施行錯誤の自作真空管アンプの製作物語記  (811A編)

  


◆真空管アンプの製作を始めるきっかけ
送信管 811Aを使用した真空管アンプの製作事例、製作のきっかけを紹介します。 名古屋大須商店街の一角に、言わずとしれた真空管の店 ”小坂井電子”さんを覗いたことに端を発します。
もともと小学校3年生の頃、”子供の科学”(※1)を預けられほったらかしに育った私、どうしてもその頃達し得なかったことを、多少の小遣いにも恵まれ、30年後の今頃ようやく実現に向けて活動を開始しました。(小遣いに恵まれないと言ってしまうと、小遣いがなくなる?)

(※1)子供の科学 ・・・ 1924年創刊 誠文堂新光社の小学校高学年から中学生向けの雑誌。
                戦中、戦後、また大正、昭和、平成にわたって、「これから」を担う若い世代に“科学の入口”を提供している。
                子供の科学で育ったおじさんのために学研が科学教材を大人の科学 と称して販売しています。

少し話が脱線しましたが、そのおじさん世代の私が、ぶらっと名古屋の大須観音を歩いている時に、その小遣いをもとに、かっこいい真空管を買いました。どう使うのやら全く解からずに。 

買った真空管はロシア製の811Aという型番のもの。 (簾の上で撮ったので見にくい写真ですいません)
この真空管がどんなものなのか、また道具が揃うまで、買って来た真空管を眺め、気合を入れる日々。

真空管アンプの製作関連の書籍を何冊か購入しました。 回路図的には比較的簡単なので、何とかできそうに思いましたが、811Aのを使用した真空管アンプの事例がありません。ちまたごみを作ってしまったかとあせりながら、次に真空管の資料を探しました。
先ずは、811Aのデータシートです。インターネットで簡単に探し出せたのは良いのですが、意味が良くわかりません。 真空管関連の書物も合わせて揃える必要があったのです。
  

一般的仕様 動作例
フィラメント電圧 V 6.3 プレート電圧 V  750 1250 1000 1250 1500
フィラメント電流 A 4 DCグリッド電圧 V 0 0 0 0 -4.5
増幅率 160 ACグリッド電圧 V 197 145 185 175 170
グリッドプレート容量 pF 5.6 無信号時プレート電流 mA 32 50 44 54 32
入力容量 pF 5.9 最大プレート電流 mA 350 260 350 350 313
出力容量 pF 0.7 動作時プレート抵抗 Ω 5.1k 12.4k 7.4k 9.2k 12.4k
プレート最大電圧 V 1250 最大駆動電力 W 9.7 3.8 7.5 6 4.4
プレート最大電流 mA 175 最大出力電力 W 178 235 248 310 340
プレート最大入力 mA 165
プレート最大損失 mA 45


RCA社のデータシート(抜粋)はこちらから・・・>    

早速、準備が整い設計に入りましたが、問題が発生しました。 811Aのの動作条件は、グリッドに正電位を掛けて駆動するものです。
となると、真空管アンプの製作記事によくある、自己バイアス回路では使用することができそうにないことがわかりました。
また、教科書には固定バイアスで使用する場合は、バイアス回路のインピーダンス如何では、暴走の恐れあり等と怖いことが書かれています。迷いました。私は何故かEL34を買って家路に急ぎました。 また無駄な買い物をしてしまった自分に言い聞かせ、再トライする決心をしました。
もともと、送信管であるということは、私の勝手な解釈では、パルスモジュレーションによるC級増幅(スイッチング)で電信、若しくはFM送信機としての使途を目論んだ球であるため、正電位で駆動するのであろうと思います。


真空管アンプ自作にあたって

◆当初設計 構成1(固定バイアス、段間容量結合型)

