| 最終掲載日時:2006年06月21日 |
| 交通事故 保険請求センター |
| 『 交通事故判例 』 |
| 【0009】 |
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| PTSD及び高次脳機能障害が否定された事例 その他の事例→<自賠責で高次脳機能障害が非該当とされたが民事賠償請求訴訟で認定された例> |
【判決要旨】 61歳男子が衝突事故で頭部外傷後血腫除去術を受け、外傷後ストレス障害(PTSD)が診断書に追記され、7級4号で自賠責異議申立てする事案で、通院の 際にはタクシーを利用し、「恐怖心がそれほど強いとは認め難く、PTSDに特 徴的なフラッシュバックといった症状も認められない」とPTSDが否認された事例 脳機能障害につき、「頭部CT検査で異常が認められない場合がありうる」 とするも、「検査を全く受けておらず、障害を来していることを示す所見は何ら 存在しない」等から、右高次脳機能障害が否認された事例 PTSD、高次脳機能障害等追記された診断で7級4号の自賠責異議申立てをする被害者の事案で、脳の器質的変化に基づかない神経症状を呈するものと、14級10号相当で10年間5%の喪失率で逸失利益を認めた事例 京都地裁 平成12年8月31日判決(確定) 事件番号 平成11年(ワ)第1461号(甲事件) 同第2347号(乙事件) 損害賠償請求事件 自動車保険ジャーナル・第1368号 【事実の要旨】 61歳男子大学講師の原告は、平成10年8月12日午後1時10分ころ、京都府京田辺市内交差点で乗用車を運転減速直進中、狭路進入の被告運転、被告会社所有の事業用小型貨物車に衝突され、頭部外傷後、血腫除去術を受け76日入院、45日実通院してPTSD、高次脳機能障害等追記された診断書で7級4号の自賠責異議申立てをし、1億1、078万2、940円を求めて訴えを提起した。 裁判所は、PTSD、高次脳機能障害を「認めるに足りる証拠はない」と否認した。 恐怖心から原告は「自動車運転免許を放棄した」が、「通院の際にはタクシーを利用している」ので「恐怖心がそれほど強いとは認め難く、PTSDに特徴的なフラッシュバックといった症状も認められない」。 診断B医師の診断書欄に「誤記と思われる」記述、追記の理由も前回診断書発行時PTSDが「一般に認知されていなかった」とするが、阪神大震災が契機となってPTSDが社会的注目を集めるようになった後の初回診断書から、前記理由も「認められない」とした。 そのほか「いかなる診断基準に基づいて…診断したのかも何ら明らかではない…診断が正当なものかについて疑問がある」、「PTSDに該当すると認めるに足りる証拠はない」と認定した。 高次脳機能障害は「原告のように頭部CT検査で異常が認められない…場合がありうる」としたが、「検査を全く受けておらず…障害を来していることを示す所見は何ら存在しない」等から、高次脳機能障害と「認めるに足りる証拠はない」と否認した。 しかし、PTSD、高次脳機能障害ではないが脳の器質的変化に基づかない「神経症状を呈するに至った」として「14級10号に該当する」、「心因性の後遺障害の予後は必ずしも良好ではない」と10年間5%で認めた。 年収1、100万円で請求する大学講師の収入は「証拠は何ら提出されておらず」センサス学歴計同年齢で算定した。 裁判所の判断は以下のとおり。 判 決 甲事件原告・乙事件被告(以下「原告」という。)林 誠宏 右訴訟代理人弁護士 林 成凱 甲事件被告(以下「被告」という。) 木村哲也 甲事件被告・乙事件原告(以下「被告」という。)株式会社アルファ物流 右代表者代表取締役 浅川 清 乙事件原告(以下「原告」という。) 日本火災海上保険株式会社 右代表者代表取締役 松澤 建 右3名訴訟代理人弁護士 太田常晴 主 文 一 甲事件について 1 被告木村哲也及び被告株式会社アルファ物流は、原告林誠宏に対し、各自金726万0、760円及びこれに対する平成11年6月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告林誠宏のその余の請求をいずれも棄却する。 二 乙事件について 1 原告林誠宏は、原告日本火災海上保険株式会社に対し、金12万2、951円及びこれに対する平成11年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告林誠宏は、被告株式会社アルファ物流に対し、金1万円及びこれに対する平成11年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告日本火災海上保険株式会社及び被告株式会社アルファ物流のその余の請求をいずれも棄却する。 三 訴訟費用は、甲事件及び乙事件を通じて、これを100分し、その6を被告木村哲也及び被告株式会社アルファ物流の負担とし、その1を原告日本火災海上保険株式会社の負担とし、その余を原告林誠宏の負担とする。 四 この判決は第一1項及び第二1・2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第一 請求 一 甲事件 被告木村哲也及び被告株式会社アルファ物流は、原告林誠宏に対し、各自金1億1、078万2、940円及びこれに対する平成11年6月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 二 乙事件 1 原告林誠宏は、原告日本火災海上保険株式会社に対し、金49万1、804円及びこれに対する平成11年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告林誠宏は、被告株式会社アルファ物流に対し、金4万円及びこれに対する平成11年9月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第二 事案の概要 一 争いのない事実等(以下、特に証拠を摘示した事実以外は、当事者間に争いがない。) 