著 者  瀬戸邦弘・杉山千鶴・波照間永子他
発行日  2012年5月20日
ISBN  978-4-901933-26-1
体 裁  B5判
ページ数  160ページ
価 格  定価 2,020円(税込)

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[概要]

 「日本人とは何者か」。言い古され,しかしながらいつも新鮮な香りでわれわれを包み込むこの問いを,近代化の途次,われわれ日本人は常に自身に問いかけながら過ごしてきたやに思う。
 明治維新以降,外国文化の流入を期に,それまで「当たり前」に存在してきた自身の文化を,日本人たちは異文化との対峙という経験の中で可視化し,またその独自性を認識することとなった。西欧近代社会をモデルにした“文明開化”,そして第二次世界大戦後の米国進駐時期。この二つの直接的で,ある意味強制的な文化流入期をきっかけに,さまざまな物質文化,そして新たな制度が日本を変革していくことになった。そのような文化流入・変容の中,われわれ日本人はそれらの文化・制度が想定し,また規定しようとするものが「西欧的な存在・身体」であることにも気づかされることにもなる。たとえば,明治期の体操で育まれる身体は西洋式軍隊の基礎であり,病とは身体とともにあるものではなく対置され,取り除かれる対象でもあった。われわれにとっては当たり前であった自身をとりまく事象や身体観・身体文化は,特殊で独自性の強い「日本人の身体」であったことに気づかされることになったのである。
 これらの経験は,われわれに二つの選択肢を提示することになる。ひとつは,自分たちの存在・身体を見つめなおし,新たな社会へ適応するための変容を促すこと。またもうひとつは,それらに抗して独自の価値観に基づく身体や文化を継承する意識を持つこと。この二つの価値を常に天秤にかけながらわれわれは近代化の途次を歩んできたといえるのである。
 しかし,これら二つの選択肢は,実は必ずしも二律背反するものではなかったともいえる。時にそれらは複雑に絡み合いながら,またお互いを支えあうといった特殊な状況も生み出し,結果としてわれわれがいま「当たり前」として理解する“現代的な”日本人の身体を形成することになっていったのである。本書ではこれら近代化以降の日本人を「身体」をひとつのテーマの縦軸として据え,日本人が近代化の中いかなる変化を遂げて,何を得て,何を失ってきたのか,また新たに何を創造しえたのかをさまざまなキーワードを横軸(フィルター)とし,それら横軸に沿って紐解き,ひいては「前近代的・近代的日本人像」を明らかにすることを目的とするものとなる。
 現在「身体論」「身体研究」は理系,文系を問わず多くの学術領域において注目され続けるところであり,今後もさらなる注目されるテーマと考えられる。本書の執筆に関してはスポーツ人類学,舞踊学,社会学,文化人類学,スポーツ史,武道論,体育科学などの諸分野における若手・中堅たちが中心となっており,彼らの論考は「マスメディア」「空間」「体操」「ジェンダー」「病」「周辺」「琉球」「浅草」「衣服」など自身が設定する,また日本の近代化の中で大きなポイントを担った各キーワードを中心に展開することになる。
 ところで,各キーワードは本書全体の横糸として「身体」という縦糸との関係の中で,明治期以降の西洋文明,もしくはアジア諸国との関係の中で日本人が身につけた身体,失った身体というひとつのテクスタイルを織り成すこととなる。また,ここで紡ぎ出された論考は,その専門性から日本のアカデミズムへの新たな知見の提示を目指していることもさることながら,一般の読者のみなさんや大学の教養的な学びを大きなターゲットと位置づけていることも付言しておく。つまり,専門家以外の読者に対しても,読み物としても読みやすく,また面白く,読み応えも十分なもの目指しながら執筆・編集が進められてきたことになる。
 すなわち,本書は社会一般に向けた学術的知見の社会還元をも意識し作成された過程を有し,結果として多くの一般読者に手に取っていただき,少しでも本テーマに興味・関心を持っていただき知見を共有できれば著者としてこの上ない幸せを感じるところである。
 「日本人とは何者か」。言い古されながらも,なぜこの問いはいつも新鮮なのか。それは,明治以降,合理性や効率といった圧倒的な説得力と新奇性という魅力を持ってわれわれの社会,文化を席巻してきた西欧文化に浴し,またその恩恵を享受するわれわれが,その一方で,地域社会で受け継がれた土着の,そして民俗的感性をもその根底に失わずにそれら外来文化を受容することを選択してきたからなのかもしれないと思う。したがって「自分たちとは, 日本人とはそもそもどのような存在であるのか」という問いは, われわれにとって現在進行形の疑問であり,そのためその答えを希求し続けているのかもしれない。
 この書を読破した先に日本人,ひいては「日本」という国の忘れられた,忘れかけられている姿を感じていただければ幸いである。
 2012年3月吉日  著者代表 瀬戸 邦弘



