わが谷は緑なりき
- Aloysius' Rating: 7/10
1941年 アメリカ 118分
監督:ジョン・フォード
出演:ウォルター・ピジョン、モーリン・オハラ、ドナルド・クリスプ、ロディ・マクドウォール、バリー・フィッツジェラルド、サラ・オールグッド


十九世紀後半のウェールズの炭坑。そこを通り過ぎた様々な情景を語り手が回想する。父は立派なキリスト教徒で誇り高く人生を生き、母は家の心臓であった。語り手は年の離れた五人の兄と姉を持ち、父も兄も炭坑で働き、姉は家で母を助け、新任の牧師に愛を抱く。炭坑が賃下げを断行するとストライキが起こり、父はストライキに反対し、牧師は組合に支持を与え、やがて兄たちは炭坑を離れ、姉もまた家を離れ、語り手は一族で初めて学校へ通い、学業を終えると父と兄に倣って炭坑へもぐる。家族は離別し、愛は育みを拒み、助祭は信仰をゆがめ、人々は卑劣へと走り、どうやらすべては悪いほうへと向かっていくが、実際にそうなる前に回想は終わる。
語り手は回想のなかで少年として現われ、ロディ・マクドウォール扮するこの少年のいかにも薄幸そうな顔立ちは冒頭からすでに悲劇を感じさせる。そしてモーリン・オハラは若々しくて美しいし、父親役のドナルド・クリスプはいい味を出しているし、牧師のウォルター・ピジョンも悪くない。主人公一家の家を背景とする生活感あふれる描写は実に緻密で、セミロングを多用したショットは俳優たちのために心地よい演技空間を出現させている。とはいえ少年の視野に吸着した回想という形式を選択することで、明らかに意図的な単純化がおこなわれており、ときにはそれが不自然に見える。たとえば炭坑の少年たちはいったいどこから出現したのか。組合は結局どうなったのか。また生活感溢れる描写は楽しいものの、十九世紀の炭坑労働者としては、一家の生活水準が妙に高いのが気になった。こざっぱりとした服装をし、部屋のカーテンにレースを使い、夕食にはパンとスープのほかにロストービーフを塊で食べ、ケーキを焼いている家が貧しいとは思えないのである。ただしこれはリアリティに関する選択の結果なので、作品の瑕疵であるとは考えていない。

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