マナティさんのレポート
「ギャンブラー」
− 福岡サンパレス (2002年6月19日) −


公演は「シンシ・ミュージカル・カンパニー」。日本で言うところの「四季」 みたいなものでしょうか。ただ今までの演目は「RENT」「CHICAGO」「CABARET」など、傾向は四季とはかなり違うみたいです。

まずは作品紹介。「ギャンブラー」はエリック・ウルフソン作曲により1996年、 ドイツで公演された作品。当時はオーケストラ演奏だったみたいですが、シンシ〜の 公演のために編曲され、今回は8人のバンドで演奏されております。その分スピード感や 迫力は増しているみたいです。

この作品は、関東・関西の公演は少ないようなので(本当に無茶苦茶なスケジュールの 切り方ですよ)、一応あらすじから説明します。

【第1幕】
ヨーロッパのある都市のアラビアンスタイルの"バクダッド・カジノ"。ここの カジノボス(許峻豪:ホ・ジュノ)は観客と賭けをする。たった今中に入って きた好奇心旺盛で真面目で平凡な若者(李建明:イ・ゴンミョン、南京柱とW キャスト)を賭博師に変えて見せると。ボスは若者を誘惑するが彼は簡単に賭博に 近づこうとせず、ただ見ているだけ。

その時、カジノの舞台でショーが始まる。若者がダンサーの中の一人の美しい ショーガール(崔丁元:チェ・ジョンウォン)に特別な関心を持っていることに 気付いたカジノボスは、そのショーガールに若者が映画プロデューサーだ、と 言って引き合わせる。

二人はたちまち惹かれあい、夜遅く外で会うことを約束する。 ショーガールは彼女の後見人である伯爵夫人(金宣敬:キム・ソンギョン)と クリスマスミサに参加する。賭博師を軽蔑する彼女は若者に不快な態度を取るが、 ショーガールは伯爵夫人が引き留めるのも振り切って聖堂を抜け出す。 カジノボスが監視している中、遂に二人の愛が始まる。

ところがカジノのボスは若者に"彼女はあなたを映画プロデューサーだと思って いる。あなたのためを思い、そう説明しました。"と言う。動揺する若者に、 実はカジノのゲームに必ず勝つことのできる秘密のアイテム「ゴールデンキー」 なるものがあることを教える。若者はゴールデンキーを手に入れたいと思い、 一方ショーガールは伯爵夫人がくれたプレゼントを若者からだと勘違いし、若者 との幸せな未来を歌う。


【第2幕】
伯爵夫人はショーガールに賭博師とは絶対に恋におちてはならないと忠告し、 彼女にゴールデンキーを渡す。夫人は賭博に溺れ、自分との恋を破局に追い遣った 男との悲しい恋に顛末を歌う。

ショーガールは成功に対する思いと若者への感情の間で激しく葛藤するが、若者は その気持ちに気付かぬまま彼女からゴールデンキーを取り上げてしまう。 果たして若者はついにベッティングを始め、賭博へ足を踏み入れてしまう。 そこへカジノボスが現れて信用で100万ドルもの金を貸してやると言う。ショーガールは ボスに立ち向かいながら危険な賭博をやめるように若者にせがむが、彼はすでに 貧欲の虜となり、愛するショーガールさえも押しのけてしまう。

ゴールデンキーを手にした若者は連戦連勝を重ね、自信有りげに最後のゲームに すべてのチップを賭ける。が、欲張りすぎた若者にゴールデンキーはこれ以上幸運を 運んではこなかった。いや、所詮最初の連戦連勝はカジノ側の罠だったのだ。若者は もう一度金を貸して欲しいと願うが、すでにゲームオーバー、敗者には冷たい視線 だけだった。このときボスが連絡したカジノの経営者こそ伯爵夫人。彼女は"私からあの娘を 奪うことは許さない"と呟く。結局このワナの裏には伯爵夫人がいたのだった。

自分が虚しい冒険をしたこと、人生に黄金の鍵など存在しないことを悟った瞬間、 若者は警備員の拳銃を奪い、孤独な決心をする。




キャストは凄く好演しているので文句はつけません。作品自体の評価は中の上 ぐらいでしょうか。しかし、全体的に「ミス・サイゴン」とか「キャバレー」の 雰囲気が見え隠れする、「なんとなく色々パクッたろう?ミュージカル」でした。 教会の神父はカジノボスが演じ、途中までミサだったのに、後半豹変し、高みから 見下ろすような歌を歌い上げました。これってエリザ。。。。。 主役のカジノボスはいかにも"エンジニア"で、でも顔は浅野忠信に似ているのが ちょっと笑えました。彼は韓国演劇界のカリスマみたいで凄い存在感でした。

惜しむらくは出ずっぱり、歌いっぱなしなので、またかなり強行なスケジュールで 疲労も蓄積してたのでしょう、声がきつそうでした。ヒロインの友人ショーガール 仲間のジジ(朱元成:チュ・ウォンソン)はドラッグクイーンで(早い話男なのですが)、 二幕の最初にショーを行い客席まで降りていって、巧みな日本語のジョークで会場の 雰囲気を見事に作り上げました。でも何となく「CHICAGO」や「RENT」を思い出させます。

