第165皿 昔キャバクラ、今シネマ。六本木『香妃園』

思い立ったことがあって、久しぶりに出てきた六本木。なんとアマンドは閉店(建て替えのため)してるし、ゴトウ花店は姿をくらましてるし、巨大なドンキだけが光を放っている。今は昔、平日の夜中に会社を出て、フリョウガイジンを掻き分け掻き分け、旧防衛庁そばあたりのキャバクラでガンガン飲み、朦朧として朝方帰宅、そのまま子供を幼稚園に送って行く・・・なんてことを平気でしていたあの頃の賑わいはどこへ行ったのか。あ、そうか、週末だから余計に空いているわけね。

さて、交差点からふた筋くらい入ったところに、シブイ、といえば聞こえはよいが、マイナー路線一直線の小さな映画館があって、その日はそのコヤで、昨年秋に封切られたけど見逃していた邦画を見たのでした。帰りにハラが減ったけど、クルマで出てきちゃったから、飲まなきゃ食べられないようなところに行くわけにいかない。そこで思い出したのが、『香妃園』の鳥煮込みそば。中華風煮込みうどん、ともいうべきこの鍋の麺、昔六本木通り沿いにあった時から、飲んだあとなんかによく食しておりました。映画館のすぐそば、瀬里奈の横に引っ越してずいぶんになりますが、この日も、人通りの少ない街路とは打って変わった賑わいが、店内には健在。この鳥煮込みそば、見かけの割にはあっさりしているんだけど、ものすごくあったまる。大人数で来たときは、人数より少なめに頼んで、その分はザーサイや点心で補って、なんてしつつワイワイと紹興酒飲んだりしたなあ。俳優座が近いせいか、演劇関係者や映画関係者が多かった記憶があります。今回はカニたっぷりのチャーハンと注文し、シェアしました。久し振りだったけど、伝統の味も、やはり健在。ついでに愛想が悪いのも、健在(笑)。でも、勘定思いっきり間違えて安くなってたから許してやるぞヨ。

ちいさな映画館では、同時にやっていた銀座のクラブを舞台にした映画の試写会か、初回上映だかに、コワッという顔の例の俳優さんや、着物のお姉サマ方もいらしてました。案外彼らも帰りに寄ったりしていたかも。「六本木族」という言葉が懐かしく心に蘇ってきた、一夕でありました。

つゆだけでもいくらでも行けちゃう、鳥煮込みそば。1200円。

こっちが先に出てきて、けっこうおなかに溜まっちゃったカニチャーハン。カニたっぷりで、ホントは、1600円。
「ホントは」の意味は、本文参照あれ。


●行き方:六本木交差点の東南側の裏手、瀬里奈ビレッジビル2F
●電話:03−3405−9011
●営業時間:月〜土 11:45〜翌4:00(3:20LO)日曜:17:00〜24:00 無休。
 恐怖の長時間営業ですね。家賃が高いんだろうな・・・。
 平日は超リーズナブルなランチタイムも。
●予算:この位置としては安いでしょう。
●独断の星:今度は「夜中の鳥煮込みそば」がフラッシュバックしそう・・・。★★














第164皿 鳥よ、鳥よ、鳥たちよ。渋谷道玄坂『鳥清』

渋谷道玄坂にほど近いある店に通う、オジサン4人がいました。「とり□□」と名乗っていながら入口に「焼鳥はありません」なんて書いて貼ってある奇妙なその店(この店のことはいずれ別に書きます)で、たまたま出会い、ゴルフまで一緒に行くようになってしまったオジサンたち、そのゴルフの反省会を、忘年会の合間を縫ってやろうということになりました。そこで、たまにはホントにちゃんとした焼鳥がある店でじっくり飲もうと、数百メートル遠征したのがこの『鳥清』。

例によりお世辞にもキレイとは言えない時が止まったような店内ですが、やっているのは思いのほか若くてキレイな(失礼)女性。親御さんがやっていた店を決意して継いだとか。
この店、「女性一人でも入れるなんてネットに紹介されているが絶対そんなことはない」とネットで紹介されている(笑)。なぜなら、そのロケーションが、あまりにスゴイから。道玄坂を上がってその名の信号を右に曲がると、まず目に付く『道頓堀劇場』。最近サービス精神過剰で、久々に逮捕者を出しましたね。あたりは、ご休憩できるらしいところが軒を並べる。この辺を歩くヒトビトはよほど疲れてるのね。ちょっと「おいしい焼鳥屋があってね」と(純粋に)女性を連れて行く雰囲気ではなかなかありませんなあ。

さて、肝心の焼鳥ですが、7本で1000円というお手頃価格の盛り合わせも魅力的ですが、今回はあえてバラで、つくねとひな鳥からスタート。ウム、なかなかのレベルです。一本一本手をかけて作って、丁寧に焼いているのが伝わってきます。ボリュームもしっかり。タレも濃い目の味でおいしいし、塩でもウマイ。焼鳥以外のプチメニューが豊富なのも、特徴です。こういうの、通うのが楽しみになるんだよね。
今年2008年もいっぱい焼鳥屋行ったなあ。いままで千軒近く行ってるんだ、と最近気づきました。ほかに書きたい焼鳥屋は、両国のあそことか、旗の台のあそことか、いろいろあるのですが、それはいずれまた。ということで来年もまた、杉田かおるの佳曲『鳥の詩』の一節のごとく「鳥よ、鳥よ、鳥たちよ」の一年になることを予期しつつ、皆様よいお年を。


