交通事故 保険請求センター

『 交 通 事 故 Q & A 』

< 民法・不法行為法・自賠法・PL法等(損害賠償法基礎講座 )>
根角事務所主催交通事故業務ネット講座テキストより抜粋

 此処での解説はあくまでも基本的な部分です。賠償法及び交通事故賠償法全般にわたる実際の業務に対応する保険請求実務や判例等について学習したい方は、根角行政書士事務所主催の『法律資格者交通事故業務ネット講座(各種MLによる通信教育)』の受講をお勧め致します。講座申込のご案内はこちらをご覧下さい。

2.【賠償法の纏め】

(1)法律上の損害賠償責任(基本的事項)

  甲がサッカーボールを蹴っていたところ、その蹴ったボールが乙(他人)の顔面に当たり負傷させてしまった場合、甲は乙の負傷につき損害を賠償しなければならない。また、甲が乙からカメラを借りていたが、そのカメラを不注意で遺失した場合、甲はそのカメラを弁償しなければならい。このように、違法な行為によって他人に損害を与えた場合には、加害者は、被害者に対してその損害をてん補しなればならず、これを法律上の損害賠償責任というのであるが、この法律上の損害賠償責任を発生させる原因の主たるものは次項のとおり整理することができます。なお、商法やその他の特別法上のものは割愛しています。

(2)法律上の損害賠償責任の発生原因

   ●法律上の損害賠償責任

     
◎不法行為責任
       〇民法
         一般的不法行為(709条)
         特殊不法行為責任(714条〜)
       〇特別法
         自動車損害賠償保障法
         失火責任法
         製造物責任法 他      
     ◎債務不履行責任
       〇民法
         債務不履行(415条)
       〇特別法
     ◎損害担保契約


  このうち、損害賠償の発生原因として最も重要なものは、不法行為と債務不履行であるといえますが、一般に、前記(1)の例で甲の乙に対する傷害を負わす行為のように、特定の契約関係の有無にかかわらず、広く不特定の者との間において生じ得るのが不法行為責任であり、甲が乙から借りていたカメラを遺失した場合のように、特定の契約によって債権者と債務者の間に限って生じる場合の賠償責任が債務不履行責任です。

 これらのことは今更いうまでもないことですが、ちなみに賃借している借家が隣家の火の不始末による失火(過失)で類焼した場合、借家を類焼により消失した賃借人の責任はどうなるでしょう。また、隣家の火の不始末が隣家の重過失によるものである時はどうなるでしょう。あるいは借家人自身が火の不始末で借家を消失させた場合、借家人の責任はどうなるでしょう?これらは、それぞれ適用のある法律によって、その賠償責任の発生原因が変わってきます。
  
(3)不法行為に関する規定の纏め

 @ 不法行為条文(民法709条)中要件の該当性について

  一般的不法行為が成立するためには、加害者に不法行為責任が認められること、すなわち損害賠償責任が認められるためには、加害行為につき故意又は過失の有無につき判断されるところであるが、「故意」とは、行為者の行為により「一定の結果が発生すること」を知りながら、それでもよいと容認し、その行為を敢えて行うという心理状態を指すが、ここで、「一定の結果が発生すること」というのは、「他人の権利・利益を侵害すること」であり、「知りながら」というのは、「認識しながら」又は「予見しながら」ということにほかなりません。

  また、「過失」とは、行為者の行為が「一定の結果を発生させること」を「認識」ないし「予見」することが可能であったのに、すなわち、そのことを「認識すべきであった」のに、「注意を欠き」、そのことを「認識することなく」、その「行為をする」ということでありますが、

  これら、一般的不法行為の成立要件を規定している民法709条の要件を分解すると次のようになります。

 T 「故意又は過失」によりて、
 U 「他人の権利を侵害」したる者は、
 V 「之に因り」て
 W 「生じたる損害」を賠償する責めに任ず。

  と規定していることから、一般的不法行為が成立するためには、これらの要件の全てに該当することを要するのですが、構成要件に該当するだけでは、損害賠償責任が発生するとはいえず、行為者の能力については、責任能力(民法712条・713条)があることも要件となる(ただし、民法714条により監督義務者が責任を負う)ほか、さらには、上記VとWについては、その「因果関係」につき立証することが必要となります。

 A 「事実的因果関係」と「相当因果関係」について

  このように、不法行為責任が発生するためには、損害が加害行為によって発生したものであること、すなわち、加害行為と損害との間に因果関係があることが必要であるから、不法行為の成立要件としての因果関係の問題は、「損害発生の原因は何か」、「誰が加害行為を行ったのか」という「原因の特定」の問題であるといえます。これを「事実上の因果関係」と言いますが、これは、所謂「相当因果関係」とは異なるという区別において意義を有するものです。

  例えば、Aの行為がなかったら、Bの損害は発生しなかっただろうといえる場合、これを「事実上の因果関係」というのですが、しかし、「損害賠償責任の範囲」は、この「事実上の因果関係」により認定されるものではありません。

 そのことは、例えばAが自動車を運転中、速度の出しすぎで、B運転の前方車両に追突し、その衝撃でBを負傷させたところ、Bが救急車で病院に搬送される際に、落雷に遭い死亡したというような場合、「A車が速度を出しすぎてB車に追突しなかったら、Bは病院へ搬送されることはなく、したがって、落雷に遭うこともなかったので、Yは死亡することはなかった」といえるので、このような考え方、すなわち、「事実的因果関係」によりAがBの損害の全てにつき賠償責任を負うとするのは妥当ではないという常識的といえる考え方があるからです。

 ちなみに、昨年(平成15年10月)の東京におけるネット講座オフセミナーの「質問会」では、「風桶論(風が吹けば桶屋が儲かる)」とは?という質問を受けた際にお答えしたことではありますが、これが、上記の例でいうBの損害については、Aがその全てにつき賠償責任を負うという場合には、その根拠としては、「事実的因果関係」によるところ、AはBの損害につき、それがAの不法行為を起点として、以後、発生する損害の全てにつき賠償責任を負うというものであり、そのような喩えにつき、そのことを比喩でもって表わしているのが「風桶論」といわれるものです。

 この比喩は「我妻榮 新版民法案内 Z 『民法の道しるべ 債権総論 上』コンメンタール刊行会/一粒社 昭和54年4月10日第1版の226頁」、「同 我妻榮著 民法案内 5−1 債権法総論 上 水本浩補訂 1990年10月15日第1版4刷 362頁」によるものですが、その内容は、「大風が吹くと桶屋がもうかるという語がある。自然界の因果の進展は、全く予想を越えて拡がってゆく。大風が吹けば桶屋がもうかるというのは、そういう可能性があることを比喩的にいったもので、現実にそうなるかどうかは別問題だろうが、・・・」というようなことです。

 この比喩の具体的内容を推測するに、「風が吹けば・・・例えば砂埃が眼に入り、・・・やがては失明する人が増え、・・・そして・・・失明した者は・・・何かに突き当たり怪我をすることとなり、・・・その結果、死亡に至る者が増えるので・・・棺桶を売る者が儲かる」というようなことですが、

 これを、現代風にいうと、例えば、「親孝行なサラリーマンが長い間かかって金をためて、それで住宅と病室を造った。両親は非常な老人、父親は命旦夕に迫っている病人だが、むすこの造った『自分の家』で養生することを喜びとして、1日千秋の思いで完成を待っていた。ところが、約束のときに家屋ができない。あと1月、あと1月と、とうとう半年延びてしまった。老父は、待ち切れないで、残念がって死んでしまった。そのうえ老母はこれに同情して、快々として楽しまず、健康をそこねて、これも死んでしまった。最後の親孝行をしようと思ったむすこは、はかりしれない精神的苦痛を感じた。」(前記紹介の債権総論262頁〜263頁より)

 「ある事実がなかったならば、そういう結果にはならなかったろうというつながりがあれば、その事実と結果との間に因果関係があるといわねばならない。そうすれば残念がって死ぬことはなかった。そうすれば老母も悲歎にくれて早く死ぬことはなかった。そうすればむすこも精神的な苦痛を受けなかった・・・こうした関係があるのだから、すべては六ヶ月遅れたという債務不履行によって生じた損害である。しかし、それをすべて賠償すべし、といったのでは、公平に反する。債務不履行と因果関係のない損害の賠償を請求することはできない。そこに適当な制限を加えなければならない。」(同 債権総論263頁より)というのが、このような場合においては、「事実的因果関係」によらないこととする。それが所謂「相当因果関係」の問題です。 

 「相当因果関係」については、これまで本講座でも機会あるごとに何度も解説してきたところですが、これは、「損害発生の事実(の立証)」と合せ、実務においては「具体的損害の範囲(損害額)」を把握する上では最も重要なことであるといえます。

 ちなみに、前記の例(Bが事故後、病院に搬送される際に落雷で死亡したこと)を、実務上、しばしば遭遇するような例に置き換えてみると、どのような場合が問題となるでしょうか?

