[概要]

 世界各地にみる相撲のなかで、土俵をもつ相撲は日本だけであり、ゆえに日本の相撲は土俵の存在、それによって勝敗が決せられることで特徴づけられるとされてきた。
 ところが、台湾原住民のプユマ(卑南族)においても、土俵をもつ相撲が行われている。
 台湾は帝国日本が最初に植民地とした地域でもある。戦後、半世紀以上を経た現在において土俵をもつ相撲を行う意味は何か。本書は現地フィールドワーク、日本語世代(かつて日本人であった人々)の聞き語りと文献資料の交差からそれを明らかにして行く。
 台湾原住民が台湾島の「主」であった時代、独自スタイルの相撲があった。日本の植民地統治により、高砂族と呼ばれた彼らは「日本人」として日本の相撲を行うようになった。だが、戦後の国民党統治のよる日本文化の禁止、さらに中国化、キリスト教の布教の文脈のなかで相撲が再解釈され、相撲はしたたかに姿を変えて行った。
 台湾の民主化運動と期を一にして、キリスト教主導で原住民文化の復興が始まった。今日、原住民文化は全体としてはキリスト教の影響を排除した本質性を求める一方、相撲は日本文化を含んだ異種混交の文化であることによって、民族的アイデンティティの表象として機能している。相撲をとる・みる行為によって、彼ら身体に民族の歴史と文化、そして記憶が刻み込まれ、次世代へと継承されて行くのである。 




[目次]

[1]問題の所在
[2]先行研究の検討
[3]方法的立場
 (1)展開
 (2)作業概念の設定
 (3)凡例


第1章 台湾原住民族および調査対象地概観
[1]台湾原住民族
 (1)原住民族の名称と民族分類 (2)原住民族の歴史的概観
[2]プユマおよび知本
 (1)プユマ (2)知本 (3)語り手


第2章 現代の?地布小米収穫祭
[1]収穫祭
[2]知本相撲
 (1)知本相撲の実際
 (2)知本相撲の特徴

第3章 「理蕃」政策による原住民祭祀儀礼の変容
[1]理蕃政策大綱
[2]祭祀儀礼の「教化」
 (1)祭祀儀礼の「善導」
 (2)日本的価値観
 (3)青年層による主導
[3]「善導」の方向性
 (1)神社信仰との一体化
 (2)理想農村実現への夢
[4]皇民化と神社信仰
[5]変容の分析


第4章 知本収穫祭の変容
[1]日本統治時代
 (1)文献資料からの歴史的再構成 (2)知本プユマの「語り」から (3)皇民化,そして「敗戦」
[2]中国化と天主教の受容
 (2)天主教の受容 (3)天主教と収穫祭
[3]文化の復興と継承
 (1)台東県?地布文化発展協会
 (2)「語り」による文化発展協会設立の経緯
 (3)文化の復興
[4]知本文化から?地布文化へ

第5章 知本相撲とアイデンティティ
[1]プユマにみる相撲
 (1)文献資料にみる相撲
 (2)プユマにみる相撲の諸相
[2]日本相撲の受容
 (1)マリウォリウォスと日本相撲
 (2)日本相撲の受容とその論理
 (3)台湾総督府による相撲の奨励
[3]知本相撲の変容
 (1)「敗戦」そして中国化
 (2)天主教と知本相撲
 (3)民族アイデンティティの再確認
[4]歴史実践としての「語り」

                     


明和出版の書籍一覧
スポーツ人類学ドクター論文集
身体に託された記憶
台湾原住民の土俵をもつ相撲

著 者  渡邉 昌史(武庫川女子大学准教授)
発行日  2012年1月25日
ISBN  978-4-901933-32-2
体 裁  A5判
ページ数  254ページ
価 格  定価 2,420円(税込)

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