このなんともなさがいいんですねえ。ちょっと焦げててもいい感じ。


●行き方:文中の信号からローソンの前を左折、二本目を右折の左側。
●営業時間:17:00〜24:00 土日祝休
●電話:03−3464−6574
●予算:けっこう飲んでも3000円くらいと、場所の割には安い。
●独断の星:だれか一緒に行ってくれないかなあ。オジサン以外で。★★











第163皿 君を失うことがどんなことか、僕にはわからなかった。大井町『大山』

もう、何か月逢っていないだろう。あのころは毎日のように逢っていたのに。仕事が変わって時間がとれなくなった、なんていうのは言い訳だ。要はなんとなく億劫、というか、面倒になってしまったんだ。その気になれば、いつでも逢うことはできたはずなのだから。前には、君に逢わない日々というものがどういうものか、まるで想像がついていなかった。
そんなことは耐えられないだろうな、と思っていた。それが、逢わないなら逢わないでいられるんだ、とわかった。いや、逢わないことが、あっという間に普通になってしまった。そして、平気だった。そんな自分を驚きの目で見ている、もう一人の自分がいた。
ある日、ふと思い立って、君に逢いに出かけた。いつもと違う電車に、以前は毎日乗っていた線に乗って、降りた駅。あのころと同じ喧騒と煌びやかな光が、夜の香りを揺らしている。君はいまでも僕を待っていてくれるだろうか。
そして、僕は、そっと君の名を呼んだ。
「揚げタコマヨ抜き・・・」

正式メニュー名は、揚げタコ焼きです。それをデフォルトでついているマヨネーズを抜きにしてもらって食べる。決してマヨネーズが嫌いなわけじゃないんだけど、これだけは「抜き」のほうが、ちょっと甘めのお好みソーズの味が引き出されてウマいと思う。いつもそうして頼むので、すっかり覚えられ、揚げタコマヨ抜きのヒト、と呼ばれているような気がする。

この店、かつてよく家路の途中で寄った大井町の中でも、かなりキレイじゃない部類にはいるんだけれども、一方でかなり人気店の部類にも入る。どーんと伸びたカウンターの奥には、昭和30年代の大井町駅前の、恐らくは航空写真(もちろんモノクロ)があったりして、フンイキ出してます。
最大の名物は、煮込みです。久しぶりに来たんだもん、この際健康診断が迫っていることなどは忘れ、迷わずオーダー。そうしていると、実は本当に逢いたかった、ママさんが姿を現しました。ほかの、私より年上の文字とおりお姉さんたちよりも、ひときわ人生の長さを感じさせ、そしてひときわ可愛いママさん。すっかり腰は曲がってしまったけど、最近までボウリングで、200近く出していた、とういうのだから恐れ入る。
ダメだ、逢ってしまったら、やっぱりダメだ。また君に逢いに通う日々がフラッシュバックしちゃうな。そんな体の奥の本能的な感覚を、盛りきりの熱燗の酔いがゆっくりと包んでいきました。


これが、「揚げタコマヨ抜き」。たしか300円。

名物、煮込み。見た目よりトロトロです。ひとり一杯限り。


●行き方:東急大井町線・JR京浜東北線・りんかい線大井町駅東口出て右へ。飲み屋街の入り口近くに赤い看板。
●電話:不明。何十回以上通ったけど、電話が鳴ったのを見たことない。
●営業時間:夕方から、終わるのは早い。10時過ぎにはラストオーダー。お姉さんたちが早寝早起きなんだろうな。
●予算:ほぼ千ベロの類。
●独断の星:ここのために取っておいた、★★★











第162皿 地球の裏まで食い尽くせ。表参道『バルバッコアグリル』

今年の春、遅ればせながら見た映画、『バベル』。日本では菊池凛子の○○ヌードばかりが話題になったけど、それはごく一部分。メキシコと中東某国と日本。三つのロケーションで同時に進むストーリーが、ひとつの家族の「事情」に収斂してくるという展開は、ちょっと都合よすぎるというキライもあったけど、結構面白かった。その中で印象に残ったのが、事件の「原因」とも言える、メキシコでの、ウェディングパーティシーンかな(見てない方もいるでしょうから、これ以上言いません)。飲み且つ焼き且つ食う且つ踊るが延々続く。ちょいとしたカルナヴァル(謝肉祭)ですね。

それを思い出したのが、はじめて、シュラスコ料理というものを食した晩。シュラスコといえば、南米系の串焼肉、というくらいの理解しかなかったのですが、なるほど、本格的というのはこういうことかということを味わったのは、サンパウロに本店があるという『バルバッコアグリル』東京店。表参道のヒルズやアニヴェルセルの喧騒から一歩入った路地の奥、店の入り口をくぐるとそこはなるほど、カルナヴァルのような賑やかな空間でした。まだ夕方、というべき早い時刻なのですが、周りは農場主に戻ったランディ・バースのようなヒゲ面・樽型ボディのおっさんやオバサンやおネエさんでいっぱい。がガンガン飲み且つ食っている。まずは、サラダバーでどーんと取ってきて、飲み物を注文。ここは、ビールというより、やはり南米のワインですな。

そして、かのパーティのような飲み焼き且つ食う、が始まったら最後、果てしなく続く。シュラスコはそもそも、ここの店だけではなく“all you can eat”つまり食べ放題が特徴らしく、ちょっとシステムが日本の串揚げに似ています。スタートしてからは、かわるがわる現れるギャルソン(なぜかフランス語なのね)が持ってきてくれる、あたかも剣の先が指す地球の裏側、ブラジルまで届けと言わんばかりに刺して焼いた、牛・豚その他の肉を食えるところまで食うわけです。そのスタートの合図が、テーブルに置かれた札を緑色の面に裏返す、というのも本場風なんだそうで。まあ、この肉が来るわ来るわ。その量に圧倒されながら、たまには屋内のBBQもいいものだ、と思った晩でした。でも、あ、そうすると映画のごとく大事件がおきちゃったりして。コワッ。