1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。) (一) 発生日時 平成10年8月12日午後1時10分ころ (二) 発生場所 京都府京田辺市河原御影36番地の19先信号機により交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。) (三) 車両1 原告林誠宏(当時61歳。以下「原告林」という。)が運転する普通乗用自動車(和泉52ま88。以下「原告車」という。) (四) 車両2 被告株式会社アルファ物流(以下「被告アルファ物流」という。)が使用し、被告木村哲也が運転する事業用普通貨物自動車(京都88あ4455。以下「被告車」という。) (五) 事故態様 原告車が本件交差点に南から北へ時速約10`bの速度で進入したところ、被告車が本件交差点に西から東へ時速35ないし40`bの速度で進入し、本件交差点ほぼ中央において、被告車右前部と原告車左前部とが衝突し、原告車は大破し、被告車は、本件交差点北東角の訴外大西康夫方(京都府京田辺市河原御影36番地の19)の石垣に衝突し、石垣を破損して停止したもの。 2 被告木村及び被告アルファ物流(以下「被告ら」という。)の責任原因(一) 被告木村は、本件交差点に進入するに当たり、徐行することなく時速約35ないし40`bで進行し、安全確認を怠り、本件事故を惹起した過失があるから、民法709条に基づき、本件事故により原告林に生じた損害を賠償すべき責任がある。 (二) 被告アルファ物流は、被告車の運行供用者であるとともに、被告木村の使用者であり、本件事故は被告木村が被告アルファ物流の業務執行中に発生したものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)3条、民法715条に基づき、本件事故により原告林に生じた損害を賠償すべき責任がある。 3 原告林の受傷内容及び治療経過等 (一) 原告林は、本件事故により、頭部外傷、頸椎捻挫、腰椎捻挫、左前腕挫創、左膝挫傷、頸腕症候群の傷害を負い、頭部外傷の結果、慢性硬膜下血腫を惹起した。 (二) 原告林は、次のとおり入通院して治療を受け(入院日数合計76日、通 院実日数合計45日)、平成11年5月15日に症状固定の診断を受けた(証拠略)。 (1) 田辺中央病院 平成10年8月12日から同年8月26日まで入院(15日) (2) 関西医科大学附属男山病院 @ 平成10年8月27日から同年9月23日まで 入院(28日) A 平成10年10月31日から同年12月2日まで 入院(33日) 同年11月2日 穿頭による硬膜下血腫除去術施行 (3) 中村病院 平成10年10月9日から平成11年5月15日まで 通院(実日数45日) (三) 原告林は、自動車保険料率算定会において、症状固定後に残存する症状は外傷性神経症であるとして、自賠法施行令2条別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害別等級表」という。)14級10号に該当する旨の認定を受けた。 4 原告林の損害の填補 原告林は、本件事故に関し、被告らから、次のとおり、合計216万1、607円の支払を受けた(証拠略)。 (一) 治療費 166万1、607円 (二) 内払金 50万円 5 原告日本火災海上保険株式会社と被告アルファ物流との間の保険契約の締結及び保険金の支払 (一) 原告日本火災海上保険株式会社(以下「原告日本火災海上」という。)は、被告アルファ物流との間で、自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した(証拠略)。 (二) 本件事故により、被告アルファ物流は、被告車修理費用110万3、760円、被告車牽引費用9万9、750円、合計120万3、510円の損害を被り(証拠略)、訴外大西康夫は、石垣修復費用12万6、000円の損害を被った。 (証拠略)。 (三) 原告日本火災海上は、本件保険契約に基づき、被告アルファ物流に対して右損害額から免責額10万円を控除した110万3、510円を支払い、訴外大西康夫に対して右損害額12万6、000円を支払った(弁論の全趣旨)(保険金支払額合計122万9、510円)。 二 争点 (甲事件・乙事件に共通の争点) 1 本件事故の態様、原告林の過失の有無、原告林と被告木村の過失割合 (甲事件の争点) 2 原告林の後遺障害の程度 3 原告林の損害額 三 争点に関する当事者の主張 1 争点1−本件事故の態様、原告林の過失の有無、原告林と被告木村の過失割合 (一) 被告ら及び原告日本火災海上の主張 (1) 原告林には、本件交差点に進入するに当たり、安全確認を怠った過失があり、その割合は40%を下らない。したがって、原告林は、民法709条に基づき、本件事故により被告アルファ物 流に生じた損害を賠償すべき責任があり、また、被告木村と連帯して、民法719条1項前段に基づき、本件事故により訴外大西康夫に生じた損害を賠償すべき責任がある。 (2) 原告日本火災海上は、本件保険契約に基づく保険金の支払により、被告アルファ物流及び訴外大西康夫の原告林に対する損害賠償請求権を代位取得したものであり、被告アルファ物流は、原告林に対して、免責分の損害賠償請求権を有する。 