 B 「特殊なケースにおける時に曖昧な因果関係(裁判所や裁判官ごとのバラツキ=裁判官ごとの独自の判断)」について

 例えば、Aの追突により、追突されたBが軽度のむち打ち症(他覚所見が得られない程度の)傷害を被ったという場合、「事実的因果関係」については、一応は、BはAに対して「Aが追突しなければ、自分はむち打ち症にはならなかったであろう」ということがいえます。しかし、この「Bの主張は損害の範囲としては、どこまで認められるのか」、ということになると、実際の問題としは、そう単純なことではありません。

 例えば、Bの自覚愁訴が何時まで経っても消失せず、そのため長期にわたり病院に通い続けることとした場合、「事実的因果関係」によれば、Bは、Aが追突しなければ、病院に通い続けることにはならなかった。その結果、Bに生じた損害の全てにつき、Aが賠償責任を負うとすれば、どのような問題があるといえるでしょう?

 このような場合、「他覚所見が得られないむち打ち症」について判例では、「治療に要する必要かつ妥当な通院期間は概ね3ヶ月間が相当である」という判断を示しているものがありますが、これは損害賠償の範囲につき、単に「事実的因果関係」を否定したり、「相当因果関係」の範囲を制限していることによるものではありません。

 これは、あくまでも「他覚所見の得られないむち打ち症」である場合の判断であり、その意味では「相当因果関係」に拠るものとはいえません。つまり「相当因果関係」によるものであるとすれば、そもそも「他覚所見が得られないむち打ち症」は、事故との因果関係につき証明がつかない場合、あるいは立証が困難な場合には、「不法行為による人的損害」自体が認め難いということになります。

 このことは不法行為の成立要件としては、現実に損害が発生したということの証明を要することでは、例え故意や過失による行為があっても、その結果として何らかの損害が発生していなければならず、損害発生につき立証がなければ不法行為責任が発生する余地はないということになります。

 そうすると、このような「他覚所見が得られないむち打ち症」については、「被害者にとって、その症状原因を特定し、因果関係を明らかにすることが医学的に困難な場合」と捉え、「他覚所見が得られないむち打ち症」は、本来ならば通常は統計的にみて、2〜3週間で治癒するものであるといわれているが、これを単に「相当因果関係」の問題として捉えるのではなく、「医学的知見のみでは捉えることのできない所謂『グレーゾーン』にあるもの」として捉え、そのよ場合、通院治療に要する妥当な期間は、一定期間(厳密には事案ごとに裁判官が認定する期間)をもって限度とするというのが現状であるといえます。

 このような「他覚所見の得られないむち打ち症」の治療期間に関する判例は、相当因果関係における「通常損害」や「特別損害」のいずれにも当てはまらないケースであるといえることから、その場合の損害の判断基準は、ある意味、裁判官独自の判断によるによるものといえます。(注:このような裁判官独自の損害の程度、範囲等の認定は因果関係論とは直接結びつかないものとして捉えれば、これは「特殊なレベルのもの」として見なければなりませんが、これはあくまでも私見です。

 通常、診断書やレセプトのほか医師の意見書等の証明力につき争われることが多いのですが、これら医療情報自体が証拠として不十分なものである場合には、そのときは単なる立証不足として請求が棄却されることになります。尤も立証ができない場合には「既往症」や「心因反応による症状」につき原因を探るなど、すなわち「素因減額」により調整を図るというのが普通ですが、いずれにしても、これらの問題は医学的専門的知見にかかることだけに交通事故賠償には絶えず付き纏う困難な課題であると思います。また、実際的には裁判官次第ということもあり、多くの場合、傷害の程度、被害者の病状の変化、治療経過等、全体像を見た上で総合考慮するとしても、中には医学的解明が極めて困難なケースでは、裁判官ごとの判断のバラツキを増幅させることになり、この点、ときに場当たり的な判例が出現することがありますが、しかし、それが判例の全体的傾向であるというわけではありません。


 ちなみに、最近全国的に広がりつつある脳脊髄液圧減少症にかかる判例のうち、リーディングケースと言われるものがあります(横浜地裁 平成17年12月8日判決(参照=末尾掲載の判例紹介)交通事故判例速報bS78号より 参考文献=週刊自動車保険新聞(2006年3月22日) 今井佐和子弁護士の解説あり)。同判例は脳脊髄液圧減少症であるか否かにつき、及び事故との因果関係につき、画期的な判断基準を示すものであると評価されていますが、そこで、同判例が示めした基準との符合性につき、他の事例について見ると、その殆どが明確なる判断基準を示さず安易とも言える判決を下しているのではないかという疑念が持たれます。これらは、どちらかといえば私どもがみれば裁判官は世論に押されて仕方なく交通事故被害者に同情的な判決を下しているのではないかという見方もできなくありません。

 尤も、このようなバラツキは立証責任の分配における必然的結果であると言えなくもなく、むしろ、立証責任の分配の原理からすれば被害者が最善を尽くしても文字通り証明ができない場合は、敢えて被害者に立証責任を負わせる必要はなく、つまり、立証を尽しようにも科学的には立証が不能であるという場合でも、結果的には一切請求を認めないということでなく、そのような場合には公平の理念に照らし、被害者が一定のレベルまでの立証をすればよく、そして、裁判官は損害賠償責任を肯定したうえで、どの程度賠償させるべきかという判断さえすればよく、特に前記脳脊髄圧減少症のように医学的解明が極めて困難なケースにについては、その傷害や後遺障害を認定する上での判断基準まで明確にする必要はないということなのかも知れません。ただし、このような考え方に対しては法的公平性・安定性を欠くのではないかという懸念が全くないというわけではありません。

 C 「不作為不法行為における事実的因果関係」について

 「期待される作為がなされたとすれば、結果の発生が防止されたであろうと判断される場合に、不作為と結果との因果関係が認められるとする。」というのが、「不作為不法行為における事実的因果関係」の問題ですが、「不作為不法行為における事実的因果関係」に関する判例としては、医療事故の例で注目すべき判例及び解説がありますので、抜粋し、紹介しておきます。(別冊ジュリスト 160 2001年10月号 民法判例百選U 債権[第五版]168〜169頁「因果関係の立証」 新見育文明治大学教授の解説参照)

  【判決要旨】

   破棄差戻し。

   「訴訟上の因果関係の立証は、・・・(中略)経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし、かつ、それで足りる。」・・・「右は、・・・(中略)経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し、・・・(中略)との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである。」
  (最高裁平成11年2月25日第一小法廷判決 民集53巻2号235頁)(最高裁昭和48年(オ)第517号同50年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照)

  【解 説】

   「・・・ところで、不作為不法行為の事実的因果関係に関しては、その判定の問題以前に、事実的因果関係それ自体が認められるかという理論的問題が指摘されている(前田達明・民法Y2 109頁)。判例・通説は、作為義務において『期待される作為がなされたとすれば、結果の発生が防止されたであろう』と判断される場合に、不作為と結果との因果関係が認められるとする(大審院大正7年7月12日 民録24輯1448頁、四宮和夫・不法行為法414頁)。作為の場合になぞらえて、因果関係を観念するのである(前田・前掲109頁)。しかし、近時、因果関係が存在しないのが不作為不法行為の特徴である(前田・前掲109頁)、不作為の因果関係として論じられてきたものは過失の程度または範囲の問題として考えれば足りる(平井宣雄・債権各論U83頁、同旨・中井美雄・不法行為法 事務管理・不当利得 111頁 植木)といった主張がなされている。」 

