ハート・ロッカー
- Aloysius' Rating:  7/10
2008年 アメリカ 121分
監督:キャスリン・ビグロー
出演:ジェレミー・レナー、アンソニー・マッキー、ブライアン・ジェラティ、レイフ・ファインズ、ガイ・ピアース、デヴィッド・モース


バグダッドに駐留するアメリカ陸軍の爆発物処理班はその日も爆弾の処理にあたっていたが、爆弾が爆発してトンプソン軍曹が戦死、代わりに送られてきたジェームズ軍曹はチームワークを無視して勝手に爆弾に近づいていくので同僚のサンボーン軍曹、エルドリッジ技術兵はいらだちを募らせ、こいつと一緒に現場にいたらいずれは自分たちも吹っ飛ばされるという危惧からジェームズ軍曹抹殺すら考えるものの、間もなく互いに胸襟を開いて酒に酔い、激しく肉体をぶつけあって戦友となる。物語性から距離を取った淡々とした描写が爆弾処理の場面に緊張感を与え、砂漠での狙撃戦というきわめて地味な戦闘場面もかつて見たことのない際立ったものに持ち上げている。そして同じ距離感が戦場にいるこの男たちを背後の文明世界から切り離し、ありきたりのヒロイズムからも切り離して、何か得体の知れない動物的な存在に転化している。なにしろこの映画の戦場には、いまどきのアメリカ映画としては珍しいことに女性兵士がまったく登場しない。不快なくらいに男だらけの世界であり、その世界を見つめるキャスリン・ビグローの視線はどうやら性差にもとづく好奇心に満たされている。それはジェレミー・レナー扮するジェイムズ軍曹とタクシーの運転手との意味不明なにらみ合いに始まり、ジェイムズ軍曹とデヴィッド・モース扮するリード大佐とのあいだに交わされるまったく無内容な「兵士の会話」で勢いづき、認識と現実とのあいだの微妙なずれを示しながら、巨大なシリアルの棚にたどり着く。この棚は文明にほかならない。そしてジェームズ軍曹はこの棚の前で行動不能に陥ったあと、自ら望んで戦場に戻ることになるのである。表層にあるのは戦争ジャンキーというわかりやすい記号だが、その下にはたぶんもう少しグロテスクなものがひそんでいる。あまりつきつめて考えたくないけれど、それはおそらく男の正体のようなものであろう。ラストシーンで再び防爆服に身を包んだジェイムズ軍曹は勇敢なのではなく、男にはよくわからない理由で世界から遮断され、孤立しているのである。ヨルダンロケのバグダッドおよびその周辺はきわめてよくできている。アメリカ軍の装備品の使いこまれた様子も丹念に描写され、これには非常に感心した。映画では妙にぴかぴかしていることの多い対物ライフルまでが、ここでは年季の入った道具に見えたのである。

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