サラダ取り放題で、ドーン。

剣はペンより強し。これは豚肉だったかな。


●行き方:表参道交差点近く 伊藤病院の角路地の左側、表参道スクエアビルのB1。近くでバース風のオジサン見かけたら、たぶんくっついて行けばOK、なんちゃって。
●電話:03−3796−0571
●営業時間:ランチ 11:30〜15:00(月〜金。LO 14:30 土日祝は一時間延長)
       ディナー 17:30〜23:00(月〜土。LO 22:30 土日は一時間短縮)
●予算:この日はワインなど飲み放題で7500円。
●独断の星:食もBRICSの時代?★★












第161皿 ここに泉あり。広島・流川『小さな幸せ』

「さまよう街の夕暮れに 泉は深く水をたたえて〜」なぜかその歌詞を頭に思い浮かべながら、さまよい歩いていたのは、夕暮れをとうに過ぎた宵の広島最大の繁華街、流川。出張での用件もオフィシャルな会食も終わり、お疲れでしょうから、なんて感じで解放されちゃってホテルに戻ってシャワーを浴びたものの、寝るには早い。本を読んでみてもなんだか集中できない。要は飲み足りないのですね。

意を決して再びシャツとズボンを身に付け、ネオンの呼ぶほうへ。東京で言えば銀座と六本木と新宿が一緒になったようなこの街に、夜はこれから、という濃密な空気が立ち込める。うむうむ、エトランジェな街の夜間散歩こそ、旅の楽しみであるぞ。「無料案内所」の類が増えても健在な客引きのオニイさんの誘いを振り切り、探したのは気持ちよさそうなショットバーであります。

ところで、冒頭の歌詞なのですが、アラフォー以上の方はご存知でしょうが、ブルーコメッツの『マリアの泉』です。バーは泉なり。それも命の水(Eau de Vie)を出す、ね。ちなみにこのころのグループサウンズの歌詞には、やたらに泉や湖や城が出てきます。それを白い裾の詰まったパンツをはいた王子様風のボーカルが甘い声で歌う。メタボ寸前の赤ら顔の出張オヤジとはエライ違いです。

さて、幾筋かをブラブラしたあとで、ああ、こういう店を探してたんだ、と確信できたのが、この店。『小さな幸せ』とちょっと変わった店名、ドア脇の窓からのぞいて見ると、実にしっとりとしたいい感じのバーカウンターが奥に向かって伸びているではありませぬか。入ってみると、看板のイラストはこの方を漫画っぽくしたのね、という感じのいいおネエさんと、ヒゲ付反町風のちょいとイケメンのおニイさんのバーテンダーが二人。まずはビールを飲みつつ、軽い話をしているうちにほかの客さんが入れ替わり、コチトラはすっかり落ち着いてしまった。飲み進んだのは、「お約束のバーボン、ロックグラスでちょいソーダ」。この酒自体は日本全国どこに行っても同じわけで、どれだけいい気分で飲ませてくれるかなんだけど、それもgoodとして、特筆すべきは、軽い気持ちで頼んだミックスナッツでした。いろんなバーに行ったけど、こんなに丁寧に気合の入ったミックスナッツは食べたことがない。カンからざらざらっと無造作に盛るミックスナッツもいいけれど、これは、自慢していいと思う。「小さな」なんて、ご謙遜を、なかなかの幸せでしたよ。すっかり満足して、ホテルに帰りました。(ウソ、ホントは勢いがついて次の泉に水汲みに行っちゃったんだけど。当然ながらこれほどいい泉はありませんでした)



見るだけでも楽しいミックスナッツ。左上(赤い実)から時計回りに、
@クコの実 Aジャイアントコーン B向日葵の種 Cカシューナッツ D黒大豆 Eクルミ


いい感じの看板ですよ。


●行き方:何しろさまよっていましたのでね、説明できません。
住所は、広島市中区流川町5-14 中山第7ビル1F
●営業時間:17:00〜27:00(日・祝24:00)定休日は月初の連続する日・月だそうです。
●電話(すべてはこれで聞いてね):082-247-5779
●予算:広島と考えると、特に安くはないかな。でもキモチいいからOK。この日払ったのは5000円。
●独断の星:広島に行く楽しみが、「4階でも八戒」以外にも増えました。★★













第160皿 燃えよドラゴン、赤々と。赤坂『龍之紅河』

赤坂に仕事場が引っ越して、ひと月あまり。昼も夜も「胃袋がいくつあっても足りない」状態が続いています。その中で、何回かリピートしているのがこの店。CHINESE DINERと冠する雰囲気と味が好きなのね。第61皿でもグアムの『紅龍飯店』のことを書きましたが、ここにもいたか、レッドドラゴン!中国で言う「四龍」の中でも、「紅龍」は火や火山を表す存在。紅い=辛いに通じるのか、中華の店には、世界中でその名前がつけられているようで。この店でも、名物が「世界一辛い坦坦麺」なのですが、ああ、さすがに辛いモノ好きの主人も、それは慮って遠ざけます。だって隣で食べているのを見ていたら、麺の上に山ほど乗った唐辛子を汗だくになりながらひとつひとつ別の皿に出していて、それがまた山盛りになっていたんだもの。お店の人も、それを注文しようとすると、「大丈夫ですか、ホントに辛いですよ!」などと、おすすめしません、みたいな顔で脅かすのです。

