2002.10.11 ペーパーレス研究の夢 (1)

数年前のことになるが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のロースクールを訪問し、Kenneth Karst教授(現在は名誉教授)のクラスに出席させていただいたことがある。Windows98がリリースされてしばらくたった頃のことである。
そのときに見聞して驚いたのは、ほとんどの学生が教室に自分のノートパソコンを持参し、ノートを取る代わりにパソコンを使って講義ノートを作っていたことであった。黄色いリーガル・パットや螺旋綴じのスパイラル・ノートに筆記していた学生は少数だった。ロースクールの学生といえば分厚いケースブックを何冊もかかえて大学に通うというイメージがあったが、それにノートパソコン(とACアダプター)が加わっていたわけである
これは蛇足になるが、ケースブックやノートパソコン等を入れるカバンについても、ナップザックではなく車輪と引き手のついた小型のスーツケースを使っている学生をみかけた。これも初めてみる光景であった。
Karst先生はアメリカを代表する憲法学者の一人であり、Smiley夫人と共に生粋の「カリフォルニアっ子」でいらっしゃるが、「リベラリストの知識人」という姿を体現しておられる感じがする。先生の人柄を慕う学生が多いので、講義の受講者も多い。このため、教室は日本の大学でもよく見かける大教室であったが、学生ひとりひとりのスペースにコンセントが用意され、ACアダプターを接続できるようになっていた。教室によっては、10BASE-TRJ-45ポートも用意されているとのことであった。

その後、日本の大学教育の現場におけるコンピュータの導入は飛躍的にすすんだ。上記のような状況は、今となっては日本でも格別にめずらしいものではなくなっている。筆者が担当している講義でも、自分のノートパソコンで講義のノートを取っている学生を時々みかける。
大学によっては、802.11a(Wi-Fi5)規格によるワイヤレス・ネットワーク(無線LAN)の導入もはじまっている。大学が特定のコンピュータ・ルームに大量のコンピュータを設置して管理するよりも、自分のノートパソコンを学生に持参してもらい好きなところでそれが使えるようにするほうが、大学・学生の双方にとって至便なのは自明の理であるから、これからはこのうごきが加速されていくことだろう。
大学によっては、新入生にパソコンを支給したり(もちろん、その分の費用は入学金に含まれているわけであるが)、パソコンの購入を推奨したりしている場合もある。
日本の大学、特に人文・社会科学系のコンピュータ環境は、アメリカにおけるそれよりも大分遅れていると感じてきたが、この数年、大学によってはかなりその差は縮まりつつあるようだ。

<つづく>

 

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