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これまでのお話(1)

早稲田大学に客員教員の椅子を貰った大蟻食は、まともな大人なら郊外に家を買ってローンを組むであろう給与(棒茄子付)を、山本耀司に注ぎ込むのであった。DCブランドの洋服が買えるようなお金がある、ということが滅茶苦茶嬉しかったからである。

で発見したんだが――洋服って四半世紀に亘ってほとんど値段が上がってないね。

それから在日中国人製作者のヴァイオリン(グアルネリのコピー)を買いに行ったら、目を付けていた楽器はどこかのオーケストラの人に買われた後なのであった。オーケストラ氏はもともと同製作者の手になるスカランペッラのコピーを購入する予定だったのだが、車の買替えを家人に迫られた為、予算の切り詰めを余儀なくされたのである。私も鳴らして見たけど、いい楽器なんだよ、そのスカランペッラのコピー。興味のある人はメール下さい。どこで売ってるか耳打ちしたげます。

いきなり予算を超える楽器を見せられて苦悩する大蟻食であったが、まあ、苦悩もしてみるもんである。主のX氏が次に見せてくれたのは、人もあろうにロビー・ラカトシュが来日の折に控えの楽器で持って来て、小遣銭稼ぎに売り飛ばしたと言われるハンガリー製の楽器であった。

お値段の割にはすんごくいい楽器で(低音の泣きは凄いぞ、そんな風に弾ければだが)文句は全くないのだが、夏の暑さでニスにケースの中張りの跡が付き、指板が剥れた。ヨーロッパ製の新作楽器にはよくあることだと聞いていたが、実地に起こるとショックだぞ。すぐ直して貰ったけど。

すると秋がやってきた。仕事場の改装が終って気が大きくなっていたところに洋服屋から電話が入り、大蟻食は勇んで駆け付けて、山本耀司の秋の新作を購入するのであった。それが何といおうか――脇に線の入ったジャージのパンツだ。中学校の時穿かされたような。元N響のヴァイオリンの先生のところへ穿いて行ったらすんごく同情してくれた。佐藤さんも主婦だから、朝出てくるのは大変なんだねえ、と言うのであった。

いかにYohjiだって、ジャージはジャージである。通行人の八割にとってはただのジャージ穿いただらしない女だ。悔しいので学校にも穿いて行くが、学生の八割も、ジャージ穿いて授業すんなよ体育の先生じゃないんだから、と思っていることであろう。Yohjiのジャージだと感心してくれたのは田舎の母だけであった。果して大蟻食の運命やいかに。



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