  作為義務の内容となる作為の因果関係の起点とする限り、近時の学説の批判は的を得ている。しかし、作為義務の内容となる作為を起点にすることが理論的に適切かは疑問である。『ある行為を行えば結果を回避できたか』と、『その行為を行うべきであったか』とは別次元の判断である。不作為不法行為の因果関係を作為不法行為のそれに擬するならば、ある作為を措定し、それが結果回避を可能にしてかどうかを問題にし、その後に、当該作為を法的に義務づけるべきかどうかが論じられるべきである。判例・通説の趣旨をこのように捉え直せば、不作為不法行為においては因果関係は存在しないとか、作為義務の問題として考えれば足りるということにはならないと考える。
  == 以下省略 ==

 D 一般的不法行為の成立要件である責任能力について

   「責任能力」とは、違法行為による民事責任(不法行為責任)又は刑事責任を負う能力をいいます。民法上の責任能力とは、「行為の責任を弁識するに足りる知能、すなわち自己の行為が不法な行為として法律上の責任を生じることを理解する精神能力」を指し、これを「責任弁識能力」といいます。
   
   この「責任弁識能力」を欠く未成年者や心身喪失者は、不法行為による損害賠償責任を負いません(民法712条・713条)が、このうち、未成年者の責任能力の有無については、意思無能力の場合と同様、何歳までを責任弁識能力なしとする。というような明確な定めはありません。したがって、未成年者の責任弁識能力の有無については、事案ごとに具体的な場合に即して判断され、判例では概ね12歳前後から責任能力を有するものとみられています。

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 【参照判例】
 
【責任能力を肯定した例】

 知能がすでに事の是非善悪を識別できる程度に発達していれば責任能力を有するから、11歳11ヶ月の少年店員が、使用者のために自転車で物を運搬中他人を怪我させた場合には、右店員は責任能力を有し、使用者は責任を負う。(大審院大正4年5月12日判決 民録21巻692頁)

【責任能力を否定した例】

 12歳2ヶ月の少年が友人と遊んでいて「撃つぞ」といって空気銃を友人の顔に向け引き金を引いて友人の左眼を失明させた場合、この少年には責任能力がない。(大審院大正6年4月30日判決民録23巻715頁)

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 ちなみに、この「責任弁識能力」と異なるものに「意思能力」という用語がありますが、これは、主に契約などの法律行為について、行為の結果を判断することができる「精神能力」の程度を指し、このような能力がない状態を「意思無能力」といいます。この「意思能力」についても、何歳までを意思能力なしとする。というような明確な定めはありません。したがって、未成年者の「意思能力」の有無についても、事案ごとに具体的な場合に即して判断されますが、民法の教科書では、制限能力(行為能力)制度のことを別として考えると、6〜7歳であれば取り引き(契約)をなし得る意思能力があると書かれています。(民法T [第2版]補訂版 総則・物件総論 内田貴著101頁)

 この点から、「責任弁識能力」と「意思能力」を比較、考察すると、「意思能力」のない者は、当然に「責任弁識能力」なし。ということ(もちろん解釈が可能)になります。

  そこで問題となるのが、未成年者が「責任弁識能力」を有していない場合においては、未成年者自身は賠償責任を負わないことになり、あるいは「責任弁識能力」を有している場合でも、賠償能力がない場合、その未成年者の不法行為により被害を被った者の救済策は如何?ということになりますが、この点については、次項(4)の「特殊不法行為責任」の項で解説します。(また、既述のネット講座【00175】【2】未成年者に賠償能力がない場合を参照して下さい。)

(4)特殊不法行為責任

 @ 特殊不法行為責任

 A 「責任無能力者の監督者の責任」について

   民法714条1項では、「責任弁識能力」を有していない未成年者や心身喪失者が不法行為により他人に損害を与えたとしても、その者は損害賠償責任を負わないが、その者にかわって、その者を監督すべき法律上の義務のある者(親や後見人)が、その損害を賠償する義務を負うと規定しています。

 B 「補充責任」について

  このように未成年者に責任弁識能力がないときにのみ本条が監督義務者に賠償責任を負わしていることを「補充責任」といいます。

 さらに、同条2項では、その者を監督すべき義務のある者(親や後見人)にかわって、監督する義務のある者(幼稚園の園長、小学校の校長、教員、精神病院長、医師等の代理監督者)も同様の責任を負うと規定しています。

 C 「中間責任」について

 前記に対し、同条2項の但し書きでは、監督する義務のある者が、義務を怠らなかったときは、(そのことを証明すれば)責任を負わないと規定しています。したがって、本条に規定する監督義務者の責任は無過失責任を規定しているものではありません。

 このような責任を「中間責任」といいます。しかしながら、この本条における「中間責任」というのは、有名無実に等しく(注:下記参照)、それは、法定監督義務者は、「責任能力」を有しない者の当該行為についてのみではなく、広く責任弁識無能力者の生活全般にわたって、これを監督する義務があるとされている点、実際上は監督者として義務を怠らなかったこと(過失がなかったこと)を立証するのは、極めて困難なことであり、判例上でも本条但し書きについては「未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係をみとめうるときは、監督義務者につき民法709条に基づく不法行為が成立するものと解するのが相当であって、民法714条の規定が右解釈の妨げとなるものではない。」と判示しています。
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【参照判例】

 未成年者が責任能力を有する場合であっても、監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認めうるときは、監督義務者につき本条に基づく不法行為が成立する。(最高裁昭和49年3月22日第二小法廷判決 民集28巻2号347頁)
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 なお、交通事故の事案に関して「責任弁識能力」を有する未成年者等であっても、その者が賠償能力を有していない場合における監督義務者の責任については、既述のネット講座【00175】【2】未成年者に賠償能力がない場合を参照して下さい。

(注)民法714条は、未成年者が責任能力を負わない場合にのみ監督義務者に賠償責任を負わせるという補充責任の規定であることから、未成年者に責任能力がある場合には、監督義務者も並列して責任を負うという解釈は成立しないという問題提起がしばしば起こりがちです。

  この規定をそのまま解釈すると、仮に未成年者に責任能力がある場合で、その者に賠償能力がない場合においては、被害者は救済されないことになります。また、未成年者に責任能力がある限りにおいては、監督義務者が監督義務に違反していた場合でも、監督義務者は責任を免れることになります。

 この点の矛盾につき京都大学の前田達明教授は、次のような解説をしています。(別冊ジュリスト 
160 2001年10月号 民法判例百選U 債権[第五版170頁)

 【解説】

 1.民法712条は、未成年者が不法行為時に責任能力(違法性認識能力)。
前田達明・民法Y2(不法行為法 1980年 58頁)を有しないときは、賠償責任を負わないと規定し、民法714条1項は、この民法712条を受けて「[民法712条]の規定に依り無能力者に責任なき場合に於いて」監督義務者は被監督者が第三者に加えた損害の賠償義務を負うと定め、但書において「監督義務者が其義務を怠らざりしときは」免責されるとした。

 したがって、民法714条の責任は補充責任であることが法典上明らかである。この点、日本民法の母法たる、フランス民法においても、(1384条は、他人の行為についての責任の一つとして、父母と同居する未成年者の惹起した損害について父母が責任を負うことを定める)、そのフランス民法を継受した旧日本民法においても(旧民法371条・372条・376条参照)、ドイツ民法においても(832条は未成年者などの被監督者の加害行為について監督義務者は賠償責任を負い、義務を尽くしたか、相当な監督をしても損害が生じたときにのみ免責されると定める。なお、829条・940条参照)、未成年者の責任能力の有無を問わない。すなわち、補充責任とはしていない。

 2.そこで、日本民法の解釈論として、未成年者が不法行為当時責任能力を有していた場合(大体、小学校を終える12歳位には、責任能力を有すると解されている。前田・前掲書61頁)、その監督義務者が未成年者と並んで賠償責任を負うかということが問題となる。

   法典上は、規定がない。したがって、かつての通説(鳩山秀夫・日本債権法各論 1922年 901頁)・判例(大審院明治33年4月30日 刑録6輯4巻82頁)は、未成年者に責任能力がある場合、監督義務者の責任を否定した。

 3.しかし、そう解すると、次のような問題が起こる。

@ すなわち、被害者は、責任能力ありとして未成年者を訴えるべきか責任能力なしとして監督義務者を訴えるべきなのか迷わざるをえず、その責任能力の有無は事実問題として裁判所の判断を待つべき問題で、結局、被害者は敗訴の危険を負うことになる(主観的予備的併合は、民訴手続上認められていない)。

