ノイズ・アンド・ファンク観劇レポ
「Bring in'da NOISE Bring in'da FUNK」
− (2003年3月20日) − 赤坂ACTシアター


「凄い!」としか言葉で表現出来ない舞台。理屈でなく魂で感じる舞台。 そんな舞台と出会って、私が観劇直後に携帯メールでみんなに感想メールを送り、 そして観劇した方々から掲示板での大感動したとのレポートを読んで、多くの 方が観てくださった「Bring in'da NOISE Bring in'da FUNK」に行ってくださいました。 そのお一人であるおつゆさんが観劇した夜に一気にレポートを書いてくださいました。



「これは一種のドラッグだ!」
先にこの舞台を見たエポさんからのこのメール、そして「絶対いいよ、音楽やって いるなら観に行ったほうがいいよ」という言葉で、平日休みの3月20日(木)に 行ってきました。

当初聞いていた話では、「こんなすごい舞台なのに、ガラ空きなんてもったいない !」とのこと、当日券も楽に手に入るのではと思ったのですが、千秋楽が近いという こと、そして評判が口コミで広がったためか、自分が行った日には開演1時間前の当 日券発売時に既に20人ほどが列をつくっていました。自分にとって観るチャンスは これが最初で最後だったので、席のほうも全体をまんべんなく見渡せる真ん中(22 列24番)を選びました。

この舞台は全2幕、5場で構成されています。
第1幕:「はじめに」アフリカ系アメリカ人の歴史の始まり。奴隷として苦役を強 いられた黒人たちが、数少ない娯楽であり、自己表現でもあったドラムを禁じられた 代わりに手や足を使ってリズムを打ち出しタップを生み出すまで。「都市化」奴隷解 放後も抑圧され続ける黒人たちのシカゴでの様子と、シカゴ暴動後の『ハーレム・ル ネッサンス』。

第2幕:「ビートは何処だ?」’30年代のハリウッド映画に取り入れられた黒人 音楽とタップ、そしてセヴィアン・グローバーが語る『影響を受けたダンサー』。 「ストリート・コーナー・シンフォニー」’50年代から’80年代のハーレムの様 子。「ノイズ&ファンク」黒人であることのアイデンティティー、タップと音楽への 情熱が舞台にはじける。

とまあ、これが大筋です(プログラムから抜粋)。特に大掛かりな仕掛けもなく (時々映像スクリーンと、ストンプのためのセット、あとはゴミ箱をひっくり返した ようなドラムくらい)、ほとんど全編がカンパニーのタップで構成されています(ス トンプやドラミングが少々あり)。

で、何が凄いかって、タップの細かさと正確さ、そして何よりも「魂の込め方」! 自分はタップというと、「華麗で軽やかなステップ」、そう丁度第2幕でグリンとフ ラッシュが踊っている「シャッフル・ステップ」といわれるものを想像していました。

セヴィアンはこれを否定し、ソウルフルな、ビートの効いたタップを主張してい ます。これがまたよく聞こえるんです。「一本芯が通ったステップ」と言えばわかっ ていただけるでしょうか。喉で歌う声はどんなに「音量を大きくしても」響かず、お なかを使って全身で歌う声は「たとえ音量が小さくても」響いてくるのと一緒で、彼 らのタップはその一音一音が観客の心を揺さぶるのです。全身全霊を込めたパフォー マンスが観客のハートとシンクロし、やがては大きなうねりとなるのが肌でわかりま した。タップ自体も、ただ足を踏み鳴らすだけでなく、「スライド」と呼ばれる、つ ま先を床にこすって音を出すという技術も見せてくれて、ただただ唖然とするばかり でした。

またダンサーだけでなく、「ダ・ヴォイス」・「ダ・シンガー」役(声と歌です ね、早い話)の声も印象に残りました。魂のこもった声は、ダンス同様自分のハート とシンクロしていました。日ごろクラシック中心に活動している(とはいっても、こ こ1年は全く動いていません・汗)自分でも、そのビート感を身体で受け止めていま した。音楽をやっている方にはぜひ観てもらいたいと思いました。

タップの技術や表現力に目を奪われがちな「ノイズ&ファンク」ですが、もう一つ の側面を忘れてはなりません。それは、「黒人文化の歩み」です。かつて黒人は奴隷 としてアフリカからアメリカへ送られ、差別され、抑圧されてきました。それは、わ れわれ日本人が学校の授業や受験勉強などで学んできた知識よりも、はるかに過酷 だったのです。南部からシカゴに「志願して」移住した事実や、「ハーレム・ルネッ サンス」などは自分がこの舞台を通じて初めて知ったことですし、それ以前にこう いった黒人差別の実態すらよく知らなかったわけですから。そして、黒人がちょっと したことが理由で簡単にリンチを受け殺されてしまう・・・ そう今のイラクとアメ リカの関係に似ていると感じたのは気のせいでしょうか?「自分たちの正義に背く人 間は容赦しない・・・ たとえそれが間違いだとしても」う〜ん・・・

すべてを観終えた時、周りの観客同様、自分もスタンディング・オベーションに加 わっていました。ただ「すごい!」の一言、それ以上の言葉はかえって邪魔になるく らい。もう身体中の血が別の血になってしまったかのように拍手していました。周り の観客もそんな気分を多少なりとも味わっていたのではないかと思います。カーテン コールのときも、カンパニーの面々が本当に楽しそうにあいさつしていました。

帰り道、少し冷静になったので考え事をしていました。  一つは、この舞台をもっと若い人たちに観てもらいたいということ。セヴィアン・ グローバーが「ノイズ&ファンク」の振り付けをしたのが23歳の時。今の若い人た ちとそう年齢も変わらないはずです。自分たちと同世代にこんな凄いことをしている 人がいることをぜひ知ってもらいたい。携帯電話代に数万円かけるくらいなら、ある いはバイトでン万円稼げるなら、そのうちの1万2千円をこっちに回す余裕はあると 思います。何でも吸収できる(セヴィアンも「ブラック・アンド・ブルー」の公演中 は”スポンジ”とニックネームをつけられるほど共演していたダンサーから吸収して いった)今だからこそ、このような質の高い舞台を観てほしいと思います。

もう一つは赤坂ACTシアターの「器の悪さ」。いくらTBSが主催しているからといっ ても、あれほど質の悪い劇場によく引っ張れたなと思いました。トイレはまるで仮設 のように安ぼったいし、床板も薄いのか知らないけど、ちょっと歩くとすぐ大きな音 がする。喫煙所も屋内にとれない(もっとも嫌煙家にはうれしいことですが)から外 に柵で囲ってあるようだし・・・ バーカウンターもロビーと一緒だから狭くて落ち 着いてドリンクなんか飲めない。これでは次回公演で来てくれるかどうか、疑問に思 えてきます。今後TBSが「本気で」BWやWEの大作ミュージカルを引っ張ってくる気が あるのなら、それに見合った劇場を(たとえ数年休館してでも)建て直すべきです。 そうでないと、今後日本に良質のミュージカル(もちろんオペラやバレエもしかりで す)が入ってこなくなるといっても過言ではないでしょう。TBSさん、ご一考のほ ど、よろしくお願いします。

とまあ長々と書きましたが、やっぱり「これは一種のドラッグだ!」あとは劇場で 堪能してきて下さい。ただし、中毒になっても責任は取れません(笑)。あしからず。