42ND.STREET
− 名古屋中日劇場 (2000.5.10&17) −


日本の初演は1997年12月、そして再演は1999年4月、どちらも東京での 公演でしたが、今回は場所を移して名古屋での公演でした。キャストはほぼ一緒、 と言いたいところですが、私的にはとても大きな変化がありました。あの面白かった 富士真奈美さんはマギー役を降板なさっていましたし、来日公演でも日本初演・再演 でもピアニストの方がオスカー役で実際に舞台の上で演奏していましたが、今回の 名古屋では役者さんがやっていました。そして大きな変化といえば、やはりドロシー 役が前田美波里さんだったことでしょうか。ちなみに 昨年の観劇レポートでは、日本初演・再演での演出面等と来日公演のもの とを検証したものをレポートさせて頂いております。

ドロシーという役は「ここ10年、泣かず飛ばずの女優」でいわゆる下降気味の 女優のはずですが、ビバ@ドロシーはもう、舞台に現れた瞬間に客席でどよめきが 起こるほど奇麗で、とても「泣かず飛ばずの女優」とは思えませんでしたが、 顔と同じように「ハッキリ」した演技で、そして解釈が非常に斬新でした。どこが 斬新かと言うと、来日公演のドロシー、日本初演の上月ドロシー、日本再演の 寿ドロシーが同じ解釈をしたところが、ビバさんは違う演技をなさったからです。

その場面は「8時45分」を歌うときのことです。かかとを骨折して主役を降板した ドロシーが初日の幕があがる直前に、主役に抜擢された新人のペギーの楽屋、、、 つまり自分が使用していた楽屋でペギーと話しをして、最後に「おせっかい かもしれないけど、、、最後の曲の前の曲ね。。。あれは力で押しては駄目。 観客に寄ってこさせないと。。。」と、ペギーに歌ってあげる場面があります。 最初ドロシーが歌っていますが、途中から「一緒に歌いなさい」というジェスチャーを します。そして一緒に歌うのですが、最後のところで「いま、幕が開〜くー」と 歌ってこの歌が終わるのですが、今まで私が観たドロシーは(というか多分 オリジナルがそうなのでしょう)「いま、幕が〜」の後「開〜くぅー」と歌おう とした時に、ペギーが一瞬早く「開〜くぅ」と歌うのです。ペギーには主役の 空気が乗り移っているような演出になり、そしてドロシーはその瞬間、非常に 寂しい顔をするのです。

ところがビバ@ドロシーの演技は違いました。この場面でビバさんがしたことは、 「いま、幕が〜」と歌ったあと、左手を差し出し、「お歌いなさい」という ジェスチャーをして、新しい世代の主役であるペギーを送り出す演技をなさいました。 心の広い、大きなドロシーでした。なんかビバさん自身をみるような、、、 何故こういう解釈をなさったのか、それはご本人でないと語れない部分ですが、 でも客席でこの場面を観た私は、「こういう解釈もありだな」という理屈よりも 先に心を鷲づかみされて、目頭も胸も熱くなりました。また再演の時のような 「ペギーとドロシーの声のぶつかり」は感じられず、今年はペギーの声をドロシーの 声が包み込むようにして、客席に飛んできました。

また、パトロンであるアブナー・ディロンが稽古を見学している時、演技で ドロシーにキスをしようとするとディロンの待った!がはいります。この時、 いちいち稽古が中断するということで、ドロシーが共演者に目配り・気配りを するのですが、これもとても斬新なことです。アブナーにイライラすることは あっても、そのディロンの行為に対して、共演者やスタッフに気を使うドロシー というのはみたことがありませんでした。

今回のドロシーは、プライドが高いだけの存在ではありませんでした。上手く表現 できないのですが、なんか心の奥底にある本来のドロシーというキャラクターの 持つ性格を最大に出してきたというカンジ。勿論、いままでのドロシーが暖かく なかったというわけではないのですが、大きな違いというのは、やはり最初に 書いた部分、新しいスター=ペギーを送り出す行為を表した、ところです。 本来のドロシーが、世代交代を寂しく思うのと対照的でした。

ところで日本初演・再演を観た方で、今回の名古屋公演も観たかたはどう感じ たのか非常に興味があることがあります。それはオスカーというピアニストの 役が初演・再演では本当のピアニストが演じていたのに対し、今回は役者さん が演じていたところです。それぞれに対してどうこういうつもりは私は全く無い のです。作品中に踊れないドロシーの周りに「若いダンサーを置いていれば、観客に はわからないわよ」というマギーの台詞がありますが、それと同様、42NDの スタッフが、「観客にはわからないよ」と、ピアニストをおかなかったとしたら 非常に悲しいことだと思ったのです。

