愛のエチュード
- Aloysius' Rating: 6/10
The Luzhin Defence (UK/France 2000, 112min.) [D] Marleen Gorris, [W] Peter Berry, [NOVEL:Vladimir Nabokov], [C] John Turturro,Emily Watson,Geraldine James,Stuart Wilson,Christopher Thompson,Fabio Sartor,Peter Blythe,Orla Brady,Mark Tandy,Kelly Hunter

ナボコフの短編「ディフェンス」の映画化である。と言ってもわたしは読んでいなくて、読んでいる大蟻食の話だと、展開はかなりいじってあったようである。
1920年代、イタリアのおそらくコモ湖の湖畔でチェスの世界選手権がおこなわれている。ロシア代表として現われたルージンは見た目には廃人のようであったが、天才チェス・プレイヤーなのであった。そしてチェスのことを取り除くと、やっぱり廃人同然だったのである。自分がどこにいるのかよくわかってない、誰と話しているのかもよくわかってない、頭の中に市松模様のチェス盤があって、その上で駒を動かし始めると時間の経過もわからなくなる。そのルージンが恋に落ちて、相手のご婦人もそれを受け入れて(なにしろ迷子の動物と見ればみな家へ連れ帰る習性の持ち主だ)、そしてチェス・トーナメントが始まるとルージンの昔のマネージャーが嫉妬の炎に焼かれて登場する。この男はかつてルージンの才能を見限って見捨てたことがあるのだが、そのルージンが世界チャンピオンの座に手をかけているのを知って、これはなんとかしなければならないと考えたのである。で、邪魔をしようと企んでいる。どうしてそうなるのかは映画からでは想像もつかないが、そこを無理に想像すると、ルージンが世界チャンピオンになってしまったら自分がかわいそうだといったようなことを考えていたのかもしれない。なにしろチェスをするロシア人の考えることなので、こちらには今一つよくわからないのである。マネージャーはルージンに無用のプレッシャーを加えてチェス・トーナメントのポイントを押さえ、一方、ご婦人の方はルージンを肉体的に激励してプレッシャーを排除し、マネージャーの攻撃に対抗する。それまで自閉症も同然だった男がいきなりベッドでこうするか、という気もするのだが、映画は女性の役割を前面に押し出そうと努力している気配があるので、ルージンの気持ちはもはや問題ではないのだろう。事実、攻防はルージンとは無関係な次元で展開し、ルージンは双方が与えるプレッシャーに挟み込まれていくことになる。チェス・プレイヤーは壊れやすいというお話であった。