ハウルの動く城
- Aloysius' Rating: 8/10
2004年 日本 119分
監督・脚本:宮崎駿
出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、我修院達也、神木隆之介、大塚明夫、加藤治子


ダイアナ・ウィン・ジョーンズの原作は未読。どことなく二十世紀初頭を思わせる世界に魔法が共存し、戦争が始まると魔法使いも動員される。帽子屋の娘ソフィーは妹を訪ねる道筋で魔法使いハウルと出会い、その晩、荒地の魔女によって呪いをかけられ老婆の姿に変えられてしまう。人前に出ることを恐れたソフィーは町を離れて荒地へ進み、そこでカブラ頭のカカシに導かれてハウルの動く城と遭遇し、そこに転がり込んで一夜を過ごし、再びハウルと出会い、そのまま住み着いて掃除を始める。一方、外界では戦争が進行し、ハウルにも召喚状が届けられ、戦艦が海を進み、装甲列車が町を進み、空中戦艦が空を駆け、爆撃で町は破壊され、怪物に姿を変えた魔法使いが空中戦を繰り広げる。
ソフィーがいきなり掃除を始めるのは、宮崎アニメの女性キャラクターがほぼ常にそうであるように、この人物もまた混沌の女神だからであろう。男所帯の秩序を異なる秩序に作り替えて、あるべきものの位置をことごとく置き換えてしまうのである。多くの場合、男は新しい秩序を受け入れるが、徹底した個人主義者であり、心を悪魔に預けたまま成長を進めていないハウルは悲嘆の叫びを上げて、文字通りにとろけていくことになる。とはいえ、この作品における人物の造形、配置は最小限の役割分担として済まされ、実を言えばプロットも完成されていない。必要とされたことは無用のプロットの折り込みではなく、人物に無用の深みを与えることでもなく、場面を完成させることであり、完成された場面を動的な連鎖によって一つの作品に仕上げることである。この映画の動きは喜びであった。それはすでに冒頭、蒸気機関車が橋の下をくぐるという一見して単純な場面で十分なほどに予告されている。そしてこの戦争の不穏な気配はどうであろうか。港町へ曳航されてくるドレッドノート型戦艦の黒煙も、戦艦を迎える町の人々の表情も、そのざわざわとした雰囲気の不穏さはまるで現実の記憶から切り取ってきたかのような生々しい迫力がある。絵は信じがたいまでに雄弁であり、余計な説明は必要としない。

<宮崎駿>
風の谷のナウシカ(1984)
天空の城ラピュタ(1986)
となりのトトロ(1988)
魔女の宅急便(1989)
紅の豚(1992)
もののけ姫(1997)
千と千尋の神隠し(2001)
ハウルの動く城(2004)
崖の上のポニョ(2004)

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