A 責任能力ありとされた未成年者に資力がなくて現実に賠償してもらえないことが多く、そのとき資力のある監督義務者(殆どの場合、両親)に責任を追及しえないのは不合理でないか、

B 未成年者に責任能力ありとされたときは、仮に監督義務者は監督義務に違反していたとしても免責されることになり、(補充責任だから)、不合理でないかということである。

 4.そこで、近時の通説(松阪佐一・後掲論文、加藤一郎・不法行為 増補版 1974年 162頁)は、民法714条は、民法709条の特則として、監督義務者の監督義務違反を免責事由とした点に意義があり、未成年者に責任能力がある場合、被害者が監督義務者に対して、その監督義務違反を故意過失と構成して、民法709条によって賠償責任を追及する余地を封ずるものではないとしている。そして、下級審判例もこれに従い(判例については、山口純夫・後掲論文)、そして、本件(前掲@特殊不法行為責任 Cの「中間責任」についての項で掲記した判例 最高裁昭和49年3月22日第二小法廷判決 民集28巻2号347頁))において、ついに最高裁判所も、この解釈を支持した。
  === 以下略 ===

 A 使用者責任

  使用者責任は、被用者が事業の執行に伴い第三者に与えた損害につき使用者(事業の監督をする者を含む)賠償責任を負うという規定(民法715条)に基づくものですが、この使用者責任は、被用者の第三者に対する加害者行為は、故意又は過失(不法行為責任)による場合であることを要件としており、この点、責任無能力者を監督すべき法定監督義務者の責任(民法714条)のように、未成年者や心神喪失者が責任無能力者である場合に責任を負うという「補充責任」とは異なります。(「事業の執行」の定義については、ネット講座【00118】Q&A【0059】を参照して下さい。)

   すなわち、使用者責任は、被用者が一般の不法行為責任(民法709条)を負っている場合にのみ発生するものであることから、被用者について一般の不法行為責任が成立していることを必須条件としているものです。これに対し、責任無能力者の法定監督義務者の責任については、未成年者や心神喪失者について不法行為が成立していないことが前提とされている点で使用者責任の前提要件とは異なり、両者の相異は、前者は、被用者と使用者の責任が競合しており、その責任は所謂「不真正連帯責任」とされており、後者は、法定監督義務者が責任無能力者にかわって責任を負うという所謂「補充責任」とされているものです。

 なお、使用者責任については、被用者の選任及び事業の監督に相当の注意を払っている場合や、相当の注意を払っても損害が生ずるであろうときには責任を負わないと規定されており、この点、責任能力を有する未成年者の法定監督義務者の責任(ネット講座【00205】(4)特殊不法行為責任『C「中間責任」について』以降を参照)と比較すると、より緩和された責任であるといえます。

 B 使用者・事業監督者の被用者への求償権について

 民法714条3項では、「前二項の規定は使用者又は監督者より被用者に対する求償権の行使を妨けす」と規定されている点、条文上は損害賠償責任を果たした使用者・事業監督者の被用者に対する求償権の行使は全面的に可能であると解釈できるが、この使用者・事業監督者の求償権については、制限的に解しているのが一般的であり、また判例もその立場を採っています。(詳細については、既述のネット講座【00118】Q&A【0057】を参照して下さい。)

 C 注文者の責任

   注文者の責任については、仕事の注文者は、注文(発注)又は指図(指示監督)につき過失があるときは、請負人が第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと規定(民法716条)されています。

 ここでいう請負人は、自己の裁量により仕事を遂行するものであるから、使用者責任でいうところの被用者には該当しません。また、注文者(発注者)の行為と損害との間に因果関係があるときは、注文者につき責任が発生するということでは、注文者に一般的不法行為責任(民法709条)と同質の責任が生じるということであり、すなわち、本条の規定は一般論を注意的に規定しているものと解されているところです。

 D 工作物責任

 民法717条では、土地の工作物・竹木の栽植等につき、その設置や保存・支持等に瑕疵があり、これによって他人に損害が生じたときは、「占有者」は被害者に対して損害賠償責任を負うという原則を規定し、但し書きでは、占有者が注意義務を果たしている場合は、「所有者」が責任を負うとしています。

   ここで「瑕疵」というのは、当該工作物の性質又は設備、維持管理等の点で、本来有すべき安全性を欠いていることをいい、また瑕疵は客観的に存在していれば足り、例えば、ビルや住宅の壁に亀裂が入っているような場合、その亀裂が占有者又は所有者の過失によって生じたものである必要はなく、したがって、例えば、建築業者の手抜き工事によって、初めから当該建物に瑕疵があった場合において、それが原因で壁が落下するなどして、通行人や通行車両に損害を与えたときは、その瑕疵が前所有者・前占有者の管理に起因する場合であっても当該損害発生時点における占有者・所有者は被害者に対して直接賠償責任(無過失責任)を負うというのが本条の規定です。

   尤も当該損害発生原因が占有者・所有者以外の者に因るときは、占有者・所有者は、その者に対して求償権を行使することが可能です。(同条3項)

 E 動物占有者責任

   動物の「占有者」及び「保管者」の責任については、民法718条で規定されているが、本条が規定する責任の主体には動物の所有者が含まれてはいませんが、所有者自ら占有者である場合には、本条が適用されることはいうまでもありません。

  なお、本条1項但し書きでは、「動物の種類及ひ性質に従ひ相当の注意を以て其保管を為したるときは此限に在らす」と規定されている点、この規定の趣旨は、責任能力を有しない未成年者や心神喪失者の法定監督義務者が監督義務につき注意を怠らなかった場合の免責規定と同様「中間責任」を規定しているものですが、

 ここでいう「相当の注意」とは、どの程度の注意を指すのか、あるいはまた、その注意義務の程度を見る上で、その判断基準となる動物の「種類や性質」とは、具体的ケースに当てはめ、つまり、実例に照らしてみなければ把握し難いことといえます。そこで、本条但し書きの規定については、判例に学ぶほかありません。(参考となる判例は、既述ネット講座【00131】Q&A【0084】で紹介していますので、参照して下さい。)    

 F 共同不法行為責任

   共同不法行為責任は、例えば何人かの集団で他人に暴行を加え傷害を負わせるというように、数人が共同して不法行為を行い、他人に損害を与えたときは、被害者に対する損害賠償については全員が連帯して責任を負う(民法719条)というものですが、

本規定の最大の狙いは、例えば、数人がそれぞれ他人に暴行を加えたところ、被害者が死亡したという場合、その死亡原因につき誰が直接その暴行を加えたのか不明なときは暴行に加わった行為者全員が連帯して損害賠償責任を負わなければならないということにあります。

また、前記の例でいうと、暴行を加えるようそそのかした者(不法行為の教唆者)や暴行を援助した者(不法行為の幇助者)も、共同不法行為者としてみなされることとなります。

(注)この点は刑法上の広義の共犯(主犯と幇助犯の関係)においては刑の軽重につき差があることと比較すると、刑事責任と民事責任の質(罪刑法定主義による)の違いであるといえます。 

(5)特別法による不法行為責任

 @ 失火責任法

 本法(失火の責任に関する法律)制定の所以は、明治時代のこと、我が国においては、狭い範囲に木造家屋が立ち並んでいる地域が多かったことから、一旦住宅火災が発生すると、立ち所に付近一帯の家屋が類焼するというのが当時の事情であり、そのような火災発生による失火者の損害賠償責任については、その負担が大きすぎること、また、火元となりがちな一般人にとっては法律上の損害賠償責任を果たしえないこと等に鑑み、失火者の責任については、これを免責するべく法制化が議員立法案として国会に提出されたことです。

 本法(失火の責任に関する法律)では、「民法709条(不法行為)の規定は失火の場合にはこれを適用せず。但し失火者に重大なる過失ありたるときは此の限りに在らず」と規定しているところ、本法は一般の不法行為法(民法709条)の特別法として機能するものであり、したがって、債権法上の債務不履行による損害賠償責任については適用がなく、例えば、借家人が失火により借家を焼失させ、あるいは他人の家屋を類焼させた時は、類焼家屋については、本法の適用により賠償責任を免れても、その借家については、貸主への返還義務があることから、貸主に対する損害賠償責任は免れ得ないことはいうまでもありません。 

 A 「失火」とは?

