2000.10.01 sun.

「お風呂で音楽を聴くのだ」と大蟻食が主張したことから、Franc Francで浴室用のスピーカーを購入することになる。防水ケースの中にCDプレイヤーを入れて、外側のスピーカーにつなぐのである。メーカーはなんとパイオニアであった。箱を開けて中の説明を見たら、「ちゃぽん禁止」と大きく書いてある。いったいどういう文明圏なんだろうね。思わず我が国の行く末が心配になった。
夕方から大蟻食と一緒にわたしの実家へ。9月26日に東急目黒線と都営三田線、営団南北線が直通運転を始めたので、実家のそばまで地下鉄で行くことができるようになった。所用時間も大幅に短縮され、これはありがたいことである。実家には弟夫婦もきていて、いつものことだが人数がいきなり増えた結果、ゴンゾはちょっと機嫌が悪い。みんなでオリンピックの閉会式を見物していて、かまってくれる人間がいなかったのですねていたのかもしれない。


2000.10.06 fri.

大蟻食と一緒にビデオで 「アンドリュー」を鑑賞する。実を言うと大蟻食と私は、いかにも無力そうなロボットがうろうろするのを見ているうちに、次の瞬間にも追い剥ぎが出現して無力ではあるが生意気でもあるこのロボットを棍棒で打ち倒し、財布の中身を改めるのではないかと心配し始めていた。上品な映画なので、幸いにもそういうことはなかったのである。どうも夫婦そろって短絡的な暴力に頭を侵食されているようだ。


2000.10.07 sat.

大蟻食と一緒に渋谷で 「X-Men」を見る。新聞にもけっこう大きな広告を出していたし、TVスポットも頻繁に流していたようだが、初日二回目であまり大きな入りはないようだ。おかげで楽に見ることができたが、出来のいい映画だけにちょっと悲しい。ちなみに大蟻食はなぜかコミック原作の映画を見るのが好きで、前にも手を繋いで 「スポーン」 を見にいったことがある。映画館を出た後、久々にロゴスキーで食事をする。メニューが少し変わっていて、ご飯物にカーシャが加わっていた。リゾットと書いてあったが早い話、ロシアのおかゆだ。今度試してやろうと考えながら好物のウズベク風焼き飯を注文した。楽器屋を二軒ばかり覗いてから自由が丘に戻るとこちらは女神祭りの真っ最中で、南口の遊歩道には露店が並んでどれもたいそうな繁盛ぶりである。食事を終えていて幸いだった。空腹な状態でうっかり近づくと、人込みの中でワインバーとフランス料理の露店の間を何度も往復することになる。しかもワイン・バーを出している三笠屋はボトル売りもしているので、家に帰る頃には両手にワインボトルをぶら下げていることになりかねない。遊歩道から離れて途中、ブティックでシャツを一枚ずつ購入し、それからビデオ屋に寄って前日に予約しておいた「アリー・マイ・ラブ2」の4巻を受け取る。「アリー」のこのシーズンはどうもパターンが決まってきているような感じがするが、それでもジョン・ケイジとネルの先行きが気になるので見てしまうのである。


2000.10.08 sun.

涼しくなってきたのでポトフを食べようということになり、早めに買い物に出て仕込みを済ませる。日中はぼんやりと過ごして、夕方、再び出てまずビデオ屋へ。「アリー・マイ・ラブ2」の5巻があったのでそれを借り、ついでに三笠屋に寄ってワインを二本購入する。さらにモンブランにも寄ってケーキを買い、ちょっと幸せな気分で家へ戻る。この秋最初のポトフは抜群の仕上がりであった(私の希望で長葱が入り、ニンジンが多めになっている)。大蟻食は料理がうまいのだ。ワインを抜いて、ふかしたキャベツとブロッコリを付け合わせにして、大さじにしゃくったスマッシュポテトをポトフの汁につけて食べるともう最高である。食事の後、ケーキを食べながら「アリー・マイ・ラブ2」の5巻を見る。ジョン・ケイジはネルに連れ去られて、それでいったいどうなったんだ?


2000.10.09 mon.

天気予報では昼には上がると言っていた雨がちょうど昼頃にピークを迎え、机に向かって座っていたら窓の外から雷鳴が聞こえてきた。なんとなく熱っぽくて全身がだるい。そのうちに起きているのが難しくなって、寝台の上に横になったらあっと言う間に寝入ってしまった。そのまま夕刻まで昏々と眠り、起きたら少し楽になっていた。身体が気温の変化についていっていないのであろう。雨があがっていたので大蟻食と一緒に散歩に出る。消耗感が強くて甘い物がほしくてどうしようもないので、取り敢えずスターバックに入ってフラペチーノを注文する。それでも足りないのでダロワイヨでマカロンを買い、歩きながら食べ始める。食べながら自由が丘駅南口の遊歩道に接近すると、そこではまだ女神祭りの続きをやっている。三笠屋のワインバーがしきりと客寄せをしているのが目に入り、うっかり近づいた結果、ワインボトルを両手にぶらさげることになった。家に戻り、夕食を食べる。前夜のポトフの残りにご飯とキャベツを足したリゾットである。これがまたうまい。食事の後、マカロンの残りを二つ食べ、早めに床に入る。


2000.10.14 sat. - 2000.10.15 sun.

