Trekking Reports 〜山歩きの記録

2001.06.25(月) 梅雨の尾瀬 〜霧の燧ヶ岳と広大な尾瀬ヶ原【燧ヶ岳 尾瀬】

熊沢田代から燧ヶ岳を望む(168K)
尾瀬御池ロッジは完全予約制。1人での利用でも個室を用意してくれるので、
山小屋というより観光ホテルといった感じ。さらに宿泊客も少なく、
大浴場はまさに貸し切り状態。しとしとと雨が降る新緑の森を眺めながら、
ゆっくりとした贅沢な時間を過ごした。
ただ、内心は「明日は雨が止んでくれ!」という祈るような気持ちで、
あまり心穏やかとはいかなかったが。
そして翌朝、昨晩あれだけ降っていた雨もぴたりと止み、晴れているわけではないが
薄日が射すほどには回復していた。

「よっしゃあ!」思わずガッツポーズを取りながら、慌ててチェックアウト(というのか?)し、
頼んでおいたお弁当を受け取って、とりあえず車のところへ。
そして、身支度を整え燧ヶ岳登山口のある有料駐車場の奥へと向かって歩き始めた。

駐車場の奥に行くと、そこには昨日何度か目にした交通量調査のゲートが設置されており、
そこを下るとやはり木道が奥へと続いている。
木道上をすこし歩くと分岐となる。
このまま木道を真っ直ぐ進むと三条の滝へとたどり着くが、燧ヶ岳方面へのルートには木道がない。
前夜の雨のせいかかなりぬかるんだ道に靴を浸けるのは、前日からの木道に慣らされた身には
多少の踏ん切りが必要だったが、靴が汚れるのを気にしてたら山歩きなんてできるわけがない。
意を決して、泥濘でグチャグチャ状態の登山道に向けて一歩を踏み出した。

朝が早いせいもあるだろうが、このあたりは雑木が生い茂りかなり薄暗い。
足元はあいかわらず悪く、道は狭い上、岩や木の根が邪魔をし、
お世辞にも快適な登山道とは言えない。
木道が張りめくらされた尾瀬のイメージとのギャップに愕然となりながらも、
燧ヶ岳まで木道と階段で整備されてしまうよりましかと思い直し、
靴の色が変わり、ズボンの裾が汚れていく様をあまり考えないようにして、黙々と歩き続けた。

と、先の方で人の話し声が聞こえたかと思うと、4、5人の中高年のグループが休憩していた。
私より先に出発した人がいたんだなぁと思いながら、足元悪いですねと声をかけて通り過ぎた。
そして、さらに泥濘やごつごつした岩と格闘していると、やがて木道が現れ、
途端に明るくなり正面が開けた。どうやら最初の湿原「広沢田代」に到着したようだ。

昨日歩いた尾瀬沼周辺の湿原に比べるべくもない小さな湿原だが、
こんな山の上に湿原があるなんて、分かってはいたものの驚きである。
また、苦労してここまで辿り着いたという調味料もあって、大江湿原よりも素晴らしく感じる。
花はほとんど終わりかけではあるが、ミズバショウの白にイワカガミにチングルマが
赤と黄色のコントラストを添え、なかなかのもの。
それに多くの花をつけたレンゲツツジがアクセントをくわえていた。

広沢田代の木道を終点まで進むと、またもや泥濘と岩と木の根の登山道。
ただ、広沢田代からは次の熊沢田代のある台地上のピークが見えていたし、
先ほどの素晴らしい湿原の光景を楽しむことができたおかげで、それほど気にならない。
また、この途中で雑木が開けたところがあり、そこからは先ほどの広沢田代が見下ろせ、
その奥にはガスがかかった会津駒ヶ岳の雄姿を眺めることができた。

そして、前回と同様木道の出現とほぼ同時に熊沢田代に到着。
ここは広沢田代よりもかなり広く、また中央の2つの池がアクセントになってさらに素晴らしい。
そして何よりこの湿原の奥には雪渓が残る燧ヶ岳がどっしりと見下ろしていた。
ただ、山頂付近はガスがかかっており画竜点睛を欠くといったところか。
雨が降っていないだけでも非常にありがたいのだが、残念に思うのは仕方がない。

熊沢田代から上は低木が多くなり明るい道となるが、やがてガスの中に突入する。
あるていど登ったところから、雪渓を横断しながら東側へと巻いていく。
そして、何度目かの雪渓を横断した後、最後に大きな雪渓を登っていくことになる。
かなりの急斜面で、こけたら下まで止まらないかもしれないが、
周囲はガスでうすぼんやりと隠されているおかげで、意外に恐怖を感じない。
ただ、ここをアイゼン無しで下るのは願い下げに感じた。
そして、雪渓を100m程直登した後、ルートは左へとそれてホッと一息。
その後、ササやマツの斜面をなだらかに登っていくと、ガスの向こうにうっすらと岩場が見え、
その岩をよじ登ると燧ヶ岳の三角点ピーク、爼(まないたぐら)に到着した。