回路図を記述するツールもなく、手書き、フリーハンドで書きました。 
・・・ 811A真空管アンプ 手書き回路図、清書した811A真空管アンプ回路図はこちら。

真空管アンプ製作に関する書籍を何冊か購入し、ましたが811Aを使用したアンプの製作記事を見つけることができませんでした。
正バイアスが必要ですので、自己バイアスでグリッド電圧を持ち上げることもできません。 前段をカソードフォロアにするのも手ですが、いまいち前段の真空管の動作条件を設定する自信がありません。 やむなく別電源のトランスが必要にはなりますが、先ずは初作の真空管アンプ作り上げることを最優先とし、固定バイアス回路で正電位を与えるための別電源を仕立てることとしました。

動作点の選択について、811Aの定格電圧は1250Vとなっていますが、家庭での使用を前提に、また市販の部品を使用して安全に真空管アンプを製作し得る電源電圧の限界を500Vとおきます。
プレート損失 Ppdmax=45W、
最大プレート電流 Ipmax=175mA
とかなり大きな仕様となっております。
電源電圧をVb≒Vp=500Vとした時の無信号時の最大プレート電流を最大プレート損失から計算すると Ipsmax=Ppdmax/Vp=90mA となります。
ここで、安全動作を保障するために、無信号時のプレート電流を Ips=Ipmax/2=45mAとすることにしました。
ここで、出力トランスとしてはタンゴのU808としました。 U808は何より、コストパフォーマンスに優れた製品で、低域特性がずば抜けて良いのです。
2kΩ   :20Hz〜65kHz  2.5kΩ :25Hz〜65kHz
3.5kΩ :35Hz〜60kHz  5kΩ   :50Hz〜50kHz
出力インピーダンスは、811Aのドライブ力に期待して、先ずは2kΩとしてみました。 この時の、負荷曲線を引くと赤線のようになります。直感的にはなかなか直線性が良さそうです。

 ・・・早く音が聞きたい衝動に駆られてしまいます。これが後で命取りにになります。 幸いに命はまだこうして続いていますが・・・。

●電源トランスの選定
電源トランスの選定に入りましたが、今度は811Aはフィラメント電流が6.3V 4Aと大飯食らいです。 電源トランスで選択可能なのはMX175しかありませんでした。
しかし、このトランスではバイアスに必要な電圧は取り出せません。
外付けのトランスを探す必要がありました。 こんなことを言ったら怒られそうですが、専門メーカさんのトランスはコスト的にちょっと見合わない位の値段のため、第1作ということもありひとまずパス。

●811Aのグリッドバイアス回路用トランス
名古屋大須を探していたらありました。丁度良いやつが。AC100V 1:1の絶縁トランスが新品にも関わらず50円で売っていました。しかも磁気シールドばっちりの感じで定格700mAと容量もばっちりです。

バイアス回路は正電位の固定バイアスですので 電圧を可変にする必要がありまずは可変抵抗を接続してグリッド電圧とプレート電流の関係をみて、固定抵抗に置き換えました。
整流にはブリッジダイオードを使用し、抵抗分圧でグリッド電圧を制御し、プレート電流をモニタしながら定数を選定しています。
バイアス電圧回路としての平滑用(接地用)コンデンサは直接音に影響しますので、良質のものを選択する必要があります。 私はSPRAGUEのATOMを使用しました。 この場合、平滑用のコンデンサの極性がが逆にならないように注意が必要です。

●B電圧回路
整流管には形状から5U4Gを選択しました。 5U4Gは直熱管で古い設計のため出力電流はあまり大きな出力電流は取り出せませんが、プレート電流(LR両チャネル)は高々100mAで 定格の1/2以下であり問題ありません。  見た目で選定してしまいました。
5U4Gの場合、チョークには推奨は10Hですが、電源OFF/ON時のサージによる寿命への影響があることを承知で20Hを使用しました。
平滑コンデンサにはLCRの電解コンデンサを使用し、チョークの入力側には50uFを、出力側には大きいチョークを通していますので、100uFを 搭載しました。 結果としては出力トランスのF特にマッチしたしっかりとした低域の再生能力が長けている結果となりました。
デンオン インバル指揮 チャイコフスキ交響曲第6番 第3楽章のバスドラムのアタックが見事に再生できています。 この力感は第2作の300Bアンプでは物足りなさが否めません。 (ちなみにほかの録音ソースでも聞き比べましたが、ここまでの差がでませんので、録音品質に依存しますので注意してください)

