エンターテイメント大国の根っこを観た!


1992年6月某日。サンフランシスコで日本へ戻る前の会社の同僚2人を 見送った後、私はユタ州ソルトレークシティへ向かいました。ここからは 先を決めていない一人旅。空港に降り立ち、まずはCourtesy Phoneで宿泊先を 確保。いつものごとく、ベッドにダイビングした後、ボーッとしながら、 明日から何をしよう、、、と考えました。ユタ州の中の町を色々まわろうか、 それとも。。。。
「そうだ、イエローストーン国立公園に行こう!」
「あての無い一人旅なんだから、とりあえずゲートシティへ行こう!」と、 5つあるゲートシティの中のウエストイエローストーンという、夏の間の3ヶ月 しか飛行機の飛ばない町への航空券を予約しました。
翌日、飛行機はジャクソンというグランド・ティトン国立公園のゲートシティでもあり、 イエローストーン国立公園の南口でもある町を経由して、ウエストイエローストーンに 到着。な〜んといきなり雪が降ってきました。例によって空港(小屋みたいに 小さい建物があるだけなんだけど)で宿泊先を確保。迎えにきてもらい、町の 中心部へ行きました。途中もねぇ、そこの川でブラッド・ピットがフライフィッシング とかしてそうなウットリするような景色で、、、おっと、旅行記じゃありませんね。
ウエストイエローストーンの中心地。これがまた西部劇に出てきそうな町で、しかも 縦横数ブロックの町です。国立公園へ行く旅行客が宿泊するだけの、しかも夏の間だけの 小さな小さなそんな町に、、、「Playmill Theater」という 劇場があったんです!!何をやっているんだろう、と興味津々に劇場へ。その夏の 公演は3つで、曜日によって違いました。その中に「Guys & Dolls」があり、 その舞台は日本で観たことがあるのですが、色々な意味で観客としては消化不良 という感じだったので、もう一度確かめたくて、チケットを買いました。

そして観劇当日。開場とともに、中から劇場用のユニフォーム姿の男女が次々と チケットもぎをしては、客を客席に誘導していきます。私を誘導してくれたのは 日本に少しだけ滞在したことのある男性。覚えている日本語を話し掛けてくれながら 席に行くまでも楽しめるように、という配慮なのでしょうか。実際エスコートしてくれて 話してもらって、私はその時からすでに楽しかったです。どんな劇場かというと 舞台があり、3方が客席で囲まれていて、客席が一列ごと高くなっていく、という 舞台が一番低い位置にあるものでした。私はそのセンターブロックのど真ん中の 最前列。さて、客は次々と誘導されて席についていきます。私は開場直後に席に ついていますから、「開演まで時間があるなぁ。どうしよう」などと考えました。 でも、その時です。誘導している劇場スタッフのうちの一人がマイクを持ち、 出身地と名前を言ったかと思うと、歌い出しました。演奏はピアノ一台があるだけ。 そしてその間も、客は次々と座席に誘導されていきます。一人が歌い終わると、 また次ぎのスタッフが歌います。そうこうしているうち、全員が座席につきました。 すると、、、

「さぁ、ショーのはじまりだよ!」みたいな掛け声とともに、さっきまで客を 誘導していたスタッフが全員舞台の上に集まりました。彼等、劇場スタッフでなく 出演者だったんです。勿論小さな町の小さな劇場ですから、当然のことなのでしょう。 ショーが始まりました。でもミュージカルではなく歌のショーが始まったんです。 楽しい曲ばかりで、客も一緒に歌う曲も盛り込まれていました。そしていきなり
「今日は凄く遠いところから友達が観劇に来てくれました!
日本の東京から来たエポです!」
一人がそうアナウンスしたかと思うと、100名から150名くらいの観客に拍手される中、私は舞台に 引っ張られていきました。そして次の瞬間、出演者の男性全員が私の周りに 膝まずき、一人が私の右手、他の一人が左手をもちながら一方の手は胸におき、 そして他の男性出演者も全員私に手を差し伸べながら、歌を一曲歌ってくれたのです!!
チョ〜感動ものでした!!どれほど感動したかなんて、言葉では表せません。 本編のミュージカルが始まるまでも、こんなに楽しませてくれたのです。 加えて言えば、本編が始まる直前、「観劇するときにはこれが必要!」と叫んだかと 思ったら、急にみんながポップコーンとかジュースとかを持って売り子に変身。 すべてがショーアップされてました。

さて本編。小さな舞台ですし、出演者の人数もオリジナルのようにはいきません。 限られた人数です。セットチェンジも出演者がやります。客席の通路や客席通路後方の 柱も上手に利用しての「Guys & Dolls」です。演出面でも登場人物のキャラクターを 多少変えたりしてました。日本で観た時に観じた消化不良は一気に解消しました。 日本で観た時は、熟年カップルがとても面白く、日本流キャスティングによれば 若者カップルが主役なんだろうけど、全然光ってなく、休憩とかでもみんな口々に 「主役だれ?」って会話が飛び交うくらいだったのです。このアメリカの小さな町で やっと謎が解けました。4人が主役です。あとこんな田舎で公演されているからと いっても、皆さん歌が上手です。これがアメリカの底辺なんですね。この作品は コメディですので、とにかく楽しかった。ゲラゲラ笑って、客席も物凄く盛り上がり ました。時間はアッという間に過ぎ、大満足でした。でも舞台が終わっても これだけじゃ終わりませんでしたよ。劇場の外で全キャストが待ち受けていて 一人一人、声を掛けて、送り出してくれたんですから!
ちなみにこの舞台は 8ドルで観劇したんですよ。たった8ドルで一生忘れられないくらいの思い出を 私に与えてくれたんです!ミュージカルってそれ自体、夢を与えてくれるものですが、 この経験は本当に貴重で、本編だけでなく、劇場の入り口でチケットを渡した 瞬間から劇場を出てキャストに見送られるまで、ずっと夢見心地でした。これが あのエンターテイメント大国を支えている底辺なんですよね。素晴らしい!!

数日間のウエストイエローストーン滞在ののち、グレイハウンドバスを乗り継ぎ、 ニューヨークへ行き、ブロードウェイで「Guys & Dolls」を観たことはいうまでも ありません。そして勿論、来日公演も観ました。来日公演では、まず最初に 最前列で観て、集中して観劇、次ぎに中日あたりに中2階の最前列ど真ん中で 観劇して、全体を観て、最後にまた最前列ど真ん中で観て、マイクを通さないで きこえてくる歌声に感動、、、と心ゆくまで楽しむことができました。