で、通常頼むのが、この普通の坦坦麺。このほうが辛さの中にも潜むコクが楽しめる。それでも、昼ごはんを終えて帰ってきた顔は、しっかりレッドドラゴンになっています。

不幸にしてゆっくり食べる時間がない、なんて時には便利なのが、デリのほうで充実している、「テイク」。この店の、弁当を抱えてランチミーティングにすると、会議室内はすっかり、北京フートンあたりの大衆レストラン、といった趣が満ち満ちます(つまり、香りね)。

そういえば同じ「あか」でも、赤と紅ってどう違うんだろう。紅龍は赤龍とも言うようですが、なんとなく赤は紅より朱に近い赤、紅はピンクを思い切り濃くしていった色、というイメージがあります。緋に近いんだよね。ご当地「赤坂」が「紅坂」だったら、ちょっと仕事してる場合じゃない雰囲気ですね。一方、「働くモノの味方」の同じ名を持つ日本と中国の党の旗の名は、それぞれ赤旗と紅旗、だったりする。どっちのほうが力が強そうか、は、個々の判断にお任せしますが。


フツーの、坦坦麺。上方に見えるのは、飛沫防止用の
ナプキンですが、いい感じでしょ?
1000円(ランチタイムはライスサービス)

シューマイ弁当。一つ一つのシューマイがしっかりと
ボリュームあり、酢豚とのマッチングもよし。
ほかに、ぷっくり餃子版もいい。850円。


●行き方:東京メトロ千代田線赤坂駅直結の「赤坂サカス」内赤坂Bizタワー1F
●営業時間:月―金 11:00〜24:00 (料理L.O.22:30)
      土・日・祝 11:00〜13:00 (料理L.O.22:00)
●電話:03−5545−6335
●予算:ランチ1000円前後。夜は、居酒屋クラス。
●独断の星:なかなか、です。某中華レストラン系コングロマリットの一業態だそうですが、うまくいくんじゃないかな。★














第159皿 ハラキリ禁止だ。赤穂『そば処 衣笠』

帰省した折に、いちど行ってみたかった赤穂に足を伸ばしてきました。改めて言うまでもなく、「松の廊下」の刃傷事件に始まる「忠臣蔵」の一方の主役、浅野家・四十七士の本拠地ですが、実はこれほど解釈や評価が分かれる歴史的事象も少ない。

忠臣蔵的「史観」でいえば、朝廷からの勅使・院使の接待役を仰せつかった浅野内匠頭は、教授役の吉良上野介に賄賂を贈るのを怠ったばかりに吉良の「イジメ」に遭い、恥をかかされた、その恨み骨髄に達し、止むに止まれず決闘を挑んだ。その主君のみが即日切腹を命ぜられ、吉良はのうのうと生きているばかりか幕府から見舞いまで受けている。この仇は果たさねば武士の名にすたる。すなわち、刃傷も討ち入りも「義」の名の下に正当化した見方になる。これがまあ、一般的にメジャーな「物語」ですわな。「喧嘩両成敗」論が持ち出されたのも、対等の武士間における争闘とみなしているが故のこと。

でも事件直後の元禄の世から、この評価については論争があって、反対の極でいえば、浅野は大名にもかかわらず、大人の判断や対応ができない「甘ちゃん」で、幕府にしてみれば吉良が傷ついたことで勅使・院使接待という、形式的にしろ、いやだからこそ超・重要な任務におおきな障害が生じた。その妨害者張本人の浅野こそ逆賊、と捕らえる見方になった。幕府内部にも、主君の仇を身を捨てて打つ、ということを美徳と認めず否定しては、今後誰が主君のために命を捨てて戦うか、ということになる、という武家社会の本質に迫る反論がかなり強くあったにもかかわらず、結局は逆賊扱いで決まり。浅野家は取り潰し、赤穂城は召し上げ(隣の龍野城の脇坂氏が、友好関係にあったこの赤穂城の受け取りに行かされるのが実にいまのM&Aっぽくて興味深いのだが)、という結末を迎える。最近の経営論的解釈で言うと、甘ちゃんの同族経営者を仰いだ赤穂の武士たちこそ被害者だった、ということにすらなる。

そしてもうひとつ、四十七士は、ひとり逃亡して実は四十六士だったという話は定着していますが、最近のドラマでは、逃亡ではなく、後世にこの事実を伝えるため、命じられて隊を離れた、という名誉回復が行われていましたね。

さて、そんなことをにわか勉強で復習しつつ、赤穂めぐりをした後、立ち寄ったのが、JR播州赤穂駅に程近い『そば処 衣笠』。手打ちのそばにも惹かれましたが、なにより、瀬戸内海でとれる穴子が赤穂の塩、そうめん「揖保の糸」と並ぶ播州名物と聞いていて、穴子天丼と穴子焼をこの店が看板メニューに謳っていたため。頼んでから時間が結構かかったのはわれわれのために捕りに行ってたから(笑)と解釈することにして、しっかりと思い出に残る味でした。

ところで、この地方をはじめ、関西では、うなぎや穴子は背側を切って開いて焼く。江戸前では腹側を切るのが一般的なはずですが、これが江戸泉岳寺で散った赤穂義士たちをしのんで「腹切り」を避けたという説。それは、ま、聞き置いて今後の研究対象において置きましょう。


あなご天丼と冷やしミニそばのセット。あなごは二つに切られていて、これで一尾バージョン。

浅野家菩提寺の「花岳寺」。四十七士の像が並び賑やかな
大石神社とは違う、静かなたたずまいを見せる。



●行き方:JR播州赤穂駅(京都や新大阪からも新快速で一本なので機会があればぜひ行ってみてくださいな)から徒歩2分ほど。
●営業時間11:00〜20:00 不定休
●電話:0791−42−0194
●予算:穴子天丼700円(一尾。ボリューム満点の二尾もあり)、そばセットは130円増し。ほかに天ざる、とろろそばなど。
●独断の星:こんどは他所の「討ち入りそば」というのも食べて見たい。★











