今回日食を観測した、中国甘粛省張掖市は、およそ飛行機で約3時間半、その後蘭州からバスで途中の武威乗り継ぎで7時間の合計12時間以上掛かります。
天候のこと等を考え、観測場所を決定したのは、全前日でした。

移動経緯
1日目 7月30日 北京→蘭州に移動し宿泊、会社の同僚(広州から)と合流
2日目 7月31日 武威経由で張掖にバス2台乗り継ぎで移動し観測地点の目標設定 ・・・ 見晴らしが良く、話題性(興味)のある場所を選定、蘭州泊
3日目 8月 1日 張掖市内観光(馬蹄寺、臨澤丹霞地貌風景区)、そして黒水国南城遺址にて、本来のこの旅の目的の皆既日食の観測、張掖泊
4日目 8月 2日 張掖市内観光(張掖大仏寺)、バスで張掖→武威に移動、武威泊
5日目 8月 3日 バスで武威→蘭州に移動、飛行機で蘭州→北京へ、会社の同僚は広州への帰途つき、長旅終了

皆既日食の観測のため、半ば強引に仕事を休んで、また観測地までの移動も簡単ではありませんでしたが、私の人生、一生の思い出としてとても良い経験をしたと思います。
これまで部分日食は中学生の頃に見たことはありましたが、皆既状態には完全な暗黒の世界になり、上の写真のように薄っすらとリングの中に太陽がチラッチラッと見えるその不思議な光景を見て、自然の不思議さ、偉大さに感動しました。 もし、太陽が無かったら・・・、この暗黒の世界が広がるだけだと想像するだけでも、身震いがしてしまいます。

世界で一番初めに日食が観測され、その記録が残っているのが、中国夏国(紀元前2100年頃)だそうです。 その頃の人々はそれはそれは恐ろしいことが起こったと思ったに違いありません。


18:00頃の観測地点の風景(その1 日没地点の少し右側)
何となく判りますか日干し煉瓦ので囲まれていることが・・・
(日本と中国の時差は1時間ながら感覚的には2時間の時差)

18:00頃の観測地点の風景(その2)
左の写真の右端の構造物を拡大するとこんな感じです

18:00頃の観測地点の風景(その3)
違う向きはこんな感じ、トウモロコシが栽培されています

19:16頃の太陽
皆既状態から、太陽が出始めた頃の写真

黒水国(漢-明代)の南城遺址(明代)遺跡の碑表です
2001年に全国重点文化財保護単位に指定されています
黒水国城について・・・
中国甘粛省張掖市の北西、黒水河の辺に築かれた城址です。 周囲を見ると、砂漠の中でこの近くだけに緑があるといった感覚を受けます。 確かに付近ではトウモロコシが栽培され、灌漑用水には溢れんばかりの水が流れており、かつてシルクロード交易が行われていたころから、オアシスの街として栄えていたのではないかと思いました。
黒水国南城址で皆既日食の観測待ちをしている時、近くの住人の方がやってこられました。 とても気さくな方々で、この地区の話、日本の話と四方山話をして別れました。

◆事前準備 観測地の選定

与件
(1)中国内で、北京からの移動が比較的容易で、皆既日食が見られる地域、ロシア、モンゴルは近いが対象外。
(2)当日の天候が晴れる確率が高いこと。
(3)個人旅行であることから、ツアー旅行のように当局の許認可を得られないため、外国人の立ち入りに制限の無いところ、また安全上の問題が極小のところ。
(4)会社員の身であるから、休日の取得は無限にはとれない。
   皆既日食の日が金曜日であることから、少なくとも8月4日の月曜日には出社できることが条件となる。
   すると、8月1日(金)の前後2日の移動プラスアルファとして、7月30日(水)から8月3日までの旅程であること。
   西方地区の飛行場は限られ、バス、汽車での移動が必要となるため、余り遠い所にはいけない。
(5)普通のホテルがあるところ(中国ではホテルは1星から5星迄にランク分けされている。日本からの普通の旅行者は4星以上が望ましい)

観測場所、天候についての情報を得るため、アメリカ航空宇宙局 NASAのホームページの中に、日食のコーナーがありここを参照、飛行機の時刻表を見て試行錯誤を重ねました。 
・・・ URLはこちら → http://eclipse.gsfc.nasa.gov/SEmono/TSE2008/TSE2008.html
これを開くと、下図の皆既日食が観測可能な場所の情報と、当日の予想天候の情報が得られます。 (下図3枚は上記NASA URL内より参照したものを縮小し掲載しています)
  