よって、原告林の過失割合を考慮し、原告林に対し、原告日本火災海上は、保険金支払額の4割に相当する49万1、804円、被告アルファ物流は、免責額10万円の4割に相当する4万円、及びそれぞれ乙事件訴状送達の日の翌日(平成11年9月15日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (二) 原告林の主張 原告車進行道路の幅員は6・3bであり、被告車進行道路の幅員は4・8bである。 被告車進行道路は、双方通行のできる道路であるから、被告車は左側通行をする義務がある(道路交通法18条)にもかかわらず、被告木村は、右側通行をしたため原告車の発見が遅れ、本件事故を惹起した。被告木村が左側通行をしていれば、本件事故は回避できたか、回避できなかったとしても重大事故にはならなかった。 原告林は、本件交差点に時速約10`bの速度で徐行して進入したところ、被告車に衝突されたものであり、本件事故は、原告林にとって不可避であった。 したがって、原告林に注意義務違反はなく、本件事故は、被告木村の一方的過失によるものである。 2 争点2−原告林の後遺障害の程度 (一) 原告林の主張 (1) 原告林の後遺障害(知性の低下) 原告林は、本件事故後、講演、著述、講義の各活動に戻ろうと何度も試みたが、物事の構築ができず、概念操作ができず、構想力・思考力・記憶力が欠如しており、復旧しない。 (2) 高次脳機能障害 これは、原告林が、頭部外傷に起因して高次脳機能障害を発症した(すなわち、頭部を強く打ち、脳の構造に歪みが生じたことにより、脳の神経細胞のネットワークが切れ、高次脳機能障害が生じた。)ことによるものである。高次脳機能障害は、意欲低下を来たし、精神的不安感を必要以上に誘発する。高次脳機能障害の検査方法としては、WAIS−R検査が用いられているが、これはいわゆるIQテストの一種であるところ、受検者の意思によって低位に変容できることから、客観性を欠く場合が生じる。そこで、原告林の主治医である中村病院の中村清殷医師(以下「中村医師」という。)は、原告林の高次脳機能障害の有無・程度について、原告林の囲碁能力を観察した。囲碁は、気力、大局観、構想力、思考力、記憶力を主とし、集中力、持続力を必要とする。観察の結果、原告林は、囲碁6段であったところ、本件事故後、3ないし4段程度まで低下しており、中村医師は、原告林の知性の低下を正当なものと認めた。 (3) 外傷後ストレス障害 外傷後ストレス障害(Posttraumatic stress disorder以下「PTSD」という。)は、外傷の反復的再体験、外傷に関連する刺激の回避、過覚醒を3大症状とするところ、次のとおり、原告林には右症状がいずれも認められる。 @ 原告林は、本件交差点を進行中、左方から黒い巨大な物体を感じたと思った瞬間、左半身が車体の左内部に激しくたたきつけられ、次いで、その反動で右半身が車体の右内部に激しくたたきつけられて、その後は意識を失った。原告林は、この時の恐怖感を忘れることができず、鮮明な記憶として維持し続けている(外傷の反復的再体験)。 そのため、原告林は、自動車が疾走しているのを見ると強い恐怖感を覚え、自動車を運転することは感情的にも心情的にも不可能であるので、自動車運転免許を更新しなかった。 A 原告林は、無気力であって、体力がなく、外出は週1回程度がやっとである(外傷に関連する刺激の回避)。 B 原告林は、本件事故前は5ないし7時間の睡眠がとれていたが、本件事故後は3時間程度となった。集中力困難と相まって著作活動について現時点では絶望に近い(過覚醒)。 PTSDは、高次脳機能障害、自律神経障害とも相互に関連性があり、環状に連結し、悪化方向へのスパイラルを形成しやすい。 (4) 自律神経障害 原告林の主訴として、集中できない、持続力がない、気力・体力の低下、左頸項部痛・頭痛がある。これらは、交通事故後に見られる自律神経障害で、脊髄を通じて上行性に脳の辺縁系に影響を与え、PTSDを増悪させる。 (5) 以上により、原告林の後遺障害は、後遺障害別等級表7級4号に該当する。 (二) 被告らの主張 原告林の主張は争う。 中村医師の意見書(証拠略)の見解は、原告林の主訴を前提として、個別具体的な診断の結果が記載されているものではなく、一般論として交通事故により高次脳機能障害が発生することがあることを論ずるに過ぎない。 したがって、右意見書は、原告林の自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書及びレントゲン等の具体的な医療資料を検討し、原告林の症状を「外傷性神経症」と認定した自動車保険料率算定会の認定を覆す診断結果とは考え難く、原告林の異議申立てにより新たな認定が出されれば格別、現時点では、自動車保険料率算定会の右認定が正しいものと言わざるを得ない。 3 争点3−原告林の損害額 (一) 原告林の主張 本件事故により、原告林に生じた損害は、次の(1)ないし(8)の合計1億1、078万2、940円である。よって、原告林は、被告らに対し、各自右金員及びこれに対する甲事件訴状送達の日の翌日(平成11年6月23日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (1) 治療費 被告らが負担している。 (2) 入院雑費 11万4、000円 1、500円×76日=11万4、000円 (3) 通院交通費 17万4、000円 @ 関西医科大学附属男山病院分 3、500円×2×3日=2万1、000円 A 中村医院分 自宅から田辺駅までタクシー利用 片道700円 田辺駅から大久保駅まで電車利用 片道200円 大久保駅から中村医院まで 片道800円 片道合計1、700円 1、700円×2×45日=15万3、000円 (4) 休業損害 1、200万円 @ 本件事故前の収入 原告林(在日朝鮮人)は、同志社大学・立命館大学・龍谷大学において哲学・ドイツ語の外国人講師をつとめるとともに、著述業及び反金日成政権の活動家として、次のとおり収入を得ていた。 