  本法でいう「失火」とは、過失により「火災」を起こしたことであり、例えば、煙草の火で絨毯や畳に焼け焦げをつけたというように、単なる「火」を指すものではありません。したがって、単なる「火」により他人の動産や建物の一部に損害を与えたというような場合には、一般の不法行為(民法709条)による賠償責任を負うことになります。

 そこで、問題となるのが、例えば失火者が失火により自己の家屋を焼失させると共に隣家(一軒のみ)を類焼させた場合においても、常に本法を適用し、失火者の賠償責任は免責されることになるであろうか、

 それも、例えば失火者が経済的に豊であり、他方類焼により家屋を焼失させられた隣家の者が経済的に困窮している場合であるとすれば、そのような場合においても本法の適用をもって失火者の過失責任を免責することは、一般社会通念上はもとより法律上も信義則に反するとみるべきではなかろうかと思います。したがって、このようなケースは本法の規定に拘泥することなく(裁判所の判断に期待すべく)賠償請求すべきものと考えます。

 B 「重過失」とは? 

 本法でいう「重大な過失」とは、通常人に要求される程度の相当な注意を要するまでもなく僅かの注意さえすれば容易に違法有害な結果を予見することが可能であったのに、漫然これを見過ごしたというような、ほとんど故意に近い、著しく注意を欠如していた状態を指すというのが判例によるところです。
   
 なお、火災保険・海上保険や生命保険では、自動車保険や傷害保険等とは異なり、事故が被保険者の「重大な過失」に因るときは、商法641条の規定のほか、保険約款等により保険金の支払いが免責とされていますが、これらの保険において免責事由となる被保険者の「重大な過失」とは、どのような場合を指すのか、判例に現れたケースを紹介しておきます。
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 【参考判例】別冊ジュリスト138 1996年7月号 「損害保険判例百選」[第二版566〜57頁「火災保険と被保険者の重過失」 神戸学院大学 岡田豊基教授の解説より抜粋
   
  【事実の概要】

   X(保険契約者=被保険者)は、自己の所有する建物及び建物内の家財家具等の動産について、Y1(損害保険会社)Y2(共済保険組合)との間で保険契約及び共済契約を締結していた。Xは昭和59年1月頃に本件建物から転居した後は、月に一度くらいの割合でそこに立寄るにすぎなかった。

   昭和60年6月20日頃、本件建物の電気代が高額になっているので、Xは、A電力会社B営業所にその原因調査を依頼した。同日、同営業所係員が調査した結果、漏電の可能性が判明、同係員はその旨をXに告げるとともに、本件建物内に電気が流れないように処置を講じた。

   同年7月10日、定期点検のために訪れたA電力保安協会係員が、Xの妻立会いの下で検査したところ、配電盤の左から2番目の回路の絶縁抵抗値が低く、どこかの配線からか漏電している可能性が判明したので、同係員は、Xの妻に一般用電気工作物調査結果通知書に右不良箇所を記入して交付するとともに、長期間の不在時には電源スイッチを切るように指導した。

   翌11日、B営業所係員が本件建物内部を調査した結果、4個あるブレーカーのうち向かって左から2番目の配線で漏電している可能性があるので、修繕するように指示し、当該ブレーカーにだけ不良と書いた会符を付けて帰った。同年9月10日、B営業所係員が本件建物内部を調査した結果、4個あるブレーカー兼スイッチのうち、右から2番目の配線から漏電していると判断されたので、Xに対して不在時には同スイッチを切るように指導し、早急に修理するように伝えたところ、Xはこれを了承した。

   しかし、Xは同係員から右端のブレーカーだけを切っておき、使用の都度入れるようにとの指示があったとして、その日以来右端のブレーカーだけを切っていたが、回線の修理はしなかった。

   同年10月26日午後10時半頃、Xは本件建物内に入ろうとしたが、玄関があかなかったので、2階廊下の出入口から室内に入った。そして、配電盤右端のブレーカーのスイッチを入れてから、そこに宿泊、翌朝10時半頃、そのブレーカーだけを切って本件建物内から出た。翌28日午前1時過ぎ、本件建物内部から出火し、同建物及び建物内の家財家具等が火災で全焼した。

   Xは、右保険契約等に基づいてY1らに対し保険金等の支払いを訴求したが、Y1らは、次の事由により支払いにつき免責を主張し争った。

  【Y1らの主張】

   @ 保険契約者(被保険者)Xの故意又は重大なる過失による免責
  
   A 虚偽事実の申告による免責

   B 通知義務違反による免責

   これに対し、裁判所は、本件状況からすると、X(被保険者)の故意による火災事故の招致は認められず、出火原因は漏電であることが推認できるとして、次のような判決を下した。(津地裁伊勢支部 平成元年12月27日判決 判タ731号224頁)

  【判決要旨】

   請求棄却。
   「原告(被保険者)は、本件火災の4ヶ月以前から本件建物内での漏電を疑い、再三にわたってA電力会社B営業所の配電課の職員らに調査を依頼して調査を受け、右職員らから漏電の可能性を指摘され回線の修理と不在時にブレーカーを切って電流の流れを止めるようにとの指導を受けながら、漫然とこれを聞くだけで回線の修理をせず関係のないブレーカーのスイッチのみを切っていただけで、漏電による火災の発生を未然に防止する手立てを何ら尽くしていなかったことが明らかであって、右は本件保険契約及び共済契約における免責事由である『重大な過失』に該当するものと解するのが相当である。」

 C 火災保険約款の「重過失免責」の意義(学説)について

   火災保険支払の免責事由の一つである火災保険約款に定められた被保険者の「重過失」は、商法641条(損害保険の免責事由)及び829条の1号(海商=免責事由)で定められている免責事由と同義であると解されていますが、この約款に定められている「重過失による免責」の趣旨は、次のような説に基づきます。

  T 保険契約における信義則及び公序良俗に反するとする説(大森著 保険法[補訂版]147頁以下)

  U 損害保険や責任保険では重過失まで保険保護の対象とされているので、重過失免責の根拠は信義則違反のみに求められると解する説(田辺康 「新版 現代保険法」113頁〜114頁)

  V 保険事故招致は、通常、保険者が引き受けることを望まない高度の危険であると解する説(危険除外説)(竹濱修 保険事故招致免責の主観的要件「保険学雑誌」547号28頁)

 D 商法641条及び829条1号(損害保険及び海商の免責事由)の意義(学説)について

  商法641条及び829条1号の「重過失による免責」の趣旨は、次のような説に基づきます。(条文は次項Eの末尾【参照条文】)

  T 特段の事情がない限り通常の意味での重過失すなわち注意を著しく欠く状態であると解する説(中西正明「生命保険契約の災害関係特約における重過失」13頁、竹濱修 保険事故招致免責の主観的要件 「保険学雑誌」547号37頁、田邊光 「災害保険特約における重過失・犯罪免責について 保険法の現代的課題」412頁)

  U 重過失免責が認められる理由は、故意の立証が困難なため、重過失を立証することによって、実際上は、故意の立証に代替することにあるから、これを故事に準じて狭く解する説(田辺康 「新版 現代保険法」113頁、江頭 商取引法 下382頁 戸出「商法第641条所定の重過失の意義」商法・保険法の現代的課題)303頁以下)

  V 重過失免責の具体的内容は、それによって保険者が免責を意図したものがどの程度の過失であったかは、契約者側に一般的に認容されるべき期待、すなわち、信義則上及び社会的非難性との関連において自ら客観的に定まるべき一般人の期待との関連において、定められるべきであると解する説(古瀬村 「ジュリスト769号」145頁、松岡「保険判例百選」101頁)

 E 火災保険約款の「重過失免責」についての判例の考え方
   
   火災保険約款の「重過失免責」について判例は次のように判示しています。

  T 重過失概念を通常の意味に解した上で、この通常の意味とは、失火責任法上の重過失に関して、「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、僅かの注意さえすれば、容易く違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然とこれを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す」としています。(最高裁昭和32年7月9日判決 民集11巻7号1203頁=前掲ネット講座【00206】「(5)特別法による不法行為責任 @ 失火責任法 B 「重過失とは?」を参照)

  U 約款の重大な過失とは、「保険者に免責を与えることが当然であると一般人が認め得るような被保険者の過失」をいうと解する(秋田地裁昭和31年5月22日判決 下民集7巻5号1345頁)

  V 約款の重大な過失とは、「故意に近似する注意欠如の状態である必要は必ずしもない」と解する。(名古屋地裁豊橋支部昭和55年8月4日判決 民集36巻6号1200頁)

  V 重過失であるためには、「被保険者の不注意が著しいばかりでなく、右不注意による保険事故招致が故意によるものと同視し得るほどに悪質であるため、具体的事案の下において当該事故により保険金を支払わせることが信義則上不当とされる場合」をいう。(大阪地裁平成元年2月23日判決 判タ701号257頁)

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【参照条文】

商法第641条(免責事由)
保険の目的の性質若くは瑕疵、其自然の消耗又は保険契約者若くは被保険者の悪意若くは重大なる過失に因りて生じたる損害は保険者之を填補する責に任せず

商法第829(免責事由)
保険者は左に掲げたる損害又は費用を填補する責に任せず
一 保険の目的の性質若くは瑕疵、其自然の消耗又は保険契約者若くは被保険者の悪意若くは重大なる過失に因りて生じたる損害
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F 「爆発」と火災とは異なるか?