私が作品の評価を低くするのは色々な作品に似ている、ということよりむしろ ストーリーの練上げ不足が感じられるからで、例えば

○若者とショーガール(大体名前が無いのがおかしい!)があまりにあっさり恋に落ちる。
まぁ、とかく一目ぼれとはレミやエリザでもございますが、二人が 恋に落ちるプロセスをもっと書きこまないと余りにも嘘っぽく見えてしまう。 それは後半彼女を振りほどいて賭博にのめり込むシーンの対比になるからだ。 そして捨てられた彼女を最後にもうひと踏ん張り物語に絡ませるともう少し締まると思うのです。

○時間軸が無茶苦茶。
最初に若者はショーガールに明日出発すると言う。 カジノ→ショー→パーティー→クリスマスのミサ→二人の逢瀬→楽屋(ショーの準備)→伯爵夫人邸→カジノ これが一晩のうちにあるはずも無く、かなり時間軸を無視している。だから物語の展開が不自然だし、たった 数時間の二人の恋が薄っぺらいものになってしまっていると思う。

○若者が賭博にのめり込む過程が薄い。
自分を映画プロデューサーだと思っているショーガールのために一攫千金を 夢見て、ゴールデンキーなるアイテムを手に入れようとする若者。冴えない 人生に対する鬱屈した思いが炸裂した瞬間ではあるのだが、なにか展開がわざと らしい。例えば彼女を身請けするのにお金が必要だ、とか理由があればよかったと思う。

ついでに言うとクラップスでカジノの仕掛けが通用するはずも無く(電子何とかという 理由はつけていたが)、基本はルーレットで進めていくべきだったのでないか (それならディーラー思いのままだからね)。せっかくセットに大きなルーレットを 掲げていたのだから、それを電飾使ってルーレット台で行なわれているゲームとして 表示するのがベターだったと思う。

大体ゴールデンキーなる幸運のアイテムが鍵型のネックレスと言うのがチープだ。連戦連勝の アイテムなど存在するはずも無く、"3回に2回の確率で勝利します"とでもしておけば、 勝ちつづけていた若者が負け始め、金を借り出す、という展開が組めたのではないでしょうか?

○伯爵夫人の存在意義の不確定さ
先述の通り、伯爵夫人はヒロインの後見人として彼女にアドバイスやプレゼントを贈り、 賭博師に惚れるな、と忠告しゴールデンキーを渡します。しかし実際は夫人はカジノの 経営者であり、結局若者は夫人の罠にはまったというオチです。

夫人の定義が曖昧なのです。自分からショーガールを奪う若者に怒りを向けて 彼を破滅させる、という意味が今ひとつ伝わってこないです。夫人はショーガールに 自分がなし得なかったショウビジネス界での成功を願い、自分が経験した賭博師との 恋の不幸な結末を語ります。

でも話の内容から何人もの男が同じ手口でやられているのがわかります。結局夫人は 元々若者を破滅させるつもりだったのか、それとも自分が目を掛けているショー ガールが若者にお熱を上げたので嫉妬で100万ドルも貸し付けたのか、よく分かりません。 私ならもっとストーリーと人物描写を捻ります。

@ 最初はカジノボスは若者に1〜10万ドルぐらいを貸しつけて生かさず殺さずの カジノ客に仕立て上げるつもりだった。

A 夫人はショーガールの成功も幸せも願っている。そこでゴールデンキーを 使って罠を掛けた。若者が賭博の誘惑に打ち勝ってショーガールを選べば、 自分の不幸な恋の二の舞にならずに済むからと。

B 結局若者はショーガールを捨てて賭博に走ったので、夫人の逆鱗に触れ、 とても返せるわけの無い100万ドルもの大金を貸しつけるよう夫人はボスに指示 をし、結果破滅への道を歩ませる。

C ついでに登場人物の中にかつて同じようにゴールデンキーで人生を狂わされた 落ちぶれたギャンブラー(でも金が無いのにカジノに入り浸り)を登場させると リアリティが増す。

ここまでひねれば物語がスムーズに行くと思うのですが。

私の観劇レポは自分でもとかく辛口批評だと思います。でも決してキャストの 誰々が下手だ、とか作品自体をけなすことはしないつもりでいます。 「HONK!」を観た時も何人かで話したのですが、要は作品の練り上げ不足を 指摘したり、ここはこうすればいいのになぁという個人的感想なのです。 結局は金額に見合うだけの満足が得られれば良いのです。そういう意味では 韓国ミュージカル「ギャンブラー」は7000円でこのクオリティと、満足しても 良いのですが、どうせなら7000円で1万円分の得をしたくなって、ちょっと辛口 になってしまいました。

何度も言うようですがキャストは熱演です。更には5人の主役キャストはなんと 公演終了後サイン会まで行ってくれました。日本の公演ではありえないことだと思います。

余談ですが私はたまたま「RENT」のTシャツを着て行ったのですが、それが彼らの目に とまり話しかけてくれました。「僕(若者役の李建明)はロジャーをやったんだ。 彼女(ヒロインの崔丁元)はミミで、彼(ジジ役朱元成)がエンジェルだったんだ。] 僕らが韓国RENTのオリジナルキャストなんだ」と。ジジがエンジェルっぽいなぁと思ったら、 そのまんまやないけ!とちょっとおかしくなってしまいした。

でも韓国語はもとより話せないのですが、英語で話しかけられたのに、英語でも答えられない自分の間抜けさに腹がたちました。