雪渓から背後を振り返る(左奥が熊沢田代)
山頂には誰もおらずどうやら本日の最先着だったようだ。
霧はかなり濃く、周囲の展望はおろか山頂周辺の岩場がようやく見渡せるのみ。
霧の中の誰もいない山頂というのも、なかなか味があるような気もしないではないが、
見えたはずの尾瀬沼や尾瀬ヶ原の大パノラマを思うと、悔しくて涙が出る思いだ。(大袈裟)

さてどうしたものかと、真っ白な空を恨めしげに見つめていると、
柴安(しばやすぐら)側から人影が現れた。
福島から来られた尾瀬常連の方で、尾瀬好きが高じて尾瀬山荘で働いたこともあるという。
そこで四季折々の尾瀬の話や、見えたはずの展望、それに、これから私が向かう
見晴へのルートの状況やチェックしたい花などいろいろな話を伺い、悔しさも多少紛れた頃、
私と同じ御池側から単独の男性が登られてきた。
このとき気にかかっていた、途中で追い抜いた4、5人の中高年グループのことを尋ねると、
追い抜いたのは単独の中年男性だけとのこと。
そんなはずはないと、さらに話を聞くと、下山中の数人のグループとすれ違ったという。
どうやら、あまりに道が険しいか、山頂へ行っても展望が期待できないことに失望したかで、
男性1人を残して下山してしまったのだろうということで、意見が一致した。

ガスに包まれ展望ゼロの山頂
しばらく3人で尾瀬談義で盛り上がった後、最初の男性は御池へと下山し、
私ともう1人の男性は燧ヶ岳最高峰の柴安狽ヨ向かって出発した。
真っ白な中、こっちで合ってるのかなぁとかいいながら急坂を鞍部へと下ると、
鞍部からの登り返しにかなりの残雪が残っていた。
先ほどの雪渓ほどの斜度はないものの、こちらはかなり凍結していたので、
さらに慎重に雪面を蹴飛ばして足場を作りながら登っていく。
そして残雪の斜面を登りきると岩場が現れ、人の話し声が聞こえてきた。
声のする方に岩をよじ登りながら進んでいくと、やがて柴安狽ノ到着。
声の主は熟年夫婦2人組。この方々は見晴から登られて、尾瀬沼経由で沼山峠に下りるという。
見晴からのルートを尋ねると、あまりお気に召さなかったようで、
道標のない森で川の中を歩かされたとか、ガレた急斜面ではガスで展望がなかったとか、
いろいろと愚痴を聞かされたが、それでも山頂までやってきたことに満足げな表情だ。
ここでも4人でわいわいと歓談した後、熟年夫婦と単独男性の3人は沼山峠へと下山し、
そして、私は唯一人見晴の方へと下山を開始した。

見晴へ向かう道は、まず岩がゴロゴロした急坂。
ガスの中では展望もなくあまり楽しいコースの中で、岩の隙間に咲くイワカガミが映える。
急坂は思ったより長く、温泉小屋道分岐を見過ごしたかと不安になってきた頃ようやく到着。
このあたりでガスも薄くなり、眼下にはうっすらと尾瀬ヶ原の広大な展望が現れた。
また、これから向かう見晴の山小屋も見えているが、その手前には広い森が広がっており、
まだまだかなりの距離がありそうだ。

広大な尾瀬ヶ原を俯瞰する
そしてあいかわらずの大きな岩がゴロゴロした急坂を下っているとき、
なんとなく嫌な予感がして山頂方面を振り返ると、予感が的中したのを知った。
すなわち、ガスが晴れて山頂がハッキリと見えるようになっていたのだ。
まだ下り始めて30分ほど。登り返そうかというものすごく強い誘惑を感じたが、
今日はかなりのロングコース。もし登り返すと見晴をまわる時間は無くなり、
長英新道から沼山峠へと下山することになるだろう。
せっかく尾瀬にきたのに尾瀬ヶ原に行かずに帰るのはあまりにも無念。
悩んだ末に、尾瀬が「また来いよ」と言っているのだろうと無理矢理解釈し、
山頂を振り返らないようにして、再度見晴に向けて歩き始めた。