ア 大学関係 同志社大学 平成9年度給与 111万1、200円(12か月分) 立命館大学 平成9年1月から平成10年3月まで(12か月分)100万0、800円 龍谷大学平成10年1月から同年10月まで(10か月分)58万5、640円 イ 著述関係 原告林には多数の著作があり、本件事故に至るまで約2年間に1冊の割合で著作を出版しており、原告林の著作物の固定読者は出版業界では5、000名と評価されている。 したがって、年間収入(印税10%)は500万円を下らない。 ウ 政治活動関係 原告林は、本件事故前、1か月に1ないし3回の割合で講演の依頼を受けていた。 講演料は平均30万円であるから、原告林は、講演活動により、年間500万円の収入を得ていた。 また、原告林は、反金日成政権政治活動のヘッドであり、原告林の指導する団体の年間予算は約1億円である。原告林自身がその活動費として月額約200万円を使用し、その25%程度が個人的収入となる。すなわち、月額収入は平均50万円を下らず、年額約600万円である。 エ 合計 年収1、695万円余り A 休業損害(症状固定まで9か月間分) ア 大学関係 被告らが負担している。 イ 著述関係 年収500万円÷12か月×9か月=375万円 ウ 政治活動関係 年収1、100万円÷12か月×9か月=825万円 エ 合計 1、200万円 (5) 後遺障害逸失利益 7、541万3、940円 原告林は、後遺障害別等級表7級4号に該当する後遺障害により、10年間にわたり、労働能力を56%喪失した。新ホフマン方式により中間利息を控除すると、後遺障害逸失利益は、次の計算式のとおり、7、541万3、940円となる。 1、695万円×0・56×7・945=7、541万3、940円 (6) 入通院慰謝料 250万円 (7) 後遺障害慰謝料 1、051万円 (8) 弁護士費用 1、007万1、000円 (二) 被告らの主張 原告林の主張を争う。 第三 争点に対する判断 一 争点1−本件事故の態様、原告林の過失の有無、原告林と被告木村の過失割合 1 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。 (一) 本件交差点付近の客観的状況 本件交差点付近の状況は、概ね別紙交通事故現場見取図(以下「別紙図面」という。)記載のとおりである。本件交差点は、アスファルト舗装された平坦な東西に通じる道路(以下「東西道路」という。)と南北に通じる道路(以下「南北道路」という。)が交差する、信号機による交通整理が行われておらず、左右の見通しの悪い交差点であり、周囲は住宅街である。東西道路の幅員は4・7bであるのに対し、南北道路の幅員は6・6bであり、幅員の差が1・9bあり、南北道路の幅員は東西道路の幅員の約1・4倍であることから、南北道路の幅員が「明らかに広い」(道路交通法36条2項、3項)ものと認められる。 なお、本件事故当時、天候は曇りで、路面は乾燥していた。 (二) 被告木村の運転状況 被告木村は、被告車を運転して時速35ないし40`bの速度で東西道路の進行方向右寄りを東進していた。被告木村は、本件交差点を直進するつもりで、別紙図面@地点で自分なりに本件交差点の左右の安全確認をし、交差する南北道路から車両が進行してくることはないと思い、同図面A地点で警笛を鳴らしただけでそのまま進行したところ、同図面A地点から約1・4b進行した同図面B地点で約5・7b右前方の同図面ア地点に原告車の左前角を発見した。被告木村は、衝突の危険を感じてハンドルを左に切ると同時に急ブレーキをかけたが、間に合わず、同図面×地点で被告車右前部と原告車左前部が衝突した。衝突後、被告車は、本件交差点北東角の訴外大西康夫方の石垣に衝突して停止した。路面には、別紙図面記載のとおり、ス1地点からス2地点まで約6・8b及びス3地点からス4地点まで約6・6bの2条のスリップ痕が濃く印象されていた。 なお、同図面A地点からの右方の見通し状況は、約8・3b右前方の同図面P地点まで見通し可能である。 (三) 原告林の運転状況 原告林は、原告車を運転して時速約30`bの速度で南北道路を北進し、本件交差点を直進するつもりで、本件交差点手前で時速約10`bに減速し、徐行しながら左右の安全確認をして進行したが、左方から本件交差点に進入してきた被告車と衝突した。 衝突後、原告車は、衝突地点の同図面×地点から被告車の進行方向に飛ばされ、約7・8b東方の同図面イ地点に車首を東に向けて停止した。路面には、別紙図面記載のとおり、サ1地点からサ2地点まで約4・3bの擦過痕が濃く印象されていた。 2 検討 (一) 以上の認定事実によれば、被告木村には、本件交差点に進入するに当たっては徐行すべき義務があるところ(道路交通法36条3項、42条1号)、徐行せずに時速35ないし40`bで進行し、安全確認を怠り本件事故を惹起した過失があることは、当事者間に争いがない。 別紙図面A地点からは同図面P地点まで見通し可能であるから、被告木村が徐行しつつ右方の安全を十分に確認していれば、別紙図面A地点で原告車を発見して急ブレーキをかけたり左にハンドルを切るなどの措置をとり、衝突を回避することが可能であったと推認されるところ、被告木村は、交差する南北道路から本件交差点に進入してくる車両はないものと軽信し、漫然と時速35ないし40`bで走行した上、同図面B地点に至るまで原告車に気がつかなかったのであり、住宅街で被告車のような大型車が見通しの悪い交差点を安全確認を怠ったまま右速度で直進しようとしたことを考慮すると、被告木村の過失は大きいというべきであり、本件事故の主たる原因は被告木村の右過失にあったものと認められる。 