予定ではこの週末のうちに「インビジブル」を見にいく筈だったのだが、相変わらず身体がやたらと重くて家で寝てばかりいた。「アリー・マイ・ラブ」の6巻を見てブルース・ウィリスの特別出演をなんだこれだけかと夫婦で怒り、映画の方はビデオで 「クロコダイル」 を見ただけである。結局、ほとんどの時間を横たわって過ごしていたわけだが、眠るつもりになっても寝つきが悪く、眠りに落ちてもひどく夢見が悪いのには閉口した。読了したばかりの上村喜代治「インパールの挽歌(光人社)」のせいかもしれないと思う。これは戦闘状況をイギリス軍を含む複数の視点から描写する試みを持つ労作であり、また著者が重機関銃中隊の指揮班という立場にあったことから中隊庶務の仕事を垣間見ることができて興味深い内容になっているのだが、後半はいわゆる白骨街道に進むわけで、精神の平衡を保って読み終えるのにはいささか労力を必要とした。実は従軍戦記という形でインパール作戦を読むのはこれが初めてだったのである。何をやってもいいけど人命の軽視だけはやめてほしい。単細胞だが、これが本音だ。
追記:多くを読んでいるわけではないが、これまでに読んだ太平洋戦争関係の手記では神子清「われレイテに死せず(早川文庫NF)」がいちばん面白かった。面白かった、という感想は、あるいは失礼かもしれない。しかし多くの兵士たちが降伏を拒絶して死んでいく中、これは珍しくも軍を見限って脱営に努力を傾けた人々の話なのである。著者の神子氏(当時伍長)は玉兵団の一員としてレイテ戦に投入され、そこで日本軍の空挺部隊、いわゆる空の神兵が竹槍を抱えて降ってくるのを目撃し、これはもうだめだという判断を下して脱営、つまり脱走を決意する。そこから先は生きてレイテから脱出するためにまず仲間を集め、進路に抗日ゲリラが出没する地域があると聞けば土地に詳しい人物を探し出し、兵隊ばかりの烏合の衆ではまとまらない、指揮官が必要だということでさらには将校まで調達する。冒険小説を地でいくような展開で、面白くないわけがないのである。


2000.10.21 sat.

週中から風邪を引いていたようだ。鼻の調子が最悪である。大蟻食はレイフ・ファインズについて喋り続けている。昨夜、「生レイフ」演ずる「リチャード二世」を見てきたばかりだからだ。
ゆっくり起きて朝食を食べ、しばらくの間、寝台に横たわってぼんやり(うちではモワモワするという)してから今度は昼食を食べに外へ。紅虎系列の虎一房でタンタン麺を食べ、それからちょっぴり散歩する。自分用にタートルネックのセーターを一枚購入した。ウールにナイロンだのカシミヤだのアンゴラだのが混紡されている。お茶をして、帰宅する。途中、近所の白猫に挨拶をした。家に戻ってからはまたモワモワと過ごし、日が暮れてから夕食の買い物のために外へ。時間の流れがひどく速い。また茶をして、それからスーパーへ行き、買い物をして家へ戻る。途中、近所の白猫に挨拶をした。今夜は牛肉チャーハンである。食事をしながら 「鬼教師ミセス・ティングル」 を見る。 一時間ほど見てから中断し、NHKスペシャルを見る。カナダ本土とバングーバー島と隙間にある海峡の話で、ここは栄養素が豊富で生物が巨大に育つようだ。しかもけったいな性質も備えていて、ヒトデに襲われると貝もイソギンチャクも飛び上がって逃げるのだ。貝がパックンと口を開けて飛び上がる様に大蟻食は笑い転げていた。NHKスペシャルの後、再び「ミセス・ティングル」を見て、早めに床に就く。


2000.10.22 sun.