   「爆発」は、失火法でいう「失火」には含まれないとして失火責任法の適用を排除しているのが判例及び学説の立場です。なお、火災保険約款における「火災」の解釈については、「爆発を有責とする特約」がない場合は、火災事故には含まれないとしているのが判例です。
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【参照判例要旨】別冊ジュリスト138 1996年7月号 「損害保険判例百選」[第二版]88〜89頁 「火災による爆発の損害」 九州産業大学 松村寛治教授の解説より抜粋

【事実の概要】

  X倉庫会社(原告兼控訴人兼上告人)は、Y保険会社(7社)(被告兼被控訴人兼被上告人)との間で、寄託者(55名)からの受託貨物につき、倉庫寄託約款に基づき、寄託者を被保険者とする包括火災保険を締結、当該契約にかかる約款には、「爆発に因りて生ずる損失又は損害を填補責任より除外する」旨の爆発免責が定められていたが、その保険期間内の大正6年5月5日、受託貨物の倉入れ作業中、作業員の過失により、右貨物から発火燃焼を生じ、当該倉庫内の他の収蔵品を燃焼させ、続いて同倉庫及び隣接倉庫に爆発を生ぜしめ、火災も拡大・燃焼し続けた。右受託貨物の損害について、寄託者から保険金請求権を譲り受けたX会社がY会社に対し保険金の支払の訴を提起、これに対し原審は「火災に因りて生じたる損害とは、『火災による直接損害をいい、火災によって生じた爆発損害は間接損害である。』とし、したがって、爆発後拡大する火災損害が填補されるのは当然であるが、火災による爆発損害は填補されない。」としてXの請求を棄却した。これに対しXが上告した。

【上告審判決要旨】

  上告棄却。

 1.商法第419条(現行665条)は、・・・当事者は別段の意思表示を為さざる限り、火災に原因して生じたる一切の損害に付之が填補を約するの趣旨なりと推測するを相当とするが故に、同条は保険者は独り火災自体の損害のみならず、苟も(いやしくも)因果関係上火災を適当条件として生じたる損害は総てこれを填補するの責あることを定めたるものと解せざるべからず。

   然れば火災に因り爆発を来し損害を生じたる場合に於ても、苟も其の爆発損害が火災と相当因果関係を有する限り、保険者は其の損害填補の責に任ずべきものにして、爆発なるが為に之を其の責任より除外すべき何らの理由なし。或は爆発と火災とは其の性質を異にし爆発損害の火災に因り発生したる場合に於ても常に爆発損害にして火災損害にあらざるが故に火災保険者に損害填補の責任なしと解する者なきにあらざるべしと雖、以上説明したる所は爆発損害を以て火災自体の損害なりと為すに非ず。

   爆発損害は常に爆発損害なりと雖、火災に基因し因果関係上火災を適当条件とする範囲内の結果なるときは、保険者の責任範囲に属するものと為したるに過ぎざるを以て、右の非難は当らず。又或は爆発は其の作用極めて異常に属し且其の損害甚大にして予想し難きが為、保険取引上火災保険には之を除外すべき理由あるものと為す者あらん。

   然れども曩に(先に)説示したる如く契約当事者は其の合意を以て火災に因り生じたる爆発の損害を除外し得べく、火災保険契約あるときは常に必ずしも斯の如き損害を填補せざるべからずと謂うに非ず。我国の保険契約の実際に於ては特約を以て此の如き爆発の損害を除外する事例少からざることに徴すれば、寧ろ反対の特約なき限り右の如き損害も火災保険者の責任範囲に属すと為すを以て保険取引に於ける実状に合するものと謂うことを得べく、前示商法の規定は如上の当事者の一般の場合に於ける意思を推測したるものと解するを相当とするが故に右の非難も亦当を得ざるものとす。・・・

   従て原審が第419条(現行665条)を解釈して火災に因り爆発を生じたる場合に於て火災を伴はざる爆発損害に付ては保険者に之が填補の責任なき旨規定したるものの如く為したるは所論の如き失当ありと謂はざるべからず。

 2.然れども原審は商法第419条(現行665条)の規定に基きY会社の損害填補の責任範囲を認定せるものにあらずして、・・・XとYとの間に締結した特約書・・・には其の第一条に於て各Y会社は火災に因りて生じたる一切の損害填補の責に任ずる旨記載しあれども、右各特約締結の際、従前右各Y会社が火災に因り生じたる爆発損害の填補責任を除外せる保険証券記載の約款に依り締結せし火災保険契約よりも保険料を低減したる事実・・・に拠るも右第一条の規定は右各Y会社に於て火災の結果たる爆発に因る損害をも填補する責あることを定めたるものと解すること能はずと為し・・・右各特約に因り本件保険契約に於てはY会社が火災に因り生じたるも火災を伴はざる爆発の損害に付責任なしと判定せるものなること判文上明白にして、前記商法第419条(現行665条)に依り右判定を為したるものにあらざるが故に、前記商法第419条の規定に関する原審の解釈は、毫も(わずかも)前記認定に影響なかりしことを知るに足り、論旨は結局採用するに由なし。
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【参照条文】

商法419条(現行665条)(火災による損害填補)
  火災に因りて生したる損害は其火災の原因如何を問はす保険者之を填補する責に任す但第六百四十条及ひ第六百四十一条〔保険者の免責事由〕の場合は此限に在らす 

 A 自動車損害賠償法

   自動車損害賠償法3条では、「運行供用者の運行供用責任」について、「当該事案にかかる免責3要件中の該当用件」が満たされない場合は、賠償責任を免れない旨規定されているところですが、(ネット講座【00187】「【5】欠陥車とPL(製造物責任)法との関係について 一 はじめに、(最高裁昭和45年1月22日判決 民集24巻1号40頁)」を参照)自動車の所有者及び貸与者等と使用者及び運転者等の関係における運行供用者(運行供用責任を負う者)は次のとおりです。

  【運行供用者となる者】

  T 自動車割賦販売業者

    自動車割賦販売業者は所有権を留保しているだけであるから、運行供用者には含まれない。(最高裁昭和46年1月26日判決)

  U 自動車割賦販売業者でも運行供用者と認定された例
 
    買主が割賦販売業者の貨物を運送し、その代金を割賦金に充当しているときは割賦販売業者も運行供用者となる。(最高裁昭和39年4月25日判決)

    割賦販売業者が買主に車庫を提供し、仕事の斡旋をしている場合は割賦販売業者も運行供用者となる。(東京地裁昭和38年6月28日判決)

  V 賃貸借の貸主

    長期リースの場合、借主に運行支配が委ねられていることから、リース業者は運行供用者には当たらないが、有償で走行区域などの契約義務を負わせているレンタカー業者は運行供用者となる。(最高裁昭和46年11月9日判決)

  W 自動車の修理業者

    自動車修理業者の場合は、自動車の修理や試運転に必要な範囲で、その間の運行支配は修理業者に移っていることから、修理業者は運行供用者となる。(最高裁昭和44年9月12日判決)

  X 名義貸与者

    自動車の名義貸与者については、実質的な関係により判定されるが、名義貸与者が車の購入代金やガソリン代などを負担し、自己の貨物を運送させていた場合には名義貸与者も運行供用者となる。(最高裁昭和44年9月18日判決)