岩場から樹林帯に入っても急坂は変わらない。
かなり雑木が生い茂りジメジメした森だが、登ってきた道のようにぬかるんではいないのは、
上に湿原がないからだろう。しかし薄暗さは相変わらず。
まるで熱帯雨林にさまよいこんだような錯覚に捕らわれながら、(熱帯雨林に行ったことはないが)
残雪を踏み抜いたり、川の中を歩いたりしていると、道端にピンク色の可憐な花を見つけて、
(尋ね花の左側)しばらく撮影モード。ちょっと気が紛れたので、再度気を取り直して歩き始める。
やがて道はだんだんとなだらかになり、道なのか川なのかわからない所を歩いていると、
なつかしの木道が現れ、すぐに沼尻方面との分岐に到着した。

コミヤマカタバミ(左)とタテヤマリンドウ(右)
とたんに周囲は道標や案内板や注意書きで溢れはじめ、10分足らずで見晴に到着。
予定ではここでランチタイムにするつもりだったが、疲れきって食欲がなかったのと、
「氷」と書かれたのぼり?に心を奪われてしまい、かき氷を注文。ここで一息つくことにした。

かき氷を食べてしばらく休憩していると、今までかろうじて保っていた雨がついに降ってきた。
とは言っても小雨程度。ザックから傘を取り出しながら、山で降られなくてよかったぁと、
山頂でガスられたことなどすっかり忘れて自分の運の良さに感謝した。

傘を差したままで見晴を出発。温泉小屋に向けて尾瀬ヶ原の端を通る木道を歩いていく。
小雨はすぐに止み、天気はどんどん回復。こんどは青空まで見えてきた。
このあたりはミツガシワが多く、派手な花ではないがなかなかかわいらしい。
そして、東には先ほど登った燧ヶ岳、西には美しい三角錐の姿を見せる至仏山が
互いに覇を競っているかのようだ。
また、休日はすごい人出であろうこのルートも梅雨の平日とあって人出はまばら。
広大な尾瀬ヶ原に自分一人だけがいるような錯覚さえ憶えるほどだ。

やがて尾瀬ヶ原から離れ、周囲に雑木が増えてくるとやがて温泉小屋に到着。
さすがにお腹が減ってきたので、ここでランチタイムにしようと元湯山荘の食堂に入った。
頼んだのは山菜うどん。昨日の山菜そばといい山菜ばかりだが、
メニューの中で山らしいものといったらこれしかないのでしょうがない。
それに疲れた体には山菜のしょっぱさが、けっこう心地よい。

元湯山荘からしばらくで三条ノ滝方面への分岐が現れる。
当初の予定では三条ノ滝に向かうつもりだったが、この段階では疲労もピークに達し、
とても寄り道する気になれず、ほとんど迷うことなく段吉新道へと歩を進めた。

段吉新道から燧裏林道にかけてはブナなどの雑木林の中を進む。
あいかわらず木道が設置されているが、想像していたよりアップダウンが多い。
その上雨は降ったり止んだりで、濡れた木道は滑りやすく気を使った歩きを強いられ、
思っていたよりずっとハードなコースだった。

渋沢でりっぱな吊り橋を渡り、(鉄砲水が出やすいために設置されたらしい)
さらに細かいアップダウンを繰り返すうちに、突然視界が開けた。
どうやらおひさしぶりの湿原に到着したようだ。

広さは尾瀬ヶ原には比べるべくもないが、やや高いところにあるためかミズバショウも多く残り、
雑木に囲まれた緑の平原は自然のゴルフ場のようで、尾瀬ヶ原とは違った箱庭的な美しさがある。
そしてここからはこのような小さな湿原が次々と現れ、
代わり映えのしない暗い雑木林の歩きとは正反対の明るく楽しい散歩道となった。

燧ヶ岳の北側山麓に点在する小さな湿原(上田代)
ただし、雨足は少しずつ強まり、小雨とは呼べなくなってきている中、いくつもの湿原を通りすぎ、
このあたりで最大の上田代を通り過ぎて、さらに小さな湿原の中を歩いていくと、
やがて見覚えのある分岐に到着した。今朝通過した燧ヶ岳登山口である。

そして数分で御池の駐車場に到着。すでに雨は土砂降りとなっていた。

この2日間で福島側の尾瀬のほとんどを歩くという欲張りなコースで尾瀬を堪能してきたわけだが、
ミズバショウはほとんど終わり、燧ヶ岳からの展望を楽しめない、三条ノ滝はパスすると、
なんとなく重要なポイントをすっかり逃してしまったようで、悔いの残る尾瀬行となってしまった。
それでも尾瀬沼や湿原に降る雨には独特の情緒があり、それだけでも十分満足のいくものだった。
今度は秋の紅葉のシーズンに再度平日に休暇を取って訪れたいものである。


【コースタイム】
尾瀬御池 5:30…広沢田代 6:25…熊沢田代 7:10-7:15…爼 8:30-8:45…
柴安 9:00-9:35…見晴 12:00-12:20…元湯山荘 12:45-13:10…
天神田代 14:30…上田代 15:00…尾瀬御池 15:30
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