正直言って、昨年とは全然印象が違いましたよ。まずしょっぱなのオーディション場面。 幕があがる前に、「おい!みたか!!ジュリアン・マーシュの新しいショー だ!」「バラエティ誌に載っているわ!ジュリアン・マーシュが新作を出すのよ!」 「仕事だ!」・・・と、口々に出演者が台詞を言います。 そして幕があく直前に、「最初のオーディションは明日の10時!」「フォーティー・ セカンド・ストリート・シアター!」と言うと、オーケストラの音楽が一旦 スローになり、そしてテンポを戻し、、、幕が開くと同時に、オーディション 場面で、ピアノの音とタップの音がなり響く・・・はずでした。初演・再演では 最初はピアノの音とタップの音だけが聞こえてきたなぁ、確か。そして途中からは ピアノの音のレベルを10とすると、後ろのほうで他のオケの音がレベル3くらい で聞こえる、というカンジだったんですよ、記憶によると。もしかするとこれは オケの位置が舞台の上で後方にあったから自然とそういう音のレベルで、音の 位置(?)だったのかもしれませんが、幕があがった直後、オーディションピアノが メインで聞こえたことにかわりはありませんでした。

今回の名古屋の42NDでは、幕があがって聞こえてきたものは、フル・オーケストラ の音でした。最初に座った場所がスピーカーの真ん前だったからですか?いやぁ、 その日の夜の部でセンターで観たときもそう聞こえました。私は素人だから オーディションの事とか全然知りません。でも「えらく豪勢なオーディション だわ」ってカンジです。フル・オーケストラ音でオーディションですかー。 そりゃ、「コーラス・ライン」だって最初幕があがった時のオーディション場面 では、オケ音でのオーディション場面です。でもねー、わざわざピアノを舞台の 上に置いておきながら、オケ音のオーディションも無いじゃん、みたいに思う わけですねー、私としては。それとも疑問に思わない部分なのかしら。。。

今、オリジナルキャスト版のCDを聴いています。これはスタジオレコーディング なのでしょうか、オーディションの場面はピアノ1台だけです、最後の8小節 くらい以外は。メチャかっこいいです。勿論、舞台バージョンだったら会場の 大きさとかもあるでしょうから、フル・オケ音でやったほうがいいのでしょう。 来日公演では会場がNHKホールで大きいといのもあるでしょうし、フル・ オーケストラ音です、ビデオチェックしてみると。勿論、オスカーは本物の ピアニストですから弾いているし、その音がテレビのスピーカーからかすかに 聞こえてきます。でも日本初演・再演の「ピアノ 音が目立つ」という印象があるのと、それがオーディションっぽい、ってことで 私の好みの問題かもしれませんが、そういう演出のほうがしっくりいきます。

つまるところは「好みの問題」なんですけど、でもなぜピアニストでないの? 他の国の公演はどうなの?日本だけのことなのだとしたら、また三谷幸喜の ミュージカル「オケピ!」ネタだよね(笑)まぁ、とにかく、日本初演・再演と 印象が全然違うってことを素人の私が感じたってことは事実。あとこれは仕方ないことだけど、 ピアニストが弾かない場合、弾いてるように演技しないとイケナイと思うせいか、 肩の動きがわざとらしくなると思うのです、役者さんが演じるとなると。 いや、そういうよりは、「そういう動きとかしない のでは?」とか、、、つまり「伴奏をしている」というよりは、「リサイタルで エチュードを弾いている」と思えてしまうカンジになると思います。あと「その音は手の位置はもうちょっと右じゃないかなー」 みたいな。多分これは「今回のオスカーはピアニストじゃない」ってことがパンフ レット等からもわかっているから余計考えちゃったのかもしれないですね。

でも客席にいる私達観客はどの程度、要求していいのだろう?初演・再演のほうが 私にはリアルに感じた。リアルなものを観て聴いていた(と思っている)私、、、 今回はリアルなものを何故観せてはもらえなかったのかなぁ。東京公演以外は 縮小するの?そりゃアメリカだってナショナルツアーだと舞台セットとか色々 縮小してますよね。でもね、舞台セットじゃないんだよー、人間1人だよー。 その辺の感覚がね、素人の私にはわからないの。十分運べると思うけど(笑)。。。