  Y 被用者が使用者の自動車を無断運転した場合の使用者

    自動車の所有者であり、また無断運転者の雇主である使用者は運行供用者となる。(最高裁昭和44年9月18日判決)

  Z 泥棒運転の場合の所有者

    キーを抜かず、ドア―を開けた状態で駐車していた自動車の盗難については、所有者も運行供用となるが(東京地裁昭和41年12月15日判決)、立入禁止の車庫内にキーを抜かずに駐車していた車の盗難について、その所有者は運行供用者にはならないとした。(最高裁昭和48年12月20日判決)なお、自動車盗難の場合の運行供用責任については、既述のネット講座【00116】Q&A【0048】を参照して下さい。

 B 国家賠償法

   国家賠償法は、憲法17条に基づき制定されている法律ですが、次の場合は、国又は公共団体に対し賠償責任が課せられています。

 A 公権力の行使に基づく不法行為責任(国家賠償法1条)

   国又は公共団体の公権力の行使にあたる公務員が、その職務上不法行為によって他人に損害を与えたときは、国又は公共団体が賠償責任を負う。

   ここでいう「公権力の行使にあたる公務員」とは、内閣府を含む行政機関、司法機関、立法機関、自衛隊等の官公職にある者のほか、これらの機関の諮問機関、参与(議決)機関、監査機関、執行機関、補助機関に所属する者を含みます。

 B 公の営造物の管理者としての責任(国家賠償法2条)

   公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を与えたときは、国又は公共団体に対し賠償責任が課せられています。

   ここでいう「公の営造物」とは、道路、河川、橋梁、堤防、下水道、官公庁舎、公立学校、官公庁用の自動車、警察犬、馬などを指します。なお、この規定は、民法717条の土地・工作物・植栽等責任と同様の規定ですが、免責規定の一切ない無過失責任である点及び加害物の範囲が広範である点が異なります。

 C 国家賠償責任における求償について
   国家賠償後、損害の原因について他に責任のある者がいるときは、国又は公共団体はその者に対して求償することができます。(国家賠償法3条)

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【参照条文】

  国家賠償法第1条(公務員の不法行為と賠償責任、求償権)
 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
2前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

第2条(営造物の設置管理の瑕疵と賠償責任、求償権)
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。

第3条(賠償責任者、求償権)
 前二条の規定によつて国又は公共団体が損害を賠償する責に任ずる場合において、公務員の選任若しくは監督又は公の営造物の設置若しくは管理に当る者と公務員の俸給、給与その他の費用又は公の営造物の設置若しくは管理の費用を負担する者とが異なるときは、費用を負担する者もまた、その損害を賠償する責に任ずる。
2 前項の場合において、損害を賠償した者は、内部関係でその損害を賠償する責任ある者に対して求償権を有する。●
参照→国家賠償法判例要旨集
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 C 公害による被害について

   公害の概念については必ずしも明確ではなく、具体的に「公害とは?」ということになると、法律上の定義もないことから、一般的には「人や企業の活動に伴い自然環境や住民の生活環境が害されること、すなわち、多数の住民に健康被害や財産的被害が及ぶこと」であると考えられています。

   公害の原因が大気汚染物質や水質汚濁にあるという主張の下における公害訴訟では、大気汚染防止法や水質汚濁防止法などの特別法によるところの無過失責任主義に基づき対処されますが、その他の公害訴訟においても公害源の不法行為責任を追及する上では不法行為の成立要件を被害者側である住民が立証することは極めて困難な場合が多いことから、裁判では公害事件特有の考え方により被害者側の立証負担の軽減が図られています。

   これまでの公害訴訟における侵害の内容としては、大気汚染、水質汚濁によるものの他、自動車騒音、高架道路の振動被害、トンネル上部住民の振動騒音被害、交通振動による家屋被害 道路の照明による酪農被害、眺望環境、その他自然環境等が挙げられますが、これら公害訴訟における侵害結果の現状回復を求める訴訟では、「損害賠償請求」のほかに、侵害原因の排除を求める「差止請求」が行われる場合があります。

   しかしながら、これらの公害訴訟における「差止請求」は日照権訴訟と比較しても、差止請求の目的たる事業や工事が社会的・公共的性格の強いものであることが多く、その点からは原則として認められないとされています。●
参照→国家賠償法判例要旨集

 D 鉄道事故について

 A 鉄道事業者の責任について

   鉄道事業者の責任については、事業の性質上一般利用者及び住民の生命・財産に重大な危害を与える危険性が内在していることから、鉄道事業者には「高度の注意義務」と「保安設備の設置・維持には最大限の努力を払うべきこと」が要請されています。
  
   保安設備のない踏切道の事故に対し、民法717条を適用し、土地の工作物である軌道敷設の設置、保存に瑕疵があるとして鉄道事業者の責任を肯定した判例があります。(東京地裁昭和36年10月19日判決)

 B 電車・汽車の運転者、駅員の注意義務について

   判例上は軌道上を高速で走行する電車や汽車の運転者は遮断機や自動警報機のある踏切では減速する義務はなく、したがって、危険防止の義務は踏切を利用する人車等により多く配分されているところであるが、運転者、駅員、踏切番など鉄道事業関係者には極めて高度の注意義務が課せられていることには変わりはないといえます。

 E 製造物責任法

製造物責任については、既述ネット講座【00187】〜で詳細にわたり解説してきたところですので、ここでは再度、要点のみ押えておきたいと思います。

 A 製造物責任法の意義

   製造物責任法は、その責任原則を不法行為の規定中の「過失責任」から「欠陥を要件とする無過失責任原則」に転換することにより、被害者の保護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的としているものです。

 B 製造物責任の範囲

   「製造物」とは、製造又は加工された「動産」をいい、「製造」とは、「原材料に手を加えて新たな物品を作出すること」であり、生産よりは狭い概念で、所謂第二次産業に係る生産行為を指し、一次産品の産出、サービスの提供には用いられません。「加工」とは、「動産を材料としてこれに工作を加え、その本質は保持させつつ新しい属性を付加し、価値を加えること」と解されています。(有斐閣「法律用語辞典」内閣法制局法令用語研究会編)

 C 欠陥の定義

   「欠陥」とは、製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、欠陥の存在については、「製造物の特性」、「通常予見される使用形態」、「製造業者等が製造物を引き渡した時期」及びその他「製造物に係る事情」を考慮して判断されます。

 D 責任主体

 T 製造業者・輸入業者

   当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者は製造物責任法上の責任主体となるのが原則であり、例外は、部品又は原材料の製造業者は、その部品の欠陥が完成品の製造業者等の設計・指示に従った場合で、かつ、その欠陥が生じたことに過失がない場合は責任を免れることです。

 U 表示製造業者

   製造業者もしくは輸入業者として表示をした者又は製造物の製造、流通の実態等により、消費者からみて製造業者とみられるような表示をした者は製造物責任を負います。

 E 開発危険の抗弁

   当該製造物をその製造業者が引き渡した時における科学又は技術に関する知見では、製造物にその欠陥があることを認識することができなかった場合には、製造業者等は責任を負いません。

 F 損害賠償の範囲

   製造物責任に基づく損害賠償の範囲は、生命や身体又は財産に及ぶ「拡大損害」に限られ、製造物自体の損害は含まれません。したがって、製造物自体の損害については、瑕疵担保責任(民法570条)もしくは債務不履行責任(民法415条)により処理すべきものとされています。

(6)債務不履行責任

   債務不履行責任は特定の契約締結当事者間において発生することから、不法行為責任のように広く誰とでの間にも生じるということはあり得ないことはいうまでもありません。

 @ 債務の本旨に従わないこと、及び履行遅滞について

   債務不履行責任については、民法415条に定めるところ、「債務者か其債務の本旨に従ひたる履行を為ささるときは債権者は其損害の賠償を請求することを得債務者の責に帰すべき事由に因りて履行を為すこと能はさるに至りたるとき亦同じ」とされていますが、

   ここで、「債務の本旨に従いたる」とは、民法493条前段で定めるところの「弁済の提供は債務の本旨に従ひて現実に之を為すことを要す」ということであり、具体的には、契約の趣旨、取引慣行、法律の規定、信義則等に照らし有効かつ適当な履行であることを指します。