なお、原告林は、被告木村には右側通行をしたため原告車の発見が遅れた過失がある旨主張するが、以上の認定事実によれば、被告木村は、右側通行をしていたが故に、右方の見通しが左側通行をしていた場合と比べて不良となり、原告車の発見が遅れたというわけではなく、そもそも右方の安全確認を怠っていたために原告車の発見が遅れたものと認められるから、原告林の右主張は採用することができない。 (二) 他方、原告林は、徐行してはいるものの、本件交差点進入直後に被告車と衝突していることから、左右の見通しの悪い本件交差点に進入するに当たって左方の安全確認が十分であったとは言い難く、安全確認不十分の過失があると言わざるを得ない。 (三) 南北道路と東西道路の優先関係を踏まえて、以上の被告木村及び原告林の過失を比較すると、被告木村の過失割合を9割、原告林の過失割合を1割とするのが相当である。 したがって、本件事故により原告林に生じた損害について、被告らに負担させるべき損害賠償額の算定に当たっては、1割の過失相殺をするのが相当である。また、乙事件については、原告林の過失割合に応じて、原告林に対し、原告日本火災海上は、保険金支払額の1割に相当する12万2、951円及び遅延損害金を、被告アルファ物流は免責額10万円の1割に相当する1万円及び遅延損害金を、それぞれ請求することができる。 二 争点2−原告林の後遺障害の程度 1 症状及び治療の経過 前記争いのない事実等、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (一) 原告林は、当初は、頸背部痛を主として訴え、平成10年9月23日に関西医科大学附属男山病院を退院してからは、中村病院(担当・中村医師)に通院して、薬物及び物理療法を継続していた。しかし、原告林は、同年10月に入り、階段や道路で左足からすべるように転倒することが何回もあり、歩行障害や発語障害が認められたため、中村医師から関西医科大学附属男山病院脳外科受診を勧められ、同年10月31日から精査目的で関西医科大学附属男山病院に入院した。 原告林は、入院後は抑うつ状態が強く、他覚的うつ気質であることが指摘されている((証拠略)・入院時看護記録)。原告林は、同年11月2日に頭部CT検査を受けたところ、右慢性硬膜下血腫が 認められ、左不全麻痺があり、脳圧迫がかなり強いため、至急に血腫除去術を行うことが必要であると診断され、即日手術が行われた。その後、同年11月4日にドレーンが抜去され、術後評価のために頭部CT検査が行われたところ、偏位はまだ少しあるが改善しており、血腫の深さは縮小してお り、経過は順調で積極的リハビリも可能と評価され、同年11月9日からリハビリが開始された。術後は、それまで見られた情動失禁、抑うつ傾向は鎮静化が見られ、数日後から独歩も可能となった。関西医科大学附属男山病院の担当医師は、同年12月2日の退院時には、「頸部の筋緊張も消失しており、現在は自信が回復するのを待つだけかと思っている。」と判断しており((証拠略)・診療情報提供書)、原告林に対し、「少しずつ自信を持って下さい」と指導した((証拠略)・退院療養計画書)。 (二) 原告林は、平成10年12月2日に関西医科大学附属男山病院から退院した後、中村病院に通院して経過観察を継続した。退院後は、歩行障害・発語障害は次第に改善し、手術から6か月経過後も硬膜下血腫の再発は見られず、平成11年5月15日に症状固定の診断を受けた。 (三) 中村病院の平成11年5月31日に発行された自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(以下「後遺障害診断書」という。)(証拠略)には次のように記載されており、脳の器質的異常所見は全く認められない。 (1) 自覚症状 左頸項部痛、頭痛、両下肢痛、集中力低下 (2) 他覚症状及び検査結果 頭部CT検査 正常 脳波検査 正常 頸椎MRI検査の結果、第4・第5、第5・第6、第6・第7頸椎間に椎間板の突出が認められる。 神経症状 頸部交感神経症状(集中力低下、持続力低下)左大後頭神経痛、左バレールウ症状、左頸肩筋緊張、両大腿部痛(打撲後痛) (四) 原告林は、肉体的には、本人尋問を行った平成12年1月27日の時点では、体調が悪いと左後頸部の痛みが生じるが、頭痛はあまりなく、両下肢痛はもうない状態であると供述している。 しかし、原告林は、症状固定後も、集中力、持続力、記憶力、思考力、想像力、論理的考察力が低下したままであり、概念操作ができず、知性が低下して知的作業ができないと感じており、そのため、新たな著作は断念し、政治的活動からは引退しているが、同志社大学の講師の仕事だけは再開し、平成11年4月から、ドイツ語の初心者用のクラスを週に1回担当している状態である。 2 検討 原告林は、集中力等の低下は、自律神経障害のほか、高次脳機能障害及びPTSDによるものであると主張し、これに沿う中村医師の後遺障害診断書(証拠略)及び意見書(証拠略)を提出するので、以下検討する。 (一) 高次脳機能障害について (1) 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の知見が得られる。 脳は、神経細胞のネットワークを作って高度な記憶や判断をしており、交通事故などで頭を強く打ち、脳の構造に歪みが生じてネットワークが切れると、高次脳機能障害がおこる。切れた回路は、脳のリハビリで少しずつつながると考えられている。 頭部CT検査では異常を認めないにもかかわらず、認知障害を引き起こし得る脳損傷が存在し得る。