第158皿 ユースは遠くなりにけり。『利尻富士観光ホテル』

30年ぶり、いやそれ以上かも知れませんが、身内の用にまさにかこつけて、利尻・礼文に行ってきました。礼文島といえば“キ■ガイユース”』の異名をとる『桃岩荘』が有名で、ああ、かつてこの港でヘルパーさんたちの熱い見送りを受けたんだな、と思い出に浸ったのも一瞬、『桃岩荘』が現存しているなら若い人々に混じって気炎を上げるのも一興だったかも知れませんが、今回はギリギリの日程の中、そういうわけにもいかず、結果的に宿はラクチン優先の選択に。さて、温泉とともに食事も、しっかり期待には応えてくれました。この旅の間、8食にわたって、パンも麺も食べない、ご飯のみ。また、当然ながら海鮮が99%で、ニクっけはほとんどなし、という筆者としては異例の食生活の中でも、ここがベストでした。

前菜のイカの沖漬、利尻昆布巻き、沖ツブに始まり、刺身は牡丹海老のほかに、ホッケのルイベなど。ルイベ、つまり凍らせた刺身を溶ける前に食べる方式といえば鮭が一般的ですが、半分凍った身の味は、ホッケもなかなかに濃厚で、なるほど、塩焼き以外の食べ方もあったのだな、とうなずいた次第。さらにその感を強くしたのは、ルイベのちゃんちゃん焼。これも鮭とは一味違った野性的な趣で、お酒が進む、進む・・・。そして写真には写っていませんが、揚げたての状態で配膳されたカスベの揚げ出し、ウニ入り道産子蒸し、ウニの煮こごりなど、北の海の幸を堪能してきました。
鮭については、刺身に少し入っていましたが、今回は宿の主人の計らいで稚魚(メダカほどの大きさのがバケツ一杯で何百匹も)の放流を体験させていただいたのにとどめ、本格的に食するのは4年後のカムバックを待つことにしました(笑)。

ユースのハングリー精神とは程遠いラクチン旅、一方、ベンチャー精神は、はじめに礼文島に向かうフェリーの揺れ方で、ちょっとだけあったかな。それもこの夏には、新造船が加わってさらに快適になる由。それにしても、毎日極端な早起きの習慣がついてしまったのは、やっぱり疲れそうで・・・アナ恐ろしや。



充実の中にも野性味あふれる、いわば「利尻御膳」。

4時半の日の出に輝く利尻富士。
富士、というより、マッターホルンですな。
一年中雪が消えることはほとんどないとか。



●行き方:稚内または礼文島と結ぶフェリーの、利尻島鴛泊(オシドマリ)港すぐ上
●予算:一泊二食でも都内のビジネスホテルなみ。安いものです。
●独断の星:こんどは、旬の夏に、「ちょっとウニでも食いに行こうか」なんて言ってみたいものです。★










第157皿 梅を見て、夢を見る。湯島『シンスケ』

駅弁だけでガマンはできず、さらに少し大江戸の世界に浸ってみたい欲望にも抗えず、年末に『絵馬亭』で鍋をご馳走になったのに続いて、最近二度目の湯島へ。やはり評判の店に一度は行ってみたいと足を向けたのが『シンスケ』です。就職したころに毎週かかさず寄っていたおでん屋『大凧』に行くコースで、つまりメトロ千代田線の湯島駅からではなく、あえてJRの御徒町駅から。上野松坂屋の前を通り抜け、ひっきりなしに人が行きかう歩道を歩くうちに気分も盛り上がってきます。本郷に向かってだらだら坂を上ると、角に見えてきた小さな行灯。シンスケ、とカタカナで、実にそっけなく書いてあります。雰囲気としては、自由が丘『金田』に一種通じるザ・居酒屋なのですが、ここのほうが、高級感アリですね。店の外からのぞいたところ、心配した通り満席。でも、テーブルも細くてカウンターのほうに向かって横ならびで座る独特の構造(つまり、カウンター客の背中を見るカウンターがある感じ)なので、一人客も多いようで、回転は悪くない。内扉の外で待ちながら観察すると、客層は、圧倒的にオヤジ。それも、江戸文化検定受けていそうな・・・?

飾り棚にはそれとなく梅の花が生けてあったりして、そういえば梅の名所の天神さまはこのすぐ上だな、などと当たり前のことを思い出しました。かつて、マンションの広告で、「下見ついでの、湯島の梅見。」なんて名コピーがあったな、と思っているところへ、「お客様、お待たせしました」の声。横一列テーブルの席に着き、まずはビールを注文。続いて数多く張られているメニューの中から、刺身盛り合わせと数品を頼み、ささ、一献。

居酒屋といっても、どことなく醸し出される品があり、かつ頼んだ料理はどれも丁寧で、よき味。熱燗に移ると、正一合と徳利に書いてあるのも嬉しいじゃありませんか。
これも天神様のご利益?ここまで来たらちゃんとお参りしていかないとね。ここ数週間の寒さのせいか夜の梅見は満開とはいかなかったけれど、だからこそ貴重な感じで、これから来る「春」の夢への期待を膨らませてくれ、忙しかった週を締めくくる「祭り」になりました。