●カップリングコンデンサの選定
ドライバ段と出力管のカップリングにはCornell Dubilier WMF 0.47uF 600Vを使用しました。本品は黄色いチューブラ型のコンデンサです。柔らかさを備えた音場豊かな音質の部品であると思います。形状にボリュームがあるフィルムコンデンサですので、音的には繊細でかつ力感ある伝達特性を備えているようです。音質の柔らかさはぼやけた感ではなく、好ましい音質であると言えます。

●初段、ドライバ段について
初段には3極管の6SL7を、ドライバ段には6SN7を使用しました。 ありきたりのカソード(自己)バイアス増幅回路をコンデンサでカップリングしております。


●特性評価結果について
周波数特定について再測定を実施しました。
低域 20hz −2dB 〜 50khz −2dB と蒲鉾型の自然な特性を示しております。
特に高域にピーク等もでておらず、変な癖の無いまずまずの特性です。 低域は残念ながら10hz迄フラットとは実現できておりませんが力強さは十分と思います。




◆エンハンス版 第1.1作、第1.2作
前段プレート〜グリッド間直結、自己バイアス併用型


改善版 第1.1作 811A真空管アンプ回路図はこちら、第1.2作 811A真空管アンプ回路図はこちら から。 ・・・ これは中途半端でした。

はじめての真空管アンプの自作ながら、のん兵衛の私は、自宅でビールを飲みながら、シャーシ2日、組立て1日の計3日(一日徹夜)で作り上げてしまった。感電3回。皆さんはしらふで作ってくださいね。 私は電源を入れ片チャネルを視聴しながら、気分良くもう片方のチャネルの配線をしていました。電源を入れているのを忘れていました。
命の保障がありませんから、アルコール厳禁、絶対無理をせず製作にあたらなくてはなりません。

初作で、811Aが持つ押し出すような迫力感と、高域の繊細さの表現力・・・コンサートホールの中の楽器の奥行きををキチンと再現するような透明な音を確認する事ができました。
より透き通る音を求めて、
結局回路構成としては、グリッドバイアス用のトランスの使用はやめました。
第1.1作、第1.2作の回路は実験的に、811A駆動回路を直結にできないかを試行したものです。
第1.2作の特性は、以下の通りとなりました。 
周波数特性は、NFBを掛けることで、低域迄のばす事ができるが、いずれにしても出力がたりない。
NFB無しの入出力特性を見れば明らか、0.8W位でドライブしきれず振幅がクリップしてしまい波形歪が発生し、それ以上は歪んだ波形で振幅しているし、NFBを掛けて歪みを抑えるも、結局ドライブ仕切れていない様子がありありだ。

 



◆エンハンス版 第1.3作
前段プレート〜グリッド間直結、自己バイアス併用型、SRPP電圧増幅、パラレルドライブ


そこで改めてキチンと設計見直しを決めました。
先ず811Aの定格電圧は1250Vとなっていますが、電源電圧の設定は、家庭での使用を前提に、また市販の部品を使用して安全に真空管アンプを製作し得るということで、ここでも電源電圧の限界を500Vとおきます。
811Aの動作点決定するにあたり、Ep−Ip特性は次のチャートのようになっています。
811AのEp-Ip特性より、Eb=Ep=500Vとした時、グリッド電位Egk=20Vを与えたときに、プレート電流Ip=70mAが流れます。


回路方式としては、下図に示すような、回路構成を考えます。
Ebo=500V、Ip=70mAとおき、
811Aのカソード抵抗によりカソード電位を持ち上げ、前段のプレートと811Aのゲートを直結、Ego=R3・Ip+Egk=Eg’o-R3・Ip2となるようにバランスをとる。