そして、高次脳機能検査は、頭部CT検査で異常を認めない場合でも脳機能の異常を検出し得ると考えられるところ、高次脳機能検査としては、WAIS−R(Wechsler Adult Intelligence sc ale revised ウェクスラー式成人知能検査)がある。 また、脳は活動に必要なエネルギーをすべてブドウ糖に依存しているため、脳の局所ごとのブドウ糖代謝の解明は脳の機能と活動性の解明に直結するところ、高次脳機能障害の場合は、PET(positron emission tomography 陽電子断層撮影)で調べると脳全体の代謝が落ちているのが分かる。ただし、PETは、多数の装置・機器が必要であり、人手も多く必要であることから、日本では限られた施設で臨床応用がなされているのが現状である。他方、知的機能の評価方法としては、長谷川式痴呆スケール、ミニメンタルテスト、レーブン色彩マトリックス検査等がある。 (2) 以上の知見によれば、原告林のように頭部CT検査で異常が認められない場合でも、高次脳機能障害が存在する場合がありうるが、原告林については、WAIS−RやPET等の高次脳機能検査や、知的機能を評価する検査を全く受けておらず、高次脳機能障害を来していることを示す所見は何ら存在しない。これに対し、中村医師は、WAIS−Rや知能テストを実施していない理由とし て、これらの検査を行っても、原告林は、知的能力が高く、自己に有利なように点数を細工する技術を有しているから、検査やテストを行ってもその結果が信頼できないという趣旨の証言をし(証拠略)、原告林が本件事故前は囲碁が6段の腕前であったのが、本件事故後は、3段ないし4段の腕前に落ちたことは、高次脳機能障害の存在を裏付けるものである旨証言する(証拠略)。 しかしながら、知的能力が高ければ右検査結果をコントロールすることが果たして可能なのか否かについては、これを認めるに足りる証拠はない。この点をひとまず措くとしても、中村医師は、一方で、原告林は知的能力が落ちて「並の人くらい」になっているとも証言しており(証拠略)、そのような原告林について、高次脳機能障害や知的機能の低下を明らかにするために、WAIS−Rや知能テストを実施しない合理的理由は何ら説明されておらず、中村医師の証言は相互に矛盾していると言わざるを得ない。また、囲碁の能力の低下は、原告林が訴える集中力等の低下によるものと考えられるところ、集中力等の低下については、中村医師も指摘するように、高次脳機能障害以外にも原因が考えられるのであって、囲碁の能力が低下している事実をもって、高次脳機能障害の存在を裏付けるものと認めることはできない。さらに、原告林は、本人尋問の際も自分の意見を雄弁に述べるとともに、日常生活には不便しなくなった旨述べており、現にドイツ語の初歩的なクラスとはいえ、大学講師の仕事をこなしているのであって、原告林の症状は、現実に高次脳機能障害と診断された患者が、お茶を入れるコップや、パソコン操作等、日常生活上のちょっとしたことも覚えられない状態にある(証拠略)のとは全く異なると言うほかない。 以上の検討によれば、中村医師の右証言はにわかに採用することができず、原告林が高次脳機能障害を来しており、そのため知的能力が低下していると認めるに足りる証拠はないと言わざるを得ない。 (二) PTSDについて (1) 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の知見が得られる。 PTSDは、強烈な恐怖体験で心に大きな傷(トラウマ)を負い、夢やイメージとしてその出来事を繰り返し再体験する症状(フラッシュバック)などが発生し、生活に支障を来す疾患とされている。 PTSDの具体的診断基準としては、DSM−Wの基準や、世界保健機構の基準などがある。その特徴は、何らかの外傷的事件への曝露が、障害の原因として明確に規定されていることであり、PTSDは、外傷の反復的な再体験、外傷に関連する刺激の回避、過覚醒を3大症状とする。 (2) 原告林は、「本件事故そのものは思い出したくもない。」「今でも舗道を通るときは怖く、田舎町を歩いているときは、竹刀を持ち歩き、車が来ると木刀で車をとめる。」などと供述するが(証拠略)、自動車運転免許証を放棄したのも、自動車に対する恐怖心から運転することが感情的にも心情的にも不能であるからというわけではなく、警察の取調べの際、自己の注意義務違反がどこにあるかを問われて、自分が今後加害者にならないためには、運転免許を放棄するのが一番良いと判断したからであり(証拠略)、また、通院の際にはタクシーを利用していることから、自動車に対する恐怖心がそれほど強いとは認め難く、PTSDに特徴的なフラッシュバックといった症状も認められない。また、原告林は、本件事故以前から1日3時間程度しか眠らなかったので、不眠の状態は本件前後で変わりないと供述しており(証拠略)、過覚醒の症状も認めがたい。 したがって、原告林の症状は、PTSDの診断基準を満たすものとは認められない。 (3) PTSDとの診断名が記載された中村医師作成の後遺障害診断書(証拠略)は、発行日が平成11年5月31日と記載されてはいるが、実際には、自動車保険料率算定会における後遺障害等級認定に対する異議申立てによっても等級が変更されなかったため、原告林が平成12年4月に再度の異議申立てをした際に、追加提出されたものである。右後遺障害診断書は、真に平成11年5月31日に発行された中村医師作成の最初の後遺障害診断書(証拠略)の「他覚症状及び検査結果」欄に「STSD(PTSDの誤記と思われる。)あり。高次脳機能低下。頸部神経症状とPTSD及び高次脳機能低下は互いに影響し合っている。」