[目次]

第1章 伝統文化と日本人の身体
 第1節 忘れられた日本人の“身体” 【瀬戸邦弘】
  1.西大寺観音院・会陽―裸と博打の支えた地域文化
  2.岩手県黒石寺・蘇民将来祭過熱報道と伝統的身体のはざまで
  3.秋田県ナマハゲ習俗―セクシャルハラスメントと祭りの身体
  4.治外法権としての伝統文化―忘れられた日本人の“身体”―
  5.文化財としての伝統文化
 第2節 女相撲と近代日本 【一階千絵】
  1.女相撲史の概観
  2.裸体に対する規制と相撲
  3.明治・大正の女相撲興行
  4.女性の身体・母性と女力士
 第3節 病と日本人―民俗信仰と近代医療― 【高橋京子】
  1.日本人の病気観
  2.疱瘡と日本人
  3.祈る身体表現としての疱瘡踊り
第2章 舞踊と日本人の身体
 第1節 浸透する西洋―浅草オペラの身体― 【杉山千鶴】

  1.近代日本の洋舞
  2.西洋音楽を歌う
  3.モダンダンスのパイオニアによる西洋舞踊
  4.オペラ女優
  5.西洋舞踊を演じるオペラ女優
 第3節 琉球文化の育む身体世界―志田房子のオーラルヒストリー― 【波照間永子】
  1琉球舞踊における教授組織「家元制」の確立
  2家元制が確立する以前の伝承―インフォーマントの位置づけと方法―
  3舞踊伝承のヒストリー
第3章 スポーツ・運動と身体
 第1節 森有礼と嘉納治五郎にみる身体
     ―近代日本人の身体における二つの性質― 【中嶋哲也】

  1.森有礼の兵式体操論―国民の行動原理
  2.嘉納治五郎の柔道論
 第2節 新聞販売興亡史のなかのテニス
     ―朝日,毎日,読売によるテニスイベントと都市新中間層―  【綿貫慶徳】

  1.新聞メディアによる軟球イベントの誕生
  2.硬球イベントにみる大朝,大毎の競合と都市新中間層の形成
  3.硬球イベントのショー化と都市新中間層の二極分化
  4.読売主催「日米国際庭球大会」のなかの都市新中間層
第4章 近代空間と身体
 第1節 周辺に拡がる身体―台湾・理蕃の野球と文明化― 【林 勝龍】

  1野球と原住民
  3原住民宣伝,理解の旅
  4「能高団」の内地観光
 第2節 西洋空間と新たな日本の身体―明治期西洋公園による身体形成― 【小坂美保】
  1.未知との遭遇―身体は重要な情報源
  2..西洋空間との遭遇―疑似西洋体験
  3日比谷公園との遭遇―日本における西洋公園の誕生―
  4.禁止される身体/奨励される身体
 第3節 近代日本の服装と身体 【北田 綾】
  1.近代化過程での日本人の服装と身体
  2.女性の服装の変遷
  3.合理主義と日本的世界観
                     


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