そうそう、刺身の写真を撮ったら、「すみません、ウチ写真はお断りしてるんです」と、さっき案内してくれた店員さんに注意されてしまいました。すみません。カード使用不可、というのも、宵越しの銭は持たない、の江戸町人気質の裏返し、と理解しましょう。お店のポリシーとしてそうなんだな、と素直に受け入れられました。それもこれも、全体の印象がよかったからにほかなりませんね。いい店にいくと、一晩いい気分になれる。その夜は、果たしていい夢が見られました。


ご法度の写真。貴重かも。魚は新鮮でおいしかった。



●行き方:湯島交差点から、春日通りを本郷方面へむかってすぐ左側。
●営業時間:17:00〜22:00(LO 21:30)
 土曜は21:30まで、LOも30分早くなるとか。日・祝 休み
●電話:03−3832−0469
●予算:まあ、5千円札一枚。
●独断の星:近々また訪ねたい。今度は開店と同時に飛び込む感じで。★★









第156皿 食べる時代小説。東京駅駅弁『深川めし』

もう長いこと「江戸ブーム」みたいなものが続いていて、一昨年始まった『江戸歴史文化検定』も多くの受験者を集めているようだし、池波正太郎や藤沢周平の小説もよく売れているようです。小説といえば、歴史小説と時代小説という言葉があって、どう違うのかと思っていたら、明確な定義はないものの、なんとなく、歴史小説は歴史上の事実に題材をとって面白く読ませるもの、時代小説はその時代の世の中を舞台にしたフィクション、ということになっているのだそうな。歴史小説は、有名な歴史上人物の行動や事実に新しい解釈を与えたり、その影にいた人物にスポットを当てたりすることが魅力で、時代小説はそうした時代の話でも現代の自分たちに通じる感情が描かれているのが魅力、ということになるのでしょうね。上の二人の作家の作品は時代小説ということになります。いわゆる歴史上の人物より、どこにもいそうな庶民が主役になることが多いのも特徴ですね。あれ、水戸黄門に原作があったら、それはどっちなんだろう?

さて、久しぶりに東京駅で、駅弁を買って列車に乗る機会がありました。いろいろ売っている売店で、中華幕の内、エビフライ弁当などと迷った後に、最初に目が行って気になった「深川めし」を買い求めて乗車。カウンターの真ん中においてあったところから見ると人気メニューなのでしょうね。

フタを開くといい香りが漂ってきました。隣席のヒトがこちらに視線を投げたほど。あさりの身とそのダシで炊いたご飯の上に、大き目の焼きアナゴがふた切れ。そして、ハゼの甘露煮が二本、と「文法」はしっかり守られています。どちらの具も甘すぎず、辛すぎず、よくできておりました。もとは江戸の世、本所深川の漁師が浜辺で作ったり、近くの店で簡便に出されたりしていたところから「深川めし」の名がついたそうですが、400年前のワーカーに思いを寄せつつ、ご飯の最後の一粒まで平らげさせていただきました。欲を言えば、日本酒のぬる燗でもやりながら食べたかった。もっとも、そんなことしたら隣のヒトが目を剥いたでしょうがね。
ふと前の座席のポケットに目をやると、車内誌『トランヴェール』が藤沢周平の『用心棒日月抄』を特集していたのは恐ろしいほどの偶然で、思わず仕事の資料を読むのも忘れ、読みふけってしまいました。

ちょっとトーンが飛んでしまっていますが、実際はなんとも親しみ食欲を感じる色です。



●価格:830円(税込)
●売場:東京駅でなくてもあるとは思いますが。
●独断の星:デパ地下の駅弁もいいけど、やっぱり駅で買って列車で食べたい。★








第155皿 マンジャーレ、ペルファボーレ。みなとみらい『キハチ・イタリアン』

正月恒例の係累の会食で、今年はまもなく開港150年を迎えることで盛り上がっている(はずの)横浜、みなとみらいに行ってみました。目指すはクイーンズ・イーストの、なぜかファッションフロアの中にある、『キハチ・イタリアン』。言うまでもなく、フレンチのキハチが始めたイタリアン店です。年末に予約を入れようと思い立ったとき周りのイタリアンが全滅だったので、ここもダメかなーと思いながら電話すると、若干窮屈な時間でしたが、うまくリザーブすることができました。
陽当たりがいいと、洋服売り場には向かないのかもね、などと話しながら、着席。

その名もお祝い感に満ちている熊谷喜八氏のイタリアンは、いたって気軽です。正月三が日でもランチコースは税込2625円から。
8種類から選べるアンティパストに、肉か魚のメイン、パン、というかフォカッチャがおかわりできて、コーヒー、デザートまで入ってこの値段は好感が持てますが、気に入ったのは、フレンならヌーベルキュイジーヌと言うであろう、「和」とのクロスオーバーぶりですね。
前菜に取ったのは、「あたたかい真鱈スモークとフレッシュトリュフ添え」。これはけっこうボリュームがあって、いろいろ食べられる「前菜盛り合わせ」にすればよかったかな、と思いました。
メインは、「寒ぶりのスパイス焼き さっぱりとしたふろふき大根とともに」。ふろふき大根、だもんねー、小料理屋さんのメニューにあってもおかしくない。でも、味付けはその名の通りスパイシー。その上で、ちょっと塩味が強かったかな。他のメンバーがそろって選んだのは「伊達鶏の白ワインとヘーゼルナッツの煮込み」。これもちょっとシェアして食べましたが、懐かしいクリームシチューをドーンとリッチにした感じでしょうか。けっこう家庭料理っぽいほっとする味。
初めは、メインが一品のコースで足りるだろうか、1000円ほど増しのパスタもついたバージョンにしたほうがよかったかな、と思いましたが、これで十分。
イタリア人といえば、マンジャーレ(食べる)、カンターレ(歌う)、アモーレ(愛する)ために生きている、などと言われますが、こちらも、はじめの二つはぜひ今年も大いに楽しみたいもの。それでは、今年もよろしくペルファボーレ!