と追記し、「障害内容の増悪・緩解の見通し」欄に「症状固定回復の見込なし」と追記したものである(証拠略)。 中村医師は、平成11年5月31日と右追記の時点とでは、原告林の症状に全く変わりはないとしつつ、平成11年5月31日の時点ではPTSD及び高次脳機能障害という診断名を記載しなかったにもかかわらず、後になって右診断名を追記した理由について、平成11年5月31日の段階ではPTSDや高次脳機能障害が一般に認知されていなかったが、右追記の時点ではこれらが社会的に認知されてきたからである旨証言する(証拠略)。しかしながら、医師の医学的診断が疾患の社会的認知の有無に左右されるとは考えがたい上、我が国では、特に阪神大震災が契機となってPTSDが社会的注目を集めるようになったのであり、交通事故の後遺障害としてPTSDを認めた裁判例 も既に平成10年6月には出ており(証拠略)、平成11年5月31日の段階でPTSDが社会的に認知されていなかったとは認められない。したがって、中村医師が平成12年4月ころに至ってPTSDとの診断名を追加した合理的理由は何ら明らかではなく、また、同医師がいかなる診断基準に基づいて原告林の症状をPTSDと診断したのかも何ら明らかではないから、中村医師のPTSDとの診断が正当なものかについては疑問がある。 (4) 以上の事実関係からすれば、原告林の症状がPTSDに該当するとは認められず、その他に原告林の症状がPTSDに該当すると認めるに足りる証拠はない。 (三) 以上のとおり、原告林の集中力等の低下の症状が高次脳機能障害やPTSDに該当するものと認めるに足りる証拠はないが、原告林は、本件事故前には右症状がなかったにもかかわらず、本件事故後は、右症状のため現実に社会的活動が大幅に制限されるに至っていることを斟酌すると、本件事故を契機として、右神経症状を呈するに至ったものと認められる。 原告林には脳の器質的異常を示す所見は何ら認められないから、原告林のこのような神経症状の発症は、脳の器質的変化に基づくものではなく、心因的要因によるものと認められる。そして、原告林は、「頭を3時間半もかかって切ったというのはどこかおかしいんじゃないかと思う。」などと頭部の手術を受けたことから何らかの異常を来したのではないかと強い不安を感じていることが伺われ(証拠略)、関西医科大学病院附属男山病院の入院診療録には、「不安神経症」という診断名も 見られ、他覚的うつ気質であることが指摘されていることなどを考慮すると、原告林の右症状は、本件事故に起因する心因反応であるところの外傷性神経症ととらえるのが妥当であり、自動車保険料率算定会の後遺障害等級表14級10号に該当する旨の認定は妥当であり、これを覆すに足りる証拠はない。 三 争点3−原告林の損害額 1 治療費 166万1、607円 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告林は、症状固定に至るまでの治療費として166万1、607円を要したことが認められ、右費用については、本件事故と相当因果関係が認められる。 2 入院雑費 9万8、800円 前記争いのない事実等によれば、原告林は、本件事故による受傷のため合計76日間の入院を余儀なくされたことが認められ、この間の入院雑費としては1日当たり1、300円を認めるのが相当であるから、本件事故と相当因果関係の認められる入院雑費は、次の計算式のとおり、9万8、800円となる。 1、300円×76日=9万8、800円 3 通院交通費 10万4、600円 (一) 関西医科大学附属男山病院分 6、000円 原告林は、関西医科大学附属男山病院に3日間通院するのに要した交通費を損害として主張するが、証拠上、入院期間外に通院したのが認められるのは、平成10年10月7日の1回のみである(証拠略)。 そして、当時、原告林は慢性硬膜下血腫により歩行に支障があり、バスや電車に乗ることができず、同病院が交通の不便な場所にあるため、タクシーを利用する必要があり、タクシー代として片道少なくとも3、000円を支払ったことが認められる(証拠略)から、往復6、000円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認める。 (二) 中村病院分 9万8、600円 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、中村医院への通院実日数45日のうち、平成10年10月30日から同年12月1日までの16日間は、電話での診察ないし入院中の往診であるから、通院交通費を要する通院実日数は29日間と認められる。 そして、弁論の全趣旨によれば、原告林は、中村病院に通院するのに片道1、700円を要したことが認められるから、本件事故と相当因果関係の認められる通院交通費は、次の計算式のとおり、9万8、600円となる。 1、700円×2×29日=9万8、600円 4 休業損害 349万3、615円 (一) 基礎収入について 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故に至るまで、原告林は、同志社大学・立命館大学・龍谷大学の外国人講師としてドイツ語及び哲学を教授し、ドイツ語文法等の教科書や哲学書を出版するとともに、反金日成主義の政治的活動家として、多数の著作を発表し、また、各地での講演活動を行っていたが、大学講師の職は、本件事故後の平成10年11月ないし12月にいずれも解嘱されたことが認められる。 