エルミタージュ幻想
- Aloysius' Rating: 5/10
Russkij kovcheg (Russia/Germany 2002,96min.) [D] Aleksandr Sokurov, [W] Boris Khaimsky,Anatoli Nikiforov , [C] Sergei Dontsov,Mariya Kuznetsova,Leonid Mozgovoy,David Giorgobiani,Aleksandr Chaban ,Maksim Sergeyev

一人称のカメラと監督本人と思しき眠そうな声がエルミタージュ宮殿を背景にしてロシアの歴史を素描していく。一人称の語り手はエルミタージュの中で目覚め、ここはどこかと戸惑いながら進んでいくと同じように戸惑っている西欧人に遭遇する。西欧人は19世紀初頭のフランスの外交官であったことが判明するが、語り手はこの外交官とともにピョートル大帝の時代から現代までのロシアをエルミタージュを媒介にして斜めに眺めていくことになる。風変わりでアーティフィシャルな作品である。
エルミタージュはあきれるほどに壮麗だし、収蔵品の素晴らしさはスクリーンを通してもはっきりと感じられる。しかしながら前景に配置された意味不明の二人組(監督とヨーロッパ人)による対話は感傷へと流れていくばかりで肝心なことには触れようとしない。ロシアの歴史について語るならば、あそこではもっと多くのことが起こった筈だし、語り手たちはもっと雄弁であってもよかった筈だ。あるいは口を閉ざしてストイックに映像だけを展開した方がよかったかもしれない。政治的な中庸が選択されているのか、エルミタージュ観光映画だからそうなのか(そうならば目的は達している)、それともこれがロシア的な諦観なのか(だが元レニングラード市民諸君、あれは自由の代償だったのか?)。この種の映画は難点が多い。ハイビジョン・カメラとハードディスク録画によって映画史上初の90分ワンカットを実現した、というのがどうやら売りらしいのだが、ワンカットでなければならない意味が残念ながらわからなかった。逆にワンカットにしてしまったせいで照明がフラットになって映像も平板になってしまっているし、登場人物も不自然な動きを強いられている。もしかしたら思いつき以上のものではないのかもしれない。クライマックスの舞踏会のシーンを重ね合わせて考えると非再現的な手法が意図的に選択されている可能性もうかがえるが、ポイントがまるで見えてこないのでどうにも評価できないのである。