観測場所の候補としては以下を上げました。 本当はもっと考えたのですがここでは省略します。
@酒泉 ・・・ 中国ではかの有名な宇宙センタがあるところ → 皆既状態となるのが1分間しかないこと、もっと長い時間観測するためには、北上が必要であるが外国人の立ち入り可否が不透明
A哈密 ・・・ ハミ瓜で有名なところ → 哈密では皆既日食は観測できないため、北上する必要があるが、外国人の立ち入り、移動可能かも判らない
B張掖 ・・・ 観光地であること、観測時間は1分半と比較的長い
C銀川 ・・・ 銀川では皆既日食は観測できないため、南下する必要があるが、外国人の立ち入り、移動可能かも判らない
D白銀 ・・・ 蒸気機関車を見ることができるところ、天候がいまいちとの事前情報あり
Eアルタイ ・・・ アフガン国境付近のアルタイ山脈の麓 → 天候の安定性が今ひとつ

色々と思索とめぐらせ、天気予報も見た上で、天気は五分五分でshちあが、全前日の夕方ギリギリまで粘って、Bの張掖に決定しました。

◆当日 日食観測について


今回の日食で、この地区での皆既状態の太陽の観測時間は凡そ1分半です。 チャンスを逃したらどうしようと気があせりながら、観測に臨みました。
しかし、我々おじさん2人は、手抜き観測隊で、太陽を見る単にと思って持参した近眼の度付サングラスは明るすぎてだめ。子供の頃に太陽を直接見てはだめと教えられ、色付下敷きを通して見たりしていましたが、これも準備しておらずじまい。
おじさんは焦りました、予定の時間に近づいていきます。 おじさんは気がつきました、紙に小さな穴をあけ、これを通して投射すれば太陽が見えるはずだと。
しかし、おじさんは、穴を開ける為の尖った道具を持っていませんでしたが、細い棒切れで紙に穴を開け、太陽を投影しても良くわかりません。
予定の時間になり、おじさんは焦りました、太陽を投影したものは一向に丸のままです。 そうこうしているうちに、何となく太陽が欠け始めているような気がして太陽を見ても、全く暗くなってきていません。 そんなものかと、思いながらも、全く暗くなって来ません。 おじさんは大きな勘違いをしていたことに気がつきました。 標準時との時差を1時間間違えたこと、紙に開けた穴が月の形になっていたことです。 気をとりなおし、、現地の中国人の方々と笑いながら、撮影準備に取り掛かりました。

しかしながら、初めての体験であること、準備段階では、カメラの設定状態をどのようにしたらいいのかもわからず、シャッタースピードを最速の4000分の1に、絞りも最大のF22にセットし太陽が掛け始めるのを待ちながら待機していました。
そろそろ、今度は本当の7時15分に近づき始めたころ、見る見る内に辺りが暗くなり、青い空があっという間に真っ暗になり、撮影してみると、露出不足で全く写っていないことがわかりました。
焦って、シャッタースピードと、絞りを調整しようとしましたが、表示部が暗くて全く見えず、バックライトを起動し、少しずつあわせ、シャッターを切っていきましたが、バックライトの点灯時間を短く設定していたため、なかなか調整がはかどらず、うまく規定の照度で撮影できないことにおろおろしましたが、1枚だけそれなりに撮影できていました。 残念なことに、焦っていたことから、殆どの画像が手ぶれしていました。

観測の全前日に、蘭州に到着したときは雨で、今回の観測は単なる観光旅行になってしまうのではないかとの懸念もありました。 また、当日も昼間は雲ひとつない晴れだったのですが、夕方になるにつれ、西の方・・・四川省の方から雲が流れ始めましたが、何とか雲の合間から太陽が見えてくれたので助かりました。

◆反省事項
前例を参照し、適切な撮影条件を学習しておくこと、カメラの表示部のバックライトを常時ON状態としておくこと、三脚を使用して撮影することです。
最終日の晩、8月2日に少し飲み過ぎました。 そのせいか、お腹を下してしまい、帰りの5時間のバスの中、嘔吐と、トイレにもいけない苦しみにずっと耐えていました。

◆最後に
これまで会社に入ってから、ほとんど仕事を休んだことはありませんでしたが、今回無理を押して皆既日食の観測に接し、改めて自然の不思議さ、偉大さに感動しました。
もし、また今度、皆既日食を見る機会があったら、必ずや見に行きたいと思います。 今回の反省点を活かし、綿密な事前準備に基づき、観測にあたりたいと思います。