プレート電流 Ip=70mAとすると、Eko=70V、Egk=20V、Ego=90V、
前段の電源Eg’o=250V、Rp2=10kΩとした時に、Ego=90Vとするためには、Ip2=16mA。(パラ接続では8mA))
この場合、前段V2 12AU7の動作点が左に寄りすぎている。 チャートよりグリッド電位は0〜−12Vの電位を与えることを前提とすると、理想な動作中点は電源電圧Eg’o=6V、Ego=125Vを中心に振幅させると直線性が良いのであるが、その場合、Egk=75Vとなり、Ipo=約580mAとなりNG。
逆に、Rk1を大きくとった場合を考える。
仮にRk2=2kΩとおき、Ip1=70mAとすると、発熱量は各カソード抵抗の消費電力は、約10Wとなり、非常に不経済であり望ましくない。
このような状況下、本当は全直結としたいところですが、811Aの電源電圧をさらに持ち上げられれば可能ですが、危険とエネルギーの無駄な消費、即ちコスト増を考え合わせ、まずはドライバ〜出力段間を直結にし、様子を見たようなものです。出力段は直熱管、前段は傍熱管です。従って、電源シーケンス上、いきなりB電圧が立ち上がると、グリッドに過電圧が印加されることとなり、問題があります。811Aの場合は定格上は問題がありませんが、気持ち良いものではありません。従って、5U4Gから傍熱型の整流管5AR4に変更しました。
残念なことですが、この回路構成で電源電圧を500V程度に抑えた場合、十分に811Aを駆動するは難しい。
構成1.1、1.2作で実験したとおり、1W程度の出力も得られない。
極力小信号時に十分にドライブするにはどうするかであるが、電圧増幅段で十分利得を稼ぐことと、前段の電流ドライブ能力を稼ぐことである。




ということで、電圧増幅段で、12AT7でSRPP回路を構成し、811Aのドライブに、12AU7のパラレル接続で構成することとした。
回路図は以下のの通り。  下図をクリックすると、拡大表示します。


●電源のレギュレーションについて
また、この電源系の変更に伴って、レギュレーションの改善をはかる事とし、シズキの47μF、800V定格のフィルムコンを整流用のパイ型フィルタに採用しました。ただ、サイズが大きいため、シャーシに空けた穴におさまらないため、筐体内に取り付けることとし、アルミ電解コンは半分は飾りと化してしまいました。

●ヒータ電源のDC化について
811Aのヒータは6.3V、4Aと大飯喰らいのため、どうしてもハムが取りきれませんでした。
そのため、直流点灯化をはかりました。しかし、フィラメント電流は4Aと非常に大きなためリップルをとりきるためには各チャンネル毎に大型ブリッジ整流素子と巻線抵抗、20000μFのケミコンでパイ型フィルタをくみました。 80000μFのケミコンを内蔵しております。 気にならない程までおさまりましたが、夏場の使用はチョット耐えられないかと思うばかりの発熱と引き換えになりました。

  



●811Aの出力インピーダンスについて
た、どうも811Aの出力インピーダンスは決して低くないようで、出力トランスの1次側は5kΩに変更することにしました。本当はもっと高い値を選択したいところです。(出力が稼げないのです)


製作写真




今回のV1.3版回路の成果は限りなく有意義なものとなりました。     現状最終版の回路図(PDF)
視聴CDのオーケストラの楽器一つ一つの音はなれが、極めて改善されました。これまでガラクタの山と見ていた家内の一言、このCDはこんなに広がりがあり、楽器の配置が前後左右ばらばらに聞こえる。コンサートで聞いた時と同じようだと。(実はラジカセ、コンポの団子状の音になれた家内は、以前インバルのコンサートに行った時に、実際のオーケストラの音は前後左右ばらばらに聞こえる事を知らず、コンサートで感動した)素人と言っては申し訳ないが、素人でもわかる程の差がでたのです。


初作、第1.1作(固定バイアス、段間容量結合)          第1.2作(自己バイアス、直結結合)、第1.3作(自己バイアス、直結、SRPP電圧増幅、パラレルドライブ)

 



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