兵士の物語


篠井英介で始まり篠井英介で終わった「兵士の物語」だと言う印象だった。
いっこく堂の声の2役も聞かせるし、役者としての魅力も感じる。
また、笠松率いるオーケストラの奏でる「ストラヴィンスキー」の曲を聞かせてくれるし、
クラシックバレエは、十分に見せてくれる。

でも、魅了させてくれたのは篠井英介だった。
篠井英介のオーラがオープニングから舞台を支配する。
篠井がオープニングで「『しのい』と書いて『ささい』と読みます。
覚えてかえって下さいね。」と笑いを取る。
携帯の着信音の客側への注意とともに、
オーケストラと役者の繋がりの暖かさを感じさせてくれるイントロがある。

狂言回しが時として、一番の印象に残る時がある。
今回は、ナレター、役者、狂言回し、いろんな役の篠井英介が全てを支配したように感じた。

「兵士の物語」が大人の童話なのか、寓話なのかわからないが、
はっきりとわかるのは、人間の持つ深い欲望が芝居の中に如実に表れていることである。

いっこく堂の兵士は休暇を故郷で過ごそうと故郷への道を歩いている。
そこへ篠井の老人に扮した悪魔がやってくる。
何でも先のことがわかる本と兵士のバイオリンを取り替えさせようとする悪魔。
いっこく堂が声で2者を使い分ける魅力のある場面でもある。

取り替えに成功した悪魔は兵士を家に3日間招待する。
しかし、3日の滞在が、実は日常では3年の滞在で、結果、兵士は日常を失う。
故郷は全て以前とは変貌を遂げていることを兵士は発見するのだった。

決して、旧約聖書に書かれている、放蕩息子を喜んで迎える父や
奴隷に売られていたヨセフが生きていたことを喜ぶ父の姿はない。
「死んだと思っていた息子が帰ってきたのです」と喜ぶその聖書における父の姿はないのだ。

それが、非日常から日常に帰ってきた兵士の現実なのだ。
故郷をあとにした兵士は金持ちになる。が、むなしい金持ちである。

暗転・・

金持ちになった兵士は、ある国のお姫様の病を癒したら、
お姫様と結婚できると言う話を聞き、悪魔からバイオリンを取り返そうとする。

悪魔からまんまと取り替えしたバイオリンを弾き、お姫様に取りついた悪霊を追い出そうとする。
その病を示す悪霊と姫との姿をクラシックバレエであらわしている。

かつて、聖書の時代、悪霊にとりつかれているゆえに病になると信じられていた。
その悪霊を追い出すと病は癒えると信じられていた。
悪霊と姫がデュエットを踊りつつ、バイオリンの力で悪霊は姫から離れていく。
そして、姫は癒される。
そのクラシックバレエの場面は美しかった。

勝利した兵士は、姫と結婚する。
しかし、幸せになった生活の中で、故郷を思い出す兵士。
今の兵士ならば、故郷は迎えてくれるだろうと、姫を連れて故郷へ帰る。

しかし、故郷に一歩入った時、兵士はまた、悪魔に捕らえられる。
今のあるがままを受け入れない、今を受容する思いを持てない、人のエゴの固まりが悪魔を導く。
兵士のエゴは永劫に続き、その煉獄をさ迷う悪魔の虜になっていく。
そして、姫も悪霊に捕らえられ、過去の状態へと帰ることになる。

音楽とバレエとナレーションと芝居と・・・幅のある楽しい舞台である。
もう一度見たいと言う思いに囚われる。
危ない・・危ない・・「兵士の物語」に囚われてしまいそうである。

2001年1月30日
出演
篠井 英介
作曲
ストラヴィンスキー
パルコ劇場

いっこく堂
原作
アファナシェフ



演出
山田 和也