ピーター・ハクソーゼン他「敵対水域(文春文庫)」を読み終える。話には聞いていたが、ロシアの潜水艦搭載型ミサイルがあれほど不安定な物だとは思わなかった。水をかぶると燃料が硝酸ガスを発生させて、潜水艦本体を溶かし始めるのである。もちろん溶けるのは船体ではなく水密扉のゴムや電気系統の被膜だが、十分であろう。システムが時間を追って自壊していく描写はかなり怖い。とにかく内容は興味深いし、よくできている本ではあったが、誰にも聞くことのできなかった筈の故人の独白まで入れるのはどうだろうか? 巻頭で事実主義についての方針宣言をやっているだけにちょっと残念に思う。午後、ゲーム「ウォークラフトII 暗黒大戦」のカスタムシナリオをちょっといじり、試しにやってみたがなかなか予定どおりには動いてくれない。朝食が遅かったので昼食を抜き、早めの夕食を外で食べて、帰りに近所の白猫に挨拶をする。帰宅してからお茶をいれて、 「アメリカン・ヒストリーX」 を見た。


2000.10.25 wed.

平成12年度自衛隊観艦式。


2000.10.27 fri.

大蟻食が実家へ戻ってしまったので(わたしが返品したのではなく土曜日の講演に備えるためである)、夜、一人で 「バトルフィールド・アース」 を見物に行く。前に見た予告編ではトラボルタが変なメイクで「あっはっは」と笑っているだけだったので多少は警戒していたのだが、結果は予想を上回るものであった。なにこれいったい? ということで欲求不満が甚だしいので帰宅途上、ビデオ屋に寄ってジョージー・クルーニーがなぜか製作に名を連ねている 「未知への飛行」 を借りる。とにかくこれはまともな仕上がりで、おかげで多少は気分が楽になる。


2000.10.28 sat.

髪がだいぶ伸びてきたので美容院へ。ついでにカラーを頼んだら今回はちょっと明るい色になった。色付けはグロサージュとかいう技法で、パレットに用意した塗料を帯状のフィルム(あるいはアルミホイル)に塗り付けて、そのフィルムを髪の毛に擦りつけるのである。時間が短縮できるのだそうだ。次回はこの上に紫系統の茶を乗せましょうという話になっている。大蟻食は講演中でいないので、適当に食事を済ませてビデオで 「サマー・オブ・サム」 を見る。これは意外な拾い物であった。


2000.10.29 sun.

起きるともう昼を過ぎていた。雨が降っていて、低気圧のせいで頭が痛い。夕方から実家へ。ゴンゾはあまりご機嫌がうるわしくない。単にふてぶてしいだけだと母は言う。抱き上げて背中を掻いてやったらすぐにゴロゴロ状態になった。弟の奥さんの実家からまたおいしい魚が送られてきたので、鍋にしてみんなでつつく。たいそう美味であった。父のバードカービングの作品が今年のカレンダーに選ばれた、ということでそのカレンダーを受け取って帰宅。
プレスフィールド「炎の門(文春文庫)」をようやく読了。寝る前にしか読まないのでひどく時間がかかってしまった。これはペルシア戦争中のテルモピュライの戦いを取り上げていて、同じギリシアでもトロイアやアレクサンドロスは山ほどあっても前五世紀初頭のこの時代を扱った小説は珍しい。というよりも、わたしはほかに例を知らない。資料が少ないということもあるのだろうが、アルカイック・ギリシアの精神構造を説明するのがひどく骨だということもあるのではないかと個人的には考えている。ブルクハルトの歴史講義を読んだだけでもけっこう頭がぐるぐるするのである。で、小説の方だが、いわゆるスパルタ贔屓を隠しもしないスパルタ礼賛リアリズム系歴史小説で、どちらかと言えばアテナイ贔屓のわたしとしてはいささか重たいというのが感想である。スパルタのスパルタ的と目される部分をとにかく強調するので、どうしても雰囲気が抑圧的になる。古代ギリシア文化が全体として抑圧的であったことを考えれば、重たくなるのは当然である。この小説はそれをリアリズムで進めて、さらにスパルタ人の内面にまで踏み込もうと試みている。大胆不敵な企みであり、これはそれなりに成功していると考えるべきであろう。ただ一方、そのために無闇と喋るスパルタ人になってしまっていることは否めない。あれは対外用の振る舞いだという説もあるけれど、わたしとしては他国人の長い説明を聞いた結果、「長すぎて最初の方で何を聞いたのか思い出せない」という反応を示すスパルタ人の方が好きなのである。時代考証については、とにかくよく調べていることに感心した。スパルタ軍の装備や編制などは細密をきわめている。ただ、なまじ描写が細かいだけに使っている資料は後代の、どうかするとローマ時代以降の再現資料の転用ではないかという気もしないでもない。二作目はペロポンネソス戦争が舞台で主人公はアルキビアデスということで、アルキビアデスもまた作者同様にスパルタ贔屓であったことからすれば、やはりスパルタ側の話が中心になるのであろうか。もしかしたらソクラテスなんかも登場するのであろうか。ちゃんと翻訳、出るんだろうね?


 < 亭主の日々 >