前菜です。チャーシューじゃありませんよ。

選んだメイン。伊太利風焼魚定食?

こちらはチキン。白ワイン風味がたっぷり。


●行き方:JR京浜東北・根岸線桜木町駅または横浜市営地下鉄みなとみらいから
  ブラ ブラ歩くのにちょうどよい距離。
●営業時間:11:30〜17:00 18:00〜21:30
  (日曜は〜20:30)ランチは〜14:30 不定休
●電話:045−222−2861
●予算:文中。パスタなど、アラカルトもあり。夜のコースは5000円くらい〜
●独断の星:家族での横浜メシは中華街と決める必要はない。★










第154皿 カレーを日本の文化にしたのは。芝浦『千吉 田町店』

思い起こせば今年は、木村拓哉と北大路欣也の親子?関係で見せる『華麗なる一族』の話題で明けたのだった。その総集編を見ながら、そういえば、「カレーなる一族」なんて、カレーパンも発売されたりしましたな、などと思い出した。そのせいかどうか、今年はカレーをよく食べた。

若いころはあまり食べなかった、日本独自のカレー南蛮うどんが急に好きになって何度も食べたのも今年。ある寒い日、古びた蕎麦屋に入って、それまでは鴨南蛮を食したようなシチュエーションなのだが、カレー南蛮そば(ほんとうは、うどんであるべきだと思うのだが、蕎麦屋であることで、いちおう敬意を表したつもり)を注文したら、店にいる10人ほどの客のうち、一人を除いて全員がカレー南蛮を食べていて、驚いたことがある。さてそうした日々の中、カレーうどん専門を謳っていて昼時にはいつも行列ができている店を見つけ、ある日、ちょっと時間をはずして昼飯にいくチャンスに入ってみたのです。

店内は満員、バイト君がガラスで覆われたキッチンの中でも、客席でも忙しく立ち働いている。こりゃ、時給を倍はもらわないとアワないな、などと余計な心配をしつつ・・・
フムフム、メニューは、大きく4種類あって、レギュラーの千吉カレー、辛味を増した 「辛吉」、「赤カレー」「黒カレー」があるのだな。それにうどん屋だからと言うわけなのか、天ぷらのトッピングもいろいろあったりして。
まずは、標準をということで、「千吉カレーうどん」にかやくごはんのついたセットを注文。単純な工程のワリにはけっこう待たされるな、と思い、カウンター席の向こうのキッチンを覗き込んでいると、フツーのうどん屋の汁に後からカレーソースを流し込むという作り方ではなく、カレーソースで一人前ずつ鍋で煮込む、というこれまた独特な作り方をしていたのですね。で、出来上がって運ばれてきた「千吉カレーうどん」は、熱いスープパスタのような風情、食べるそばから体がほくほく温まり、大満足でした。かやくご飯も、つけ足しにはもったいないと思える味わい。聞くところでは某有名牛丼屋系、チェーン展開を始めたばかりの業態らしいのですが、店が増えるにしたがって質や味が劣化するという主人の轍を踏まないように祈るばかりです。


メガネが湯気で曇っちゃって、ピンが甘くてごめんなさい。


●行き方:田町駅芝浦口を降り、「芝浦の島」を目指しつつ2分ほど歩いた右側。
●営業時間:11:00〜23:00
●電話:03−5439−6578
●予算:上記のセットはたしか800円くらいだった。
●独断の星:ほかのメニューもぜひ試してみたい。★★










第153皿 パエリャでないぞ、パエジャなのジャ。銀座『エスペロ・三丁目店』

ひさびさに出た銀座はもうクリスマスムード一色。ランチをご一緒した銀座通さんに、どこか地中海系を、とリクエストしておいたら、日ごろあまり食べられないスペインレストランに連れて行ってもらえました。本店と三丁目店があるけれども、今回は、三丁目店のほうが落ち着いた席が用意できるということで、そちらに。シャネルの裏、マロニエ通りからガス灯通りに折れてすぐ右側のビルの二階に上ると、そこは、洞窟の中のような、こぢんまりした空間。円い天蓋風に作られた壁には、聖家族教会などこれぞスペインという壁画が描かれています。

オーナーが注文をとりに来てくれて、「こちらがお奨め」と、「パエジャコース」を指して教えてくれましたが、敢えて、日替わりのランチを所望。日替わり、と言っても、前菜、メインがそれぞれ4種類から選べて、けっこうボリュームもありそう。中から選んだのは、前菜が、「パスタのパエジャ」、つまり普通、コメで作るパエリャが、太くて短いパスタで作られているのです。オリーブオイルと、ムール貝の味がしみこんで、実に美味。これだけでランチでもいいくらい。さて、メインは、仔牛と野菜の煮込み。ビーフシチューと、日本の煮込みの中間のような、とても親しみやすい味でした。これにパンかライスと飲み物がついて1000円(税込)というお値段は、ビックリもの。さらに、連れて行っていただいた方がオーナーの古くからの知り合い、ということで、「気持ち」と特別なサービスを二つしていただきました。ちょっとしたセレブ気分で、電車賃使っても来た甲斐がホントにありました。

さて、この店のマークにも入っている看板料理のPAELLA、パエリャと読むのはイタリア語、スペイン語ではパエジャ、と発音するのですね(本場スペインの大会でも受賞多数とか)。ちなみに今度は夜来て飲みたいリオハワインのスペルはRIOJA、JはHの発音になる。面白いですね。勉強になったのジャ。


