■ ご挨拶

1993年の12月以来、大蟻食の亭主をやっています。

女房がなぜ大蟻食であるのか、その理由はわたしにもよくわかりません。

世の中にはよくわからないことが沢山あるので、そうしたことはできるだけ気にしないことにしています。気にすると疲れるし、気にしすぎるとろくなことにならない上に、たいていは後で自分の無能と無力に苦しむことになります。逆に気にしなければ時間を節約することができますし、度量が大きいという評判を世間で勝ち取ったりすることもできます。それだけではありません。気にしないことに慣れてしまえば、なぜ気にしないのかを気にすることもできるようになるわけです。

だから、大蟻食だというならば別に大蟻食でもいいでしょう。それで減るものでもありません。一貫して大蟻食ならもっとよかったと思います。残念ながらこの大蟻食は常に大蟻食をやっているわけではなくて、時には鰐だったり大蜥蜴だったりするのです。大蟻食はあの長い舌で蟻だけを食べる比較的善良な生き物ですが、鰐や蜥蜴はもちろん違います。蜥蜴は舌をちろちろさせて気味が悪いし、鰐はとにかく始末が悪い。家の中の物陰に潜んでいて、獲物が通りかかるのを待っていたりします。家は狭いし潜める場所は限られているので、これはこれで迂回できるのですが、問題は鰐が頭の悪い低温動物だということです。待っているうちに自分が物陰に潜んで獲物を待っているということを忘れてしまって、迂回に失敗した当の獲物に踏んづけられて怒り出すなどということも決して珍しくはありません。もっと悪いのはピレニアンマウンテンドッグです。ピレネーの山の中にいる大きな牧羊犬で、もちろん温血動物ですから物陰に潜んで待ったりしません。襲い掛かってきます。俊敏なので、とても逃げることはできません。早い話、大蟻食程度では気にする理由にもならないのです。

それでもまだ亭主をやっているのはよほど人がいいからなのか、あるいは単に間抜けだからなのかもしれません。

佐藤哲也