あと非常に気になったところがあります。それは「コラージュ」(と呼ばれる らしい)の部分、ペギーが36時間で主役を演ずる為の歌・踊りを覚えないと いけない場面でのこと。時の流れが感じられるように、色々な曲・リズムが 入り交じる部分があります。この時、多分マイクの位置の問題なのか、音声の 問題なのか、混じっている音の中で42ND.STREETを担当している金管 楽器の音だけが、浮き出ていました。バランスが悪いと、正直耳触り。この部分を 聴いたとたん集中がきれるくらいのものでしたよ。初演・再演でそのようなことは ありませんでした。初演・再演のコラージュ、、、なんとなくオケとオスカーの ピアノのかけあいのようになってなかったっけ。。。今年金管が目立ったのは どうしてだろう。。。オケの位置?いや、やっぱりマイクの位置なんだろうなぁ。 でもマイクの位置でバランスが悪すぎになったのだとしたら、ミキサーさんに 頑張ってほしかったよなぁ。素人がドキッとする音って、、、よくないと思うよ。 あ、そういえばもう一つ気になったことが。。。幕があがる前の最初の台詞、 「おい!みたか!」の発音、いや、イントネーションがおかしかった。なんで あの録音のまま続けちゃったんだろう???

などと、一観客が偉そうなこと、、、と思うかもしれないけど、この作品は ミュージカルの基本中の基本、タップ満載のミュージカルコメディ!ということで、 残って欲しい作品だから、ついつい書いちゃった。最近、こういう作品が少ない でしょ?もしまた上演されるチャンスがあるなら、是非観たい。やはり、回を 重ねる度、タップがよくなってきてるのを素人目にも感じるからです。それに この作品は楽しいよ、観ていて。劇場に足を運ぶ一番の理由って、私の場合は やっぱり「楽しみたい」こと。楽しんで、夢をみて、明日への活力に繋げているの。

ところで名古屋の客席は、団体が多いですね。そしてみなさん真剣にストーリーを 追っている。だから台詞回しが早い展開の東京と比べると、今年の場合は、 マギーも穏やかな口調だったのですが、それがかえって観客にわかりやすいように思えました。 というのは、東京では錦織さんの一挙一動に反応する観客(私も含む・笑)が いるのに対し、みなさん台詞を追っていて、マギーやバートの面白い台詞にも 反応して笑っていたからです。かといって錦織さんが注目されてないのかといえば そういうことはなく、終演後に団体のおばさま達が寄ってきて、「ニッキのファン なの?私も好きよ(^^)」と話し掛けていくのです。(何故私にそう話し掛けて 来たのか・・・うーん、凄いファンに見えたのかな(笑)やっぱり最前列で 乗り出すように観てた上、地元の人間でない証である大荷物だったからなぁ。) また客席をあとにする団体の方々が口々に錦織さんを話題にあげてたのですから やはり注目はしてるんですよね。でもみなさん、観劇最中には、冷静にストーリーを 追っていたようです。

そういえば、他の部分はわかりませんが、ペギーを駅に説得に行って、「私・・・ やりますっ!!!」と言った後ですが、音楽が非常にゆっくりでしたね。振付が、胸の ところから両手を開く(これでわかる?)のが数回続くのですが、「タメ」が 大変じゃないかなーなんて思ってしまった。ゆっくりすぎると、かえって揃える のが大変じゃないですか?ただし、これは揃うと非常にきれいに客席ではみえる ものなんですけどね。でもちょっとゆっくりすぎたかなぁ。実は観ていて、 つんのめりそうだったのです、そこの部分。なんで客席でころびそうにならなきゃ いけないのかとお思いでしょうが(笑)

ところで今回は、ラストナンバー@ジュリアンの歌う「42ND.STREET」 が終わって、無音の中、カーテンコールがはじまる構成になっていました。実は ここで私も最初ビックリしたのですが、キャストが出てくるまで誰も拍手をしな かったんです。東京では多分こういうことはないので、みんな楽しんでいないのか 心配になってしまいました。(私が心配する必要はないんですけど^^;) ついつい心配した私はその日のソワレで拍手を促そうと一生懸命拍手をしたの ですが、誰もついてこず、私の拍手が寂しく響いていました。 でも客席では観客が口々に楽しかったということを言っていたので、その部分で 拍手が無かったというのは、名古屋的(?)には問題のないことだったんでしょうね。 それにその次の週に行った時は、私がはじめた拍手にみなさんついてきたし。 考えてみると、観劇中の客席の空気も動いていましたしね!観客の心が凍っているときの 客席の空気って、辛くなるほど動かないですからね。。。だからもし、第2幕 終了後からアンサンブルの方々が最初に出てくるまでの間が拍手がないために 心配していた関係者の方々がいらっしゃいましたら、ご安心ください。みなさん、 楽しんでいましたよ!

今回のレポートは、作品を観た人でないとわからないレポートで、ごめんなさい。