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告林は、本件事故前、同志社大学から平成9年1月から同年12月までの給与として合計111万1、200円、立命館大学から平成9年4月から平成10年3月までの給与として100万0、800円、龍谷大学から平成10年4月以降は給与月額5万7、400円(年収に換算すると68万8、800円)の支給を受けていたことが認められ、本件事故当時の大学講師としての収入は年間280万0、800円と計算される。 原告林は、このほか、著述業から年間500万円、政治活動(講演活動も含む。)から年間1、100万円の収入があったと主張するが、右収入を客観的に把握することができる証拠は何ら提出されておらず、原告林の右主張を採用することはできない。また、原告林が政治活動(講演活動を除く。)からの収入と主張するものは、同胞からの政治活動に対する献金(寄付)であること(原告林本人)を考慮すると、そもそも右収入を原告林の労働の対価ととらえることは相当でないというべきであ る。ただし、原告林は、各地での講演活動によりある程度の収入を得ていたことが推認され、本件事故後も講演依頼を受けていること(証拠略)、本件事故当時、思想的自伝等の執筆依頼を受けており、新たに著作を発表すれば印税収入もある程度は得られたこと(証拠略)を考慮すると、本件事故に遭わなければ、大学講師としての収入に加えてある程度の収入を得られたものと推認され、労働の対価たる収入としては、同年齢男子労働者の平均賃金を得られた蓋然性を肯定することができる。しかしながら、原告林が右平均賃金以上に収入を得られたと認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、休業損害の算定に当たっては、平成10年賃金センサス第1巻・第1表産業計・企業規模計・学歴計・60歳ないし64歳の男子労働者の平均賃金460万3、500円を基礎とするのが相当である。 (二) 休業期間 前記認定事実によれば、原告林は、本件事故による受傷のため、本件事故の日から症状固定に至るまでの277日間、休業を余儀なくされたことが認められる。 (三) 損害額 以上を前提とすると、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、次の計算式のとおり、349万3、615円となる。 460万3、500円÷365日×277日=349万3、615円 5 後遺障害逸失利益 177万7、342円 前記認定の原告林の後遺障害の内容及び程度によれば、本件事故と相当因果関係のある労働能力喪失の割合は5%と認めるのが相当である。また、原告林は、症状固定時62歳であり、平成10年簡易生命表によれば62歳男子の平均余命は19・40年であるから、そのおよそ2分の1に当たる10年間は就労可能と推認されるところ、心因性の後遺障害の予後は必ずしも良好ではないと考えられることから、労働能力喪失期間は、症状固定から10年間と認めるのが相当である。 以上をふまえて、前記4(一)で認定した収入額を基礎とし、ライプニッツ方式を用いて中間利息を控除すると、後遺障害逸失利益は、次の計算式のとおり、177万7、342円となる。 460万3、500円×0・05×7・7217=177万7、342円 6 入通院慰謝料 160万円 前記第二の一3の治療経過(なお、(証拠略)によれば、中村医院への通院実日数のうち、平成10年10月30日から同年12月1日までの16目間は、電話での診察ないし入院中の往診である。)を考慮すると、入通院慰謝料として160万円を認めるのが相当である。 7 後遺障害慰謝料 100万円 前記認定の原告林の後遺障害の内容及び程度を考慮すると、後遺障害慰謝料として100万円を認めるのが相当である。 8 過失相殺 以上の1ないし7の損害の合計は973万5、964円となるところ、前記一で判示したとおり、被告らに負担させるべき損害賠償額の算定に当たっては、1割の過失相殺をするのが相当であるから、これを控除すると、過失相殺後の損害額は、次の計算式のとおり、876万2、367円となる。 973万5、964円×(1−0・1)=876万2、367円 9 損益相殺 前記第二の一4で認定したとおり、原告林は、本件事故に関し、既に216万1、607円の支払を受けているから、右の限度で損害の填補を受けたものとして損益相殺するのが相当である。そうすると、損益相殺後の損害額は、次の計算式のとおり、660万0、760円となる。 876万2、367円−216万1、607円=660万0、760円 10 弁護士費用 本件事案の内容、審理の経過、認容額その他本件に顕れた事情を総合考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として66万円をみとめるのが相当である。 11 合計 726万0、760円 第四 結論 一 甲事件について 原告林の請求は、被告らに対し、各自金726万0、760円及び甲事件訴状送達の日の翌日である平成11年6月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 二 乙事件について 原告日本火災海上の請求は、原告林に対し、金12万2、951円及びこれに対する乙事件訴状送達の日の翌日である平成11年9月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、被告アルファ物流の請求は、原告林に対し、金1万円及びこれに対する右同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 (口頭弁論終結の日 平成12年6月29日) 京都地方裁判所第4民事部 裁判官 三木素子 |
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