アイ・ラブ・坊ちゃん 2000



オープニングの演奏の出だしは宇宙に飛び出すかのようなイメージを起こさせる 雰囲気を持っていました。そして幕が開くと、時が流れるようなリズムを感じる音楽になり、そこに 漱石の家が現れます。上手には漱石の寝室兼書斎。そこで新しい小説「坊ちゃん」を 書きます。そしてその部屋から縁側がのびており、縁側に面して、障子戸があります。 その向こうに部屋があります。

この舞台は、セット自体はシンプルですが、上手に色々と使っていました。メインは このセットで、漱石の現実の世界での出来事が進行したり、坊ちゃんの世界での 話が進行したりします。上手の漱石の部屋で「坊ちゃん」を書いていると 下手側では、坊ちゃんの世界での話が展開されたりもします。また、この舞台セットが 上・下に分かれて、漱石が息詰まった時に出かける場所になったり、坊ちゃんの 赴任する先の街になったりもします。

オープニング。縁側に座っている漱石。屋根は瓦の絵が描かれており、照明に照らされると、そこに 漱石の飼っているネコが寝ています。すると、下手から上手へ、次々と色々な人達が 通りすぎていきます。その中には、ドンキホーテとサンチョ・パンサまで歩いて いました。

さて、オープニングが終わると、漱石は縁側に寝転びます。すると、 障子を開けて、妻の鏡子や女中が次々と出てきます。パンフレットによると、 明治39年の初春で、前年に”我が輩は猫である”を発表し好評を博した」頃の 話となっています。機嫌が悪い漱石。妻の鏡子にあたりちらしており、女中は漱石を 神経病扱いしています。

そこにやってくるのが高浜虚子。漱石の親友の正岡子規の後を継いで、「ホトトギス」 の編集をしている。漱石は高浜虚子に、次回作の構想を話し出します。その作品が 「坊ちゃん」である。漱石が構想を話し出すと、障子が開いて坊ちゃんが現れます。 そうして、この「坊ちゃん」のストーリーが進んでいきます。

脚本がしっかりしているのでしょう、とても楽しい作品でした。漱石と鏡子の やりとりがとても面白い。台詞といい、間といい、面白くて笑えるのです。夫婦 の間では、互いに色々と不満があったりしても、結局は似た者夫婦だったり、 互いを頼っているものですよね。他に面白い場面として、漱石の世界と坊ちゃんの 世界が同時進行している所、つまり漱石が執筆している最中に、鏡子が話し掛ける都度、 坊ちゃんの世界の台詞や動きがストップします。漱石の世界と坊ちゃんの世界での キャッチボールです。鏡子にイライラして、漱石が原稿を丸めてしまうと、坊ちゃんの 世界の人物達が苦しがったりもします(笑)

坊ちゃんの世界では、漱石の現実とオーバーラップする事柄が多くあります。 親友の正岡子規を「山嵐」にダブらせます。坊ちゃんと山嵐は互いにとても 気が合う相手。山嵐は病気をわずらっているが、自信を持って生きている。別れた 後、二度と会うことがないのは、ロンドン在住中に正岡子規が亡くなり、死に目に 会えなかった、ことでもダブらせているのだろう。坊ちゃんの家に昔から奉公をして いて坊ちゃんを大変可愛がっている「静(キヨ)」はきっと妻の鏡子をダブらせているに 違いない。なぜなら、鏡子の戸籍上の名前は「キヨ」なのだから。

最後のシーンで、赤シャツの実態を暴こうとして、坊ちゃんの世界で乱闘が 起こった時、漱石が叫ぶ。「もういいんだ!投げ飛ばされなければいけない人間は 私だ!」。。。すると、坊ちゃんの世界の山嵐が、漱石を投げ飛ばした。漱石は 正岡子規が羨ましくて、そして恐かった。死に直面していながら「柿食えば・・・」 の句を読む正岡子規が恐かった、というのだ。今という時を精一杯生きている。。。 すると坊ちゃんが漱石に言う。「じゃぁ、そうすればいい!」

すると山嵐はいつのまにか正岡子規となり漱石に語り掛ける。「もっと単純に なれ。」そして野球のボールを漱石に渡し、更に続けた。「野球の基本はキャッチ ボールだ。取り易いように相手に投げる。相手のボールはどんなにひねくれた 玉でも拾う」、、、と漱石にアドバイスをする。

漱石は死んでしまった正岡子規を坊ちゃんの中で”拾って”生き返らせた。 そして坊ちゃんは「キヨ」の元に戻る、と言い残し、行ってしまった。他の登場 人物も行ってしまった。漱石は「自分はどこに戻ればいいのか?」と問い掛ける。。。 そしてキヨの最期の場面を書き終えると、「いかに生きるか、を考えればいい」と 結論を出した。そしてそこには、妻の鏡子が一緒にいた。

楽しい舞台でした。音楽もキレイで心地よいものでした、、、が、私事ですが、 ここ数日間、エリザベートのCDを聴いて、そのインパクトがあまりにも強かった 為、帰路につく頃には頭の中がエリザベートの曲がグルグルしており、実際の ところメロディーは忘れてしまっているのです。オープニングのイメージが どうだった、とか心地よい音楽だったという思いはあるのですが、残念ながら サラッと流れてしまったようです。。。ただひとつ、ラストナンバーですが、 前奏がどう考えても、テンポも音階も「ONE」(コーラスライン)だろう、と 思えるもので、これはちょっと、、、ね(^^;) この曲はカーテンコールでも使われ たので、幕が開く時なんとなく、「下手から、浜畑ザックを先頭にコーラスの 人達が金色の衣装とシルクハットを持って、ラインで登場しちゃうのでは?」と 思ってしまった。。。

出演者ですが、浜畑さんの歌声は素敵です。そして園岡さんもいい味を出しているし 素敵な歌声でした。シゲは声が枯れてたみたいだけど、どうしたのかなぁ。シゲの 舞台って、「ローマを見た」「僕のシンデレラ」「バルセロナ物語」「男が家を 出るとき」、、、と観ているけど、枯れてる声じゃなかったと思う。。。「僕の シンデレラ」の時に発売されたテーマ曲を持っているから、後で確認してみよう かな。多分、べらんめぇ調で怒鳴ったりして、声でも枯らしちゃったのだろうね。 女性陣はキレイな声で歌の上手い人、多いよね、最近。伊東弘美さんも出てるし、 充実してたと思います。

良いお芝居を観た、、、そんな印象の残る作品でした。今日は15列目で観たので 全体をよく観れました。もう一回、近い席で観てみたい。。。でも金欠だからなぁ (^^;) ところで、この舞台ですが、入場料にパンフレット代が含まれており、 非常に良心的だと思いました。ホロッとさせられるところもあり、そして笑いも あり、パンフレットもついているし(笑)、2000年の観劇第1作目として 素敵なチョイスだったな、と思いました。