ショートパスタのパエジャ。めちゃウマ。

アツアツを保つ工夫で持ってきてくれる「煮込み」

●行き方:文中
●営業時間:11:30〜15:00 17:00〜23:00(日・祭22:00)
  LOは閉店一時間前
●電話 03−5250−2571
●予算:ランチは文中。夜もコストパフォーマンスはよさそう。
●独断の星:毎週でもランチに行きたい。★★










第152皿 カレーのモトの平等?『農水省地下職員食堂』

ひさびさにカレーの話をひとつ。いまの天皇陛下が吾らと同じ50歳になったとき、かつてのご学友たちが集まって、学習院の学食で“カレーパーティ”を開いてお祝いしたのだそうな。その席で、天皇陛下(まだ皇太子でおられた)がしたスピーチがなかなかいい。「50歳というとみんなそろそろ定年などが気になる年でしょうが、私はまだ『就職』すらしていないのです」。一同爆笑。さて一緒に招かれた皇后陛下(当時は皇太子妃美智子さま、ね)が出てきたところで、囲んだ記者のひとりに感想を聞かれた。「聖心の学食と学習院とではどちらが美味しかったですか」一瞬、ザワついていた記者一同がシーンとしたところで、お答えがまたよかった。「どちらも美味しゅうございました」・・・ま、優等生的と言えばそうですが、なかなかそうとっさには答えられませんよね。
さて、カレーの前では、両陛下もごく普通の人間として言葉を発せられたように、老いも若きも、上も下も、ざっくばらんな一線に並べてしまう感がありますね。きょう行ったのは、霞ヶ関は農林水産省の地下にある職員食堂。ここで、キャリアの方も、フツーの方もゾロゾロ食券を買ったりあらかじめ注文しておいた弁当をピックアップしたりしている。値段が安くてなかなかウマイ、という評判を聞いてトライしてみたのは、カツカレー。サラダと味噌汁がついて500円は安い。ボリュームはもちろん、たっぷり。で、肝心の味はどうなのか?実は、ひとことで言うと、懐かしい味。違う言い方をすれば、日本の「洋食」の味。カレーライスというより、ライスカレー。(あれ、どっちだ?)そりゃそうだよね、日本人の食生活を一生懸命支えている(はずの)役人の方々のエネルギーのモトだものね。で、一句できました。「日本の食を支えるワンコイン」。次は、定食をいただいてみようっと。


大きな肉と衣の厚いカツにたっぷりかかったカレーソース。こう来なきゃね。


●行き方:霞ヶ関一丁目、合同庁舎。
●営業時間:未確認です。
●予算:市中の4〜5割安か。
●独断の星:フツーもまたよし。★









第151皿 ちぃばすに乗って。麻布十番『十番』

去年だったか、『メトロに乗って』という映画がありました。丸ノ内線をはじめとする地下鉄に乗ると、それがタイムマシンの役割を持っていて、自分の少年時代や若かりし頃に行ったり来たりしてしまうというもの。いわゆる「タイムスリップ」モノと片付けるには惜しい独特なトーンをもっているいい映画でした。メトロ(東京地下鉄)の、かなり上質なプロダクトプレースメントにもなっていたように思います。

さて、きょうのお店は、メトロでも行けるようになったかつての陸の孤島、麻布十番(好きだよねえ)。でも、会社から行くときは、バスに乗っていくのですよ。田町から六本木ヒルズ行き循環、「ちぃばす」。命名の由来は、ズバリ「ちいさなバスだから」。都営地下鉄の延伸にともなって都バス路線が廃止された代償として港区が始めたらしい。実際の運行は富士急の子会社に委託されているのだが(それにしてもなぜ富士急?)、まあ、このバスの可愛いことったら。ついでにいうと料金も可愛い100円。安さと便利さでつい乗ってしまいますな。おかしいのは、このバス、停留所などのアナウンスが、日・英・韓・中の4ヶ国語でされること。地元を意識すればたしかにそうかも。で、それぞれに番号がついていて、「次は、十番、アカバネバシエキマエ」なんてことになる。ちなみに麻布十番はたしか「十二番、アザブジュウバン」でああ、日本語がイチバンややこしい。「ジュウバン」って聞いて、ガイジンが降りちゃわないか、いつも心配。

さて、この「ジュウバン」は、アザブジュウバンのイチバン入り口にある大きな居酒屋。大きなコの字のカウンターに、40人くらいは並ぶ。刺身・焼き物から、有機野菜のサラダ、ステーキまで、ありとあらゆるメニューがあると言っていいかも。でここも、ごタブンにもれず、ガイジン客が多いんだ。いつも一杯の店内の、2割くらいは大体ガイジン。

で、本日、超・残念だったのは、名物「ポパイ焼き」を本人の胃袋のキャパの問題で食べられなかったこと。スタミナ一杯つきそうな素材が一杯入った洋風広島風お好み焼きともいうべき、豪快な一枚。探求意欲と食欲のあるオリーブがいれば、ぜひご一緒に。


これがちぃばす。横から見るとクリスマスバージョンとかあってもっとかわいいのだけれど。

ステーキ食いに来たわけじゃないが、焼鳥みたいな感覚で頼んじゃう。

●行き方:麻布十番商店街に一の橋側から入って左側、「あべちゃん」の手前。タヌキが目印。
●営業時間:17:00〜23:00 日曜定休
●電話:03−3451−6873
●予算:極めて良心的な居酒屋です。写真のステーキは980円。
●独断の星:さあ、きょうもちぃバスに乗って。★★