   また、「・・・履行を為さざるとき」とは、民法492条で規定するところの「弁済の提供は其提供の時より不履行に因りて生すべき一切の責任を免れしむ」ということの反対解釈から、不履行による責任を免れないということです。

   なお、前記492条の「弁済の提供は其提供の時より不履行に因りて・・・」とは、債務の履行期に遅滞したときから412条の規定により履行遅滞となり、すなわち、確定期限がある時は期限の到来時、不確定期限の場合は、その期限の到来を知った時、あるいは期限が定められていない場合は、請求を受けた時から債務不履行責任が生じるということであります。

 A 債務不履行責任の形態

   一口に債務不履行という場合は、総ての形態における債務不履行の状態を指しますが、その形態の区別は、「履行遅滞」、「履行不能」、「不完全履行」の3形態があるとされています。

  A 履行遅滞

    履行遅滞とは、債務者が債務を履行できるにもかかわらず履行期になっても履行しないことをいいますが、

ここで、「履行できるにもかかわらず・・・」というのは、例えば、XがAとの間においては、何時何処の会場で講演をするという契約(為す債務を負っている場合)を締結し、他方Bとの間でも、履行場所(会場)を異にするも履行時期については、Aとの間の契約と同内容の契約を締結した場合、Xはいずれか一方の契約については、必然的に「履行遅滞」ないし「定期行為としては履行不能」となりますが、この場合でも「履行ができるにもかかわらず、」ということであることに変わりはありません。

ちなみに、このような債権契約は重複(二重契約)した契約であっても、それぞれの契約自体は有効に成立しますが、これが物権契約の場合はどうなるでしょう?二重の債権契約と二重の物権契約の場合を比較するなどして検討してみて下さい。この場合には詐欺罪の構成要件に該当する場合は、債務不履行責任ではなく、不法行為責任によるなどのことも考察してみて下さい。解説の流れからは若干逸れ余談になりましたが、

  B 履行不能

    履行不能とは、契約を締結した時点では、履行が可能であった債務が債務者の責に帰すべき事由により履行が不可能となった状態をいいます。

  C 不完全履行

    不完全履行とは、一応は履行されたが、その内容が債務の本旨に照らし不適切であること、すなわち完全な履行とはなっていない状態をいいます。

 B 債務不履行により拡大損害が生じるケースについて

   例えば、AとBとの間においてAがBに対して鶏を売るという売買契約が締結され、AからBに鶏が引き渡されたが、Aの衛生管理に問題があり、そのため鶏が鳥インフルエンザにかかっており、数日後に死んでしまったという場合、これは「不完全履行」に当ります。

なお、この場合において、Bが元々養鶏していた鶏に、Aから購入した鶏の鳥インフルエンザが感染したときは、Aの不完全履行により「拡大損害」が齎されたことになります。この場合、BはAに対して、元々Bが養鶏していた鶏の損害についても債務不履行に基づく損害賠償請求ができることになります。

   このように「不完全履行」により、「拡大損害」を生じさせた場合には、前記の例では、その「拡大損害」は、一見して、Aの過失によるもの、すなわち不法行為責任による損害であるといえそうなのですが、Bとしては、不法行為成立の要件であるAの過失(責任)を立証するまでもなく、損害賠償請求についてはAの不完全履行を主張すればよく、それは本例の場合、鶏が鳥インフルエンザに感染し死亡したという事実につき立証すれば足りることとなります。

 C 債務不履行責任と不法行為責任による請求権の競合

   前記のような事例とは異なり、例えば、レンタルショップでカラオケを借りたが、そのカラオケを過って壊した場合は、これをレンタルショップの所有権侵害であると主張する場合は不法行為責任に基づく請求となり、そうではなく、賃貸借契約上の賃借物返還義務違反を主張すれば、それは債務不履行責任に基づく請求となります。この例のように一つの行為が債務不履行責任と不法行為責任の両方の要件を満たす場合を請求権の競合といい、判例上はいずれかの請求権を選択的に行使することを認めています。

 D 債務不履行責任要件と不法行為責任要件の差異

   債務不履行責任の要件と不法行為責任の要件との差異は、立証(民法412条=履行遅滞)、損害の範囲(民法419条=金銭債務の特則)、時効(民法166〜174条の2)などの点で異なる規定がありますが、中でも415条本文後段の「債務者の責に帰すへき事由に因りて履行を為すこと能はさるに至りたるとき亦同し」という規定、すなわち「債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは賠償責任がない。」という消極的要件(その実質は免責要件)につき、709条の不法行為責任とは異なります。(この点は不法行為責任と債務不履行責任とでは訴訟における要件事実の立証責任の分配につき扱いが異なるところです。)

(7)損害担保契約

   民法420条1項では、「当事者は債務の不履行に付き損害賠償の額を予定することを得此場合に於ては裁判所は其額を増減することを得ず」と定め、また同条2項では、「賠償額の予定は履行又は解除の請求を妨けず」、同3項では、「違約金は之を賠償額の予定と推定す」と定めていますが、これは、契約の当事者間で、予め損害賠償に関する契約を締結することで、これに基づき損害賠償責任が発生することを認めているものです。

   具体例としては、工事を請負った業者が納期までに完成の上引き渡しをしない場合には、「遅滞1日につき〇〇万円を支払うものとする。」という約定を交わすというように当事者が予め損害賠償額を契約で定め予定している場合が挙げられます。

   ちなみに損害担保契約の一種である損害保険である賠償責任保険では、被保険者の第三者との間における損害担保契約に基づく賠償責任については、当該損害担保契約により加重された責任(その契約がなければ法律上負担することのなかったであろう賠償責任)は賠償責任保険普通保険約款第6条第1号の規定により免責とされています。

  続 く 

 
此処での解説はあくまでも基本的な部分です。賠償法及び交通事故賠償法全般にわたる実際の業務に対応する保険請求実務や判例等について学習したい方は、根角行政書士事務所主催の『法律資格者交通事故業務ネット講座(各種MLによる通信教育)』の受講をお勧め致します。講座申込のご案内はこちらをご覧下さい。



 【交通事故以外の不法行為責任全般にわたる実務解説書】

 交通事故賠償に限らず不法行為全般にわたる損害賠償請求実務につき学びたい方のために下記書籍を紹介しておきます。

 実務法律講義10 実務 不法行為法講義塩崎勉・羽成守 編著 民事法務研究会発行 平成17年8月18日第1冊発行 頁数441P 価格4,000円(税別) ISBN4-89628-267-1 C3332

  書籍の概観・イメージ

  同書の各論(章)のタイトルは下記のとおりです。

 1. 工場排煙・排水と不法行為責任
 2. 道路公害と不法行為責任
 3. 鉄道と・航空機による騒音・振動と不法行為責任
 4. 騒音公害と不法行為責任
 5. 日照等妨害と不法行為責任
 6. 眺望妨害と不法行為責任
 7. 住民運動と不法行為責任
 8. 医薬品・化粧品製造販売業者と不法行為責任
 9. 食品製造業と不法行為責任
 10. 交通事故と不法行為責任
 11. 学校の部活動中の事故と不法行為責任
 12. いじめによる自殺と不法行為責任
 13. ボランティア活動中の事故と不法行為責任
 14. 未成年者の不法行為責任と監督者の責任
 15. マスコミ報道と不法行為責任
 16. 商品先物取引と不法行為責任
 17. 銀行・信用金庫の不法行為責任
 18. 医療機関の不法行為責任
 19. 労働災害と使用者の不法行為責任
 20. 不動産売買契約と不法行為責任
 21. 不動産賃貸契約と不法行為責任
 22. 離婚と不法行為責任
 23. マルチ商法と不法行為責任
 24. サラ金業者の不法行為責任
 25. 建築工事と注文者の不法行為責任
 26. 失火と不法行為責任
 27. 法人の役員の不法行為責任
 28. 著作権侵害と不法行為責任
 29. 営業権侵害と不法行為責任
 30. 商標権侵害と不法行為責任

 不法行為法の基本的理論と厳選した30類型を具体的事例を用いて実践的に解説した法科大学院生必読の書。内容(「MARC」データベースより)不法行為法の基本的理論と厳選した30類型を具体的事例を用いて実践的に解説。現代の社会状況を踏まえ個別類型ごとに問題解決のための分析力・応用力を涵養できるよう配慮。(同)

 

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